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7-6 最速への道。


 リレーが終わったあと、インタビューだのなんだのあったが、副長が全部任せろというのでそのまま任せてしまった。

 前回同様相当凹んじまってたようだな。

 副長に押し切られたとはいえ、結局は丸投げしちまった。

 団長のくせに情けない。

 あいつらだって悔しいはずなのにな……。

 そう考えつつも、俺の頭ん中は一つのことでいっぱいだった。


 また、勝てなかった。


 この言葉が頭から離れない。

 しかもゾーン一個半の差をつけていた相手に負けた。

 空を飛べるんだから負けて当たり前だ?

 そんなわけない。

 今回のコースはやたらと高度制限があるしペナルティの矢だってきつかった。

 高度制限はあんま意味ないだろと思ったが、その理由はこれだったんだろう。


 だが当の本人はなんとペナルティゼロ。

 高度オーバーも無し、矢のダメージも無し、ボスもノーダメージ。

 特にきつかった第二ゾーンでも、岩も矢も、とんでもないスピードで全て避け切ったらしい。

 第一ゾーンは獣人雑技団もやってたが第二ゾーンまでも。

 経験したからわかるが、あそこの矢を全部避け切るのはまず無理だ。

 慎重に避けた俺だって数本はくらった。

 魔法で吹き飛ばしたり盾で防ぐならわかる。

 だが彼女はそんなもの使わず全部避けたらしい。

 恐ろしいほどの回避能力だ。


 さらに第四ゾーンに至っては、魔物の多い最短ルートをノーダメージで突っ切ったらしい。

 坑道とはいえ幅と高さはそれぞれ約十メートルほどと結構広かったが、その中を飛ぶとなると話は別だろ。

 しかもほとんどスピードは緩めなかったらしい。

 一歩間違えれば壁か魔物に激突だってのに、どんな神経してんだよ。

 ただ飛べるってだけでそんなことできるか?

 いや無理だろ。

 車に乗れるからって誰でもスピードが出せるわけじゃない。


 だから俺が負けたのはただの実力の差だ。

 それ以外のなにものでもない。

 それはわかってるんだけどな……。


「こんなところにいたか」


「……巌か」


 俺が今いる場所は東門の上、見張り台になっているところだ。

 コースは既に消えちまってるが、集まった観客たちはそのままそこで大騒ぎしている。

 前回より屋台も増えていたし、最近市場の屋台が落ち着いてた分ここで稼ごうってやつらが頑張ったのもあるだろうな。

 実況もあったおかげでかなり盛り上がったし、もうしばらくはこの騒ぎが続くだろう。

 俺がいる東門の上はそんな喧騒から離れ、でもその騒ぎが見える場所だった。

 こんなとこにいる辺り、未練たらたらだな俺。


 巌も同じ気分だったのかもな。

 何も言わずにコップと酒瓶を向けてきた。

 注いでもらって、巌には俺が注いで。

 コップを合わせることもなく、そのまま飲み始めた。

 そのまま三度ほど注いだ頃だろうか、巌がようやく言葉を発した。


「お前は……これからどうする」


 “これからどうする”

 巌のいる黒帯は今回四位だった。

 では、その言葉の意味するところは。

 俺はそれに、なんと返すべきか。

 真意を探ろうと視線を巌に向けてみると、やつの顔は……そうか。

 なら俺の返す言葉は決まっている。


「まずは部隊ごとのスキルの見直しだな。武器の習熟は進んでいるが弓系のスキルはまだ修得が進んでいない。それから種族特性も改めて見直さんとな。馬だって感覚はいいんだ。鍛えればものになるはずだからな」


 そう、次に向けてどう鍛えるかだ。


 今だって、悔しさからこんなとこでウジウジしてる。

 ああすりゃ良かったこうすりゃ良かったと後悔してる。

 確かに今回も勝てなかった。

 だが勝つ可能性は十分にあった。

 前回は三位、今回は二位。

 だったら、もっと鍛えりゃ次は一位だ。


 俺と同じくコースのあった場所を睨み続けていた巌が、俺の声に視線を戻す。


「俺のところもスキルからだな。威力ばかり重視しすぎたせいで汎用性に欠けていた。ボスを舐めすぎた結果だな」


 黒帯は前回の俺たちのようにボス戦で苦労していた。

 攻撃が当たらないんだからしょうがねぇ。

 巌も含め術スキルのアレンジができるやつは何とか届いていたが、それでも俺たちより平均タイムは下だったはずだ。

 その点、三位のナイツオブラウンドはさすがというべきだな。

 俺たちのように弓を持ち出すやつもいれば、見たこともないスキルで攻撃するやつだっていた。

 全員が強くバランスがとれていた。


 だが戦闘でその上を行くのはやはりエスだった。

 最強パーティと呼ばれる力をこれでもかと見せつけていた。

 一番攻撃力の低そうな弓使いでさえ一分台。

 第一走者は魔法を打ち込むだけにしか見えなかったが何故か相手は近づけないし、第三走者は防御したと思ったらそのままシールドバッシュで吹っ飛ばすし。

 走ることは苦手だったからあれだけ引き離すことができたが……もし一人でも走れるやつがいたら、勝負にもならなかったろうな。


 ボス戦でさえこれなのに、参考にできることは他にも山ほどある。

 獣人雑技団のスキルの使い方。

 ケモミミ愛好会の種族特性の使い方。

 負けたのは悔しい。

 だが俺たちは、まだまだ強くなれる。

 だったら。


「まだやれることはあるからな。ここで諦めるんだったら、最初からやってねぇよ」


 そう言いながら酒瓶を向ける。

 お前もだろ? と睨みつけながら。


「違いない」


 笑って酒を注がれる巌。

 次のイベントも、面白くなりそうだな。

 俺たちは二人、酒をあおった。


「見つけましたですのっ」


 そんな空間に女の声が響いた。

 ついその方向へ顔を向けてみれば……人、か?

