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9-12 マリーシャと、クエストと、それから……。

また三人称です。


「では行ってきますね」


 それだけ告げて、洞窟へ入っていくイオンとグリーン。

 たった一人(と一精霊)で魔物をおびき出すという危険きわまりない役目を全うするためだが、本人はもちろん誰一人として気にしていないのは、短いながらも今までの行いが現れた結果だろう。

 もちろん心配していないわけではないのだが。


「待ってるだけってのも暇ですねー」


「そうだねー。この辺一帯狩り尽くすんじゃなかったかな」


 ……心配している……かもしれない。


「あっ、じゃあマリーシャとイオンのこと聞かせてよ」


「あたしとイオンの?」


 名案とばかりに口から出た言葉は全員の興味を引く言葉だったらしく、アヤメとエリスはもちろんシーラも期待の視線を寄せていた。

 シーラは一番近くで見ていたのだが、本人の口からどう語られるのか興味があるからだ。


「デコボココンビが仲良くなるのはマンガの世界だけじゃないけど、でもフツーは自分と近いような人と仲良くなるでしょ? その辺マリーシャとイオンはどうだったのかなーって。現実(リアル)のことだし無理にとは言わないけど」


「あたしは別にいいですけど。イオンにメールしてみるんでオッケー出たらってことで」


 そう言って手早くメールを送るマリーシャ。

 一人で探索中にもかかわらず返事は意外と早く帰ってきて、『身元が判明するような個人情報的なことでなければ大丈夫ですよ』と、気にしてるのか気にしていないのかよくわからない内容が返ってきた。


「オッケーだそうなので好き勝手喋りまくりまーす」


 それを読んだマリーシャは深く考えず、何を話してもオッケーだと判断したようだ。

 イオンも本当にマズい内容はシーラがストップしてくれると考えてるので、こちらも深く考えてないだけだったが。


「出会いはそう、高校の入学式の日。二人は桜舞う校門で――」


「とっくに散ってたわね」


「ちょっとくらい脚色してもいいでしょー」


 詩人の如く語り始めたが、あまりふざけすぎると本当に変なことまで口走るので即座に釘を刺されるのだった。


「漫才はまた今度ね」


「はーい。まぁお決まりのパターンで同じクラスの席が前後だったんですよ。そんな席だったんで学校終わったら遊ぼうとか誘ったんですけど、ふつーに断られたんですよねー」


「うんうん。デコボココンビが最初から上手くいくわけないしね」


「当たり前やんなぁ」


「でも一ヶ月経っても全敗だったんですよねー」


「強敵だね」


「強情そうな感じありますからね~」


「そーなんですよっ。イオンってば興味ないことは何でも『そうですか。でも私はいいです』で終わらせちゃうんですよっ」


 その頃のことを思い出し始めたのか、語り口調が強くなり始めるマリーシャ。


「服も音楽も新しいショッピングモールも、『気が進まないので……』ですよ? あの子は何で出来てるんだと思いましたよっ」


「全滅とは凄いですね~」


「あれ、服にも興味ないの? 今の装備ってオーダー品だと思うんだけど。大体あんなに可愛いのに」


「そーなんです! あんな可愛いのに、全くっ、興味ないんです! もったいない!!」


「今の装備、お金だけ渡してお店にお任せしたそうですよ。性能もデザインも全て」


 苦笑いで補足するシーラ。言葉に力が入りテンションも上がってきたマリーシャを止めないのは、自身も同じ考えだからである。


「普段着はテキトーなTシャツかワイシャツにジーパンばっかだし、髪なんて今でも近所の散髪屋さんで切ってるんですよ!? 去年の夏前なんて『暑くなってきたのですっきりさせました』でバッサリですよ! もう最初何があったのかと思いましたよ!」


「うわぁ……」


「そこ、笑っていいとこやな?」


 バッサリ、のところで首の辺りでチョキをするマリーシャ。

 明らかになっていくイオンの所行に、三人とも驚きを隠せなくなってきたらしい。

 笑っていいのか真剣になったほうがいいのか、微妙な表情になり始めていた。


「でも人間の慣れって怖いですよねー。話してるうちにどうやって話を持って行けばイオン興味を引けるのか大体わかってきたんですよ。で、それでも駄目な場合は本当に嫌がってることなんだなってわかるようになってきて」


