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7-5 最速への道。

『ゼロ!』


 ドゴオオオオオオオオオオンンン!!!!


 スタートと同時に大爆発が起きた。

 しかも目の前で。つーかスタート地点で。


『おーっと一体どうしました!? 前回はここまで派手なスタート合図じゃありませんでしたがー!?』


『いや魔法だなこれ』


『魔法ですか!?』


『一人走り出してるだろ。あいつが全員吹っ飛ばしたな』


『まさかの開幕大技ぁ!! 抜け出したのは予想外というかやはりというか、なんとエスだぁ!!』


 マジかよおい!

 うちだってスタートと同時に近くのプレイヤーに仕掛けろとは言っておいたが、だからって全員吹っ飛ばすか!?


『エスの第一走者は魔力操作で名高いアヤメ選手! さすがに魔法の威力は素晴らしいですね!』


『それもだが他にも何かやってるな』


『ただ爆発魔法を使用しただけのように見えましたが?』


『チラッとだけど他のやつの魔法も見えたからな。開幕で何かやろうとしたのはアヤメ選手だけじゃない。なのに本人はノーダメージ。すぐに防御魔法展開するだけじゃ間に合わないはずだが……今のだけじゃ見えなかったな』


『あの一瞬でそんな攻防があったとは! さすがとしか言いようがありません!』


 何やったかわからんがそこまでやってんのかよ。

 やっぱエスは全員が化物ってことか……。

 だが今はあくまでリレー競技だ。

 流石に魔法専門職だけあって足は速くないようだな、あの速度ならすぐに追いつける!


『爆発から復帰した皆さんがようやくスタートしました。やはり走るのは苦手かアヤメ選手! 最短ルートを進んでいますが差が詰まっていきます!』


『こりゃまずいな』


『魔法一つだけでは足りなかったか! もっと徹底的にやっておくべきでしたアヤメ選手!』


『いやそっちじゃない。追い上げてるほうだ』


『え、追い上げてる方ですか?』


 追い上げてるほう?

 何言ってんだ。走り出してしまえばこっちのもんだろ。

 ほらもう追いつかれて……またふっ飛ばされた。

 おい!


『アヤメ選手に追いつこうとすると次々魔法が飛んできます! これは前に出れない!』


『恐ろしく正確に狙ってくるからな。避けるのは相当大変だぞ』


『しかも魔法が外れたと思ったらそのまま魔物を打ち抜いていきます! 近寄らせないよう弾幕を張ったかと思えばなんとチェックポイント対策まで! 抜け目ありません!』


 スタートを邪魔するのが目的だったんじゃなくこっちが本命か!

 一旦前に出てしまえば後は妨害するだけかよ!

 しかも近場の魔物はどんどん倒されていくから、他のプレイヤーはわざわざ遠くの魔物を狙う必要がある。

 とんでもねぇ嫌がらせだな!


 だがうちだって負けてねぇ!

 第一走者のキャップは冷静に状況を判断できる奴だ。

 作戦にとらわれずに臨機応変な対応ができる。

 今は先頭の十人に入ってないらしくカメラに映ってないが、必ずすぐに上がってくる!


『アヤメ選手チェックポイントに入りました! 魔物を大量に倒してましたから矢は全く飛んできません! 安心して一本橋に集中しています!』


『こうなると楽なんだがなぁ』


『続いて入ってきたプレイヤーには矢が次々飛んでくる! これはきつい!』


 二番目のやつはタイム優先で魔物を倒さなかったようだな。

 矢がすげぇ飛んでくるな……んで落ちるよな、やっぱ。


『川底に落ちましたがもちろん死ぬことはありませんっ、頑張って上がってきてくださいっ、……と言いたいところですが流されてます! なかなか前に進めてませんっ、流れがきついうえに深さもあるようです!』


『あとは川底も滑りやすいんじゃないか。前回の川ゾーンもそうだったしな』


「あそこで落ちるのは絶対に避けろ。多少遠くても魔物を倒せ」


 その光景を見て即座にメンバーに指示を出す。

 そして俺が言葉を発してすぐ、カメラにチェックポイントに入ってきたキャップの姿が映った。

 時間がかかったのは魔物を倒していたかららしい。

 飛んでくる矢はゼロではないが相当少ない。

 あれならなんとかなるレベルだな。


「二番目のプレイヤーは一体しか魔物を倒していませんでしたので矢はあの数でした。キャップがどれだけ魔物を倒したかわかりませんが、時間的に十体に近かったと思われます。なのでひとまずは八体以上を目途にするのがいいと思います」