 なんか随分サイズが小さいが。


「お姉様ーこっちですのー」


 人形サイズの女が階段にむかって声をかけた。

 そして階段から現れたのは女神だった。


「ありがとうグリーン」


 小さい女が女神の肩に腰に座ってようやく気付いた。

 そういえば初めて会ったときから居た気がするな。いっぱいいっぱいだったから忘れてた。

 それにしても本人は飛ぶしそんな小さいのと知り合いだったり、もう何でもありだな。

 やっぱエスの一員だったってことか……。


「すいません。楽しんでるとこお邪魔してしまったようで。すぐ済みますので」


 酒瓶を見つけた女神から断りが入るが……すぐ済むって何の用だ?


「構わんが、どうした一体?」


 巌もわからないらしい。

 さっきも大した話はしてないしな。


「先ほど、お二人にはセクハラされてるところを心配してくださったので、それのお礼です。ありがとうございました」


 そう言って頭を下げる女神。

 セクハラってあのクソ勇者のやつだろ?

 別に俺たちが何かする前に通報して終わった話じゃないか。何でそんな事で。


「俺たちは何もしてないはずだが」


 ただ睨みつけてただけのはずだけどな。


「横から睨んでくれたじゃないですか。膝をついたポーズだったのは、二人のおかげで腰が引けてたからだと思うんです。あれがなければあの人、絶対に腰に手を回すとか、もっとひどいことしてましたよ。だから私もメニューの操作をできたんです」


 ……睨みつけてただけでも効果あったんだな。


「そんなことまで考えてたわけじゃないがな、役に立ったならよかった」


「あいつはしつこいからな。今後も気を付けた方がいい」


「はい、ありがとうございます」


 小さな笑みをむける女神。

 ……そうか、俺は走る前にこの笑顔を忘れようとして走ったんだよな。

 負けるはずだ。

 自分の力になるものを削ってたんだからな。

 俺にはスキルよりも何よりも、覚悟が足りてなかったってことか。


「あ、申し遅れました。私はイオンと言います。またどこかで機会がありましたら、よろしくお願いいたします」


 イオン。

 それが女神の名か。

 ようやく知ることができたな。


「俺は巌だ。黒帯というクランのリーダーをやっている。こちらこそよろしくな」


「ルドルフだ。ホースメンのリーダーやってる。何か力になれることがあったら言ってくれ。今回は勉強になったからな」


「勉強ですか? 特に何かやったつもりはありませんが……」


「イオンと同じ、知らない間にだよ。細かいことは気にするな」


 気にされても答えられないがな。


「そういうことでしたら聞かないでおきます。では、もし何かあったときにはお願いしますね」


 失礼しますと言葉を残して、イオンは階段を下りて行った。

 後に残ったのは、どこか清々しい気分の俺たち二人。


「珍しいな。お前が女にそんなことを言うとは」


 そんな緩みからきたんだろう、巌の声にはからかうような色が含まれていた。


「お前こそ階段下りていくまで見送りやがって、女に興味があるとは思わなかったぜ」


 外見のせいで女が寄ってこないから巌自身は硬派なイメージだが、実際は本人も女への免疫がなく怖がってるからな。


「……そういえばお前、彼女と知り合いだったような口ぶりだったな。どこで知り合った」


「……お前には関係ねぇだろ。何でそんなこと気にするんだよ」


「た、他意はない。だが彼女は俺のような男でも丁寧に接してくれるからな。何か礼でもできないかと思っただけだ」


「話しただけで礼とか硬すぎるんだよ。イオンにそんなことしてみろ、何お返しが来るかわかったもんじゃねぇぞ」


 ぶつかりそうになっただけでドーナツくれるんだからな。


「やはり何かあったな? はっ、貴様! だからあんな言い方して関わりを作ったのか!」


「頭の回転がおせぇんだよ巌。これじゃ次のリレーも俺の勝ちだな」


 本当はそこまで考えてなかったけどなっ!


「貴様ぁ……お前とは互いに競い合える関係だと思っていたのだがな……」


「悪いが一方的に高みに上るのは俺のようだな……」


 いつの間にか立ち上がり、ゆっくりと構えだす俺たち。

 さっきまでの清々しさなんざ欠片もねぇ。

 リレーも女神も、俺はもう負けるわけにはいかねぇ!


「あっ団長! こんなところで何してるんですか!」


「いいとこに来たなブライアン。今すぐ全員集めろ、黒帯にクラン戦しかけるぞ!」


「はっ!? 何でそんな事に!?」


「いい度胸だルドルフ。こちらも全力をもって叩き潰してやろう」


「ちょっ、巌さんまで!」


「今日こそ白黒つけるぞルドルフゥゥゥ!!」


「望むところだ巌ぉぉぉ!!!」


 その後始まったクラン戦は、リレーの実況がクラン戦も実況したおかげで相当盛り上がった。

 終わるころには死ぬほど疲れたけどな……。

 走り終わった後の疲れとは違うが、たまにはこういうのも悪くないな。


 それとクラン戦をやってる俺はかなりはっちゃけてたらしい。

 “すっきりさん”とか言われるようになった。

 残念ながら汚名は消しきれなかったが、それは次回だな。

 相手が巌だろうが女神だろうが、絶対勝ってやるぜ!


12/13 誤字修正。


逆ハーフラグはありません(断言)。


次回は主人公視点でイベントです。が、次回投稿まで数日空きます……。

目標は前回よりも早く……。

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