9-7 マリーシャと、クエストと、それから……。
気を取り直して、担当医であるコラックさんの居る病院へ。
話の内容はほぼバルダーさんから聞いたものと一緒でした。
原因の魔物はわからない。試したポーションは解毒、麻痺、暗闇で、全て効果無し。
これだけです。
ほとんど無駄足といった感じですが、これでも意味があるんだそうです。フラグがどうとか。
そして今は被害に遭った現場である、三番坑道へ向かっているところです。
次は襲ってきた魔物を調べて、そこから毒を探ろうということですね。
シーラさんによると、これもただの下調べになる可能性があるらしいですが。
とにかくそんなわけで、今は街を出て三番坑道への道中です。
ですがただ真っ直ぐ行くのは面白くないとマリーシャが言い出し始めました。
少しくらい戦いたいと言うのです。
今は無理でもあとで戦う機会があるはずなので、てっきりシーラさんが却下すると思ったんですが……。
『メンバーが増えたら能力確認を兼ねた予行練習は必要よ。少し遠回りしましょうか』
あっさり承認されました。
言われてみればその通りです。
昨日のイベントは皆さん見たようですが、でも普段の戦いとはまた違いますし。
何より私は全く見てませんからね、マリーシャたちの戦い方。
なので坑道に向かって歩きつつ、魔物を探すことになりました。
探すのはもちろん私です。マリーシャより空から探すほうが遠くまで探せるので。
マリーシャは自分が探すと主張しましたが今度は却下。
当然ですね。能力確認のために戦うのに、私の能力を使わないことになるんですから。
どうも離れたくないみたいですが……坑道に着くまでなんですから、そんな残念そうにしなくても……。
あ、やっと魔物を見つけました。
灰色の犬みたいな魔物が二頭と、岩……でしょうか?
ゲイル山で見たウィンドゴーレムを小さくした感じですね。岩を組み合わせて辛うじて人型に見えるという外見で、こちらも二体です。
まずは合図を送って方向を指示して、魔物の方向へ誘導します。。
基本的な作戦はキイさん、プルストさんと風精霊の祭壇にむかったときと一緒になりました。
私が先に攻撃を仕掛けて相手の動きを止め、そこにマリーシャたちが攻撃を加える。
その後、私はマリーシャたちから距離の遠い魔物から狙う、という形です。
なので作戦通り私から攻撃。狙うのは岩の魔物です。
高度を下げつつ魔物の背後を取り、いつものように攻撃。
……あれ、岩みたいな外見なのにあっさり切れましたね。しかも一撃で倒れました。
犬のほうも今更気付いたように吠えてきますが、もちろん既に空に上がってます。……気付くの遅くないですか?
そんなことを考えているとマリーシャたちが攻撃を開始。
犬の魔物がそちらに走っていきますが、ウェイストくんが先頭で二匹の攻撃を受け止め、すかさずマリーシャとリード君が攻撃。
二回三回と切りつけ、たまらず距離を開けた魔物を狙ってをシーラさんの魔法が発動。
二匹まとめて風の魔法で切り裂かれました。
簡単そうに倒してましたので、やっぱり強くない魔物のようです。反応が遅かったのもきっとそれでですね。
残るは岩の魔物一体。
さっさと倒してしまいましょう。
……でもどうせ弱い魔物だったら普段とは違うことやってみましょうか。
――止めはしませんけど油断は禁物ですの。
了解です、ぐりちゃん。
魔物の背後に着地。ですが翼はたたまず開いたまま。
そのまま正面にむけて大きく踏み込むと同時に――
「一突きっ」
翼で羽ばたき踏み込む以上に加速して岩の魔物の中心を貫き、魔物はすぐに消えていきました。
……貫いたというか大きめの穴が開きましたが……正直そこまでするつもりなかったんですけど……。
「イオンすごーい、あたしストーンゴーレムを一撃なんてできないよ」
「私も一度で倒せるとは思わなかったんですが……」
空を飛んでたらまだしも、地上からの攻撃なので無理だろうと……。
「じゃあどうして地上におりて攻撃したの?」
