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8-7 初めてのイベントです!


 全員揃ったところでクラン名と出走番号が書かれたゼッケンをつけて準備完了、第一走者のアヤメさんはスタート位置につきました。

 あと五分ほどでスタートなので、あとは待つだけですね。


『あ、あー、マイクテス、マイクテス』


 突然イベント会場に声が響き渡りましたが……なんでしょう?


『はーい皆さんお待たせしましたーっ! BLFOのなんでも屋、クラン“よろずや”のメグルでーす! 今回このイベントの実況を担当することになりましたのでお願いしまーす!』


 実況なんてあったんですか。

 ますますイベントらしくなってきましたね。


「前回こんなのあったっけ?」


「ありませんでしたが、そのせいで前回いまいち盛り上がりに欠けたと思ったプレイヤーにより計画されたそうですよ」


「じゃあこの実況はイベントの一部じゃないんですか」


「そうです。クランよろずや。素材の採取代行やモンスターの調査、人数の足りないパーティの助っ人など、代金を払えば大抵のことは請け負ってくれる何でも屋クランです。プレイヤーが開催した非公式イベントでもこういった実況をしていたそうですので、それで呼ばれたんでしょうね」


 そんなクランまであるんですか。本当にいろいろありますね……。


『しかも私だけではありませんっ、なんと解説の方にも来て頂いております!』


『ナイツオブラウンドのマスグレイブだ。暇してたら何故か呼ばれた。解説は適当にするからよろしくな』


「あいつ姿が見えないと思ったら何やってんだよ……」


 プルストさんのお知り合いのようですね。


『そこが疑問なんですけどマスグレイブさん。どうして暇してたんですか? 今回も出るって皆さん予想してたと思うんですが』


『勝ち続けても面白くないだろ? 後進も育てないといけないしな』


『つまり自分がいなくても勝つ自信があるってことですね!』


『ぶっちゃけそうだな。俺を引っ張り出したきゃ勝ってみろってか。前回勝ったから言えるセリフだなこれ』


『なんとも挑発的ですがさすがは攻略クランのナイツオブラウンド! 嫌味を通り越して格好いいです!』


「こっちは楽になるからいいけど、余裕というかご苦労様というか」


「大規模クランは大変だね」


 前回優勝していて、攻略クランとして有名。

 大企業の社長さんみたいですね。


『さて時間はスタート三分前です。出走者の皆さんは準備オーケーですかーっ? 観客の皆さんは賭けましたかーっ? ナイツオブラウンドに賭けてた皆さん、凹んでますかーっ!?』


 その言葉と同時に歓声と悲鳴が聞こえてきました。

 一人居ないだけでそんな悲鳴が聞こえるということは、それだけ強い人と言うことですよね。

 プルストさんの楽になるという台詞がよくわかりました……。


『ではそろそろ出走なので、その前にマスグレイブさんにどこが勝つか予想を伺いましょう。今更買い直そうってのはできないぜ観客のみんな!』


 実況さん楽しそうです。


『そうだな……うち(ナイツオブラウンド)は当然外すとして……まずホースメンだな。たまに見かけるが前回とは戦い方が全然違う。前とは別もんだ』


 どんなところかは知りませんが、最初に名前が挙がるなんてすごいですね。


『前回二位だった暁の不死鳥をはいかがでしょうか?』


『あぁ、一時間くらい前にリーダーのジークフリートと話してたんだが、今回は出ないって言ってたから外した。どうも人数が揃わなかったらしい。平日だからそういうクランもあるだろうな』


