8-3 初めてのイベントです!
イベントの参加を決めた翌日。
今日もまずはお店からです。
といってもお金はかかりません。
場所は結界石の広場の隣。
初心者の館とは広場を挟んで反対側にある、スキルショップです。
しかも今日は一人じゃないんですよ。まだ来てないようですが。
と思ったら姿が見えました。
「よぉイオン」
プルストさんです。
クランのメンバーと初めての買い物(?)が、まさかプルストさんになるとは思いませんでした。
デートは嫌ですがこれくらいなら大丈夫でしょう。
「こんにちはプルストさん」
「ごきげんようですの。でも男が遅れるのはマナー違反ですのっ」
「いやまだ時間前……」
あと五分ありますね。
「関係ないですのっ。男性が遅かったこと自体と、そんなことに口答えすることが問題なのですのっ」
「すいませんでした……」
ぐりちゃん厳しいです。
私は気にしませんがその辺よくわからないのでぐりちゃんに任せましょう。
「私は気にしてませんから入りましょうか。ここで立ってても邪魔ですし」
「お姉様がそう言うなら……」
「助かった……」
そう言うプルストさんを睨みつけるぐりちゃん。
そんな正直すぎるとこがぐりちゃん的にマイナスみたいです。
正直という意味ではプラスだと思うんですけど、デリカシーという意味ではマイナスですからね。
気を取り直してスキルショップです。
中は初心者の館と同じような感じですね。
カウンターと職員さん、その横には……ドアばかりものすごく狭い間隔で並んでますね。
一部屋がものすごく狭そうなんですが……ここに二人で入るんですか?
プルストさんは職員の女性から番号札をもらってそのままその番号の部屋へ。
そのままドアを開けるプルストさんの後ろから少し不安に思いつつも部屋をのぞいてみれば、そこは草原でした。
どうやら初心者の館で実技の練習したのと同じように、違う空間のようになってるみたいです。
「全部個室になってんだよ。秘密にしたいやつもいるし、試し撃ちしようとして他人に当たるとまずいだろ」
草原を個室というのも変な感じですが納得です。
「で、どんなスキル覚えたいんだっけ。その辺はバルガスと話してたろ」
今回スキルショップに来たのはイベントに向けてです。
バルガスさんと作戦会議をした結果、対策のためにスキルを取得しておこうとなったんです。
「近接攻撃用の術スキルと遠距離攻撃用の魔法スキルです。他はお任せと言われました」
近接用は特に正面を攻撃出来る物ですね。
敵とすれ違いざまに切り付ける攻撃はどうしても横幅が必要になりますので、狭いコースだった場合に大変になるかもしれないということで修得することにしました。
遠距離はそのままですね。近づけない場合はどうしようもありませんし。
スキルショップで試し撃ちができるので、それを試して良さそうなものを修得してくださいと言われました。
細かく指定されなくて助かりました……あまりに難しいスキルだとあの違和感が……。
「それはいいけどな、何でバルガスと来なかったんだよ。そこまで話してるならその方が早かったろ」
「私もそう思ったんですけど、バルガスさんによるとプルストさんのほうが私と合うんじゃないかと言われまして」
理論よりも感覚を重視してるように見えるそうです。
心当たりがあるので素直にプルストさんにお願いしました。
「そっかぁ……イオンと俺、合うのかぁ……」
「そんな変顔する男がお姉様と似てるはずがありませんの」
言い方はあれですが、その緩んだ顔は否定はできません……。
「とりあえず近接攻撃用の術スキルからお願いします。……でもあまり複雑なのはやめてもらえると……」
「あぁ、スキルのモーションに慣れないか? 使ったことあるのはなんだ?」
「大薙ぎだけです。初心者の館で」
これくらいならいいんですけど……。
「マジで何も持ってないんだな……って今更だな。んじゃ先に違和感の解消からやるか。結構簡単だから」
「そうなんですか?」
「おう、まず大薙ぎから試してみるか。メニュー開いて仮修得からだな」
言われてメニューを開けばスキル修得の項目が追加されていました。
