2-1 VRゲーム、始めます。
今回から主人公視点となります。
初めまして。
私は新碧と言います。
これだけ見るとものすごく読みにくく見えますが、これで『しん あおい』と読みます。ですが初めてこの名前を見る人は大体『あらい みどり』と読みます。
苗字も間違えやすいうえ名前も『青』なのか『緑』なのかはっきりしてほしいと思いますが、それを話すと一度で覚えてもらえる便利な名前です。
そんな少しだけ紛らわしい名前の私ですがそれ以外は全くの平凡な高校生をしています。
すみません言い過ぎました。
平凡よりも地味な高校生をしています。
年は今年で十七歳。
花も恥じらう女子高生。
私はその花の周りに生える、ねこじゃらしと言ったところですね。
クラスのみんなは制服を着崩し怒られない程度に化粧をしています。
学校という限られた空間の中でさえ、その姿は一人一人が輝いて見えるようです。
私と言えば制服は標準のまま、もちろん化粧はしていません。
髪型だって伸ばしっぱなしで邪魔にならないようにまとめる程度。
今でも髪を切るときは小さなころから通ってる理髪店のおばさんに切ってもらってます。
そういえば高校に入って初めて髪を切った次の日に教室に入った途端、高校に入ってからできた友達の佐々木真里に詰め寄られ色々言われたことがあります。
しかもすぐに他の女子も集まってきました。
髪型はもちろんとしてシャンプーの話だけで二時間は話が続く人達です。
きっと怒られるんだろうと思って俯いてしまいました。
しかしそれをどう捉えたんでしょうか。次の瞬間には、
『私の嫁を傷物にしたのはどこのどいつだー!!』
と叫びながら男子の方へ突撃していきました。
どうやら失恋のショックで髪を切ったと思われたようです。
すっきりしたいと理髪店のおばさんに言ったら背の中ほどまであった髪を首が隠れる程度まで切られただけだったんですが、男子の皆さんには悪いことをしたと思いました。
それからおばさんには邪魔にらないように、でも切り過ぎないようにと難しいお願いをすることにしました。
美容室へ行くようにも言われました。
ですが私はおばさんと話すのを楽しみにしているのです。
ワイドショーで流れる芸能人のゴシップから漬物の漬け方まで、話題がころころ変わるとりとめない会話がとても好きでした。
待ち時間の間に頂く飴がいつも違う味になるのも楽しみでした。
美容室を教えてくれる真里には申し訳ありませんが、おばさんが元気な間は変えたくないと伝えると、
『碧はずっとそのままでいてねっ。私のような穢れた人間になっちゃだめだからねっ』
と言ってくれました。
周りのみんなも何故か優しい表情で頷いています。
さっきまで美容室の話をしていたのに、どうしてみんなそんな表情なんでしょう。
美容に関する話をしているときはいつも真剣な表情で、私からしてみると少し怖いくらいでしたが、一体どうしたんでしょうね?
それに真里が穢れているのであれば私も含め世界のほとんどの人が穢れていることになる思うのですが、真里の基準はいったいどれほど高いところにあるのでしょう。
それも伝えると今度は抱きつかれました。
本当にどうしたんでしょうね?
