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9-6 マリーシャと、クエストと、それから……。


 冒険者ギルドを出て大通りを少し行ったところ。

 さらに大きめの脇道に入ってすぐ。

 そこに、依頼主の居る塀に囲まれたお屋敷がありました。

 お屋敷といっても何十部屋もあるようなサイズではなく、横幅は二階建てのアパートくらい、奥行きはその倍くらい。庭もアパートの駐車場くらいの広さです。

 でもオレストに入ってからこれほどのサイズの家は数えるほどしかなかったので、やっぱりお屋敷ですね。

 ここに依頼主の方が住んでるようです。


「すいません、冒険者ギルドから依頼を受けてきたものですが」


 門の向こうに居たメイドさんにシーラさんが話しかけます。


「お待ちしておりました。内容については、主であるバルダー様がお話になります。どうぞお入りください」


 バルダー。それが依頼主の名前のようです。

 すぐにメイドさんが門を開いてくれたので、中に……。


「マリーシャ、どうしました?」


 ずっと腕組んだままだったマリーシャが動こうとしません。


「あ、ごめんごめん。入ろっか」


 どこか違うとこ見てたようですが、何だったんでしょう? 見てた方向には特に何も無いようですけど。

 少し気になりましたが今度はマリーシャに引っ張られ門をくぐり、家の中へ通されそのまま二階へ。

 大きなドアをノックして部屋の中の方と二、三言葉を交わし、私たちに部屋に入るように促しました。


「ようこそ冒険者の方々。まずは私の依頼を受けてくれたことを感謝しよう」


 部屋の中には一人の男性。太り気味で、服のサイズが合っていないのか少し窮屈そうに見えます。

 奥側に大きな机があり、それだけ見ると書斎のように見えますけど……。

 壁には絵画や彫刻などが並んでいて、それだけ見るとコレクションルームのようにも見えますね。

 率直な印象はお金持ちの社長室……でしょうか? ドラマとかでしか見たことありませんけど。

 でもそんな風に考えてしまうと、途端に、『事件+お金持ち→怨恨からの復讐』、なんて連想されてしまうから不思議です……。

 けどまずは仕事の話です。変な先入観は仕事の邪魔ですから忘れましょう。


「冒険者ギルドから来ましたシーラと言います。早速ですが、依頼の詳細を伺いたいのですが」


「まずは茶でもと思ったがが……それは仕事が終わってからにしようか。依頼したいのは他でもない、私の妻を助けてほしいのだ」


 メイドさんに何か言おうとするバルダーさんを遮り、すぐに本題に入るシーラさん。

 バルダーさんは特に気分を害した様子もなく、そういうことならと話を始めました。


「先日街の北東にある三番坑道へ視察に行ったのだ。たまには妻に街の外も見せようと思い連れて行ったのだが、そこで運悪く魔物に襲われたようなでな。幸い怪我は小さくそちらはすぐに治ったのだが、どうもそのとき毒のようなものを受けたらしい。妻は今でも苦しんでいるのだよ」


 大体はわかりましたけど……曖昧な言い回しが多いですね。


「いくつか質問してもよろしいでしょうか?」


「ああ構わないとも」


「ありがとうございます。魔物に襲われた“ようだ”ということですが、どのような魔物に襲われたといったことはわからないのでしょうか?」


 シーラさんも気になったようです。

 あと“毒のようなもの”と言われたとこも確認されると思います。


「魔物に襲われたのは間違いない。妻以外の人間も襲われているからな。だがそのとき私は坑道の中に居てな、どのような魔物かは見ていないのだ。どうも複数の魔物がその場に居たらしく、具体的にどの魔物に襲われたのかわからないのだよ。妻も慌てていたようだからな」


「それでは“毒のようなもの”というのは、違うものの可能性もあるということでしょうか? 医者はなんと?」


「呪いなど魔法の痕跡はないそうだ。だが何故かどの薬も効果が無い。つまり毒の特定が出来ないのだよ」


 魔法の可能性は無いけど、毒の種類がわからない。

 魔物も毒も不明。だからあんなに曖昧な言い方だったんですか。


「奥様の症状はどういうものでしょうか?」


「全身の痺れ、視界の不良。それと体力も日に日に落ちている。今は起き上がるもの大変そうだ」


 かなり重い症状ですね……。


「奥様に面会することは出来ますでしょうか?」


「悪いが遠慮してくれ。無理はさせたくない」


「……わかりました。それでは治療にあたった医者を教えていただけますか?」


 お話を聞いてみたいとは思いますが、さすがにそんな重い症状だと無理は言えないですね。

 でも……。


「コラックという者だ。場所は使用人に聞いてくれ。他にも聞きたいことはあるかね?」


「いえ、今のところは十分です。必要があればまた伺います」


「そうか。ではよろしく頼む」


 あれ?

