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7-2 最速への道。


「ルドルフ団長! お疲れ様です!」


 訓練場に来た俺に、クラン副長のブライアンから声がかかる。

 訓練場とはいっても俺たちクランのものではなく、NPCからルフォート自警団の施設を借りているだけだ。

 拠点はあるが訓練場まで買う金は無く、仕方なくこういう形をとっている。

 このゲームはレベルアップでステータスが上がるのは当然だが、プレイヤースキルの向上も強さに繋がる。

 だからたまに訓練場を借りて、全員の技術を見直しているわけだ。


「ブライアン、仕上がりはどうだ?」


「見ての通り最高ですよ!」


 そう言って訓練場を示すブライアンにならい、俺も訓練場を確認する。

 そこでは大きく三つに分けた部隊がそれぞれ訓練に励んでいた。


 一つ目は遊撃騎兵隊。

 近接武器と弓を使う、近・中距離戦部隊。

 防具は比較的軽装にして走り回らせ、隙を見つけては攻撃する。

 馬族として最もスタンダードな部隊だ。


 二つ目は砲撃騎兵隊。

 長弓と魔法を使用する遠距離戦部隊。

 魔法適正が低い馬族だからといって使用できないわけではない。

 魔法専門とせず、長弓と併用させることで不得手をカバーさせた。


 三つめは重装騎兵隊。

 近接武器と盾。

 フルアーマーに身を包み、攻撃力と防御力に特化した部隊。

 馬族の武器である機動性は犠牲になったが、その持久力をもって継続的に戦線を支える主力攻撃部隊。


 この三つの部隊こそが、俺たちの考えた新しいこのクランの姿だ!


