9-10 マリーシャと、クエストと、それから……。
すいません少し遅れました……。
坑道から出てきて事務所に魔道具を返して、事務所の外の休憩スペースを借りて休憩タイムです。
外に出て深呼吸するように空気を吸ったら、その途端に疲労感に襲われたんです……。
あんなことがあったので知らないうちに緊張とかしてたんでしょうね、思った以上に疲れてました。
マリーシャたちも多数の魔物と戦ってたので、もともと回復も兼ねて休憩するつもりだったようです。なのでみんなでドーナツ食べてゆっくりしてます。
特にマリーシャは魔力が空っぽらしいので回復が必要です。気にせず使っていいとは言ったけど、緊急時を考えて少しは残しておきなさいと怒られてますけど。
「……聞いてるの?」
「ごめんなさい聞いてます聞いてます」
そんなときによそ見するからすぐには終わらないんですよね……。
でも何見てたのか気になったので視線を向けてみれば、ってこれオレストでもやった気がしますね。しかもそのときと同じ女の子が居ます。
荷物を運んできたのか、御者台に座って馬車を操ってます。もう帰るところのようですけど。
偶然かもしれませんが、二度も見てしまうと気になります……。
……マリーシャも気になってるようですし、少し話をしてみたいですね。
クエストが終わったら探してみましょうか。
休憩タイムなのか説教タイムなのかよくわからない時間が終わって、次は北の渓谷です。
今度こそ迷惑かけないように気をつけましょう。
というわけで行ってきました。今はオレストです。
……すいません意味がわかりませんよね……でも今度はそれくらいあっさり終わってしまったんです……。
もうすぐ渓谷というところで鳥の魔物が出てきたので倒したんですが、そしたらすぐシーラさんに呼ばれて、
『それが目的の魔物よ。素材も手に入ったし戻りましょうか』
と言われてすぐに戻ってくることに……渓谷に行ってみたかったんですけど……。
――行っても飛んで遊んでる時間はありませんの。
ですよね……今度一人で行きましょう。
狭くて岩がせり出してて魔物も居てものすごく飛びにくそうな場所だといいんですけど。イベントのコースの代わりになる感じだと最高ですね。
――そんなに危ない場所なら注意されてるはずですの。
されなかったということは、そんな場所ではないということで……。
「どしたのイオン、そんな微妙な溜め息して」
「クエストとは全く関係ないことで残念なことがありまして……」
「よくわかんないけど次は良いことあるって。多分」
逆ですね。昨日の公式イベントが楽しすぎたので、当分良いことはないかもしれません……さっきだって失敗しましたし……。
「二人とも、順番が来たから中に入るわよ」
呼ばれたので部屋の中へ。部屋と言っても診察室です。
素材も揃ったのでポーションを作ってもらおうと、病院のコラックさんをもう一度訪ねました。
一度目に訪ねたときには患者さんは居ませんでしたが、今は患者さんが居たので順番待ちしてたんです。
部屋に入って早速素材を取り出し、ポーションを作ってもらうようお願いしました。
「これは儂には無理だな」
素材を見るなり匙を投げられました……。
ですがこれは予想してました。あちこち行くことになるだろうとシーラさん言ってましたし、坑道と渓谷だけでは少ないと思ってたので。
次はポーションの作り方を調べることになるんでしょうか?
「理由を伺ってもいいですか?」
「こいつら毒の系統がバラバラなのでな。本来あり得ないんだが、恐らく複合毒にやられたんだろう。それを治すには複合ポーションの作成方法が必要なのだが、残念ながら儂の手元にはその資料が無い」
「では資料があれば作れるのですね?」
「もちろんだとも。大通りの本屋に入荷したとは聞いたのだが、先に誰かに買われてしまったらしい。それについてはそっちで聞いてくれんか」
やっぱりでした……。
しかも『先に買われた』って、多分次はそれを探すことになるんですよね……シーラさんたちが今までこの仕事を受けなかった理由が少しわかりました……。
でも次の行き先もわかってるわけですし、追いかけていれば資料も手に入りますよね。
街を見て回りたいと思ってましたし、むしろ丁度いいです。
丁度いいと、思ってたんですが……。
本屋に行けば『食堂の店主に売った』と言われ。
食堂に行けば『俺には使えなかったから売っちまった』と言われ。
買った人を訪ねれば『借金のカタに持ってかれた』と言われ(お金が無いのになんで買ったんでしょう……)。
持ってった人を訪ねれば『知り合いが欲しがったから物々交換した』と言われ。
知り合いを訪ねれば……という感じで街中をあっちに行ってこっちに行くことに。
それから人によっては『教えてほしければ○○をしてくれ』と言われることもありました。
見て回りたいとは思いましたが、こうもたらい回しにされると……。
しかもですよ……。
最後はコラックさんのところにたどり着いたんですよっ!