「聞いたな。その作戦で動け」


「「「はい!」」」


 副長の案をそのまま採用する。

 後方から戦場を見る副長だからその辺もよく見てるからな。

 結局俺たちのクランは第一ゾーンを七位で通過した。

 最初が響いているがまだ取り返せないほどじゃない。


『さぁアヤメ選手に続き第二ゾーンに選手が入っていきます。最短ルートにはアヤメ選手という壁がありますので、前に出たければ遠回りのルートを行くしかないかっ?』


 俺たちは遠回りのルートだ。

 今回も確実にタイムを出せると考えていたからだが、最短ルートを選んだ連中は……。


『壁を恐れず最短ルートにむかった選手たちが岩を相手に苦戦っ、速度はもちろんかなりの大きさもあって相当避けにくいようですっ。あーっとそこにアヤメ選手の魔法が飛んでくるっ、たまらず岩に激突! これは痛いっ!』


『しかもアヤメ選手は魔法で岩のコースを変えてるからな。自分は岩を避けなくていいし後ろの連中は転がる方向の予想もつけづらくなるし、相当大変だな』


『一石二鳥のアヤメ選手っ、足は遅くても前は譲りませんっ!』


 ただまっすぐ転がってくるだけ岩が、土魔法で壁を作って転がる方向を変えてくるもんだから後ろの連中は大迷惑だ。

 一方のキャップも岩を避けるのに苦労していた。

 岩の速度は遅いから岩にぶつかるようなことはなかったが、それでもかなり走りづらそうだった。

 しかし最短ルートを行った連中が順位を落としてくれたおかげで、第二ゾーン終了時点で三位まで上がった。


『次はゾーン全体がチェックポイントとなる森ゾーンです。ここではプレイヤーがバラけますので、アヤメ選手の妨害もひとまず収まりますね』


『魔力の回復に入ったってことだな』


『後が恐ろしいということですね! 後方のチームは壁を突破するチャンスですよ!』


 そのとおりだ、ここで抜いておかないと後がきつい。

 楽に動物を捕獲できればいいが……。

 キャップの動物は兎。

 悪くない。他にどんなのがいるか知らないが、立体的に逃げられることは無いからな。

 居るのか知らんがもし鳥だったりしたら大変なことになっていた。

 しかもキャップの幸運は続いた。

 規定数五羽のうち、三羽が同じ場所に固まっていたのだ。

 多少逃げられて時間は取ったが十分早い方だろう。

 これならいけるか……?


『第四ゾーン一番乗りは黒帯です! 二番手は……ホースメンが来ました! 三番手以降はまだ来ません!』


 よし!

 少なくとも壁は突破した!

 多少の距離なら後ろから撃たれただろうが坑道に入ってしまえばこっちのもんだ!


『エスは三番手! 魔法専門職ですがまだ食らいついています! 先頭集団は坑道に入りましたが……黒帯とホースメンは全く違う方向に向かってますね』


『黒帯は正面から魔物を突破するルートだな。パワー重視のクランだから妥当だろう。ホースメンは魔物の居ない方を選んでるな。これも走るのが得意なホースメンの得意分野だ』


 ここはキャップの動きに集中して順路を覚えないとな。

 俺たちが迷ったりしたら目も当てられん。


『黒帯とホースメンがほぼ同時にチェックポイントへ突入! ボスのレッサーマンティコアの登場です!』


『戦い方にもよるが基本は先手必勝だな。飛ばれると厄介だ』


『多少のダメージは無視してもいいということでしょうか?』


『空中から叩き落すスキルがあるんだったらいいんだが、無い場合は悲惨だからな。見たところボス部屋は結構広い。遠距離攻撃できないプレイヤーは、ひたすら下りてくるのを待つことになる』


 ボス部屋の大きさは体育館ほどの広さがある。

 天井近くまで飛ばれたら厄介だ。


『あーっと、黒帯もホースメンも空中に逃げられました! がっ、ホースメンは弓に切り替えて攻撃をしています! 黒帯はジャンプして攻撃しようとしますが届きません!』


『ホースメンの改革がうまくいったな』


『レッサーマンティコアの魔法が飛んできますがホースメン避ける! 走り回って攻撃を避けまくります! そして自分の攻撃は当て続けます! あっ、撃破しました! ホースメン撃破!』


 おっしゃあ!!