 その言葉を最後に話は終わりだと書類を書きを始めたバルダーさん。

 シーラさんも特に気にした様子もなく退室したので私も退室しましたが……。


「まずは病院へ行きましょうか。その次に坑道ね」


「病院で容態を聞いて、坑道で魔物が何だったか調べるんだな。そのまま坑道でイベントが進むか街まで戻ってから進行ってあたりか」


「そんなところでしょ」


 シーラさんたちはそんなことを話しつつ一階へ。

 そのままメイドさんに病院の場所を聞いて屋敷から出てしまいました。

 でもいいんでしょうか? まだ……って、マリーシャ?


「……女の子?」


 門をくぐったところで、やっぱりどこか見ているマリーシャ。

 視線の先は路地の奥の方向、馬車に荷物の積み込みをしている女の子がいます。

 私とマリーシャが見てることに気付かないまま、建物に入って行きました。


「あの子、さっき私たちを見てたんだよね。イベントには関係ないと思うんだけどさ」


 それで入る前、足を止めてたんですか。


「よくわかりましたね」


「ふっふっふー耳には少し自身あるんだー」


 自慢そうに自分の耳を触るマリーシャ。

 それで誰か居るのがわかったんですか。

 ……今度耳も触らせてもらいましょう。


「二人とも行くぞー」


 そんな声が聞こえてきたので、大通りで待っていた皆さんに慌てて追いつきました。


「何か気になることでもあったの?」


「大したことじゃないから」


「私は気になったことがあるので聞きたいんですけど」


 忘れないうちに聞いておかないと。


「奥さんにポーションを使うことは出来ないんですか? NPCにも効果があるって聞いたんですけど」


 レイチェルさんはそう言ってましたし、セカ村のアーニャさんも無理矢理ポーション飲まされたと言ってたので効果あるはずです。

 なので手持ちのアイテムを使えばすぐに治ると思ったんですが。


「そのことね。確かにNPCにも効果はあるけど、こういうクエストのときに使うと、それがクエスト失敗の原因になることがあるのよ」


 どういうことでしょう?


「今回の依頼内容は奥さんを治療すること。でも今のところの情報では、原因がどの毒なのか判明しているわけではない。なのにポーションを試して間違っていた場合、不信感を持った依頼主から断られることがあるの」


 そうですね。うちの仕事でも、異音の修理をして、納車直後は直ってましたが一ヶ月後に再発して怒られて、違うお店へ……といったことがありました……。


「それに状態異常回復のポーションは毒用・麻痺用といろいろあるけど、今回の症状は痺れと視界不良と体力低下。でも全ての状態異常に対応できるポーションはまだ見つかってないの」


 レイチェルさんに選んでもらった毒消しポーション、何種類もあったので驚きましたっけ……。

 毒消しポーション、なんて一言で言いましたが渡されたのは毒、麻痺、暗闇、幻覚、忘却、混乱、の六種類もありました。しかもまだ増える可能性があるそうです。

 そんなにあるのでむやみに試すわけにはいかないですね。奥さんは今も苦しんでいるわけですし。


「何よりこれはクエストだということ。クエストは例え答えがわかっていても、ある決められた行動をしなければ、ゴールにたどり着けないといったこともあるの。例外はあるけどね」


「決められた行動……スタンプラリーみたいに全部のスタンプを集めないと、商品がもらえないような感じですか?」


「大体合ってるわ。そこに付け加えるなら、スタンプを押す順番も決まってるということかしら。クエストの場合はスタンプを集める代わりに、魔物と戦ったりとか素材を集めたりといったとこね。そしてスタンプを集め終わってもらえるプレゼントが奥さんの薬になる、ということなのよ」


 大体わかりました。

 ポーションを間違えたらそこでクエスト失敗になるかもしれない。もちろん絶対に失敗になるわけではありませんが、どういう条件で失敗になるかわからないので慎重にすべきです。

