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9-11 マリーシャと、クエストと、それから……。


 道具屋で話を聞き終わると丁度いい時間だったため一旦ログアウト。

 ご飯を食べて明日の準備をして、それからもう一度ログインしました。

 今は拠点でコーヒー飲んで時間を潰してます。まだ再集合の時間には早いので。


「こんにちはキイさん」


「やーこんにちは……あれ、今日は友達と遊びに行くんじゃなかったっけ」


「次は~アヤメさんの番ですよ~」


「……何の話?」


 ログインしてきたエリスさんから同じことを尋ねられて、それが終わったらアヤメさんが来たので今度はエリスさんが説明して、次はアヤメさんがキイさんに説明する番……に、いつの間にかなってました。


「ちゅうわけや」


「そう。うまくいってるなら良かった良かった」


 皆さんから気にしてもらうのは嬉しいですが、周りから見るとそんなに危なっかしく見えたんでしょうか……。


「にしてもクエストしながらサブクエかぁ。イオンもその子もよくやるねー」


「おもろいコンビやなぁ」


「振り回されるほうは大変ですけどね~」


「あちらにも話のわかる方が居るのが、せめてもの救いですの……」


「お疲れ、グリーン」


 何故でしょう……道具屋でぐりちゃんとシーラさんのあいだに漂った雰囲気がここでも……。


「今はサブクエの途中なんでしょ? 次は何するの、ってこれ聞いてもいいのかな」


 秘密かどうかわかりませんが一応攻略情報ですよね。まだ三人のうちで止めておいたほうがいいでしょうか。


「次は魔物を倒しに行きます。場所は一応秘密ということで」


 これくらいならいいですよね。


「そっか。あたしもどっか狩りに行こうかなー。でもこのメンバーかぁ……」


「結構限定されますからね~」


「面倒なんはいややなー」


 魔法専門が二人に範囲の広い物理攻撃役が一人。私でもバランスが悪いとわかります。

 でもそれなら私たちもバランスが悪いですよね。

 さすがに一日中拘束するのはよくないだろうと、リード君とウェイスト君には連絡を入れてません。

 なので“稀少な魔物”のとこには三人で行こうということになりましたが……今更ですけど、かなり大変なんじゃないでしょうか。

 と、シーラさんからメールですね。えっと……。


『シーラ:もう一度お邪魔して詳しく聞き直したんだけど、どうやらかなり物理耐性が高い可能性があるわ。私たち三人、というか五人集まっても厳しいと思うから、今日は偵察だけになると思ってちょうだい。倒すのは助っ人を集めてからね。』


 確かにそんな感じのことを言われてました。

 魔法攻撃を出来るのはマリーシャとシーラさんと私。ですが私はもちろんマリーシャもあまり強い魔法は使えません。

 無理しても仕方ないですしね。少し残念ですが今日のところは……今度はマリーシャですね。


『マリーシャ:しょぼーん』


 顔文字に変換する手間も惜しいほど急いでるのはわかりました。


『イオン:了解です。ちなみに助っ人はどうやって集めるんですか? よろずやに依頼ですか?』


 あれっていくらかかるんでしょうね……結構高そうですが。


『シーラ:いくら収入があるかわからないから、簡単に依頼はできないわね。BBSの助っ人募集スレッドにでも書き込むくらいかしら。それなら均等割が基本だから。』


 少なくとも気軽に依頼できるほど安いわけではなさそうですね。

 でもBBSで募集だと予定も立てづらいですよね。すんなり集まるとも限りませんし。

 ……これは駄目でしょうか。


『イオン:均等割を条件に引き受けてくれる魔法職だったらいいんですよね。私の知り合いでもいいですか?』


 送信をタップして画面から視線を上げます。

 視線の先には、畳の上で暇そうにゴロゴロしてるアヤメさん。


「なんや?」


 タイミングよく、視線が合いました。




「本当に連れてくるとは思わなかったわ……」


 会うなり溜め息のシーラさん。今日は多いですね。


「すいません、いきなり失礼しました。私はシーラと言います。わざわざ来ていただいてありがとうございます。……まさか来ていただけるとは思いませんでしたし、三人も居るとはもっと思いませんでしたが……」


 言葉の通り私のうしろにはキイさん、エリスさん、アヤメさんの三人が居ます。

 アヤメさんに話をしたら『おもろそうやからおっけー』と二つ返事で了承をいただき、それを聞いてた二人からも邪魔でなければ付いていきたいと言われてこうなりました。

 シーラさんからは、


『相手が誰だか予想はつくけど、無理に連れてこないでいいからね。戦力的には十分すぎるほどだしこっちは助かるけど、本当に無理しないでいいからね。ああもちろん報酬が減るから連れてくるなとかじゃないから。もし全員来られても助っ人お願いするより人数少なくて済むもの。でも忙しいところをわざわざ来てもらうのも悪いから。軽く、もし時間があったら、気が向いたら来てねくらいでいいからね』