最後に持ってた人は『あそこにあるのが一番役立つと思ったから寄付した』ですよ……間違ってませんけど……間違ってませんけど……。
「おつかい系クエストでは良くあることよ。歩いて会話したらクリアできるから、戦闘の苦手な人はこういうのを中心にこなすのよ。……今回のは酷いほうだけど……」
私も途中までは面白かったんです。次はどこなのかな、と気になりましたし。
でも最終的にスタートをゴールにされると……なんというか……言いようのない徒労感に見舞われるというか……。
次にこういったクエストをする際には、あらかじめ覚悟しておきましょう……。
と、とにかくそんなわけでポーションも手に入りました。
複合異常回復ポーション(身体用)です。
身体用は毒、麻痺、暗闇に対して効果があり、精神用で作れば幻覚、忘却、混乱に効果があるそうです。
複合異常はどんな組み合わせでも発生するというわけではなく、必ずその三つずつの組み合わせになるのでポーションも二種類ということでした。
それはそうと……お店で売ってそうですね、これ。
「店頭には並んでないわね。そんな攻撃してくる魔物は前線でも少ないから、今はまだ需要がないの。素材を持ち込めば作ってくれるけど、今のプレイヤーメイドではスキルレベルが足りてないせいか、もっと高価な素材が必要なのよ。そっちを集めるほうが手間ね」
依頼者のバルダーさんから話を聞いた時点で複合異常回復ポーションが必要なことは予想がついていたそうですが、そんな理由もあってその線は考えなかったそうです。
ちなみに通常の状態異常と複合異常は別物という扱いらしく、複合異常は複合異常用のポーションでなければ直せません。
魔法の場合も同様ですが、複合異常用の魔法はまだほんの一部の人しか使えないんだとか。
それから普通は三種類の魔物から状態異常を受けた場合、複合異常ではなく単独の異常が三種類を受ける形となって、通常のポーション三個で直せるそうです。
複合異常は単一の魔物から毒を受けた場合にかかる“はず”なんだとか。
なのでどうして複合異常になったのか不思議なんですが……。
「理由を聞いても運が悪かったとか魔物の毒はわからないことも多いとか、そんなこと言われるのがオチよ」
だそうです。コラックさんも『本来あり得ない』と言ってましたし、なんでも知ってるわけありませんよね。
リード君は『そういう設定だから気にするだけ無駄』なんて身も蓋もないこと言ってましたが……。
「はい、依頼内容の達成を確認しました。こちらが報酬となります。ご苦労様でした」
バルダーさんにポーションを渡して無事に奥さんの症状は改善。
依頼書に完了のサインをもらい、それをギルドに提出してクエストは完了しました。
「お疲れイオン。初めてのクエストどうだった?」
「大変でしたけど面白かったです。戦うだけじゃなくていろいろありましたから」
これが素直な感想です。
戦って街を回って話を聞いてと、TVゲームでもこんなことがありましたしね。少しだけゲームの主人公気分です。
でもやっぱりサブクエストとは全然違う感じでした。
やってることはあまり変わらないはずなんですが、なんかこう……性質が違うというか。
ゲームという枠組みを意識しながら動かなければクリアできないクエストと、自然と、ただその世界で生活しているだけでいいサブクエストでは、やっぱり全く違いますね。
どちらがいいとかはありませんが……私はサブクエストのほうが好きかもしれません。
あまりゲームということを意識してばかりだと、この世界を楽しめないので。
とはいえクエストが面白くなかったわけではありません。毎日するのは疲れるますけど、たまになら自分からやってみるのもいいですね。
それに誰かとパーティを組む場合は、こちらのほうが全員で楽しめると思います。生活してるわけではなく、ゲームをしてるわけなので。
クエストも、ゆっくりとこなしていきたいですね。
「よかったー。シーラがこんなクエスト選ぶから嫌になっちゃうんじゃないかと思ったよ」