 なのでどのポーションで治るかわからない以上、当てずっぽうで試すわけにもいきません。一度間違えただけでクエスト失敗になるかもしれませんし。

 そして何より最後までスタンプを集めなければ、そもそも薬が手に入らないかもしれない。

 そこまでわかれば一つ一つ調査していく理由はあっても、いきなり答えを出そうとする理由はどこにも無いということがわかります。


 ……よく考えたらTVゲームと一緒ですね。あっちの場合は、A地点で話を次は聞いたらBへ行け、なんて指示がありました。今回だと病院へ行け、ということですね。

 TVゲームではそれ以外の行動が出来なくなるので、言われたこと以外をする、なんていう考え自体が出てきませんでした。時にはノーヒントで何をしていいのかわからないこともありましたけど。

 VRは現実と同じような感じなので、ついあんな方法もこんな方法もと考えてしまいました……。


「そういうことなら納得です。変なこと聞いてすいませんでした」


「これがゲームとしては当たり前の考え方ではあるけど、サブクエストしか経験がないならむしろ当然の疑問よ。あっちは思いつき一つであっさりクリアすることもあるけど、普通のクエストは地道が一番なの。いくつか経験したら慣れるわよ」


 普通のクエストは地道が一番。

 決められた手順があって、それをなぞり、一つ一つ進めていくことが重要。

 少し窮屈というか線路の上を歩いているという感じはありますが、こういうのもいいですね。本当にスタンプラリーみたいで。

 まだ途中ですけど、サブクエストとはまた違った面白さがあると思います。


「それともう一つ聞きたいんですけど」


 肝心なことをまだ聞いてませんでした。


「こういうとき依頼主と話すのはマリーシャがすると思ってたんですけど、違うんですね」


「あぁ、そのこと……」


 関係ないけど気になったので。

 でもシーラさん、疲れたような溜め息です……。


「ちょ、ちょっとね、前にすこーしだけ失敗しちゃったことがあってねー」


 目が泳いでます。少しじゃなさそうです。


「一番酷いのは最後の最後で無報酬になったことがあったわねぇ……。それからは私が担当することにしたの」


「あははははははは…………」


 一体何やったんですか……しかも“一番”って、他にもあったんですね……。


「ところでさっきのは受けるだけだったから私が話したけど、次はイオンやってみる?」


「いえ、今日は初めてなので後ろで見てます。また次回やらせて下さい」


「わかったわ。まぁ仕事で接客もしてるイオンなら、特に問題ないと思うけど」


 私も普通に会話できれば大丈夫なんだと思います。

 交渉力とか会話力の必要なクエストもあるかもしれませんが、そんなのばかりだったら大変ですし。

 でも今回は後ろで見てることにします。


「イオンは後ろから見てても飽きないタイプだしね」


「マリーシャは見てるだけだとすぐ飽きますけどね」


 私は見てて面白いことなら自分が先頭に居なくても大丈夫なので、ゆっくり後ろから見せてもらって勉強しようと思うのです。

 今後一人でクエストを受けることになったとき役に立ちますし、さっきの話を聞いた今では、マリーシャと二人でクエストを受けるときに役立つと思うので……。


「マリーシャ、私もう少し頑張りますから」


「よくわからないけど……がんばって?」


 でないと、いつかとんでもないことになりそうですし。


「私から見たらイオンもマリーシャも方向性が違うだけで、二人ともとんでもないことしそうだけどね」


「既にやっちゃってるけどな」


「(うんうん)」


「「…………」」


 私たち二人とも……思い当たる節があるので言い返せませんでした……。


「良い結果にしろ悪い結果にしろ、二人揃ったから二倍、なんてならないように祈るのみですの」


 ぐりちゃんまで……。


1/13 誤字修正しました。


Q:ノーヒントってそんなに多かった?

A:ファ○コン世代の人は一つ以上『こんなんわからねーよ!』となった思い出があると思います。自分は真っ先にドル○ーガを挙げます。



Q:異音の修理ってそんなに難しいの?

A:月一くらいのエンカウント率(お店による)で襲ってくるラスボス。四、五回変身(再入庫)する事もある、最凶最悪の敵。お願いですもう許してください……。

※ここでの異音は、『故障ではないけど変な音がするもの』に限定しています。例:お客さんが自分で取り付けたレーダーの配線がこすれてた、とか。

故障から発生する異音は、原因特定が簡単なことが多いです。



ところでこないだ(と言っても去年)ノイズキャンセリングヘッドホンをビッ○カメラで試聴したんですが、ものすごく静かになるのに驚いてつい買ってしまいました。

というわけで車内をノイズキャンセリングしてしまえば異音も聞こえなくなるんじゃないかと思ったわけです! これで異音はもう怖くない!

そして救急車のサイレンとか、本当に壊れそうなヤバい音とか、聞こえなきゃマズい音も聞こえなくなって危険になるわけですね。やっぱりダメでした……。


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