 戦闘時間は二分半。悪くないタイムのはずだ!


「オルフ、ビスタ、装備を弓に変更だ」


「「了解です!」」


 第二、第三走者のオルフとビスタは重装騎兵隊だ。

 普段は近接武器しか使用しないが、この二人は弓も使えるのでメンバーに選んでいた。

 念のためと思っていたが大正解だったな。


『一位で倒したホースメン、ダメージも少なくすぐにペナルティ終了! スタート地点へと戻ってきます!』


『他のクラン頑張らないと、ホースメンの一人勝ちだぞこりゃ』


 チェックポイントのあとはすぐに坑道も終わり、そこからこのスタート地点までは下り坂となっている。

 魔物もいないし障害物も無い。ひたすら走るだけだ。


「オルフ! 頼んだぞ!」


「了解しました!」


 第二走者のオルフを一位で送り出し、安心すると同時に俺たちは驚喜した。

 これなら勝てる!

 観客は面白くないかもしれんがこのまま一人勝ちさせてもらうぞ!


 その後はそれを裏付けるかのようにリレーは順調に進んだ。

 他のクランも学習して追い上げてきたがそ分俺たちは突き放してやった。

 俺が出走する時点では二位との差は約ゾーン一個分。

 エスはさらにその後方。

 ゾーン一個半の差がついていた。

 懸念はあったがこれなら女神と争う事も無い。

 女神に悲しい表情をさせるのは心が痛むが……。


パンッ!


 自分の頬を打ち、目を覚まさせた。

 何のために今まで頑張ってきたと思ってるんだ!

 間違えるな! 俺たちは勝たなければならないんだ!

 大事なものは何だ!

 クランに決まっている! 俺たちの信念を貫くことに決まっている!

 女神のことは今だけは忘れろ! 俺にはクランメンバーの力がある!


「団長! お願いします!」


「任せろぉ!!」


 ブライアンから託され、俺は走り始めた。




 第一ゾーン。

 魔物を倒すタイムロスとチェックポイントでのことを検討した結果、俺たちに最適な討伐数は八体とした。

 最短コースから少し外れつつも、魔物を倒すことを優先し走り抜けた。

 チェックポイントでは矢に注意しつつ急ぐが、何よりも下の落ちた時のタイムロスが怖い。

 ひたすら慎重に進んだ。

 それに残念だが、第一ゾーンの区間賞は獣人雑技団で間違いないからな。

 前回もスキルで飛び越えていやがったが、今回は全員が突進系の攻撃スキルを使って一本橋の上を猛スピードで駆け抜けやがった。

 魔物は倒してないからタイムロスも最小だし矢にも当たらないし、悔しいがこのゾーンではあいつらに勝てなかった。


 第二ゾーン。

 ここは最後まで決まった攻略法が見つからなかった。

 だが岩に潰されるほうがロスが大きくなりそうだったから慎重に進んだ。

 じれったいがしょうがない。

 黒帯みたいなパワーがあれば話は変わったかもしれないんだけどな。

 あいつら避けられない岩をタワーシールドで受け止めやがった。

 チェックポイントもタワーシールド構えて走り抜けるし、矢なんてまるで意味なかった。

 うちの重装騎兵隊にもやらせようと思ったが、さすがに重くなりすぎるってことでやめた。

 黒帯もよくやるぜ。


 第三ゾーン。

 俺の捕獲動物はイタチ五匹。

 コンパスの示す方角へ一気に走る。

 そして倒木に隠れたイタチを見つけたが、幸運なことに二匹まとめて捕獲できた。

 後の三匹はバラバラの場所で走り回る必要があったが、見つけてしまえばすぐだったから悪くない方だろう。

 ここではクラン“ケモミミ愛好会”の連中がヤバかった。

 コンパスほとんど使わずに見つけてくんだぜ。

 耳と鼻をうまく使えると索敵範囲が広がるって話だが、あそこま使えるもんなんだな。

 素直に感心したぜ。


 ラストの第四ゾーン。

 迷路部分は既に順路ができてるから問題ない。

 できるだけ魔物の少ないコースを走り抜けた。

 そして現れたボス、マンティコア。

 四人目までのレッサーとは違い。一人五分で倒すにはそれなりに苦労する魔物だ。

 レッサーに比べ魔物の詠唱が早いし攻撃力だって上がってる。

 だが速さはそこまで変わってねぇ、いつも通りやれば勝てる相手だ!