「悪かったわよ。でも報酬は悪くなかったでしょ。複合ポーションだって作ってもらえるようになったんだし」
実は成功報酬の他にそんな特典もあったんです。
今後はコラックさんに素材を渡せば複合異常回復ポーションを作ってもらえるようになりました。
お金と時間も要求されますが、現時点ではプレイヤーに作ってもらうよりも安く手に入るそうです。
今日はすぐに作ってもらえましたが、普段は病院の仕事で忙しいですしね。
ふと思ったんですが、このクエストの本当の報酬はこちらなのかもしれないですね。お金よりもよっぽど価値がありそうですし。
当分は出番が無いみたいですけど。
「これからどうする? まだクエストするって言うなら付き合うけど」
クエストが終わって、今は夕方と言える時間です。
とはいえ夕飯の準備を始めるには早いので……。
「あたし行きたいとこあるからパスで」
「私もです。気をつかってもらってすいませんが……」
マリーシャと揃って断ります。
オレストを回ってるあいだに行きたいところが見つかったんですよね。
「じゃあ俺とウェイストはもうちょい狩りに行ってくるわ」
「そか。んじゃ明日ねー」
「今日はありがとうございました」
軽く返事してそのまま街の外へ向かっていく二人を見送ります。
クエストに付き合ってもらってそのうえ迷惑までかけたのに、二人とも最後まで文句の一つも言わなかったですね……。
内心は知りませんがそういう気づかいは助かります。次は足を引っ張らないように頑張りましょう……。
「シーラはどうすんの? ログアウト?」
「そうしようかと思ったけど……もしかして、二人とも目的地は同じなの?」
「そうだよ」
「私も行っていい?」
「あたしはいいよー」
「私も大丈夫ですよ。でも行った先でどうなるかわかりませんよ?」
「……何、その不安を煽る言い方は」
行き先は決まっててそこで何をするのかは決まってるんですが、今のところそれだけなんですよね。
結果がどうなるかはさっぱりです。
「少なくとも変なことをするわけではないようですの。今のところは」
「ぐりちゃんもう少しマシなフォローしてよー」
本当にわかりませんからね。むしろフォローしてくれただけマシというものです。
「とにかく付いていくわ。イオンも一緒だし大丈夫だと……いえゲームではイオンもだったわね。とにかく気になるから」
マリーシャと一括りにされました……。
「イオンとお揃いならいいかなぁ」
どこかで聞いたセリフです……。
「と、とにかく行きましょう。時間がかかるようなら、一旦ログアウトして夕飯の準備したいですし」
場所はすぐそこですが、今は話を変えましょう……。
「それもそうね。目的地はどこなの?」
「ギルドの裏にある道具屋です」
「……すぐそこじゃない」
今はギルドの正面で話していたので、本当にすぐそこです
ギルドの脇の細い路地を通って裏通りへ。
それだけで到着です。
「こんんちはー、ノナさん居ますかー」
マリーシャに続いて中に入りますが……声の響いた店内には誰も居ません。
誰も居ないのに開けっ放しは不用心です。
「……どちら様ですか?」
少ししてようやく姿が見えました。いらっしゃってよかったです。
「皆さんは……確かバルダーさんの家に入っていった」
そう、この道具屋はバルダーさんのお屋敷前と坑道で見かけた女の子の家です。
「そうでーす通りすがりの冒険者でーす。お父さんにポーション持ってきましたー」
「……えっ?」
訝しむような表情から今度は訳がわからないという表情へ。
突然名指しで来店したうえに、頼まれてもいない物を持って来たらそうなりますよね。
「あれ、違った? お父さんが魔物の毒で寝込んでるって聞いてきたんだけど」
「それは事実ですけど……。でもお父さんにはどのポーションも効かなくて……」
「だから効くポーションを持って来たんだって。症状は毒と暗闇と麻痺でしょ? 複合異常回復ポーション持って来たから、多分効果あるよ」
「ほんとうですか!?」
「本当だって。はいこれポーション。あ、でもできればお父さんに会わせてもらっていい? ちゃんと効いたか確認したいし」
