8-10 初めてのイベントです!
「謙虚なその笑顔がまぶしいですっ! ではこのまま調子に乗ってついに本題へ入ろうと思います! みんなっ、耳の穴かっぽじって静かにしてねっ!」
本題はやっぱり飛ぶことについてですよね。
でも……。
「イオンさんっ、飛び方を教えてくださいっ!!」
「ではまずは私から」
「って勢い込んだのに返事はバルガスさんですかっ! まるで担当マネージャーですね!」
予定通りバルガスさんです。
最初は喋らせてくださいと言われてたのでお任せです。
「飛行方法についてですが、たった今それについてまとめたレポートをBBSへアップしました。現段階では一人しか居ないためほとんどは仮説扱いになってしまいますが、それでも鳥族の方にとっては非常に有益な情報になると思いますよ」
「仕事がはやーいマネージャーありがとうございます! というわけで鳥族のみんなーっ、イオンさんに直接押しかけちゃ駄目ですよーっ! まずはレポート見て努力してからですよーっ!」
ホントにバルガスさんの言った通りになりました。
いろいろ質問攻めにされるのは、純粋に情報がほしいから。
けれどそれについてまとめたものがあれば、必ずそちらへ注意がいく。
あらかじめ用意しておけば、当面は質問攻めにあうようなことはない。とのことでした。
なんでも魔力操作で騒ぎになったときの経験則として、できる人からやり方を聞くよりも文字で情報を取り込んだ人のほうが、成功に至るケースが多かったんだそうです。
できる人に聞くとどうしても感覚的な話も聞いてしまって、それが本人のイメージの邪魔になってうまくいかなくなるんだとか。
それを聞いたときはキイさんに聞いたのは間違いだったかなと思ったんですが、あれは本当にさわりの部分しか言わなかったそうです。
聞いてくる人はもっと細かく聞こうとするんだそうです。体勢がどうだとか、体のどこに力を入れたらいいのかとか、精神集中は何を考えたらいいのかとか……。
そんなのやってる本人も言葉にしづらいと思うんですが……。
「で、でも……できれば少しくらいは聞いてみたいなーなんて……駄目ですか?」
好奇心が押さえられないといった感じです。
無理もないですよね。今まで飛べなかったのが、飛べるようになるかもしれないんですから。
「私は構いませんけど……どこまで話していいものかわかりませんので、危なそうだったら止めてくださいね? あとやっぱり仮説の話ですからね?」
「ありがとうございまーす!」
とはいえ基本的なことしか話せませんよね。
「バルガスさんのレポートとほとんど同じ内容なんですが……とりあえず尻尾と同じで、動かすには本能的な理解が必要というのはいいですか?」
「やっぱりそうですよねー。でもそれは仕方ない話です。むしろコントローラー使って飛べって言われるほうが嫌です」
「それを踏まえたうえで、魔力操作も必要になるんだそうです。無意識魔法が使えるくらいでいいので、魔力操作をできることが飛ぶための条件になるとの見立てですが……大丈夫ですか?」
にこやかな表情が一転して表情が抜けて、諦めたようにへたり込みました……。
「私……どれだけ頑張っても、操作どころか見ることもできなかったんですよ……」
それででしたか……。
「え、えーっと一応続けますが、どうも翼自体が魔法的な力で形成されている可能性があって、なので動かすには魔力操作が必要、という話になってしまうんです。だから魔力操作ができる人は、あとは翼を動かせるようになるだけなんですが……」
「つまり……私には最初の一歩も踏み出せないんですね……」
お、追い打ちをかけてしまいました……。
でもここから先はわたしもよくわかりませんし……。
クイッ
どうしようかと考えていると、後ろから服を引っ張られました。
「このままなのもかわいそうなので~イオンさんの魔力を流してみては~?」
私の魔力を流す?
「イオンさんの魔力を~メグルさんに流し込んで~それを翼に巡らせるんですよ~」
「……メグルさんが魔力を操作できないなら、私の魔力でやってみよう、ということですか?」
「そんな感じです~。効果があるかはわかりませんが~ただ翼に魔力が流れていればいいのなら~もしかしたら動かせるかもしれませんよ~」
今のメグルさんが魔力操作をできなくて翼に魔力が流れていない状態だとしたら、そこに私の魔力を流せば一応は魔力が流れている状態になる。
そして私の魔力が流れている間に、メグルさんが翼を動かす。
少し無理がある気もしますが……やらないよりはいいですよね。
でも……。
「……他人の体に流すって、何か危ない気がするんですが……」
輸血みたいというか何というか。合わなかった場合どうなるのかなという気が……。
「失敗しても~少し変な感覚が走るくらいだったので~大丈夫だと思いますよ~。実は~それをしながら回復魔法をかけると~若干効果が上がるので~私はたまに使ってます~。相手の体に触れて~隅々まで巡らせるように~流すんですよ~」
外から魔法をかけるだけよりも、中を通したほうが効果が高いという感じでしょうか?