 三ヶ月前のイベントの後、自分たちの不甲斐なさを思い知らされた俺たちはすぐに敗因を探した。

 その結果、俺たちの弱さは馬族そのもののせいではなく、馬族としての能力を生かし切れていない自分たちのせいだと考えた。

 持久力は確かに武器となる。

 だが俺たちはそれに甘えきり、全く生かそうとしていなかったと考えたからだ。


 それにより生まれたのがこの三つの部隊だ。

 まず今までの戦い方に近い遊撃騎兵隊には弓を持たせた。

 持久力はあるんだから多少の重量増加は問題ない。

 一撃入れたら離脱するのは変わらないが、離脱中、走っているだけでは攻撃機会を無駄にしてしまうと考えた。

 その結果接近戦だけでなく、中距離からの攻撃も行えるようになったことで一気に手数が上昇した。

 一撃ごとのダメージ量は変わらないが、時間当たりのダメージ量は増加。

 戦闘時間の短縮へとつながった。


 砲撃騎兵隊。

 これは副長からの提案で導入された部隊だ。

 馬族は魔法適正が低く、どんな魔法でも性能はイマイチだった。

 だが副長によると、確かに魔法を得意とする狐族や鼬族には及ばないが、犬族や猫族とはそこまで大きな差は無いと言う。

 長弓などの遠距離武器と併せて使用すれば、それなりに成果が出せるかもしれないと言うのだ。

 自身は逃げつつ魔法と長弓を打ち続け、そもそも近づかない戦法。

 副長本人が接近戦が得意ではなく、長弓を主体として戦っていたから思いついたようだ。

 この戦法は想定以上の成果を上げたため正式採用。

 近距離戦を苦手とする人員を中心に構成した。


 そして重装騎兵隊。

 今までの戦法とは真逆であるこの部隊は、当初ものすごい反発を受けた。

 当然だ。走ることが最優先のクランで、走るなと言われたのも同然だからな。

 しかし何とか説得し始まったこの部隊。

 成果はすぐに表れてくれた。

 今までは攪乱は出来ても魔物の動きが完全に止まるわけではなかったから、どうしても攻撃を外す場面が多かった。

 それを重装騎兵隊がヘイトを取って足止めさせると一気に状況が変わった。

 中距離以上の攻撃が面白いほど当たる。

 遊撃騎兵隊の攪乱もやりやすくなったうえ、重装騎兵隊は一撃の攻撃力が大きいから止めも刺しやすくなった。

 しかも戦闘中は走り回らないせいか体力消費も想定より少なく、戦闘後の移動速度もそこまで低下しなかった。


 前衛の重装騎兵隊、前・中衛の遊撃騎兵隊、後衛の砲撃騎兵隊。

 前衛から後衛まで揃った、当たり前のパーティ構成だ。

 だが以前の俺たちは自分たちの特技に頼り切って、ただ走り回ることしか考えてなかった。

 そんなんじゃ仮にリレーに勝てていたとしても、攻略クランを名乗れるほど成長することはできなかっただろう。

 今考えれば負けて当たり前。むしろ負けて正解だったかもしれない。


 確かに以前に比べ足の速度は落ちた。

 だが全体として見ると間違いなく行軍速度は向上した。

 被害も減り戦闘に余裕ができるようになった。

 お互いがお互いを補い合える、まとまりのあるクラン。

 これが今の俺たちの姿だっ。


「ようやく、形になったな……」


 思わず感慨深いつぶやきが漏れてしまった。


「何言ってるんですか。俺たちの戦いはまだこれからですよ!」


 何でそんなフラグ臭いこと言うんだよ。

 だがブライアンの言う事も最もだ。

 俺たちは来週の戦いを勝ってこそ、本当の意味で騎兵クランとなる。


『第二回 バトラー&アスリート 異世界式アンリミテッドクロスカントリーリレー』


 来週水曜に行われるこのイベント。

 俺たちはこの日にむけて、ひたすら鍛練を積み重ねてきた。


「そうだな。今度こそ負けるわけにはいかねぇっ、俺たちは勝つ!」


「その通りです団長!」


「おっしゃあ! 俺たちも訓練やるぞおらぁ!」


「了解です!」




 つっかれたなー。

 結局あれからぶっ続けで訓練やっちまった。

 強くなるのは気分いいがやり過ぎてもいかんな。

 それもあって明日は訓練時間を減らす予定だ。

 本番に疲れを残してもいかんしな。

 にしても疲れたし腹減った。

 こういう時は市場で買い食いでもしたいもんだが……。

 こないだどっかのバカが女性プレイヤーの不興買って行きづらいんだよな。

 ただ飯を食うだけならそこらの飯屋でいいんだが、なんか今は甘いもん食いたい気分なんだよな……。

 かといって男一人でそういう店に入るのはゲームの中でもハードル高いしな……。

 もう一週間は経ってるしそろそろ大丈夫か……?

 とりあえず行ってみるか。駄目なら諦めて飯屋だ。


 と、呑気に考えて市場に来たわけだが……やっぱ男はまだ少ないな。

 詳しくは知らんがよほどのことやったのか。

 しょうがね。どっか適当な店に……。


「あっ」


「おっと」


 振り返ったすぐそこに人が居てぶつかるところだった。


「すいません。ちょっと考え事してました」


「ああいやこっちこそ……っ!?」


 振り返ったそこには、天使が居た。


 艶やかな青い髪。

 可愛らしい目元。

 常に微笑みが浮ぶような、優しい顔立ち。

 そして絹のような白い翼。


 その姿は、まごうことなき天使だった。


「あの、大丈夫ですか? どこかぶつかりましたでしょうか」


「……はっ、いえ! 大丈夫です!」


 やべぇよ天使に声かけられたよ俺!


「そうですか? もし怪我でもあればポーションありますが」


「いえ! マジで! 大丈夫です!」


 大丈夫だよな大丈夫だよな!

 つーか天使と話てるよ俺どうしたらいいんだよ俺!


「それならよかったです」


 うわぁぁぁぁぁぁ笑顔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「あ、甘いものは食べられますか? よかったらこちらどうぞ。少し買い過ぎてしまったので」


「はい! 大丈夫です!」


 甘いもの大丈夫です! 買い過ぎ大丈夫です!


「よかったです。男性は甘いもの苦手な人も居ますからね」


「はい! 大丈夫です!」


 大丈夫です!


「今日は本当にすいませんでした」


「いえ! 大丈夫です!」


 大丈夫大丈夫大丈夫!!


「気をつかっていただいてありがとうございます。それでは失礼しますね」


「はい! 失礼します!」


 そうだ失礼しよう! ひとまずこの場から失礼しよう!

 急いで失礼した方がいいよな! 速さなら俺に任せろ!


 だからどこまでも走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………………




 気が付けば、俺は何故かフィールドのど真ん中に居た。

 何でこんなとこにいるんだ俺。

 おかしい、さっきまでルフォートに居たはずだ。

 しかも俺何を持ってるんだ?

 街では手ぶらだったはずだが……何故ドーナツを?

 ドーナツ………ドーナツ……。


 うあああああああああああっ!!


 俺は一体何をした!?

 天使に会った時何をした!?

 馬鹿みてぇに大丈夫しか言ってなかったよな!

 あんだけ気ぃつかってもらっといて何やってんだ俺ぇぇぇぇ!!

 しかもお詫びにドーナツまでもらいやがって!

 ああいうとき気をつかうのは男の役目だろぉぉぉぉぉ!?

 礼も詫びもせずに逃げやがって!


 俺のクソやろおおおおおおおおおおおおおおお!!


 ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……。

 いいか俺……ひとまず落ち着け……。

 まず彼女は天使じゃない。鳥族だ。

 どう見ても天使にしか見えないが鳥族だ。理解しろ。

 そのうえで、だ。彼女はぶつかりそうになった俺に対してどうした?

 ぶつかってないか気をつかってくれた。怪我をしてないか心配してくれた。

 それに対して俺はどうだった?

 大丈夫しか言わなかった。

 俺のゴミやろ……っ、いや落ち着け……今は現状確認だ。

 戦場を正確に認識することが勝利につながるのだ。

 俺が大丈夫だと分かった彼女はどうした?

 何かお詫びできないかと、ドーナツをくれた。

 なんでドーナツを?

 買い過ぎたと言っていた。

 本当だと思うか?


 なわけねぇだろおおおおおおおおおおおおおお!!


 ぶつかってもない俺のことを気にしてくれたうえにお詫びに大事なドーナツまでくれて!

 俺はろくに礼も言えてないのに!


 俺はゴミムシだああああああああああああああああああ!!


 しかも昭和のヤンキーとか言われる俺の顔見てビビりももせず!

 あんな笑顔で!


 ぬあああああああああああああああーーーーーーーーっっっ!!!………………はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………。


 ……天使と言うのは……空想の産物じゃなかったんだな……。


 俺はその日、この世界で。

 天使と出会った。




恋愛フラグは立ちません。


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― 新着の感想 ―
今なら分かる これ、オルフェーブルとかコントレイル居ない?
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