そんな平均よりも地味な私ですが、友達に関しては平均以上に恵まれていると思います。
特に真里は流行に無関心な私にいろんな話題を持ってきてくれて、しかも私が興味なさそうな雰囲気を出すとすぐに察して別の話題に換えてくれるとても優しい人です。
きっと空気を読む技術検定があれば一級だって取れるに違いありません。
一級空気判定士になれるねと言ったら、臭気判定士みたいだからやめてと怒られました。
話が逸れました。
とにかく真里は私にいろんな話題を持ってきてくれます。
今日持ってきたのはゲームに関する話題のようです。
「ぶいあーる、ですか?」
聞いたことないゲームです。
ボルテージレギュレーターとは違うんでしょうか。
「去年出た世界初の全感覚型バーチャルリアリティゲーム機でプレイするゲームのことよっ。CMであれだけやってるのに知らないとはさすが碧」
バーチャルリアリティは仮想現実のことでしたっけ。
それのゲームと言うことは現実みたいなゲーム、ということでしょうか。
よく分かりません。
「TVゲームとは違うんですか?紅白カラーのゲーム機しか触ったことないんですけど」
「紅白とか知らないけどとにかくTVゲームとはぜんっぜん違うよ!」
私にとってゲームと言うと小さいころに親戚の伯父さんからもらったTVゲームだけなので、それと全然違うと言われると想像できません。
それにあのゲーム機もテレビを換えてからは使えなくなりましたし。
「VRゲームはまるで本当の世界みたいなの。歩いたり走ったり、スポーツみたいに運動したりするのをゲームの中でもできるし、ゲームの中で食事だって寝る事だってできるんだから」
えっと、つまりそのゲームの中がもう一つの地球みたいなところで、そこで普段通りの生活ができるということですか。
「でもそれって操作が難しくないですか?私どうもあのコントローラーで忙しい動きするのは苦手で」
ゲームのキャラクターをジャンプさせようとすると、コントローラーと一緒に自分の体も飛ぼうとしますし。
「コントローラーなんか無いって。普段自分の体を動かすようにするだけで動くんだから。ご飯食べたら味だってわかるしね」
なるほど、現実のように行動するだけでプレイできるゲームなんですね。
でも本物じゃないから仮想の現実で、バーチャルリアリティということですか。
「普通に動くだけでいいんだったら私でもできそうですね」
「でしょ!だから一緒にやろうよっ」
という話をしていたのがお昼休み。
放課後の今は早速ゲームショップへやってきました。
目の前には多数のゲームが並べられていますが、一体どれを買えばいいんでしょうか。
「碧、こっちこっち」
真里に呼ばれた方を見るとVRコーナーと書かれていました。
VRゲームとTVゲームは分けられてたんですね。
向かったところで一つのゲームを渡されました。
「これがあたしがやってるやつ。ホント面白いからっ」
パッケージに書かれたタイトルは『Beast Life Fantasy Online』。
「え、いきなりそれはちょっとハードじゃね」
パッケージを眺めているとクラスメイトの相田和彦君から静止の声がかかりました。
普段あまり私とは話さないんですが真里と相田君は付き合いが長いらしくて、私と真里がゲームショップへ行くと言ったら一緒に付いてきてくれたんですよね。
それにしてもハードと言うことはそんなに難しいゲームなんでしょうか。
「お前もう少し考えろよ。ゲーム初心者にいきなりこれはないわ」
「このゲームなら何してても面白いって言ったのはあんたでしょ」
「そりゃ言ったよ。でもどうせお前、新を戦闘に引っ張り出すつもりだろ」
「後ろで魔法撃っててもらうだけだならいーでしょ」
なにやら言い合いが始まりかけてますがそれよりも私はこのパッケージのイラストが気になります。
イラストには数人の男女が描かれていますが、何故かどの人も動物のような耳だったり尻尾があったりします。
Beastとタイトルに入ってますし、何か動物が関係あるんでしょうか。
裏面に何か説明書きが……。
「あっ」
裏面を見てつい声が出てしまいました。
もしかしてこのゲーム……。
「なんかあった?」
「いえ大したことじゃないんです。それよりこのゲームって難しいんですか?」
「ダイジヨーブ誰でもできるってー」
「いやお前テキトーなこと言うなよ」
やっぱり難しいんでしょうか。
「別にゲーム自体が難しいってわけじゃないんだよ。基本的には普通のRPGなんだけど、別に敵と戦ったりとかしなくて町の中で商人やってるだけでも十分遊べるし、鍛冶とか裁縫とかいろんな仕事あるし。タイトルのLifeには人生って意味も込められてて、どんな生き方も人それぞれっていう意味もあるらしいからな」