「もちろんですこっちです!」
驚いて慌てるようにお店の奥へ入っていくノナさんと、それを追いかけるマリーシャ。
私はお店のドアを閉めてクローズの札もかけてから行きます。不用心ですからね。
それからマリーシャを追いかけようとしたら、シーラさんは待っててくれました。
その表情には少しの驚きが含まれています。
「……いつの間にサブクエストを進めてたの?」
シーラさんの言うとおり、ここへはサブクエストを進めるために来ました。
クエスト中はシーラさんが先頭に立って話をしてましたから、私とマリーシャがしていることに気付かなかったんでしょうね。
「えっと……バルダーさんを訪ねた辺りから、でしょうか。私が気付いたのはお屋敷から出てからですけど、マリーシャは入る前に気付いてましたし」
最初に気付いたのはマリーシャ、お屋敷に入る前です。
その次はお屋敷から出たときで、さらに次は坑道で見かけたときですね。
別にノナさん……荷物を運んでいた女の子の名前です。から睨まれたりとか、ノナさん自身が暗い表情をしていたとか、そういったことはありません。
むしろ私が見たときは仕事のことでいっぱいいっぱいという感じでした。
仕事をしている姿がどこか慣れていない感じがしたんですよね。急遽代理でやり始めました、という風な。
荷物を載せるときは順番に悩んでるように見えましたし、馬を操る姿はおっかなびっくりだったり。
そんなことがなんとなく気になっただけですが、でもマリーシャも同じようなことを考えていたので話を聞いてみようかとなりした。
本当はクエストが終わってから本人に話を聞こうと思ってたんですが、クエストで街を巡ってる最中、少し飽きちゃったマリーシャが行く先々でノナさんのことを聞き込みし始めたんですよね。
『ねー、茶色の髪の女の子がいかにも危なっかしそーに馬車で荷物運んでたんだけど、何か知らない? ……そー坑道とかに荷物運んでる子。……へー道具屋の子なんだー』
『えっ、お父さん病気? それで働いてるのかー大変だなぁ』
『そー道具屋の子。……病気じゃなくて毒? でもポーション効かない? 何でよ。……そうだよねー知ってたら治ってるよねー』
『遠くまで素材を採りに行ったら毒にやられて帰ってきた? それってどんな魔物とか……いっぱい居たからわからない? どしたのイオン。……今のクエストとそっくり? そういえばそうだね』
『物がよく見えないとか体が痺れてる……ああ体力もだったっけ、ありがとイオン。……おお、一緒だ。ていうことはー……もしかして?』
まとめると、ノナさんはこの道具屋の娘さんで、父親は魔物の毒にやられ伏せってしまい代わりにノナさんが仕事をしているということ。
症状はバルダーさんの奥さんとほぼ同じらしく、こちらもポーションが効かないこと。
ほぼクエストと同一の内容だったんです。
シーラさんの言ったように複合異常用のポーションはお店に並んでいません。
家が道具屋さんでも、仕入れ先が取り扱っていない物は仕入れることは出来ませんからね。
そんな状況のノナさんなので、冒険者に仕事を依頼しようかどうか悩んでいると、周囲の人に話していたそうです。だからいかにも冒険者な私たちを見ていたんですね。
そこまでわかったので、話を聞く前にポーションを持って来たんです。
私たちがポーションを作ってもらうとき、念のためにということでクエスト用とは別に自分たち用に一個ずつ作ってもらってたので準備も万全です。
私たちはしばらく使う予定はありませんからね。
そういうこともあったのでどうして複合異常になったのか気になったんですが、全ての謎がわかるわけありませんからね。知らないと言われれば仕方ありません。
どうしてこうなったのかを調べるより、治療が先ですから。
それはそうとセカ村のアーニャさんを思い出します。あの状況にかなり似てますし。
そういえばあのときは薬草取りに行きましたね。
アーニャさんの場合もポーションを試してないとは思えませんし……だったらあの薬草は何だったんでしょうか?