 ……なにやら、聞き覚えのある名前が……。


「……あの人、クランのリーダーだったんですか」


「ああ見えても一応な……」


「なんでイオンがあのバカ知ってんの?」


「さっきセクハラされてたんだよ」


「はぁっ!? あんたそれ黙って見てたの!?」


「リレーどころじゃありませんね~」


 二人とも怖いです……何故か真っ黒に見えます……。


「待て待て待て話を聞いてくれ頼むから!! 挨拶から仕掛けられてどうしようもなかったんだよ!!」


「プルストさんの言ってることは本当なのでひとまず勘弁してあげて下さい。いきなり手を取られて……その……」


「あ、ごめん。口にしなくていいから思い出さなくていいから」


「すいません……。それですぐに通報したら強制切断されましたから、それだけだったので」


「それだけでも十分だよ。ホントどうしようもないわねあのクズ野郎は……今度見つけたらボコボコにしてやる」


「私にも殴らせて下さいね~。最近メイスの出番が少ないので~」


 二人ともものすごいやる気です……アヤメさんが居なくて良かったです……。

 でも皆さんご存知のようなので、きっと私みたいなことがあったんですよね……。

 ……聞かないことにしましょう。わざわざ藪をつつくこともありません。聞くのが怖いです……。


「不機嫌にさせておいてこういうのもおかしいですけど、今は落ち着いて下さい。もうすぐ開始なんですから」


「イオンがそう言うならいいけど……プルストはあとで話があるからね」


「お説教ですよ~」


「なんで俺が……あのクソ勇者かばうんじゃなかった……」


「まぁまぁその辺で。いつの間にかうちのことも言われてますよ」


 その言葉に意識を戻してみれば……。


『他はわかりますがエスですか? 確かにゲーム最強とさえ言われる彼らですが前回大会は出ていませんし、早さという意味ではどうかと思うんですが?』


 確かにエスの名前も出てますね。

 というか最強ってなんですか。バルガスさんは“割と有名なクラン”くらいにしか言いませんでしたけど……。


「エスってそんな風に言われるクランだったんですか」


「らしいねぇ。名乗ったことはないんだけど」


「実際に誰か確かめたわけじゃないしなぁ」


「面倒ですしね~」


「ただの噂のようなものなので、あまり気にする必要はありませんよ」


 皆さん適当な感じなので、本当にただ周りが言ってるだけの噂ということでしょうか。

 だったら気にしなくても――


『俺もそう思うんだがな。あいつらいつもとんでもないことしでかすから、つい期待しちまうんだ』


『それについては納得です! 普通レイド組んで挑むクエストをワンパーティで攻略する非常識さ! いつの間にか前線ダンジョンを攻略してる人外っぷり! 期待値という意味では確かに最高ですね!』


「……その割にすごい言われようですね」


「何でだろうなぁ」


「何でだろうねぇ」


 何故か皆さん目を逸らします……。

 評価についてはともかく、実況さんの言う具体例には心当たりがあるようです……。


「ちなみにダンジョン攻略に関してはイオンさんも絡んでますので、人ごとではありませんよ?」


 ……えっと?


「初めて会った日に攻略したゲイル山ですが、あそこは誰にも攻略されていないダンジョンでした。そんなところで活躍したイオンさんは、さきほどのエスの評価に当てはまるわけです」


 あそこってそんなところだったんですか……。

 皆さんと同じ評価になるのは恐れ多いので遠慮したいんですが……逃げられませんよといった感じのバルガスさんの笑顔は気のせいでしょうか……。

 なんかまとめて珍獣扱いになった気分です……。


『今新情報が入りましたっ、なんとエスは新メンバーを入れているそうです! しかも不遇とされる鳥族です! 一体どういう事でしょう!!』


 本当に珍獣になりました。

 珍獣は緊張してますので見ても面白くないですよ……。


「視線がきついかもしれないけどリレー始まれば収まるから、少しだけ我慢してね」


 ――お姉様を変な目で見るんじゃありませんのー!


 いつの間にか皆さん囲うように立ってガードしてくれてます。

 ご迷惑おかけします……。


『マスグレイブさんは何か聞いてますか?』


『入ったとは聞いたが、会ったことはないから正直未知数だな』


『なるほど! ですが私も同じ鳥族っ、同じ種族として応援させていただきまーす! ちなみに私は目立ちたいから選びました! 皆さんっ、小さなことから大きなことまでどんな仕事も引き受ける、クランよろずやをよろしくお願いしまーす!』


 えっ、実況さんも鳥族なんですか。初めて私以外の鳥族を見ました。

 声しか聞こえないので姿は見えないんですが。

 でも機会があればお話ししてみたいですね。街を歩いても一人も居なかったので、一度くらい話をしてみたいです。


『そうこう言ってるうちにスタート三十秒前です! ものどもっ、準備はいいかっ!?』


 うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!


 実況さんの声に応じて盛大な歓声が上がりました。

 こういうの聞くと気分も盛り上がりますねっ。


 ――……お姉様、いったん落ち着くですの。


 ぐりちゃん?


 ――イベントが始まってから驚いたり緊張したり興奮したり、気付いてないだけで心は混乱してると思うんですの。このままだと、きっと大きな失敗をするですの。


 ……実感はありませんが、心当たりがあるというか、そう言われるとしっくりくるというか。

 この短い時間で気分が上がったり下がったり、状況にもてあそばれてるのは間違いありません。


 ――リレーが始まるまででいいですの。目をつむって深呼吸ですわ。


 ありがとうございます、ぐりちゃん。

 頼りになる妹で助かります。


 周囲の喧噪とは真逆に、目をつむって深呼吸します。

 一回……二回……三回……。


『スタート十秒前! きゅう! はち! なな! ろく! ごぉ!』


 四回……五回。

 ここまでがリセット。

 最後に大きく息を吸って……。


『よん! さん! にぃ! いちっ!』


 そして目を開いて、これで私も準備完了です。

 初めてのイベントです。

 しっかりと楽しみましょう。





『ゼロ!』


 ドゴオオオオオオオオオオンンン!!!!


