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6-5 これもクエストでしょうか?

「ごめんください」


 扉を開きながら声をかけて入ります。

 建物は倉庫というか頑丈な家と言う感じなんですが、呼び鈴も無かったので勝手ながら入らせてもらいました。

 中は雑然と荷物が置かれていてかなり散らかった状況です。

 一応人が住んでいそうな感じではありますが……。


「うっせーなぁ今度は誰だ!」


 奥の方から苛立った声をあげながら一人の男性が出てきました。

 猫……というよりライオンみたいな方ですね。

 顔は(たてがみ)みたいな毛にな覆われて彫りが深く、耳は猫のような三角ですが丸みが強いです。

 体も大きく筋肉質でかなり迫力がありますね。

 ラザさんと並ぶととても威圧感がありそうです。


「初めまして冒険者のイオンと言います。コーブさんでよろしかったですか?」


「冒険者に話すことなんざねぇって言ってんだろ! さっさと帰りやがれ!」


 かなり不機嫌そうです。

 ですがこっちも用があるのでそれが終わるまでは帰るわけにもいきません。


「話は別にいいので荷物だけ受け取ってください。ラザさんからコーブさんへの届け物です」


「ふざけたこと言ってねぇでさっさと……ラザからだと?」


「はい。こちらです」


 テーブルの空きスペースに荷物を出していきます。

 野菜、漬物、瓶詰もありますね。


「あと手紙も預かってます」


 手紙だけは手渡しで渡しました。

 放っとくと読まないから必ず手渡ししてくれと言われましたので。


「……お前がイオンか」


 すぐに手紙を読んだコーブさんから確認されましたので頷きます。

 どうも私のことも書いてあったみたいですね。

 手間が省けて助かりました。


「ではラザさんからの荷物は、きちんと受け取ってもらえたということでよかったですか?」


「ああ大丈夫だ。悪かったなぁいきなり怒鳴りつけてよ。ちょっとイラつくことがあったもんでな」


「タイミングが悪いのははよくあることですから気にしないでください」


 虫の居所が悪いというは誰にでもあると思います。


「しかもラザのやつが世話になったらしいな。アイツは昔の戦友だからなぁ、俺にできることがあったら力になるぜ」


「そこまで大したことはしてないんですけどお言葉に甘えさせてください。伺いたいのは風の魔素の多い場所についてです。ラザさんと色んな所を旅したことがあるって聞いたので、もし知ってればと」


 ラザさんとコーブさんは若いころ冒険者としてパーティを組んでいたそうで、その時に世界各地を巡ったそうです。

 ラザさんにも聞いたんですがラザさんは魔法に関することがからっきしだそうで、そういう事はコーブさんに聞けと言われたんですよね。

 手紙にはその辺のことも書いてあったんでしょうね、助かりました。


「風の魔素が多い場所? そりゃ知ってるが、そんなもん聞いて何すんだ?」


「精霊と契約してみようと思いまして。詳しい方に聞いたところ、魔物が近寄れないくらい魔素の豊潤な地が最適だということだったので」


「契約って……まさか封石持ってんのか!?」


 コーブさんが顔色を変えてものすごい食いついてきます。

 もしかして封石が欲しいんでしょうか?


「先日ゲイル山で入手しまして」


 言いながらストレージから取り出します。


「本物だな……」


 欲しい、というよりは畏れ多いような感じで眺めてますね。

 一体どうしたんでしょう?


「おっと悪かった。いいもん見せてもらったからついな。ラザから聞いてるかもしれんが、俺はこう見えて魔法が得意でな。そのこともあって今は風精霊をまつる祭壇の管理をしてるんだ。だから精霊の眠る封石、しかも風精霊の物ってことでつい興奮しちまったぜ」


 がっはっはと豪快に笑うコーブさんですが、私の意識は先ほどの言葉にとられてました。

 精霊をまつる祭壇。

 いかにも精霊に関係ありそうなところですね。

 しかも風精霊のなんて、なんか都合よすぎ……いえ、そうでもないんでしょうか。

 【風精霊の封石】のあったゲイル山はここからそれほど遠くなく、その周辺に風精霊を祭る祭壇がある。

 この辺一帯が風精霊の力が強いという事であれば、そういうものが集中するのはむしろ当然ですね。


「その祭壇ってぇのがお前さんが探してる魔素の豊潤な地だ。今時珍しいほど魔素に満ちてるから魔物も寄ってこないしな。精霊と契約するにはうってつけだ。過去には契約に使われたこともあるそうだ」


