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8-2 初めてのイベントです!


 ホームデイズで家具を受け取ったあと、そのまま拠点に来ました。

 部屋に入ってベッドとテーブル、椅子を二脚配置。

 カーテンを付けて終了です。

 家具類は明るい色の木製で統一、カーテンと寝具は色は違いますが無地で統一されてます。

 素っ気ないと言われそうですがこれで十分です。

 ぐりちゃんのも同じデザインですね。


 ぐりちゃん用といえば、家具に加えてぐりちゃんの食器まで用意していただいたんですよっ。

 ナイフにフォーク、お皿やティーカップなど……。

 配慮が行き届きすぎですレイチェルさん……。


 ただ予算の関係から、寝具にはあまりいい素材を使えなかったと言われました。

 それともうすぐ夏なので薄手の布団にしましたが、冬には違う布団を用意したほうがいいかもしれないとも言われました。

 そういえばゲームの中の季節ってどうなってるんでしょう。

 アヤメさんがコタツがどうとか言ってましたので、冬はあるんだと思いますけど。

 ちなみに今は現実ほど暑くは感じません。湿度が低いというのも理由かも知れませんけど。


「ひとまずこれで完了ですね。ぐりちゃんの方はどうですか?」


「ふかふかですわ~……」


 完璧のようですね。

 ベッドの上でごろごろしてます。


「じゃあ下でコーヒーでも飲みましょうか」


「ふかふか~……ハッ、わ、わかりましたわっ」


 慌てて肩に乗るぐりちゃんですが……。


「ごろごろしててもいいですよ?」


「いいんですのっ、コーヒーブレイクですのっ」


 ベッドを見ないように顔を逸らしてます。

 今度お昼寝の時間を取りましょうか。

 そんなことを考えつつ少し残念そうなぐりちゃんと一階のリビングへ。

 そのリビングから聞こえてくる声は、言い争うというほどでもないですが話がまとまっていないようです。


「だからその日は無理だって」


「でもなぁ……」


「聞くだけ聞いてみては?」


「何かあったんですか?」


 テーブルについて自分とぐりちゃんのコーヒーを入れながら聞いてみます。

 畳のほうにはアヤメさんが一人、テーブル側にはエリスさんをの除いた残りの三人が居ます。


「あったというかこれからあるんだけどな。来週の水曜に運営主催の公式イベントがあるんだが、イオンも出ないかって誘おうと思ってな」


「でもその頃にはテスト終わってるだろうし、友達と遊ぶから無理じゃないかって言ってたの」


 そういうことでしたか。

 一昨日までに聞いてたら断ってたかもしれません。


「その日なら構いませんよ。相手に外せない用事ができたみたいで沈んでましたから」


「マジかっ」


「なんて都合のいい……いやその子は悪いのか……」


「でもどんなイベントなんですか?」


 東さんがイベントがあるようなことを言ってましたが内容までは聞いてません。

 あまり大変そうなのは遠慮したいんですが……。


「運営から告知メール来てなかったか?」


「多分来てたと思うんですが……広告メールみたいな件名だったので後回しに……」


「あーそれわかる。頭に括弧つけて【お知らせ!】とか書かれるとねー」


 頷くキイさんとそうきたかーと言うプルストさん。

 昨日の時点でメールは来てたんですが後でもいいかなと……。

 仕事用の端末だったらそういう件名でも開くんですけどね。一応取引先の可能性があるので。

 次からは見るようにしましょう。


「じゃあ内容は全然知らないのか」


「何か走るようなものとは聞いたんですが、それだけです」


 マリーシャは走りたくないと言ってましたし。

 私もマラソンのようなものだと気が進みませんが……。


「走ると言えば走るんだけどな」


「それだけじゃないんだよね……」


「お姉様は走るより空を飛ぶほうが好きですの」


 なんともいえない表情の二人です。

 それからぐりちゃん、代弁ありがとうございます。


「ここからは私がお話ししましょう。まずイベントの正式名称は『第二回 バトラー&アスリート 異世界式アンリミテッドクロスカントリーリレー』というものです。長いので単純にリレーとか、運動会とか呼ばれてますね」


「ずいぶん仰々しいというか……詰め込まれたイベント名ですね」


「何でも押し込めばいいというものではないですの」


 バトラーとアスリート……バトラーって執事でしたっけ……いえ戦うほうのバトルでしょうか……?

 クロスカントリーと入ってるので走るのはわかりましたが、それをリレーでしかも異世界式でアンリミテッド……見当がつきません。


「簡単に言えば障害物競走とクロスカントリーを合わせたものですね。それを一チーム五人でリレーするんです。そしてその障害物が異世界式というものになります」


 一気に想像しやすくなりました。

 クロスカントリーというと山とかを走るマラソンみたいなものですよね。

 そのコースに追加で障害物。でも障害物が異世界式となると……。


「……障害物は魔物だったりするんでしょうか」


「前回はそういったものもありました。ですが今回のコースが同一とは限りませんので、今回も魔物がいるかどうかはわかりません。ひとまずは前回がどういったコースだったのだったかお話ししましょうか」


 そうして説明されたコースは四つのゾーンとチェックポイントからなるコース。

 各ゾーンは山あり谷あり。全体が障害物競走といった内容でした。

 内容はわかりましたが……。


「でも私、足は速くないので……」


 とてもじゃないですが足を引っ張るだけだと思います。

 飛べるなら少しは力になれるかもしれませんが……。


「別に走っていただく必要はありません。飛んでもらえばいいので」


 そうにこやかに続けるバルガスさんですが……。


「それっていいんですか? 皆さんカーレースしてるのに、自分だけエアレースしてるようなものだと思うんですが。ルール違反になったりとか……」


 まさに土俵違いだと思うんですが……でもバルガスさんは相変わらずにこやかですね。

 問題ないということでしょうか?