「行き先は坑道ですよね。もしかしたら坑道の中でも戦闘があるかなと思って、それの練習です。今まで飛んだままで戦うことばかりだったので」
「坑道に着いたら聞こうと思ってたんだけど、やっぱりそうなのね……」
初日だから知らないことが多いのは仕方ないかとシーラさん。
公式イベントでも坑道は経験しましたが、かといってあれは一人だったからできたことです。
パーティでやったら置き去りにしてしまいます。私一人ではどこに行っていいかもわかりませんし。
そうなると当然私も歩くわけですが、地上で戦う経験はゼロに近いという体たらく……。
なので少しでも練習しようと、地上から攻撃したんです。
「でもスピードブーストもかかってないのに、なんで一度で倒せたんでしょう? 空から切りつけたときも、あまり堅い感じはしませんでしたし」
「いや羽ばたきも入れて加速してるから十分ブースト乗ってる。普段が乗りすぎなだけ。あと一撃なのは俺とウェイストもできるから驚くほどでもない」
「堅い感じがしなかったのは今まで戦った魔物と比べてるからでしょう。前線の魔物に比べれば、ストーンゴーレムでも柔らかいレベルでしょうし」
ステレオで説明が入りました。お手数おかけします……。
では地上でも攻撃はできそうですね。いつでも翼を広げられるわけじゃないと思いますが、できるとわかれば工夫のやりようもありますし。
あっさり切れたと思ったのも納得です。ウィンドゴーレムと似た魔物だと思いましたが、あちらは切ったことがありません。切ったことのある岩のような魔物は、ボスのエレメントゴーレムです。ボスなので堅くて当たり前ですね。
「うーん。イオンを守って格好いいとこ見せようと思ったけど、守ってもらうのも悪くないなぁ……」
そう言ってもらえるのはいいんですが……。
「防御は苦手なので……」
「全力で守るから安心してね!」
防御の経験もほとんどゼロに近いですからね……あのときだって……。
「はいはい。それくらいにして先に進むわよ」
そうでした。こんな何も無いところで話し込むのは危ないだけです。
戦闘の練習も一応できましたし先に進みませんと。
そのあともう一度戦闘がありましたが、今度も問題はありませんでした。
マリーシャたちの役割分担もエスの皆さんと近いので、大きく変わった感じもありません。
キイさんの弓が無い代わりにマリーシャが魔法飛ばしてました。
エリスさんの回復とアヤメさんの攻撃はシーラさんが兼任してました。
リード君とウェイスト君はプルストさんとバルガスさんそのままですね。
少し不安でしたが、これなら私でもなんとかなるかもしれません。
そしてたどり着いた三番坑道。
魔物よけの柵に囲まれているその場所は、いかにも工事現場といった感じです。
事務所や休憩所を兼ねたような建物。
そこら中に見える掘削用の道具。
鉱石の入ったコンテナのような箱。
そして奥の方に見える坑道らしき洞窟。
なんとなく修学旅行で行った銀山を思い出します。
……でも似てる要素は少ないですね。あっちは閉山してましたし。
ま、まぁ同じ鉱山ということで思い出したんでしょう。多分。
「すみません。冒険者ギルドから来た者ですが」
まずは事務所へ。
中には男性が一人だけ居ました。
「ギルド? 依頼なんか出してないはずだが」
「商人のバルダー氏から仕事を依頼されまして。その件で、先日の魔物襲撃についてお話を伺いたいのですが」
「ああ、あのことか。俺は現場に居たから大体わかるぜ。何が聞きたいんだ?」
バルダーさんの名前を出したらすぐに和やかな表情になりました。
どうもバルダーさんとの関係は悪くないようです。
悪徳商人とかだったらもっと警戒すると思いますし。……失礼なこと考えてごめんなさい……。
「ありがとうございます。まずどんな魔物に襲われたのか教えてもらえませんか?」
「全部はわからないんだがな、覚えてるだけでもストーンゴーレムとスモールバット、ポイズンスパイダーとグリーンスネーク。あとアッシュウルフも居たな」