 そのイベントは大爆発から始まりました。

 やるとは聞いてたんですが……本当にやりましたね、アヤメさん。


「容赦なく吹っ飛ばしたな」


「一番の見せ場だからね」


「すっきりした顔してますね~」


 走ってなければお腹抱えて笑い転げてると思います。


「さてここは無事成功しましたので当面は大丈夫ですね。問題はどこまでトップをキープできるかですが」


 当面は大丈夫と言うとおり、アヤメさんを抜こうとする参加者さんたちは次々と魔法で吹き飛ばされていきます。

 後続をひたすら妨害して前に出させないという作戦。

 もちろん提案したのはバルガスさんです。アヤメさんも二つ返事で了承してました。

 あのときの二人は悪巧みが楽しくてたまらないといった感じでした……。


「結構復帰速かったね。第三は無理かな?」


「そうですね。あそこはエリアも広く妨害も難しいかですから、相手もそれを狙ってくるでしょう。第二ゾーンまでは大丈夫だと思うんですが」


 その後はおおむねその通りの展開になりました。

 第二ゾーンは最短ルートを走ってなんとかトップをキープ。

 ですが第三ゾーンでは妨害をほとんどできず三位に。

 第四ゾーンは妨害と最短ルートで三位を維持したまま終了。

 第二走者のキイさんへバトンタッチしました。


「お疲れ様ですアヤメさん」


「もぅ……一生走らんからなぁ……」


 肩で息をしながら地面に倒れ込むアヤメさん。

 ただ走っただけじゃなく、魔法もかなり撃ってましたから相当疲れてるはずです。

 本当にお疲れ様です。


「ありがとうございます、アヤメさんのおかげでいい順位をキープできました。……ですが先行したチームがまずいですね……」


 バルガスさんの視線は一位チームの映るスクリーンをむいています。

 クランはホースメン。解説さんが真っ先に名前を出したクランです。


「弱点だったボスの対応もしっかり対応できているようですし、バランスよく仕上がってますね……これは相当先行されてしまいそうです」


 ホースメンは第二走者も順調に走っているようです。

 キイさんも順調ですね。特に第三ゾーンの捕獲では本領発揮といった感じでした。

 一匹目の捕獲で動物の匂いとかをつかんだんだと思います。

 二匹目からは一度コンパスで大まかな方向を確認するだけで、まるで場所を知っているかのように捕獲していきました。


 次はバルガスさんです。

 いつもの鎧は全部外して、薄い服に盾と槍だけになってました。

 他のチームは軽そうな防具を多少はつけていたので大丈夫かなと思ったんですが……なんとペナルティの矢も魔物の攻撃も全部盾だけで防いでしまいました。

 ボスなんて盾ではじき飛ばしてました……盾って武器にもなるんですね……。


 第四走者はプルストさん。

 プルストさんは軽めの鎧に替えてましたが……こちらは剣で矢を切り落としてますね……。

 魔物なんて何もしないうちに切られますし、ボスもほとんど手出しできないまま一方的に切られてましたよ……。


 さっきの実況さんの言ってることがなんとなくわかりました。

 プルストさんを含め、全員が魔物を倒す時間が短いんです。

 アヤメさんはひたすら魔法を撃ち込んで近づけさせないまま勝ってました。

 キイさんは弓とダガーの使い分けが的確でどの距離でも攻撃してました。

 バルガスさんは防いでも攻撃になりますし。

 実況さんがあんな言い方するのも納得です……。


 それに速さという意味では疑問をもたれていたことも納得ですね。

 要所要所では速いんですが、やはり肝心の走るという部分に関しては他のクランが圧倒的に速かったんです。

 ジリジリと抜かれ離され、現在は六位。

 一位のホースメンとは一ゾーン以上の差が開いています。

 しかも最終走者は先ほど話してた馬族の方でした。

 やっぱりアンカーを走るだけあって速いです。

 でもあれだけ速いと追いつくのは無理そうですね……。


「イオン、もうすぐプルスト戻ってくるけど準備は大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


 装備は大丈夫ですしマンティコアの動きも覚えました。


「じゃあ気楽に行ってくるといいよ。さすがにこれだけ離されるとねぇ」


「綿採取につきおうてくれれば負けてもええよー」


 苦笑いしてるキイさんに諦めモードのアヤメさん。


「この場はお披露目だけということで気負わずに行ってきてください。でも力を見せたほうが評価もよくなりますので、手は抜かないようにお願いしますね」


 そうですね、もう無理だからって明らかに手抜きするところなんて、見てるほうは面白くないに決まってます。

 だったら私は全力で、楽しく飛ぶことだけ考えましょうか。


 ――お姉様はそれが一番ですの。


「それでは行ってきますね」


 プルストさんの姿が見えたのでスタートラインへ。


「イオンッ」


 名前を呼ばれてバトンタッチ。

 さぁ、スタートです。


12/10 若干表現を変更しました。話に変更はありません。

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