開いてみると武器系、魔法系、補助系、生産系、と各項目ごとに分類。
そこからさらに枝分かれしていますので相当な数があります。
スキルポイントは140ありましたので、1レベル5ポイントで増えてるようですね。
とりあえず武器スキル、槍の項目を開いて槍術大薙ぎを仮修得しました。
「仮修得できました」
「おし、その辺にむけて一回使ってみな」
「はい。……大薙ぎっ」
音声コマンドと同時に右から左へ向けて一振り。
やっぱりこれだけでも違和感があります。
「問題なく使えたな。んじゃ今度は自分で振りながらスキル使ってみるんだ。動きは大薙ぎを真似するような感じで」
真似するように動かしながらですね……。
刃を後ろにむけて……振りかぶった状態から勢いをつけて……っ、
「大薙ぎっ」
ブンッ、と先ほどより勢いよく振られる槍。
あれ、違和感がほとんどありません。
むしろ気持ちよく振れた感じです。
理想的な振り方ができたというか。
「大丈夫だったろ? 最初に使ったのは術スキルに動きを任せるって感じなんだよ。自分の体なのに術スキルに無理矢理動かされるから違和感ハンパないんだ」
スキルに動きを任せる使い方。
自分の体なのに動かすのはスキルがするので、変な感覚になるということですね。
「自分で動きながら使うと、動きを補助してくれるって感じになるから違和感が減るんだよ。ただ術スキルを使うんじゃなくて、体の動きにスキルを乗せるって感じかな」
動きにスキルを乗せる。
あくまで動作の主体は自分で、スキルがその補助を行う。
そう考えると自分の意思を無視したような、あの無理矢理な感じが無いのも納得ですね。
これなら私でも問題なく使えます。
「複雑な動きをするやつは結構練習がいるけどな、それでも慣れれば違和感はなくなっていくんだ。んでそのほうが自分の思ったように術スキルを発動できて、より効果的に使えるってわけだ」
繰り返しの練習が重要ということですか。
システム任せじゃなく、頑張った分だけ強くなれるのはいいですね。
「術スキルに慣れていないうちは簡単なものだけ修得した方がいい。上位は威力も上がるけどまともに使えなきゃ意味ないし。俺のよく使うヘビースラッシュも初級に分類されるしな」
「ゴーレムをまとめて切ってたあれですよね。やっぱり使いやすいからですか?」
「そうだ。威力もあるし汎用性高いしな。あとクールタイムも短めだ」
クールタイム? 冷却?
「クールタイムは術スキル再使用までの待ち時間だな。連発はできないってことだ」
初心者の館でも言われてたのを忘れてました。
あのときは一度しかスキルを使わなかったので、再使用のことなんて気にしてませんでしたし。
でも考えてみれば意味当然の制約ですね。術スキルが連続で使用できるなら、それだけで戦うなんて人もいるかもしれませんし。
それはそれで戦いにくそうですけど。
「さっきの仮修得画面見てみな、設定できるようになってるから。短く設定したら再使用までの時間は短縮されるけど威力は下がる。長くしたらその逆だ。と言っても威力が倍になるとかそういうんじゃないけどな、限界まで威力に振っても一割アップがいいとこだ」
トレードオフになっているんですか。いいことずくめなはずありませんよね。
威力とクールタイムのバランスが優れているのが上級のスキルということでしょう。
「一番短くしたらどれくらいになるんですか?」
「大薙ぎ程度だったらかなり連発できるはずだな。当然威力も下がるはずだけど……ってイオン?」
クールタイムを最短に設定、もう一度仮修得。
試しに大薙ぎを二連続で使用。左に一振り右に一振り。
振り終わって構える頃には再使用できる感じですね。
ではこれで修得です。
「いいのか? そんな威力が低いやつで」
「飛んでるときに使おうと思いまして。スピードブーストのおかげで攻撃の威力は高いようなので、スキル自体の威力よりもすぐに再使用できたほうがいいかなと。でないと魔物を通り過ぎてしまいますし」
「……おぉ、言われてみればその通りだな。つかあの速度でスキル連発するとかヤバいな、それ」