まだ発見されてない毒もあるそうなのでそれでしょうか。でもあの山の麓に居る魔物で毒にかかるとなると……いえ、今は関係ないことですね。
アーニャさんは寝ているだけでも快方に向かっていくとのことだったので急ぎませんでしたが、こちらはわからないのですぐにポーションを持って来くることにしたんです。
「というわけです。すいません黙ってて」
「それは構わないわよ。ただクエストを見てるだけよりよっぽど有意義だし。ただ……」
シーラさんがクエストに集中してるあいだ、私たちは違うことして遊んでたようなものですからね……。
言葉では問題ないと言ってますが、どこか呆れたような感じです。
「イオンとマリーシャを混ぜたらこうなるのかと、再認識しただけよ……」
盛大な溜め息と一緒に言われました……。
本当に呆れられてたようです……。
「言っておくけど怒ってるわけでも悪い意味で言ってるわけじゃないから。クエストを進めながらサブクエストも進めるなんて、効率は良いし無駄もなかったもの。……でも全く情報の無いサブクエストを進めて、しかもある程度解決の目処も立ってるとか。確かにサブクエストは簡単に終わるものもあるけど、それにしたってね……」
怒ったりとかそういうのではないようですが……。
「何かやらかしてました……?」
「良い意味でね。迷惑でもないし側で見てる分には面白いんだけど、いきなりで驚いただけよ。だから出来れば一言ほしかったわ。どんな結果になるにせよ、心の準備はしときたいから」
「次からは気をつけます……」
お願いね、と苦笑いのシーラさん。
学校でもゲームでも、いつもお手数おかけします……。
「今まではマリーシャを私が見張ってたようなものだから、こんなこともなかったんだけど……」
「マリーシャさんと居るお姉様、とても楽しそうだったので止めるに止められませんでしたわ……」
マリーシャが聞き込みを始めたのはすぐ気付いたんですが最初はクエストに集中しようとしました。
でもどうしても気になって……気付けば横から口出しして……。
それだけなんですが何故か楽しかったのでつい……。
「グリーンさん……」
「心中お察ししますの、シーラさん」
何か今、二人のあいだで繋がりができたような気がします……。
「いつの間にかシーラとグリーンが仲良くなってる」
「マリーシャのおかげでね」
「なんかしたっけ?」
してたらしいですよ……私もですけど……。
「気にしないで。それよりどうだったの?」
「もちろん治ったよ。だからちょっと相談があるんだけど……」
治ったのに相談? 何かあったんでしょうか。
全員で押しかけても迷惑だろうと私とシーラさんは部屋の前で話してたので、マリーシャについて寝室に入ります。
「皆さんのおかげで毒も消えました。心から感謝します」
「ありがとうございました!」
部屋に入るなり、涙を流しながらも嬉しそうなノナさんと、ベッドに横たわる男性から感謝の言葉をいただきました。
奥さんは随分前に亡なられているそうなので、この家には二人だけです。
男性のほうはまだ体力が戻ってないのか顔色がよくないですが、それでも苦しい様子はありませんので毒は確かに消えたようです。
「それで……ポーションの代金についてなのですが……」
そこまで聞いて予想がつきました。
「いくら払えばいいでしょうか。道具屋の端くれですが、こんな高価なポーションの価値と言われると……」
やっぱりでした。マリーシャのことなので、お金の話をしないですぐに渡したんですね……。
私でさえアーニャさんに薬草を渡す際には価格交渉したんですが、私は家の仕事もしてる関係からそういう意識がありますからね。
でもマリーシャは何も話をせずに渡してしまったので、どうしようかと相談しに来たわけですか。
……私の場合も似たようなものだった? 確かに押しつけるための方便みたいな感じになってしまいましたけど、タルトは本心なので違います。
「シーラさん。あのポーション、普通に買うといくらくらいなんですか?」
「そうね……素材と作成費合わせて20,000ゼルといったところね」
高いです。誰にも手が出ないというほどではありませんが、普通の状態異常ポーションの十倍ですよ。
ノナさんもえっ、という顔してます。
「ギルドに依頼することを考えれば安すぎるくらいですね。もう少し上乗せしてもらえませんか」
ノナさんもうんうんと顔を縦に振ってます。高すぎて驚いたんじゃなく安すぎたほうでしたか。
確かに今のはポーションとしての値段だけですから、素材を集めることから考えるともっと高くなりますね。
「じゃあ手間賃入れて25,000ゼルで。こっちも半分ついででやったことだから、これ以上もらうのも気が引けるし」
「まだ安いですが……すみません、今回はお言葉に甘えさせて下さい。ノナ、お金を」
「うんっ」
部屋を出てお金を取りに行くノナさん。丸く収まってよかったです。
「……そうだ、お金とは別に情報を受け取ってもらえませんか。冒険者の方には、そういったものも価値があるんじゃないでしょうか」
「情報って?」
「……稀少な魔物の情報です」
その情報は、少しだけニヤリとした表情で語られました。
振り回す人が増えたので、苦労人も増えました。
というわけでクエストは進みました。終わりました。
そしてサブクエへ。