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9-14 マリーシャと、クエストと、それから……。


「それで結局レアドロップは誰が手に入れたのー……ってあたしか」


「あたしが持って……あれ?」


「うちのとこにもあるなー」


「私のところにも~それっぽいのが~」


「もしかして全員では?」


「私にもあるので、そうみたいですね」


 メタルイーターの素材がいくつかと、多分これですね。


【鉄鉱石:一級】

効果:最上級の鉄鉱石。


 しかも一個ではなく五個手に入ってます。


「一級鉄鉱石かー。金属装備なら今の時点でトップクラスの装備が作れるね」


「このまま売っても高く売れますしね~」


 金属装備ならトップクラスですか。それにあくまで今の時点で、なんですね。

 そういえば私の槍はワイバーンの素材ですし、魔物の素材も含めればまだまだ知らないものが沢山ありますよね。

 合金みたいなものも作れるんだったら、組み合わせ次第でもっとすごいものが作れると思います。


「ミスリルとかじゃなかったのは残念だけど十分いいものかな。でもまさか全員にドロップするとは思わなかったね」


「それが先ほど話していた、魔物の成長ということではないでしょうか。質も量も」


「なるほどなー」


 食べたほど成長して、それがそのまま手に入る。


「……なんだか自分たちで採掘せず、代わりに掘ってくれたみたいですね」


「魔物の採掘屋さんってことだね。でも成長させすぎたら倒せなくなっちゃうんじゃないかな」


「そんなのが暴れたら手がつけられません。養殖にはむきませんね」


 よ、養殖ですか。確かに上手く利用したら便利なのかもしれませんが、魔物相手にそんなことするのはさすがに怖いです……。


「……でも、もしかしたらすごい魔物なのかもしれません」


「どういうこと?」


 シーラさん、何に気付いたんでしょうか。


「名称はメタルイーター(金属喰らい)でした。ドロップは鉄鉱石でしたが、アイアンイーター(鉄喰らい)ではありません。もしかしたら……」


「うわ、絶対レア狩り対象になるね」


「倒せば文字通り一攫千金かーそら美味しいわー」


「金のなるダンゴムシですね~」


「えーっと……どゆこと?」


 皆さんその事実に驚いてますが、マリーシャだけわかってないようです。


「つまり銀が取れる鉱山でメタルイーターを倒せば銀が手に入って、金が取れる鉱山で倒せば金が手に入る、ということよ。しかも相手の成長によっては今と同じ量で」


「めちゃくちゃすごいじゃん!」


「このゲームの大体の鉱山……といってもまだオレスト周辺しか発見されてないけど、その鉱山はNPCが所有してて勝手に採掘することは出来ないから、お金払って採掘するか鉱石だけ買うか、それとも出るかどうかわからない山を掘るしかないのよ。でも魔物のドロップなら自分の物だから、ある意味では元手もタダ。あとこれは言い過ぎかもしれないけど……メタルイーターの住んでる山を見つけたら、そこがそのまま鉱山かもしれない、なんてことも有り得るのよ」


「大金持ち一直線!!」


 鉱山の所有がどうとかその辺よくわかりませんが、とにかくお金に結びつくのは間違いなさそうです。


「まだメタルイーターの生態がわからないから、本当にそうなるかわからないわよ」


「でも可能性があるってだけでも、人が動くには十分な理由だからねぇ」


 キイさんの言う通りです。

 珍獣捜索のテレビ番組なんてしょっちゅう放送されてますし、メタルイーター捜索隊とか現れても不思議じゃないと思います……。


「今のプレイヤーメイドは魔物素材が中心で金属系は少ないらしいから、その方面からも注目されるしね。ってそうだった。腕のいい生産職の知り合いはは居る? もしよかったら紹介するけど」


 腕のいい生産職?