 なんて随分念の入った言われ方でしたが、私も、


『魔法職が必要らしいんですが手伝ってもらえませんか? 均等割なんですけど』


 これしか言ってませんので問題ないはずです。

 マリーシャは『クランの人? 会いたい!』でしたが。


「気にしないでいいって、あたしたちも暇だったから来たようなもんだし。今まで以上に苦労かけてゴメンね、でも面白そうだったからつい……」


「そうですよ~ただ魔物と戦いに来ただけですから~あまり気にしないで下さいね~。苦労かけますけど、戦闘では苦労かけませんよ~」


「苦労人は大変やなぁ。おもろいからしゃーないけどな」


「お気づかい、ありがとうございます……」


 最後のは違う気がします……。


「確かもう一人来るんだっけ。自己紹介はその子が来てからするとして、先にサブクエのこと聞いていい?」


「わかりました。問題の魔物についてですが――」


 話は、道具屋で聞いた話を思い出すように始まりました。


 曰く、その魔物は鉄の体を持つ。

 曰く、その魔物は静寂を好む。

 曰く、その魔物は人を襲わず、石を食う。

 曰く、その魔物を倒すと、宝が手に入る。


 いかにも伝説の魔物といった感じで未確認生物みたいに聞こえますが、実際に二番坑道に現れた魔物なんだそうです。

 発見した当初、人が近づいても気にせず石ばかり食べていた魔物。

 あまり強そうに見えないので抗夫が退治してしまおうと殴りかかったそうですが、金属のような堅い体に弾かれてしまった。

 今度は武器を持って斬りかかろうと準備をして、さぁ始めるぞと武器を打ち鳴らした途端に様子が一変。

 怒ったように暴れ出し、人も何も関係なく襲いかかり始め、そして動く者がいなくなってもまだ暴れ続け。

 ただ嵐が過ぎ去るのを待つことしかできず、その被害は魔物がどこかへ姿を消すまで続いたそうです。


 その事件のあった二番坑道はオレストの北にありますが、今はもう稼働していません。

 理由は鉱石が取れなくなったからだそうですが、それは魔物が食べ尽くしたからだといわれているそうです。


 これが道具屋で聞いた魔物の情報です。

 てっきり複合異常の原因となった魔物の話でも出てくるのかと思えば、全く違う話だったので驚きました。

 あのときのことは慌てて逃げてたのでよく覚えてないそうです。そんなところまでクエストそっくりでした……。

 ちなみに被害に遭った場所を聞いたんですが、シーラさんによるとそれらしい魔物は居ないはずと言われました。

 珍しい事故かと思ったんですが、そうでもないということでしょうか……不思議なこともありますね……。


 ……宝の話はどうしたですか? そんなのはありませんでした。

 噂には尾ひれがつきものです、だそうですよ……。

 でも珍しい魔物から取れる素材はそれだけで価値があるかもしれないので、あながち嘘でもないと思います。

 運がよければそれなりに儲かるかもしれないと、シーラさんも言ってましたし。


「なるほどねー。石っていうか、食べてたのは多分金属だよね。倒したら上質なインゴットとか手に入るかな」


「しかも~まだ倒されてないということは~相当成長してる可能性がありますね~」


「魔物もドロップも、ゆうことか」


 インゴットって、金属の塊とかそういうのですよね。

 それが成長してるとなると、相当すごい金属だったりするんでしょうか?

 本当に手に入ったら確かに宝かもしれないですね。


「サブクエのほうも面白くなりそうだね。……ところでこんなとこで待ち合わせなのは、まだ来てないもう一人が理由かな?」


「その通りです」


 今居るところはオレストの街中ではなく、街から少し離れた道沿いの木の下です。

 周りに木は生えていませんので、マリーシャもすぐにわかるはずです。


「もうそろそろ来ると思うのであらかじめ言っておきますが、少し騒々しい子なので……」


「あの勢いを公衆の場でされたら大変なことになってましたの……」


「ああ、うん。大体わかった。あたしらも居るから大丈夫だろうけど、今イオンが居るところで騒ぐと問題になるかもしれないしね」


 お手数おかけします……。

 ここは街の外ではありますがそこまで離れていないので、魔物はほとんど居ません。

 目的地の途中でもあるので丁度いいだろうということでここになりました。


「空気は読める子なんですけど、脊椎反射で動いてしまう部分があるので」


「なるほどねー。静かなイオンと騒々しい子か。実はデコボココンビだったのね」


 デコボココンビって、確かに否定できませんけど……。


「デコボコと言っても平面的なの凹凸(おうとつ)ではなく、立体的にデコボコしてて形は全く違うのに、どこを組み合わせても何故か嵌まってしまう不思議パズルですね、この二人は」