 会敵直後、いきなり魔法を詠唱するマンティコアを無視してそのまま突撃。

 すれ違いざまに剣を振りぬき、スピードブーストをきっちり乗せた一撃をくれてやる。

 怒ったように暴れ出すマンティコア。

 今までだったらここで距離を置くところだが……今の俺ならやれる!

 振り回すサソリの尻尾をくぐるように避けて剣を切り上げ、そのままの勢いでわざと正面へ回る。

 馬鹿めと言わんばかりに噛みつこうと飛び掛かってくるマンティコアを横っ飛びで躱し、隙だらけのマンティコアにむけて弓術影縫いを撃ち込む。

 名前からわかる通り行動阻害系の技だが完全に動きが止まるわけではなく、ただスピードが落ちるだけの技だ。

 だが第四走者のブライアンがレッサーマンティコアに使用したところ、これが原因で空を飛べなくなっていたようなのだ。

 そんな攻略法があるとは聞いたことなかったが使えるんなら何でもいい。

 そしてこうなってしまえばこっちのもんだ。


 唸りをあげながら振るう爪を悠々と躱し横っ腹を切り付ける

 そこを狙ってまた尻尾を振り回してくるが、遅い。

 根元から尻尾を切り落とし、痛みで暴れるマンティコアの背中にスキルを撃ち込む。

 前足を振りかぶってきたので、いったん距離を取って弓で攻撃。

 距離が開いたら慌てたように魔法の詠唱を始めるが、むしろ好都合だ。

 飛んでくる魔法を体をよじるようにギリギリで避け、正面からもう一度ブースト込みの一撃。

 そして飛びかかろうとするマンティコアから距離をる。

 隙がれば近づき剣で切り、すぐに距離を開け弓を撃つ。

 それを繰り返し、いつも通り確実に削っていく。

 次第にダメージの溜まってきたらしいマンティコアが、唸りをあげつつ何とか一矢報いようと体制を低くする。

 次の瞬間、俺の予想通りに飛び掛かってきたところをすれ違うように躱し、がら空きの背中に向けて、


「二連疾風切り!!」


 スピード優先の疾風切りをアレンジ、二連撃で叩き込む。

 これが止めになり、マンティコアは悲鳴を上げて倒れていった。


 よしっ!

 やはりレッサーより体力はあったが、飛ばせなかったから決して遅いタイムではないはずだ!

 開いた出口へ飛び込む。

 ボス部屋の先は短い坑道。

 この先は外に繋がっていて、そこからはただの下り坂。

 逆光で眩しい外へ向けてひた走る。

 そして開ける視界。

 外に出た俺の視界に入ったのは、何もない平坦な坂とその先のゴールライン。

 その脇で待つ仲間たち。

 眩しい太陽の光が俺を歓迎するかのように照り付け。

 背中から吹く風は俺を急かすかのように吹き付け……。


 ――背中から?


 後ろは坑道だ。風なんか吹いてない。

 山からの吹きおろしの風か?

 いや坑道に入る前はそんな風吹いていなかった。

 じゃあ、さっき俺の背後から吹き抜けていった風は何だ?

 今はただ走らなければいけないはずなのに。

 俺はその風に誘われるように、背後ではなく、何故か上へと顔をむけた。

 空は雲一つない青空。

 その空を飛ぶ、一羽の鳥。


 鳥?

 いや違う、鳥にはあんな人間みたいな足はついてない。

 あれじゃまるで人が飛んでるみたいじゃねぇか。

 人が飛ぶ?

 バカいえ、いくらゲームでも人は飛ばねぇ。

 それこそNPCの鳥族でもなきゃ――


 その言葉に意識を取られた瞬間、空を飛ぶ鳥が高度を一気に下げ、その青い髪が目に入った。


 俺の脳裏を何度もかすめた、彼女の色。

 背中しか見ていないが俺にはわかる。

 あれは、彼女だ。

 だが。


 何で、あんたがそこにいるんだ?

 何で、あんたが飛んでいるんだ?

 何で、あんたがゴールにむかっているんだ?

 何で……。


 俺は何もわからないまま、考えることもできないまま。

 ただ、彼女がゴールする姿を眺めているしかできなかった。



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