「前回は『飛行禁止』というルールはありませんでしたし、そして今回も無いと思われます。何故ならそれを禁止するということは鳥族の種族特性を封じるということですが、鳥族だけ禁止するのはどう考えても不公平です。だからといって全種族の種族特性を禁止するというのは、このゲームの魅力を消してしまうということでもありますから」


 言われることはもっともだと思います。

 獣人になるゲームで獣人であることを禁止するようなものです。

 そういうルールの競技を行うことは否定しませんが、運営会社が主催するイベントでそれをするのは、あまりいいことだとは思えません。


「なによりこのリレーはアンリミテッド(無制限)、魔法もスキルも使用制限はありません。前回はチェックポイントをスキルで飛び越したプレイヤーもいましたが、ルール違反で失格ということにはなりませんでした」


 アンリミテッドはそういう意味だったんですか……。


「一方でアイテムは全て使用禁止で、あらかじめストレージから出しておいても使用できなかったそうです。つまりルールに抵触することはできないように設定されているんです」


 アイテム以外は何でもできるので、飛行禁止と明確にされない限りは飛んでも大丈夫と。


「そういうことなら出てもいいかもしれないですね。どこまでお役に立てるかわかりませんけど」


「エントリー申し込みはコース発表後から行われます。あまりに不利なコースの場合はそもそも出場しませんので安心してください」


 それなら安心です。

 でも多少不利程度なら頑張りましょう。

 せっかくお役に立てるチャンスですし。


「盛り上がってるとこ悪いんやけどなーウチは出らへんでー。走るのなんか面倒や」


 聞こえてきた声は畳の上で一人寝転がってるアヤメさんからでした。

 耳も尻尾も垂れていかにもやる気なさそうです。


「アヤメさん、優勝賞品にはマカモコ綿百個がありますよ」


「ええかー優勝以外は全部負けやからなー」


 その言葉を聞いた瞬間、元気になって起き上がりました。

 耳も尻尾もピンとしてます……。


「マカモコ綿はコタツ布団用にアヤメさんが集めてたんですよ」


「けど入手性は最悪やからなぁ。布団作るんには数が必要やから、どうしようか悩んどったんやわ」


 それなら納得ですね。コタツ布団は重要です。

 今は夏前ですが。


「そういえばこの世界での季節ってどうなってるんですか? 現実ほど夏が近づいてる感じはありませんが」


 話の腰を折るようですが、さっきも気になったので聞いてみます。


「日本と同じく四季があります。ただしルフォート周辺は日本ほどの気温差はないようですね。ゲーム発売時は冬でしたが、そこまで寒くはありませんでした」


「早期購入特典でコートもらったんだけどね、あんまり暖かくないコートだったけどほとんど使わなかったよ」


「ですがそれはルフォート周辺に限った話で、地域によってはかなり異なるそうです。まだ見つかってませんが、年中極寒の地域や灼熱の地域もあるんだとか」


 ゲーム発売当時は冬でも、この周辺はそこまで寒くなかったということですね。

 だけど他の地域はいろいろあると。


「気温なんか関係あらへん。冬はコタツに入るもんや」


 それも納得です。

 コタツがあるとつい入ってしまうんですよね……。


「ちなみに今回の優勝商品は、そのチームに対して素材各種と賞金一千万ゼル、一人あたり二百万ゼルですね。前回に比べ高価な素材が揃ってますので、私も欲しい素材があるんですよ」


「俺は金だな。最近何故か物入りでな……」


「あたしは装備用の素材かな。それに前回も出てみたかったし」


「皆さん大丈夫なんですね。でも出てみたかった、というのは前回は出なかったんですよね。出場条件でもあったんですか?」


「条件は今回も一緒で一クランにつき一チームってくらい。出なかったのは単にアヤメとエリスが嫌がったし、欲しい素材も無かったから別にいいかなって」


 一人だったら出てたけどねと、特に気にした風でもないキイさん。

 そういう理由なら仕方ないですよね。

 今回もアヤメさんは乗り気じゃなかったですし、エリスさんも同じような理由……。

 と、そこまで考えてふと気付きました。


「もしかしてその当時拒否されたのは……魔力操作の件が……?」


 以前はそのことでいろいろあったそうですし、いつくらいまでそういう状況だったのかは知りませんが、三ヶ月前だったら……。


「そういえばあの頃はまだそんなんあったなぁ。でもリレーには関係あらへん。むしろリレーに出れば合法的に吹っ飛ばせるからなぁ、そういう意味では出たかったわ」


 吹っ飛ばせる、の辺りでやっぱりいい笑顔のアヤメさんです……。

 でもそういうことなら。


「……今回私が出たら騒動になるのでは?」


 クランに入った理由一つでもありますが……でもこちらから騒動を起こすようなことはしないほうがいいんじゃないかと思うんですが……。


「確かに騒ぎにはなるでしょうが、でもイベントで発覚するのはむしろ好都合なんですよ」


 好都合?