「おお~」


「頑張りますね~」


「それでオシャレのほうは一旦諦めたんですけど、このBLFOはなんとか口説き落としてプレイするようになって、今に至るというわけです」


「すごいじゃないっ」


「見かけによらず頑張り屋さんやなぁ」


 ついに訪れた勝利にマリーシャを褒め称える三人。

 ドラマチックではないが、努力と試行錯誤を感じさせる、ちょっとだけいい話である。


「……で、他には?」


「え、だから今に至ります」


 いい話はもう終わってしまったらしい。


「……いやもうちょっと何かあるでしょ? 仲良くなったきっかけとか」


「記憶に残る事件とかなー」


「恋の駆け引き的な話でもいいですよ~」


 徐々にズレつつある問いかけに思い出すように悩むが……。


「……何も無い……かな? 無いよね?」


「私の知ってる限りでは、そんなドラマのワンシーン的なことは無かったですね」


「というわけで無いですっ」


 シーラも知らないと答えるのを見てようやく自分の記憶に自信を持ったらしい。

 知らないうちに何かやらかしたということもないようなので、自分だけ一安心のマリーシャだった。


「えぇ……じゃあなんでそんな断られ続けたのに懲りずに誘ったの? 普通、嫌になるでしょ」


「それは自分でも不思議だったんですけど、何故か嫌じゃなかったんですよねー。興味ないの? じゃあしょうがないか、くらいで」


 なんでもないような口調で話しながら、自身でも不思議に思った、その当時のことを思い出し始めていた。


 高校入学当初、『ササキ』と『シン』で席が前後になった。

 そして席が前後だからという理由でペアを組むことになるのは、どこ学校でもあることだろう。

 二人もその例に漏れず、何度か二人で授業をこなすことがあった。

 そのときの二人は決して仲が悪そうには見えなかったのだ。

 むしろイオンがマリーシャを積極的にサポートする場面もあり、すぐに仲良くなって授業以外でも言葉を交わすようになった。


 だからいつもの調子で気軽に遊びに誘ったのだが、結果は惨敗。

 しかも授業中には欠片も見せなかった、本当に嫌そうな空気まで出してくるのですぐに諦めることになった。

 嫌われたかなぁと考えたマリーシャだが、翌日になれば昨日のことなど無かったかのようにいつも通りに挨拶をされる。

 急ぎすぎたんだなと考え一週間後に再度実行、そして再度敗北。もちろん嫌そうな空気つき。

 そんなことを数回繰り返したが、何故かイオンから嫌われているような気配は感じない。

 そこまで考えてふと気がついた。


 自分も、イオンを嫌ってはいない。


 場の空気を大事にするマリーシャではあるが聖人君子ではない。

 キライな人だっているし、そんな人まで遊びに誘ったりはしない。

 普段ならあそこまで断られれば嫌な印象の一つも抱くはずなのだが、何故かイオンに対してはそれが無い。

 もちろん好印象ばかりというわけではないが、少なくとも今後も変わらず誘う気がある。

 そこまで気付けば、マリーシャの取る行動は一つだった。


「雑誌見ながらここ行こうって誘いまくったりとか、読んでるマンガの面白さを語って読ませようとか、ひたすらイオンと遊ぶことばっか考えてましたー」


「あの頃はすごかったわね。クラス中で成功するか失敗するかを賭けたりとか」


 そんなことあったなぁとしみじみ語る二人。

 ほんの一年ほど前のことだが、今の状況から見れば感慨深くもなるだろう。


「事件が無いのはわかったんですが~恋愛も無いんですか~?」


 どうしてもその辺が気になるらしく、生き生きとした目で再度つつかれる。

 確かに“イオン”だったらそんな話もあったのであろうが……。


「いやー全くないですよ。さっきも言ったけど現実のイオンってホント何にもしてないんで。髪は洗いっぱなしで毎日スッピン100パーセントですよ。磨けば可愛いって気付いてるのは女子だけだし、改善しようにもイオンが嫌がるから私でも手が出せないし」