「特にどこか固定のお店を利用してるわけではないので、すいませんがお願いできませんか。素材がこれほどのものだと、作成に失敗する可能性が高いですし」


 素材が凄すぎて、作成する人の腕がついていかないと言うことですか。

 車でもアルミフレームのフレーム修正を出来ない板金屋さんは今でも珍しくないですしね。いい素材だからって誰にも扱えるとは限りません。技術はあっても、設備が無いとかもあると思いますし。


「了解。あそこなら根掘り葉掘り聞かれたりもしないから、その辺も安心していいよ」


 根掘り葉掘り……そうですよね。メタルイーターのことは生産職の方からしてみたら、絶対知りたい情報ですよね。

 でも素直に事情を話しても、珍しい魔物なので確実に見つかるとは限りません。そうなったら疑う人も出てくる可能性があります。

 一個だけなら偶然手に入れたで済むかもしれませんが、こうも大量に手に入ると隠すのも難しいですし。

 いろいろ難しいですね……。


「イオンはどうする? その装備オーダー品だよね。仲のいい人居るんじゃない?」


「あ、はい。私は大丈夫です。レイチェルさんなら大丈夫だと思うので」


 付き合いはそこまで長くありませんが、今の時点でも十分に信用できると思います。

 折角紹介してもらえるのに申し訳ありませんが……。


「なーんだレイチェルと知り合いだったんだ。あたしもレイチェル紹介しようと思ってたから丁度良かったよ」


 なんと。すごい偶然……でもないですね。

 強い人が強い装備を求めるのは当たり前です。シーラさんによるとバトルデイズは質もトップクラスらしいので、キイさんたちが知り合いでも不思議ではありません。


「でも……あれ? イオンが居ないあいだに、装備はお店に任せたって聞いたんだけど……」


「そうです。お店に入ってすぐレイチェルさんに相談して、ほぼ全てお任せで作ってもらいました」


「話をしたのは、一から十まで全部レイチェル?」


「そうです」


 念の入った確認ですが……どうしたんでしょう?


「あーごめんね、変な意味じゃなくてね……。レイチェルって可愛い子が相手だとデザインにものすごい気合い入れるんだけど……それにしてはシンプルだなって。いや十分似合ってるんだけど」


 シンプルですか。そういえばその辺は指定しませんでしたっけ。でもシンプルなのは私好みなので気にしてませんでした。詳しく聞かれなかったので無難にしたのかなぁという程度で。


「レイチェルに任せるとどうなるんかは、うちらの装備がわかりやすい見本やな」


 アヤメさんの装備は一言で言えば神社の巫女さんが着てるような服です。

 ただ普通のとは少し違って、紅い袴の丈が膝丈だったりとか、袖口や裾からフリルが見えたりとか、上着のような白い着物(?)にはデフォルメされたキツネのマークが見えたりとか……少しじゃありませんね。相当手が加えられてます。

 ちなみに武器は扇子ですが、その扇子にも同じマークが入っています。

 小柄なアヤメさんを可愛く見せる要素が満載ですね。


「私の場合~必ず体型が出るようにデザインされるんですよね~」


 エリスさんはシスターを思わせるような濃紺の服です。

 ですが……マーメイドラインって言うんでしたっけ? 形だけならあんな感じのドレスみたいです。

 スカートのほうは広がってるんですが、首から腰の辺りまでかなり体に沿ったような形になっているので……女性的な部分がわかりやすいというか……。

 生地は濃紺がベースですが、小物類も含めて金糸で刺繍や縁取りがされてるので全く地味には見えません。派手というわけではなく、神聖さが強調されているというか。

 全体的に優しいお姉さんを表すかのようです。

 武器は先端が尖った鈍器ですが……。


 確かに二人とも、着る人を生かしたデザインだと思います。


「でもキイさんは普通じゃないですか?」


 黒系の服の上に部分的に覆われた鎧。

 マリーシャに似ている装備で、そこまで何かを強調されているという感じはありません。


「キイはなー新しい装備が恥ずかしいから古いのを使い続けてるんやわ」


「ということは新しい装備も持ってるってことですよね」


「もちろんですよ~私は似合うと思うんですけど~」


 思い出したのか、キイさんの顔が赤いです。そんなに恥ずかしいデザインなんでしょうか……。


「…………チャイナドレスよ」


「しかもスリット深めのやつなー」


 ……それは……なんというか……。


「確かにね、下着が見えないようにショートパンツもセットになってるわよ。しかも不自然に見えないようにものすごく気をつかってデザインしたのもわかるわよ。でもそれとコレとは話が別でしょ!? スリットがあれば誰だって視線がそっち行くわよそういうもんでしょ! 大体なんで動き回る私がそんなヒラヒラした装備なわけ! 思ったより邪魔にならないどころか不思議と動きやすくてすごい使い勝手いいし性能もいいのに、何であんなデザインなのよ!!」