「随分多いですね。坑道には居ない魔物も含まれてるようですが」
「柵の外から魔物が襲ってきたのと、坑道の中で魔物が沸いたのが同時にあってな、あのときは相当混乱したんだ。だから全部の魔物は知らんし、奥さんがどんな魔物に襲われたのかもわからねぇんだ」
そんなことになればパニックにもなりますね。
なんでわからないんだろうと思ってましたが、そういうことなら納得です。
「外の魔物はどちらの方角から来たかわかりますか?」
「こっから北だ。その方角にはちょっとした渓谷があるんだが、たまに魔物が溜まってることがあるんだ。多分そこだな。それから坑道の魔物は偶然繋がった横穴から出てきた。今は魔道具で塞いであるが、調べるってんなら通行用の魔道具貸してやるぜ? 代わりと言っちゃなんだが、いくらか魔物を狩っといてくれれば助かる」
「わかりました。では魔道具を貸していただけますか。無理のない範囲で魔物を狩っておきますので」
「悪いな。終わったら必ず返してくれよ」
通行用の魔道具を借りてすぐに事務所の外へ。
それと坑道の地図も見せてもらいました。
こうしておくとメニューのマップに反映されて、行ったことない場所でも詳細な地図が確認できます。
今までダンジョンで地図は使ったことありませんでしたが、便利ですねこれ。
シーラさんによると、全てではありませんがダンジョンとフィールドの地図はお店でも売ってるそうなので、いくつか買ってみてもいいかもしれないですね。面白そうな場所とか見つかるかもしれませんし。
でもクエストで来たときには改めて確認したほうがいいと言われました。なんでもクエスト中でないと表示されない場所があるんだとか。
いろいろあるんですね。
なんてことを教えてもらいつつ坑道へ入りました。
作業中の抗夫さんの邪魔にならないように進み、問題の横穴へ到着。
聞いていた通り横穴は魔道具で通行止めにされているらしく、道は青く光る壁のようなもので塞がれていました。
通行用の魔道具はカード型で、持ってるだけで通行可能と言われましたのでそのまま入れます。
ですが入る前に作戦確認です。
こういうダンジョンは初めてですからね。
「先頭はマリーシャ、索敵お願い。突出し過ぎないようにね」
「りょうかーい」
「リードとウェイストはそのうしろ。すぐにサポートに入れる位置で」
「わかった」
ここまではさっきと一緒ですね。
「イオンは最後尾。基本は私を守るような位置で離れすぎないように。魔法で援護するのは構わないから、出来そうだったらやってみて。それから何よりも後方からの敵に注意してね。現れたらすぐ合図して」
「わかりました」
私は最後尾です。前に出るのはまだ不安なので助かりました……。
「私は真ん中。マジックランタンは私が使うから、全員離れすぎないように」
マジックランタンは明かりを作る魔道具です。
使用者の上に光る玉が現れて、一定時間周囲を照らし続けます。
使い捨てのうえに値段もそれなりにする物ですが、手が塞がらないし明るいので誰もがこればかり使うんだそうです。
どうしてもお金が無い場合は松明を使うそうですが……暗い、熱い、戦いにくいで、とても使えたものじゃないそうです……。
「ここでの目的は魔物を倒して素材を採取すること。さっき話に出た中で坑道に出現する魔物はストーンゴーレム、スモールバット、ポイズンスパイダーの三種類。多分それ以外の魔物が居るだろうから、そいつが本命よ」
病院で会ったコラックさんが、素材があれば薬が作れるので持ってきてほしいと言ってたので、それでですね。
「発見した魔物は全て倒して進むから、出来るだけダメージには注意してね。それじゃ行くわよ」
マリーシャたちと初めてのダンジョン攻略、そして私は初めて洞窟です。
楽しみ半分、緊張半分……いえ緊張の要素が大きいですね。
とにかく、気を引き締めてかかりましょう。
ようやくダンジョンへ。
そろそろのんびりではなくなってくる……かも?