「男子の評価は『どっかズレてる平均以下の女子』、ですね」


 イオンではなく、碧にそんな話があるはずないと語る二人。

 それを聞いた三人も、残念そうに納得する他なかったのだった。


「残念ですね~」


「そうですよね~」


 恋愛と本人の二重の意味で言うエリスと、恋愛は排除して答えるマリーシャ。

 その辺に関しては、マリーシャは娘を見守るお父さん気分である。


「……ところでさっきから思ってたんだけど、あたしにはマリーシャがイオンに一目惚れしたようにしか聞こえないんだけど」


「私はそっちでもいけますよ~」


 もう終わるかと思っていたところにキイが再度燃料を投下し、再び目を輝かせるエリス。

 彼女は何を隠そう恋愛と性別は関係ない、いやむしろ障害のあるほうが燃え上がると思っている、残念な趣味の持ち主なのだった。


「残念ながらあたしもイオンもノーマルなんですよねー。イオンが男だったら逆ナンした自信はありますけどねっ」


「なんでそんなことに自信があるの貴方は。というかマリーシャが男になるべきよ」


「シーラひどいっ。でもそれもアリだな……」


「何真剣に考えてるの……」


「シーラさんも入れて三角関係だったらよかったのに~」


「エリスさんまで……」


「いい感じにカオスってきたなぁ」


「キイのせいやろ。おもろいけどな」


「……マリーシャ、何でもいいから締めなさい」


 本当に意味がわからなくなってきたので、収拾がつかなくなる前に終わらせにかかるシーラ。

 ようやくこの三人に遊ばれていると気付いたらしい。

 悪い意味で遊ばれていたらマリーシャが気付いてるはずなので、場の空気を和ませようとしたら暴走しただけのようだが。


「そんな無茶振りしないでよー、ていうかどこまで話したっけ。まぁいっか。とにかくあたしがイオンと遊ぼうとするのは深い理由とか無いんですよ。断られても嫌じゃないからまた誘って、成功したらやっぱり楽しかったからまた誘ってを繰り返しただけで。こういうのないです? 同じ『勉強しろ』ってセリフでも、先生と親と友達の誰から聞くかで全くやる気が違うとか。あれと一緒みたいなもんですよ。イオンに限って何故かオッケーって感じで」


「あぁ、そういうのはわかるかな」


「昔は~『ただしイケメンに限る』、なんて言葉もあったらしいですね~」


「死語やな」


「あーでもたぶんそれです。『ただしイオンに限る』、みたいな」


「そっ、その言い方は卑怯っ……ぷふっ」


 そこだけキリッとした言い方をされてツボに嵌まったらしく、必死に笑いを堪えるキイ。


「「ただしイオンに限る(キリッ)」」


「あっはははははは!」


 アヤメとマリーシャが決壊させるのは、当然の流れである。


「まぁ自分でもよくわかってないけどそんな感じです。当たりを引けばイオンも楽しそうだったから調子に乗って何でもかんでも誘ってました。行ったはいいけどやっぱ駄目でしたーってことも多かったですけどねー」


「ちなみに~最初に成功したのはなんだったんですか~?」


「一ヶ月通えるアイス屋さんです。暑くなってきたからアイス食べたいねー、でもアレは食べたしコレも食べたしーって、独り言みたいに語ってたらイオンのほうから食いついてきて」


「やっぱお菓子なんやな」


「すぐ太るらしいから、たまにしか行かないんですけどね」


「さすがに体重は気にするんですね~」


「…………」


 マリーシャは何故かそこで一瞬フリーズし、顔を逸らしながら続きを口にした。

 その言葉は、いろいろなナニカが込められた言葉だった。


「……着られなくなるのが困るからって言ってるんです」


「でも服は気にしないのでは~?」


「…………下着の……特に肩からつり下げるほうのやつです……」


「ああ~」


「……あれ……都市伝説じゃなかったんだ……」


 納得するような声は自身も経験がある一名からのみ発せられ、対して絶望するような声は、先ほどまで笑っていた人物から発せられた。


「そんな気にするほどのもんか」


「……ノーコメントで」


 狐族の姉のほうは自身の身長のこともあってか、大小よりも全体のバランスという意識が強いため特に気にしておらず、妹のほうはローブのおかげでわからないが、現実では視線を集める側なので何も言わなかった。