 な、なんですかその、すごそうに聞こえるけど実際はよくわからないだけのナニカ的な評価はっ。


「ふっ、不思議パズル……くくっ」


「あっははははっ、見た目とちごうて言うやんかー」


「これは期待できそうですね~」


 シーラさんの言い様に三人とも笑ってますけど……これ、私はどう反応したらいいんですか……。

 しかもそんなタイミングで来ましたよ……。


「やーっと着いたーっ、遅くなってごめんなさい。今日はわざわざありがとうございますマリーシャと言いますっ。嫁のイオンがいつもお世話になってます! ……おぉ、ウケたよ珍しく」


 エリスさんは口元押さえて堪えるように笑って、アヤメさんは木をバンバン叩いて、キイさんは後ろむいて肩が震えてます……。

 皆さんツボにはまりすぎです……。


「なーんだーイオンが入ったクランだからどんなとこかと思ったけどいい人たちじゃーん。でもキズモノにしたらただじゃおかないですからね! そこんとこよろしく!」


「そ、その辺は大丈夫。誰にも手出しさせないから……ぷふっ」


 笑うか答えるかどっちかにしましょうよ……説得力さっぱりです……。

 結局笑いが収まるまでしばらく待つことになりました……。


「あー笑ったわー。タイミングよすぎや」


「よくわかんないけどありがとうございますっ」


 今のって褒められたんですか……?


「ホントにイオンとは違うタイプだね。あたしはキイだよ。今日はよろしく」


「よろしくお願いしますっ。キイさん頼れる先輩っぽくて格好いいですね。あ、私は呼び捨てでいいんで」


「そう? じゃ遠慮なくマリーシャって呼ぶね」


 キイさん、頼れる先輩と呼ばれて満更でもなさそうです。


「エリスと言います~。私はマリーシャさんと呼びますね~」


「どうぞっ。……ところでエリスさん、今度銭湯に行きませんか」


「気が向いたらいいですよ~」


 視線が顔ではなくお腹の上の辺りに固定されてますよ、マリーシャ。

 というか銭湯なんてあるんですか。現実では行ったことないですし、私も行ってみたいですね。


「アヤメや。笑かしてくれたからアメちゃんやるわ」


「ありがとうごいまーす。……アヤメさん、ちょーっとそのままでお願いします。シーラ、アヤメさんの横に立って」


「……なんで私が」


 言葉の途中で、アヤメさんのほうからシーラさんの横に立ちました。


「そこでシーラ、アヤメさんのことを『お姉ちゃん』と」「呼ばないわよっ」


「「「「「「えぇーーー」」」」」」


 私も含め全員から不満の声が上がりました。

 やっぱり皆さん思ったんですね、二人が揃うと姉妹みたいに見えるんじゃないかって。

 並んでもらうとわかったんですが、顔がそっくりというわけではないんですけど目が似てるんですよね。

 普段はダルそうで戦闘になると生き生きとした目をするアヤメさんと、普段は静かなお姉さんで怒ると表情よりも目で怒ってくるシーラさん。

 二人とも、その目が印象的なんですよね。普段との変わり具合も含めて。


「どうしてアヤメさんまで……嫌じゃないんですか」


「キレイ系の真面目で口うるさい妹って、現実なら鬱陶しいんやけどゲームならアリやろ。ぐりなら現実でもアリやけどなー」


 良い意味には聞こえないセリフですが、多分悪気はありません。

 そのほうが面白いくらいにしか考えてないと思います。


「小さくて可愛い系の横暴な姉と、少しキツそうなキレイ系の真面目な妹。イオンとグリーンとは似てるけど違うパターンだね」


「やっぱりしっかり者ポジションは妹ですよね~」


「ほら、私だけじゃないんだし」


 包囲網が作られてますね。……そこで私とグリーンのほう見られても……。


「大人しく諦めるですの」


「えっと……妹は良いものですよ?」


 少なくともグリーンは。


 ――この状況で言われてもあまり嬉しくないですの……。


 私の言葉を聞いて溜め息を吐くシーラさん。

 そして上げた顔は……諦めの表情ですね。


「いい加減に出発したいと思うんですが。………………アヤメ姉さん」


「よーし気合いも入ったし行こかー」


 なんとも締まらないスタートになりました……。



1/23 誤字修正しました。


お風呂回の予定は当分ありません。



Q:妹が多くない?

A:気のせいです。


Q:趣味なの? ねぇ趣味なの?

A:気のせいったら気のせいです。

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