2-3 VRゲーム、始めます。
さて全部決まったのでようやくゲーム開始です。
目の前には魔法陣? がくるくる回ってます。
パッケージにも書いてありましたしメーカーのロゴみたいなものでしょうか。
と考えていたら魔法陣が消え、声が聞こえてきました。
《Beast Life Fantasy Onlineをプレイしていただき誠にありがとうございます》
《これよりゲームの舞台へご案内致しますので、少しの間だけ目を閉じているようお願い致します》
《そこは地球とは異なる異世界》
《あなたはその世界で自由に生きることができます》
《この世界での営みが、貴方にとって素敵なものであることを祈ります》
《そして叶うなら、龍の宝玉へと至らんことを願っております》
《さぁ到着いたしました》
《ゆっくりと目を開けてください》
《ここが異世界フィルラード、貴方の生きる新しい世界です》
《それではお楽しみください》
カーナビの音声案内みたいですね。
とにかく着いたそうなので目を開けましょう。
そして目を開けてみれば、確かにそこは異世界でした。
足元は石畳。
顔を上げればレンガの建物、水の吹き出す噴水、遠くには石を積み上げた城壁のようなものが見えます。
きっとTVゲームでプレイしたRPGを再現したらこんな感じになるんじゃないでしょうか。
まるでヨーロッパの、それも近代ではなく昔のものを模したような街が目の前に広がっています。
今いる場所は、始まりの町ルフォート。
その結界石の広場と呼ばれる場所のはずです。
新しくゲームを始めた時は必ずここから始まるそうです。
それから結界石の広場はいわゆるセーブポイントでもあるそうで、ゲームをログアウトするのはいつでもできますがゲームを再開した時は必ずここからスタートするそうです。
各街に大体一つはあって、最後に立ち寄った街から再開となるんだそうです。
TVゲームであった王様とか教会と同じ役割と言うことですね。
広場から見える人はそう多くありませんが、それでも皆さんに動物の特徴がありました。
尖った耳のある人、ふさふさの尻尾のある人。
とすればもちろん私も……ありました。
背中の方に顔を向けてみれば、先ほど初期設定の時に見た翼がありました。
白くて、折りたたまれた翼。
背中から生え上の方に向かって伸び、頭の辺りにある関節部分から下の方へ向かい、足元まで翼があるのが分かります。
まだ空を飛んでないのに、これを見ただけで何となく嬉しくなってしまいます。
早く飛んでみたいです。
ですがまだここを動くわけにはいきません
真里とはここで待ち合わせをしているんです。
約束まで少し時間がありますね……急かすのはいけませんが、早く来てくれないでしょうか。
こんなこと考えるなんていつ以来でしょう?
いえそもそも早くしてほしいなんて考えたことありましたっけ。
スーパーのレジで何分待たされても気にしたことありませんし、高速道路で数時間渋滞しても平気です。
運転する側になったら変わるかもしれませんけど。
そういえば真里と待ち合わせして二時間遅れてきたこともありましたね。
ただボーっとしてたり偶然会った近所の奥さんと話してたので気付きませんでしたが。
その後ものすごく謝られましたが私は全く気にしてないとそう言ったんですが、
『いや怒ってよ!? 時間はタダじゃないんだよ!!』
何故か怒られました。
時間がタダじゃないというのはもちろん分かってます。
自動車整備で時間と言うのはお客様の不利益に直結しますから。
ですがその時の私の場合は待ってる間が時間の無駄だったとは思わなかったので、特に不利益だったとも思いません。
時間の使い方は人それぞれですから。
あれから真里が遅刻しなくなったのはいいことだと思います。
私が特殊だというのは一応分かってるつもりなので、他の人にやったら間違いなく怒られますから。
なので今日も遅れることは無いはずですが……なるほど。今みたいな気分の時に遅刻されると怒るかもしれません。
ああいえやっぱり怒らないでしょう。
そんなことしてる暇があったら早く飛びたいです。
なのでやっぱり早く来てほしいですね。
もうすぐ待ち合わせの時間なのでそろそろだと思うんですが。
そう考えながら周りを見ていると、赤い髪で猫の耳と尻尾のある女の子が目に入りました。
髪型は現実と若干違いますが真里が言っていた特徴と一致します。
隣にグレーの髪の男の子も居ますし、あちらが相田君でしょう。
などと考えていると女の子と目が合いました。
やっぱり真里で間違いありません。
向こうも私に気づいてこちらに近づいて来ます。
真里は現実とほぼ同じ長さのショートヘアに赤い髪、それから猫の耳が見えます。
素材が分かりませんが軽そうな鎧を付けて、腰に剣をはいています。
尻尾が揺れているのが可愛いですね。
相田君は金属製と言った感じの鎧に真里と同じく剣。
背中に盾も背負ってるようです。
グレーの髪に犬の耳が見えますが……あらかじめ犬だと聞いてないと猫と区別がつきませんね。
尻尾があると分かるかもしれませんが、相田君は尻尾は無いようで……どうしたんでしょう?