 自ら敗者の立場に立ってしまった猫族の二人は、揃ってダメージを受け崩れ落ちていた。


「コホンッ。話を戻しますが、そんなイオンもBLFOは珍しく気に入ったみたいなんです。だからマリーシャもイオンも、ようやくパーティを組めるのを心待ちにしていたんですよ」


「それで昼からずーっとプレイしっぱなしっちゅうわけか」


「ようやく見つけたうえにお預けですからね~こうなるのも仕方ありませんね~」


 シーラが無理矢理話を引き継いで終わらせたのは、フィールドのど真ん中で索敵役二人をいつまでも落ち込ませたままにするわけにはいかなかったからである。

 決して、ダメージを受けた二人が妙な視線を送ってきたりとか、互いの脅威レベルを確認したあと視線を合わせてガッチリ握手して頷き合ってるのが怖かったからとか、そんな理由ではないのだ。

 なので当然のように二人を置き去りにして、シーラの言葉は続いた。


「今考えればお預けになったのは正解だったと思います。皆さんのクランに入っていなければ、きっと違う意味で大騒ぎになってた可能性がありますから。そのうえ皆さんが手を打っていなかったら、どうなっていたことか」


 クランに入って、公式イベントに出る。

 そこまでなら特に理由もなかったであろうが、初心者をアンカーに、しかもエスという一人一人がトップクラスの腕を持つクランでそれをするのは、ただイオンが速いからという理由だけではないことは明らかである。

 どこまで考えていたのかはわからないが、何らかの意図があったことは間違いない。

 そしてそれがイオンにとって都合のいいものであることは、結果を見れば疑いようがなかった。


 いくらシーラ自身も頭が回るほうとはいえ、今回の事態をここまで丸く収めることが出来るのかと聞かれれば、絶対に“ノー”と答えるだろう。

 偶然と、少しの作戦と、本人と周囲の意思。

 どこか少しでも狂えば、こうも見事に良い方向に向かうことはなかった。

 そのときはそのときでマリーシャもシーラも尽力しただろうが、苦労は少ないに越したことはない。

 それどころか、今の状況は最良と言っていい結果だとシーラは考えていた。


「だから今のうちに言わせて下さい。私の友人を手助けして下さって、本当にありがとうございます」


 そう言って、ゆっくりとお辞儀をした。

 もちろん今が騒ぎの絶頂で、むしろこれから苦労するかもしれないことはわかっているが、それでも言っておきたかったのだ。

 見てて羨ましくなるような友人。その二人が楽しそうにしている姿を、これからも特等席で見られるのだから。


「ちょっとシーラ先に言わないでよっ。何があったのかよくわかんないけど、とにかくイオンが楽しそうなのはクランで面倒見てもらったからだと思うから、あたしからもありがとうございますっ」


「言った者勝ちよ」


「そういうとこちゃっかりしてるんだからなー」


 イオンとはまた違った感じのする二人のやり取りに、顔が緩む三人。

 イオンの友人だけあって、この二人も面白そうな人間だなと思うのだった。


「そのお礼は受け取っておくけど、今後何かあったら二人にも頑張ってもらうから、覚悟しといてね」


「もう何も起こらないなんて~ありえませんからね~」


「道連れは多いほうがええからなー」


「お、お手柔らかに……」


 そんな返答に軽く引きつった笑みになるマリーシャだが……。


「無理よ。初日からクエストとサブクエスト同時進行なんて、次は何があることやら」


「混ぜるな危険ですね~」


「バルガスとアヤメより酷いね」


「レイチェルには敵わんけどなー」


「よくわからないけど何か酷いこと言われてる!?」


 あまりな追撃に思わず味方を求めて洞窟を見てしまうが、そんな都合よく出てくるはずもなく暗闇しか見えなかった。


「あ、気付いた? 良い耳してるね」


「ようやっと来たかー」


「キリのいいとこで助かりました~」


「……はい?」


 腰を上げ戦闘準備に入る三人。

 どうやら、都合よく出てきてくれるようだった。



1/23 誤字修正しました。


いつだかイオンがカロリーを敵と呼んだ理由がついに。


少し展開飛んでますが、その辺は次回で。


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