「今まで誰も成功しなかったことを成功させる。失敗た人は方法を知りたくなりますが、その一方でまず疑ってくる人もいるんですよ。チート、つまり不正をしてないか、と」


 例えば今まで誰にも解けなかったクイズに正解する。

 答えが合っているかどうかも重要ですが、それは正当な手段で正解したのかどうかも調べられてしまうと思います。

 カンニングしてないか、今回の私の場合は何か卑怯なことをしてないか。


「ですが今回に限れば疑われることはありません」


 そこだけ聞くとウマイ話のような感じですが……バルガスさんはもちろん他の人もその通りといった顔ですね。


「なぜなら今回のイベントは運営の公式イベントです。当然、不正対策の監視も行われています。なのでそんな状況で空を飛べば、それだけで不正ではないという何よりの証拠になるんですよ」


 自分たちもそのために前回出れば良かったんですが、それに気付いたのは終わったあとでしたと苦笑いするバルガスさん。

 そうですね、普段どういった不正対策をしているのかは知りませんが、まさか運営会社自ら行うイベントを対策してないとは思えません。

 それで好都合というわけですか。


「経験があるからわかりますが、まず疑われている状態を改善するのが一番難しいのです。それを解決できるだけでも、イオンさんには十分意味があると思いますよ」


 十分どころの話じゃないと思いますよ、それは。


「それに先ほども言ったように魔物との戦いもありますから、ただ飛ぶだけじゃなく、戦う力もあるんだということも見てもらえます。“飛べるだけの新人”という侮られやすい立場から、“飛べるうえに戦える大型新人”となると、ある程度敬意を持ってもらえます。うまくいけば、無理な勧誘や質問攻めといった状況も激減できるはずですよ。期待の新人には、皆さん嫌われたくありませんからね」


 うまくいったらとはいえ……話だけ聞くといいことずくめですね……。

 むしろ私が一番得をしてるようですが……もしかして。


「あー言っとくけどな、始まりがそれだったのは否定できないんだが、商品内容見たら今回はかなりいい賞品だったんだ。全員が得できるし損もしない、だからイオンのためだけじゃないんだ。そことんとこ勘違いしないでくれよ」


「なにそのツンデレ」


「ちげえよっ! まぁだから変なこと気にせず出ようぜってことだ。……って言ってもイオンは気にするだろうしな。だからイオンの商品は金だけで、素材は無しってことで頼むわ。これで俺たちも得するってことで、な?」


 プルストさんは私の考えを察したかのようにまくし立てました。

 むしろお金もいらないくらいですが……でもこれ以上は譲らないですよね、プルストさんは。

 バルガスさんならあとから素材は無しで、と駆け引き的なことをしながら説得してくると思いますが、プルストさんは正直すぎです……。


 だから言葉通りの本心なんだと思いまし、私もすぐに信じられるんですけどね。


 やっぱり優しい人です。

 ですがそれなら私の答えは決まりました。

 リレーに出て、全力で頑張る。

 私にできることをしましょう。


「そういうことなら私は喜んで出場します。せめてリレーでは私も全力で飛びますので、どうかよろしくお願いいたします。……本当に、ありがとうございます」


 それが一番のお返しになると思いますので。


「こっちこそありがとな、俺もイベントには出たかったし。……あーそれでもう一つ悪いんだが……」


 ホッとしたような表情から一転して少し気まずそうな表情になりましたが、どうしたんでしょう?


「実はこの案は俺の知り合いからでな。そいつがイオンと話がしたいって言ってるんだが……」


「それは構いませんよ。むしろお世話になったわけなのでお礼もしたいですし」


「すまん助かる。もしかしたらダンジョンに誘われるかもしれないけど、それは気にせず断っていいからな。むこうも気にするようなやつじゃない」


「その辺は交渉次第ということですね。重ね重ねありがとうございます」


 多分相手の方はそっちが目的なんでしょうね。

 ゲイル山では役に立てたようですし、他にもそういうダンジョンがあるかもしれません。

 プルストさんと付き合いのある方ならあまり変な人ではないと思いますので、都合が合えばお手伝いしてみようと思います。

 リレーの翌日はマリーシャと遊びたいので、せめてそこは外してほしいですけど。


「それでは参加も決まったので作戦会議と行きましょうか。まずは前回の映像から――」


 その後はバルガスさん主導で作戦会議。

 大体のプランが決まった頃にはそれなりに時間が経っていたので、そのままログアウトしました。

 今日は飛ぶ時間がとれなかったのが残念です……。


12/13 誤字修正。

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