「観光目的に色んなところ行くだけって人も居るらしいよ」
RPGなら伯父さんからもらったゲームにもありました。
私がやったのは勇者になって魔王を倒しに行くゲームです。
レベルを上げて武器を買って、勇者を強くして魔王を倒しました。
王様からお願いされて冒険に出たのに『こんぼう』と『ぬののふく』しか持ってない勇者は、もしかしたら生贄の間違いだったんじゃないかと思いましたけど。
敵と戦うのは私には難しいと思いますが、町の中で仕事をするだけなら私にもできそうです。
鍛冶屋や服飾屋があるなら飲食店だってありそうです。
色んなお店でバイトするのも面白そうですね。
何より観光が出来るのであればそれだけで十分です。
むしろ観光を一番の目的にしましょう。
見たことない景色を眺めるのは好きですから。
しかもRPGの世界です。
きっと現実では見られない景色がたくさん見れられるでしょう。
「戦闘だって遠くから魔法撃ってればいいからさーねぇやろうよー」
「だからお前は……」
「はい。やります」
せっかく誘ってくれたんですからやってみましょう。
それにパッケージ見て興味が出ましたし。
「ただ戦闘は出来るか分かりませんが……」
「やったっ、いいよいいよ戦闘は無理しなくて。私が守ってあげるからねー!」
「嫌がるやつを戦闘に引っ張り出すなよ……っつーか新も無理すんなよ。本体は結構高いんだし」
そういえばゲームは本体が無ければ遊べないんでした。
少し見回してみれば……ありました。
確かに学生には手の出しづらい金額がかかれています。
「すいません、ちょっと持ち合わせが無いので……」
「えぇー……」
「諦めろ。お前だって買うのに苦労してたろうが。そんなもんポンポンと買えるわけ――」
「一度家に帰ってお金持ってきますね」
「って買うのかよ!」
手を出しづらい金額ですが手を出せないわけじゃありません。
お小遣いと家の手伝いをして貯めたお金がありますから無理と言うほどでもありませんし。
「えぇっと碧? 勧めといてなんだけど無理しなくてもいいんだよ? そりゃ一緒に出来たらうれしいけど……」
「知っての通りあまり服とかにはお金かけてませんし、家の手伝いとかして多めにお小遣い貰うこともありますから」
「いやでもさぁ……」
普段は元気過ぎて少し強引のような真里ですが、一度冷静になってしまうとむしろ気弱な風になってしまうんですよね。
普段の積極的な真里も好きですが、こういう少し臆病な面があるのも真里の魅力だと思います。
こういう時にちょっとだけ意地悪言うと可愛いんですよね。今は言いませんが。
「本当に大丈夫ですよ。ファッションとかは遠慮したいですが、ゲームだったら付き合えますから」
一度だけ真里と服を買いに出かけたことがありますが、正直二度目は行きたくないと思いました。
奇麗な服に全く興味が無いわけではありませんが、よほど変な服以外はどれも同じように見えてしまいます。
少しの違いの服を選ぶのに悩んで、それと組み合わせるものでまた悩んで……私にはとても真似できません。
でもゲームだったら大丈夫です。
TVゲームでしたがRPGだってクリアしたことがあります。
VRゲームはまた違うかもしれませんが、色々な仕事があるなら面白い仕事だって見つかるかもしれません。
戦闘も一度やってみて、やれそうだったら頑張ってみましょう。
それに何より真里の好きなことに私も付き合えるかもしれないんです。
真里は頻繁に私と遊ぶための話題を持ってきてくれます。
ですが誰に似たのか頑固なところがある私は、やりたくないことは付き合いでもやろうとしません。
そのせいで疎遠となった人も居ましたが、真里は違いました。
何度断っても違う話題を提供してくれて、私が嫌そうだと判断するとすぐにやめてくれます。
ですが私だって真里と遊びたいんです。
少しでもやれそうだと思うのならやってみます。
ダメだったらダメだった時です。
真里の好意に胡坐をかくような行動ですが、やらずに離れていくよりはまず乗っかってみましょう。
まずやらないことには、真里と遊ぶなんてできませんしね。
「だからお願いします真里。一緒にやらせてください」
そう言うとすぐにいつもの真里の表情へと戻ってくれました。
やっぱり真里はその顔が一番です。
「さすが碧! さすが私の嫁ー!」
ですがお店の中で大きい声を出すのはやめてほしいです。
百合ルートは(多分)ありません。
予定変更してこの章まで連続で投稿することにしました。
誤字脱字訂正が終わり次第上げていきます。
訂正しきれてない誤字脱字や矛盾点等ありましたらご指摘ください。
でもメンタルが豆腐なのでソフトにお願いします……。