真里が突然地面に手をついて項垂れました。
相田君も手で顔を覆っています。
容姿は標準で決定しただけなんですが、そんなに変だったでしょうか。
面倒じゃない範囲で直そうと思いますが、とりあえず真里にどこが変か聞いてみましょう。
「どうすればいいの……」
項垂れたままの真里から声が聞こえました。
そんなに唸るほど変だったんですか……。
聞くのが怖いですが聞いてみましょう。
「あの、真里?」
私が声をかけるとすぐに立ち上がり、そのまま抱きつかれました。
「私は嫁が天使になったことを喜べばいいのっ!? それとも外れ種族を嘆いたらいいのーーーっ!?」
大きな声で嫁と呼ばれるのは今日二回目ですね。
というか天使じゃなくて鳥族なんですが。
それに外れって何でしょう?
「いきなりどうしたんですか? 容姿設定は特に変えませんでしたが、そんなに変でした?」
「あたしの嫁が変なわけないでしょ最高に可愛いよっ!」
絶対に真里の方が可愛いと思うんですが、とりあえず変と言うわけではないようです。
「えっと、それじゃあ一体……」
「あーもう最高だわ。現実だとテキトーな髪がデフォルトでもここまで奇麗になるとかむしろ犯罪レベルね。このままお持ち帰りしていい? いやまずスクショ撮りまくってから――」
「いいから落ち着け」
「ぐえっ」
相田君に襟を引っ張られて私から剥がされました。
さすが相田君、真里の扱いをよく分かってるようです。
「いきなり何すんのさー」
「し……じゃない、どーみても向こう困ってんだろ。あーとりあえず呼びにくいから名前教えてくれ。覚えてるだろうけど俺はリードだ」
「そういえば普通に呼んでしまいましたね。ごめんなさい、気を付けます」
印象は結構違いますが間違いなく真里だったのでいつも通りに呼んでしまってました。
「そんなこといいってー。あたしはこっちだとマリーシャだからよろしく」
「私はイオンと言います。こっちでもよろしくお願いします」
「イオンかぁ、いい名前だねっ」
「そこは普通で安心したな」
そこは、と限定されるのが気になるんですけど。
「何か普通じゃないところがありました?」
設定項目も少なかったのでそこまで変になってないと思うんですが。
「普通かそうじゃないかで言えば普通なんだけどな……」
「いやいいよこれで! 可愛いは正義なの!」
つまり見た目以外に問題があるということですね。
と言うことは……。
「もしかして鳥族がいけなかったですか?」
外れ種族と真里も言ってましたし。
でも鳥族がどうしていけなかったんでしょうか。
「いけないって訳じゃないんだけどな。あんまり強い種族じゃないから戦闘系向きじゃないし、魔法系も微妙だし、器用さとかもいまいちだから職業系にも向きにくいし」
相田君……いえ間違えてはいけないのでゲームの中ではゲームの名前で呼ぶようにしましょう。
リード君の言うことを一言にまとめると、何をやっても中途半端と言うことですか。
でも飛べればいいのでその辺はどうでもいいですね。
「ちなみにどうして鳥族にしたの?」
「空を飛べるからですね」
即答しました。それしかありませんし。
ですが二人は揃ってなんとも言えない表情をしました。
……何か嫌な予感がしてきたんですけど……。
「うまい言い方とか分からんからストレートに言うな。鳥族の翼じゃ空は飛べない。」