実はそんなことまでしてたんですね、エリスさん。
「それと~以前これをきっかけに~魔力操作の感覚を掴んだ人も居ましたから~」
上手くいけばいいことばかりですね。失敗しても大きな問題はないようですし。
でもそれならエリスさんがやってもいいんじゃ……と思いましたが、エリスさんでは翼に魔力を流せるかわかりませんよね。
一応大丈夫そうですし、それならちょっとだけやってみましょうか。
「メグルさん、よければ魔力を」
「お願いしますっ! もうホンット、少しだけでもいいんでお願いしますっ!」
「わ、わかりましたので少し離れてもらえると……」
ものすごい勢いで詰め寄られました……。
「すいませんつい焦りましたっ! では手でも足でも触っちゃってください!」
「じゃあ後ろむいてもらえますか?」
「後ろですか? そうですね翼を動かすんですから翼に触るんですねっ」
ビシッと気をつけの姿勢をしたメグルさんに後ろをむいてもらいますが……。
「いえ触るのは背中のほうですが、触ってもいいですか?」
「え、背中ですか? そりゃもうオッケーですけど」
最終的に魔力が流れるのは翼でも、翼が繋がってる背中から流れたほうがいいのではないかと思ったからです。
「では失礼します」
背中に軽く触れ、深呼吸を一つ入れて集中します。
まずはぐりちゃんと契約したときのように、自分の魔力を自分の指先に集めて……それをメグルさんに……。
全然流れません。
いえ流れないというわけではないですね。入ってもすぐ消えていくような感じです。
このままではいくら流しても駄目なので……メグルさんの魔力に合わせるようにしたら流れるでしょうか?
メグルさんの魔力は……なんというか私より熱い感じなので、それに合わせるように調節してから……やっぱりです。今度は流れました。
メグルさんの中に入っても消えた感じはありません。
ではそのまま翼のほうに……。
「うひゃあっ!」
翼に流れた瞬間、驚いた声が聞こえました。
「すいません、気分が悪くなったりしましたか?」
「ごめんなさいそういうのじゃないんですが……なんかこう、くすぐったいやら気持ちいいやらよくわかんない感じがして……あっ、でも嫌な感じじゃなかったんでっ、だからもう一回お願いしてもいいですか!」
とりあえず大丈夫そう……ですよね?
「じゃあもう一回やってみますけど……変だったら言ってくださいね」
「了解ですっ! できればそっとじゃなくて一気にやっちゃってくださいっ。絆創膏をはぐときも一気にやっちゃうタイプなんで!」
私は一気には無理です……じゃなくて今は魔力操作です。
要望通り今度は少し強めにやってみましょうか。
もう一度背中に触れて、背中に触れた指先からさっきよりも強めに流して……それを翼へ……。
「っ! と、止めないでくださいねっ」
繋げた瞬間ビクッと震えましたが……。
「ホントに大丈夫なんでっ、なんかむず痒いのが広がってるだけなんでっ」
……このまま我慢させるほうが良くないようなので、メグルさんの言うとおり一気に流してみましょう。
とはいえ速度はゆっくり、翼の付け根から先端へむけて。
ゆっくりと、でも止めずに……。
「……これで先端まで魔力が流れたと思います。どうですか? ……メグルさん?」
返事がないのを少し不安に思って顔をのぞき込もうとしました。
その瞬間。
カサッ
「~~~~~っ、ぷはっ! ねぇ動いたよねっ! 今動いたよね!」
大きく息を吐いたメグルさんがそのまま勢いよく振り返りました。
その表情は本当に嬉しそうに輝いています。
「はい、少しだけですが動きましたよ。おめでとうございますっ」
わずかにですが、翼が開こうと動いたのが私には見えました。
だからメグルさんも、魔力操作ができれば飛べるようになるかもしれません。
「だよねっ、だよねっ!! やったーーー鳥族やっててよかったーーーーー!! イオンさんありがとーーーーー!!」
こんなに喜んでもらえると私も嬉しいです。
今まで考えたことありませんでしたが、もしかしたら誰かと一緒に飛べる日が来るかも、なんて考えると……。