大薙ぎだったら正面に向けてはもちろん、いつものすれ違いざまに切りつける方法にも使えると思います。
少しは戦えるようになったと思いますけど、槍の使い方は今でもただ横にむけて抱えてるだけみたいなものですからね……。
きちんと切るように振れば、もっと威力が増すと思います。
それに大薙ぎなら空だけでなく地上でも使いやすいですし。
それとプルストさんのアドバイスで、突き系の術スキルもあった方がいいんじゃないかということになり槍術一突きも修得しました。
切ると突くの両方使えないといつか行き詰まると言われました。その通りだと思うので素直に修得します。
この術スキルも一回突くだけなのですぐに慣れそうですし。
それに術スキルのおかげか手も痛くないですしね。
「次は魔法か。これはバルガスは何か言ってたか?」
「特に凝ったものじゃなくても大丈夫だと思う、とは言われましたけど」
「魔法大会ってわけじゃないからそれでいいか。でも魔法はクールタイムじゃない代わりに詠唱時間がな……」
術スキルと魔法スキルでは逆ですね。
術スキルは即時発動で、再使用までに時間が必要。
魔法スキルは発動までに時間が必要だけど、再使用はすぐに可能。
どっちがいいというわけではありませんが、移動の速い私は即時発動が助かります……。
「私の出番ですわねっ」
「ぐりちゃん?」
「契約精霊としての私の力、今こそお見せいたしますわっ」
そういえば契約すると力を貸してもらえるんでしたっけ。
すっかり忘れてました。
「力を貸してもらえるのは嬉しいんですが、どんな力なんです? 代わりに魔法を使ってくれるとか……ではないですよね」
「さすがにそれは無理ですの。でもお姉様が魔力を使うこと、その全てをサポートできますの」
魔力を使うことをサポート……。
「……まさか威力も上がるし詠唱時間も短くなるのか?」
「その通りですのっ」
「マジかよ。魔法職がこれ知ったらとんでもないことになるぞ……」
そう言って胸を張るぐりちゃん。
本当に凄いですね、魔法の万能サポート係みたいです。
……でも、こういう万能サポートってどこかに穴があると思ってしまうんですよね……自動車保険でもよくありますし……。
どんなにいい条件でも、強いて言うなら金額が穴、とか。
「とはいえ私は風精霊。風属性以外もサポートできますけど、効果は落ちますの」
やっぱりでした。
でも属性は仕方がないですね。風精霊なんですから。
「それに私が力をお貸しするには、私にいつも以上の魔力をいただく必要がありますの。だから使い過ぎるとすぐに魔力が無くなってしまいますので、十分気を付けてくださいまし」
燃費も仕方がないですよね。パワーを出せば燃費は悪くなります。いえポン付けターボみたいな……やっぱりスーチャー……そんなことどうでもいいですね。
とにかく魔法に関して普段以上の力が出せる代わりにエネルギー消費が激しくなる、増幅装置のようなもの。ということですね。
「さぁお姉様っ、早く試してみてくださいましっ」
ぐりちゃんに急かされまずはウィンドアローを仮修得。
詠唱時間はそのままです。
私の基本属性である風以外も修得できるようですが、ぐりちゃんのこともありますし風を選ぶべきですね。
「ウィンドアロー、………………ウィンドアロー」
まずは自分で。
当然タイムラグがあります。
次はぐりちゃんに魔力を流してもう一度。
力を貸してくださいね、ぐりちゃん。
――わかりましたですの。でもそんな風に言っていただかなくても、今のお姉様ならその時々で意識していたくだけで大丈夫ですの。
今の私ならですか?
――いつも魔力を流してもらってるおかげで、私とお姉様の繋がりが強くなっているですの。繋がりが強くなれば、もっと効率的にサポートできるですの。
そういえば大体流しっぱなしにしてました。
ぐりちゃんに流す魔力は強くできたり弱くできたりと調節できたので、魔力操作の練習になるんじゃないかと思ったからです。
それなのに声に出して会話していたのはわざとです。
例えば頭の中だけで会話して、笑ったりする。周りから見たら突然笑い出したようにしか見えません……きっと不気味に見えます……。
……独り言に見える?