 い、一応試したんですね。

 使い勝手も性能もいいのに、恥ずかしいから着られない。

 どうこう言いたくもなります……。


「えーーー! もったいないよキイさん格好いいのに!」


 全力で待ったをかける声が飛んできました。

 声の主はもちろんマリーシャです。


「絶対似合うって、むしろ最高だってチャイナ!」


「いやそんなこと言われてもね……」


「キイさん前衛だったり中衛だったりで走り回ってばかりでしょ? それって足が武器ってことですよ。使わなくてどーするんですか!」


「え、ちょっと?」


 訳がわからないといった感じですが……徐々に押されてますね。


「ダガー持って踏み込んだときに見える足とか、体勢崩しながらも弓を撃つその体を支える足とか、そんなのがスリットから覗く一瞬なんて、ぜーーーったい綺麗に見えるって!」


「えっと……」


 キイさん、押されっぱなしです。


「見えるのを気にするのはしょうがないですよ。普段見えないところを見せるのって抵抗ありますって」


「だ、だよね。だから」


「だからってコレは別です!」


「べ、別?」


 完全にマリーシャのペースになりました……。


「そうです! さっきも言いましたがキイさんの足は武器なんです、見たやつは負けです! 男は釣られ女は敗北感を覚える、最強の武器です! 見られるのが気になる? 当然です。それが勝利の感覚ですよ! 怯えるのは勝ちすぎて怖いからです。でも仕方ありません。キイさんの足はそれだけすごいんです!!」