なんかいいですねっ。
きっとぐりちゃんとはまた違う楽しさがあると思います。
「鳥族のみんなーっ、やらせっぽいけどマジだかんねー! 私頑張って飛べるようになるからねー! 本気だからねー!!」
「もしかして魔力操作が?」
「協力してもらったけどゴメンナサイッ、それはまだ無理っぽいです!! でももう一回頑張りますよ! いつも作り物みたいにくっついてた翼にさ、自分の感覚があるんですよ? もうそれだけで最高だからっ、こんなすごい目標があるのに諦めるとか絶対ないからっ!! 絶対やってやるーーーーー!!」
残念ながら魔力操作は駄目だったようですが、でも落ち込む様子なんて少しも無いです。
むしろ嬉しくてたまらないといった感じですね。
喜んでもらえて良かったです。
「なので動かせるようになったら飛び方も聞いていいですかっ。練習法とかだけでもいいんでっ!」
「いいですよ。私も着地は練習しましたし」
「いえ着地じゃなくて飛ぶほうをお願いしたいんですよっ。動かせるだけで飛べるわけじゃないんで、その辺を聞きたいんですっ。ちなみに初めて飛んだときはどんなことしました?」
初めてのときというと……。
「……崖から飛びましたね」
「……………………はい?」
メグルさんの目がぱちぱちしてます。
「ルフォートの西側って崖になってますよね。その崖の上でのんびりしてたら翼が動かせるようになりまして、それで動かせたら嬉しくて舞い上がってしまって……それだけで飛べると思い込んでしまって……」
「……そのまま崖からダイブ?」
「はい……」
「なんかこういうものの定番だけどよりによってそれですかぁぁぁぁぁぁ!!」
何度考えても無謀なことやったと思います……。
「崖から飛んだらそのまま空を飛べたので、あとはもうなんとなくで飛んでるので……。なので私に聞かれてもそのやり方しか言えないんですよね……」
「予想はしてたけど上手すぎて参考にならないアドバイスでしたっ! これから飛ぶ練習するみなさーんっ、イオンさんには聞かないほうがいいですよーっ! 崖から飛べって言われますよーっ、谷底に突き落とされますよーっ!!」
突き落としはしませんが……『試してみては?』とは言うかもしれません……。
役立たずですいません……。
「とにかくイオンさん、エスの皆さんっ、質問に答えていただきありがとうございましたっ! みんなーっ、とんでもクランエスの、これからのとんでも活躍を願って盛大な拍手をー!」
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
とんでもクランって……なんかすごい呼ばれ方に……。
「それからイオンさんに変なちょっかい出すやつは私が成敗しますからねーっ! 強く可愛くそのうえ飛べるっ、BLFOの宝ですからねーっ、みんなで大事に保護するんですよーっ! わかったら返事しろおまえらーーーー!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
皆さん何故か盛り上がってます……。
内容については……その……私は聞かなかったということで……。
じゃないと恥ずかしすぎです……。
「本当にありがとうございましたっ。じゃあ次は二位のホースメンにインタビュー行くんで失礼しますっ」
メグルさんはそれだけ言うとすぐにホースメンを探して走って行きました。
私もホースメンの方とはお話ししたかったんですが、インタビューがあるならあとにしましょう。
少し疲れましたし……。
「お疲れ様でした。ですが予想以上の結果になりましたね。これで大方の問題は解決したと思いますよ」
「そうなんですか?」
てっきりバルガスさんの予想通りかと思ってたんですけど。
「メグルさんのおかげで、イオンさんの実力をこれ以上ないほど喧伝してもらえたのが一つ。二つ目は解説のマスグレイブさんおかげで不正の懸念も払ってもらえたこと。最後はメグルさんの宣言ですね」
「宣言?」
最初の二つはわかります。当初の目的でしたし。
でも宣言って何でしょう?