ぐりちゃんの姿が見えなければ独り言のような感じですが、ぐりちゃんの声は聞こえますので『もう一人はどこだ?』くらいになるはずです。きっとそうです。……そうに違いないんですっ。
――お姉様落ち着いて下さい。それより今は魔法ですの。
そうでした。では改めて。
「ウィンドアロー、……ウィンドアロー」
かなり縮まりました。
しかも詠唱時間は初期設定のままなのにですよ。
術スキルほど即時じゃありませんが、これならかなり使いやすいです。
――お役に立てて何よりですのっ。
むしろお世話になりっぱなしになりそうですね。
――しっかり者の妹にお任せですのっ。
甘やかしすぎても駄目ですからね?
――わかってますのっ。だから他の魔法も試すですの。
またしても急かされ他の魔法を試すことに。
お手伝いできるのが嬉しい子供みたいですね。
――子供じゃないですのーっ!
次は何にしましょうか。連射用にウィンドアローを修得するとして、他には威力のあるものがいいでしょうか? となると……。
「あっ」
「ん? どうした?」
「気になる魔法がありまして。このウィンドアーマーなんですが」
「そいつはいいと思うぞ。アーマー系はどの属性でも大体役に立つ。物理も魔法も結構防げるし」
「物理的にも防げるんですかっ」
魔法しか防げないかと思いましたがこれなら使えますっ。
「く、食い気味だな……そんなに重要だったか? そりゃイオンだっていつまでも回避だけじゃ駄目だと思うけどな……」
非常に重要ですよ。物理的にも大丈夫ということは……。
「そのまま魔物に突っ込んでも大丈夫かなぁ、と」
「人間ミサイルかよっ!」
「そこまで考えてませんでしたが、それもいいですね」
「絶対にやめて下さいましっ!」
「冗談ですよ。ただ今以上に魔物に近づけるようになると思っただけです」
攻撃はいつもある程度の距離を取って切り付けていました。
なので浅くしか切れないことも多かったんです。特にワイバーンのときがそうでした。
ですがこれがあればもっと近づいても危なくないので、さらに効率的にダメージを与えられると思ったんです。
でもそのまま突撃するのも強いかもしれませんね……。
――本当にっ、やめてくださいましっ!!
わかってますよ。
ただ防ぐだけならともかく、攻撃にも使うんだったらぐりちゃんの力も必要だと思います。しっかり防がないと自分が痛いだけですし。
一度発動したらしばらく効果が続くようですが、消費はウィンドアローの三倍になってますし、そこにぐりちゃんの力まで借りてしまうとそう何度も使えないはずです。
使うとしても本当にいざというときです。
……必殺技みたいでいいですね。
――お姉様……。
こほんっ。
その後色々試した結果、修得した魔法はまずウィンドアロー。詠唱時間重視で威力は低め、基本的には牽制用です。
威力が必要な時はぐりちゃんにお願いします。威力を上げると飛んでいく速さも上がるので非常に使いやすいです。
それから威力重視でウィンドカッター。ウィンドアローに比べて効果範囲も広く威力もありますが、詠唱時間は長めです。
連射したい場合はやっぱりぐりちゃんです。
最後にウィンドアーマーですね。こちらは空を飛びつつ何度か試して設定しました。
突撃は……一応やってみたんですがよくわかりません。
初心者の館と同じく試し撃ち用の牛がいたんですが、この牛って死なないそうなんですよ。
なので強いか弱いかわからなかったんですよね。
とりあえずぐりちゃんの力を借りれば突撃しても痛くないということがわかったので、それで十分です。
ちなみにウィンドアローとウィンドカッターは真っ直ぐ飛ぶものしか修得しませんでした。
いろいろあっても使いこなせそうになかったので。
その辺はおいおいですね。
12/13 誤字修正。
やっとこさスキルショップ。それとぐりちゃんブースト。
意識するだけで~とかすごそうなこと言ってますが、ただぐりちゃんブーストが使えるようになっただけです。友好度レベル0からレベル1になったような。
繋がりがどうとかいうのも、ただの友好度とか親密度とかシンクロ率(違)とかそんな感じのです。
魔法にしてはひとまずこんなところで。
最初から空対空ミサイルとか気化爆弾的なのを使わせるのもあれかなと。でもいつか使わせたい……。
だからって単純さを求めた結果V-M○Xになりましたが……。(そこまで強くありません)
次はようやくイベント当日です。