「…………」


 なんだか……とても変質者的な発言のような気が……。


 ――どう聞いてもヘンタイですの。


「キイさん、本当にそのデザインは嫌いなんですか? 今でも捨てずに持ってるのは、すこーしくらい気になってるからじゃないですか?」


「…………それは…………まぁ……」


 あ、もう無理ですね……。


「だったら一回だけ着てみましょうよ。まだ誰にも見せたことはないんですよね? ここに居る全員、絶対笑ったりとかしませんから」


 こっちまで巻き込まないで下さい……。


「動きやすいし性能もいい装備、使わなきゃもったいないですって。だから一回だけ。お願いしますっ」


「…………」


 視線がマリーシャとこっちを行ったり来たりして……キイさん無言で洞窟の方に歩いて行きました。

 マリーシャの完全勝利です……。

 どうも様子から察するに、デザインが嫌いというよりもただ単に恥ずかしいということのようです。

 そこをああも押されたので試してみる気になってしまったと。


 その押したマリーシャは全員に向けて『出てくるまで物音一つ立てないで!』って口パクしてます。

 こんなときは本当に全力投球なんですよね……。

 興味はあるけど躊躇してる、その背を押してあげたんだと思います。


 ……と言えば聞こえはいいですが、ただ自分が見たかっただけですね。騙されてはいけません。

 誰も損をしてないので、悪いことではないのかもしれませんが……。


 ――言ってることは滅茶苦茶なのに、押したり引いたり揺さぶりかけていつの間にか都合のいいこと思い込ませて。詐欺師になれますの。


 それだけは全力で止めましょう……。


 ……それにしても出てきませんね。

 かれこれ十分近く経ったと思うんですが。

 中で何かあったんでしょうか……。

 あれ、マリーシャが洞窟のほうに走って……あ、キイさん入り口からこっちを伺ってますね。

 マリーシャに引っ張られてようやく出てきました。


「お披露目でーす、どーぞー!」


 そんなキイさんの姿は、今までとは本当に印象が変わりました。

 黒く、足首まであるノースリーブのチャイナドレス。

 チャイナドレスというと生地を埋め尽くすほど模様が入っているイメージがありますが、これは模様は少なく、模様の色は落ち着いた色が使われています。

 それがシンプルな印象を与え、スレンダーなキイさんをより細く、しなやかに見せてくれるかのようです。

 気にしていたスリットは確かに太腿まで見えますが、ニーソックスを履いたスラリとした足は何もしなくても魅力的です。

 今までのキイさんは少し年上の気のいいお姉さんか、といった感じでしたが、今では少し年上の憧れのお姉さんといった印象です。

 何にしても似合ってるのは間違いありません。


「……や、やっぱり着替える!」


 あまりに私たちが無言だったので、キイさんが逃げようとします。


「ダメです絶対ダメです着替えるなんて有り得ません」


 けどここまで来たら私だって逃がしません。

 ギリギリのところで手を掴んで引き止めました。


「これ見たら前の装備なんて着せられへんわ」


「ぜーったいに許しませんからね~」


「その、これを着替えるのはもったいないと思います」


「これを似合ってると言わなくて何を言えるというんですの。恥ずかしがる必要なんて微塵もありませんわ」


 逃げられないように全員で囲みます。

 間違いなく全員の意思は一致してます。


「ほら、みんなこう言ってるじゃないですか。変なとこなんてどこもないですって」


「…………本当に?」


 俯き加減で聞いてきますが、そんな仕草も魅力的ですね。

 赤らんだ頬と心配そうな目はその服装とギャップかもしれませんが、今はむしろ魅力が映えるかのようです。


「自信持って下さい。とても素敵ですから」


 私だけでなく、全員で褒めちぎりました。

 しばらくそうしてるとようやくキイさんも普通に話してくれるようになって、そんなタイミングで魔物が現れてくれたのが止めになりました。

 ストーンゴーレムとアッシュウルフが一体ずつ。お披露目と称してキイさんが戦ってみることになり、鮮やかに勝利。

 そこまでしたらキイさんも少しは吹っ切れたのか、ようやくその顔に笑顔が浮かびました。


 いつも通り弓を撃って、近づいてきたアッシュウルフをダガーで切っただけですが、それでもいつもとは全く違う人のように見えてしまいました。

 マリーシャじゃありませんがあの足は凶器です。女の私でもつい見てしまいます。

 レイチェルさん、さすがです。


 そんなこんなでキイさんは無事(?)装備を変更。

 あとはレイチェルさんに素材について相談しに行こうとなりましたが、今日はログインしないとの返事が。

 明日にお邪魔することになったので、今日はオレストに戻った時点で解散となりました。


 なんだか、最後の最後でいろいろあった気分です……。


 でも楽しかったのは間違いありません。

 マリーシャは我慢してたと言ってましたが、私だって我慢してました。

 特別何かをしようと意気込んでいたわけではありません。ただ一緒にゲームをやっているだけで楽しくなると思いましたし、実際楽しかったです。

 クエストをやって、キイさんたちも合流することになって、稀少な魔物まで倒して。

 最後はキイさんを唆しましたが……。

 と、とにかく失敗だってありましたが、それも含めてものすごく勉強にもなりました。


 それもこれもマリーシャと一緒だったからですね。根拠はありませんけど、でも私一人では絶対無理でしたので。

 一人では無理でも、二人だといろいろなことに出会える。

 次が楽しみですね。


 一方で混ぜるな危険なんて言われてしまいましたが……。

 迷惑をかけた皆さんごめんなさい……。


 そんなこんなといろいろありましたが、終わってみると楽しい一日でした。

 一時は良いことなんて当分無いなんて思いましたが、今日も十分すぎるほど良い日でしたね。

 こんな日がこれからもあるかもしれないと思うと……本当に楽しみでなりません。


 明日は、どんなことがあるでしょうか?



1/23誤字修正しました。


というわけで最後でも暴走してもらいました。

次の被害者は誰でしょうね……。


金属なのでミスリルとか出そうかなぁと思いつつ、今回はやめにしました。

魔法金属についてはまたそのうち。


今話はここまでです。

次は割とすぐに投稿できる……はず。

幕間はあるかどうかわかりません。

次回もよろしくお願いします。



Q:アルミフレームの修正ってそんなに難しいの?

A:わかりません(コラ)。技術的に難しいのか機材が無いだけなのか、どっちにしてもやってくれない板金屋さんは結構あります。最近はさりげなくアルミパーツを使う車も出てきてるようなので(三代目プリウスのリアゲートとか)、修理箇所によっては大変なこともあるかもしれません。


Q:巫女さんにシスターにチャイナって、統一感なくね?

A:和(巫女)、洋(シスター)、と来たら中かなぁと安直に考えました……。


Q:趣味なの?

A:ハイ。


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