「よろずやはああ見えて影響力のあるクランなんですよ。何でも屋というからには何でも仕事を行うわけですが、それを達成するには当然それなりの実力も必要になります」
助っ人しようにも弱かったらできませんし、素材を集めようにもやっぱり弱かったらできません。
考えてみれば当然のことです
「いろいろな仕事をすれば、当然多数のクランとの関係が生まれます。仕事を依頼するクランからしてみれば、よろずやから嫌われたくないのは当たり前のことです。よろずやほど実力もあって依頼の自由度も大きいところは、他にありませんから」
実力があるうえに、代用が効かない隙間産業をするクラン。
聞こえは良くないかもしれませんが、無いと困る重要なポジションです。
「そのよろずやがイオンさんに無理に迫らないように釘を刺した。そこまで難しい内容でもありませんから、ほとんどのクランは言うことを聞くでしょうね。しかもクランリーダーの宣言となればなおさらです」
え、メグルさんクランリーダーだったんですか。
「ああ見えて仕事としての一線をきっちり引く人ですからね。あの陽気さで仕事を集め、でも必要以上の馴れ合いはしない。そんな人にあそこまで言わせたんですから、勧誘や質問といったことは本当に少なくなるはずですよ」
すこし魔力操作したくらいでそんなことになるなんて、逆に申し訳ない感じがします……。
「まぁ気にする必要はないだろ。俺たちと同じで気に入ったやつの力になりたいってだけだよ。イオンだって今回そうだったろ?」
「一応はそのつもりでした……」
自分もものすごく楽しみましたけど……。
「じゃあそれと一緒だろ。だからあんま気にすんなって」
「言い方はアレだけどプルストの言うとおりだよ。それにどうせまた会うことになるだろうし」
「またイベントで……ではなくてですか?」
「よろずやは自分たちで無理だと判断した仕事は他に回すからね。だから空を飛べるイオンじゃないと出来ない仕事とか持ってくるだろうから、そのときに頑張ればいいって」
それは確かに私の出番です。
そういうことなら仕事でお返ししましょう。
無理をしてもいい結果は出ませんしね。
「なんにせよ無事イベントが終わってよかったってことで。打ち上げに何か食べに行かない?」
「私もそう言おうと思ってました」
折角これだけ屋台があるんですから屋台巡りです。ぐりちゃんとの約束もありますし。
たこ焼きとか鯛焼きとかいろいろありましたからね。
考えてみるとこの世界とはどこか不似合いな食べ物ですが、細かいことは気にしません。
お金も増えましたし遠慮なく買……。
「……ぐりちゃん、今日くらいいいですよね?」
「仕方ありませんの。でも今日だけですの。それと私と半分こですの」
許可が出ましたっ。
「よーし今日は食うでー」
「何から食べましょうか~」
「あたし焼きそば食べたいなーでもお好み焼きもあったな……」
「俺ビール買いに行くから一緒に飲みもん買ってくるぞー」
「私も行きましょう」
その後は皆で心ゆくまで食べ歩きしました。
行く先々で優勝祝いだからと言われ、何度も無料でいただくことになったのは驚きました。
申し訳ない気はしますがそれ以上に嬉しいです。
それだけ大勢の人に見てもらえたということですから。
何度も思いますが頑張って良かったです。
それに屋台を巡ってる最中、もしかしたら空を飛ぶことでいろいろ言われるんじゃないかと少し警戒したんですが、本当に全くありませんでした。
バルガスさんのレポートやメグルさんの言葉。
それからリレーに誘ってくれたプルストさんたち。
本当に皆さんのおかげですね。
特にメグルさんが楽しそうにしてくれたのは、大きく影響したんじゃないかと思います。
あれだけ嬉しそうな人を見ていると、見ているほうもそんな気分に引っ張られてしまうと思うので。
今度会ったら必ずお礼しましょう。
それとホースメンのルドルフさんと、黒帯の巌さんにもお礼できました。
お二人が居なかったら絶対大変なことになってたと思うんです……本当に助かりました……。
ちなみにプルストさんのお説教は事情を話して取りやめにしてもらいました。
いくらなんでもあの状況ではどうしようもなかったと思うので。
と言っても厳重注意がありましたが。
『燃えるゴミがあったら燃やすやろ? そんなん当たり前の常識や。気付かんわけないわなぁ、あんなでかいゴミ。……次は無いで?』
私に言われたわけではないんですが、何故か私も怖かったです……。
そんないろいろあったイベントでしたが、終わってみると本当に楽しいイベントでした。
リレーも楽しかったですし屋台巡りも楽しかったですし。
特にリレーは、あんなに右に左にと忙しく飛ぶ機会なんてなかなか無いですからね。
イベント終了と同時にコースが消えてしまったのは非常に残念です……。
次もまた、こんなイベントが開かれることを願いましょう。
さて明日はついにマリーシャと遊ぶ日です。
何をするかなんて全く決めてませんが、マリーシャとなら大丈夫でしょう。
明日も楽しくなりそうです。
イベント回はこれで終了です。
いつものように次は幕間ですが、それ以降は期間が空くかもしれません……。
今話も読んでいただきありがとうございました。
……それ以上に引っ張りすぎごめんなさい……。