「本当ですかっ。あの、場所を教えてもらうことは……」


 契約に使われたことがあるなら間違いないですね。

 でも祭壇なんて言うくらいですから、関係者以外は立ち入り禁止なんてことは……。


「かまわねぇよ、よそは知らんがうちは秘密にしてるわけでもねぇしな」


「ありがとうございます!」


 もっと時間かかると思ってましたが、なんと契約の場所まで判明してしまいました。

 いいことっていうのは続くときは続くものですね。




「すいませんお待たせしました」


 コーブさんから祭壇の場所を聞いた後、一件仕事を依頼されてしまったので少し時間がかかってしまいました。


「こっちは大丈夫だけど……イオンは大丈夫だったの?」


「荷物渡して少しお話しただけですので、特に何もありませんでしたよ?」


 大丈夫も何も、魔物じゃないんですから特に危険も無いですし。


「いやそうじゃなくて、あの人ちょっと……かなり強面っていうか……」


 そっちでしたか。


「確かに威圧感はありましたけど、ああいう人は自分にとって必要な用件の最中まで怒鳴ったりはしませんよ。それに気に入ってもらえたらとても優しい人が多いですし」


「そ、そういうもんなの?」


「そういうものですよ」


 私も慣れるまでは怖かったですけどね。

 自分の喋り方や行動を少しだけでも気にしてもらえると、そういう誤解も減るんだろうなぁと思うことがよくあります。


「ごめんね、ちょっと時間かかってたから何かあったかと思って」


「少し質問してたのと、仕事の依頼があったからですね。あ、仕事は急がないと言われてますので大丈夫ですよ」


 急がなくていいと言われたのもありますが、仕事の目的地が祭壇だったので受けました。


「仕事を依頼された!?」


「大丈夫だったどころか仲良くまでなってんのかよ……」


「仲良くなったというわけでもないですよ。ここに来るよう依頼した人の信用があったからですし」


 ラザさんの名前がなければ祭壇の場所も聞けなかったと思います。


「いや十分だろ。……それを利用するようで悪いんだけどな、できればちょっと聞いてほしいことがあるんだが……」


「あたし達じゃ教えてくれなくて……」


 それでここを見たとき疲れたような表情だったんですね。

 あとコーブさんの不機嫌の理由も分かりました。

 二人のことなので嫌がられたらすぐに諦めたと思いますが、それでも聞かれたくないこと聞かれたら不機嫌にもなりますね。


「なんでも精霊に関することを知ってるらしくてさ。元々ゲイル山のことはこの町で知ったし、同じ町の住人なら【風精霊の封石】のこと何か知ってないかと思ってさ。やっぱり新しいアイテムは気になるし。……ていうかイオンも似たようなこと考えてたんじゃないの?」


 こっちはうまくいかなかったけど、と苦笑するキイさん。

 私も珍しいアイテムを(半ば不本意だったとはいえ)入手したので、折角なのでどんなものか調べてみようと思いましたし。

 有用だったら皆の分も必要になりますしね。


「そうですね、私も少しだけ調べてました」


 やっぱり、とキイさんと笑いあいます。


「でもそれなら話を聞く必要はありませんよ。【風精霊の封石】はその名の通り、風の精霊が封じ込められているそうです」


「精霊が封じられてる?」


「用途は二種類あって、一つは武器や防具の改造に使う方法と」


「え、用途?」


「もう一つは封印を解いて、精霊と契約することに使われるんだそうです」


「け、契約!?」


「それで契約には精霊の宿る宝石と、契約を行う場所が必要なんですが」


「宝石!? 場所!?」


「さきほどコーブさんから風精霊をまつる祭壇の場所を聞きましたので、そこが契約に最適な場所だそうです」


「さ、祭壇……」


「と、ここまでが私が知ってることです。コーブさんからはそれについての確認も取れましたので、封石についてはもう聞かなくても大丈夫ですが……どうされました?」


 ……プルストさんは何故か膝をついて俯いてますし、キイさんも空を見上げて何か諦めたように笑ってますし……一体どうしたんでしょう?


「あははー……あたしたちが分かったことって、ここの人が何か知ってるかもってだけなんだよねー……」


 えっと、それだと知らない間に聞いてしまったという事ですね。


「私たちが聞き出せなかった情報聞いてくるし、アイテムのことも完璧に調べてるし……」


 どうも二人は昨日から調べてたようですし知らなかったとはいえ勝手に情報も聞いてしまって、まるで苦労を無駄にしたような。

 ……も、もしかして手柄を横から奪い取った的なことやってしまいました……?

 少し怯えながら伺ってると、いきなりキイさんに肩をつかまれ……。


「やっぱすごいわねーイオンは!」


 何故かものすごい笑顔でもう最高!とか褒められました。


「あの、怒ってるとかじゃないんですか? 知らなかったとはいえ苦労を無駄にしてしまったようなんですが……」


「そんなのどーでもいいよっ、あたしだって何やってるか言ってなかったんだしさ。それにサブクエだとこんなの日常茶飯事だよ? 前線に出るようなパーティが一週間何もわからなかったサブクエを、別のパーティが一日で終わらせたーとか。強さとか知識があるからクリアできるってわけじゃなくて、この世界に順応してる人ほどクリアできるって言われてるの。だから面白いんだよサブクエは」


「順応ですか?」


「そっ。どれほどこの世界を理解してるか、この世界の住人と交流してるか。それがサブクエ攻略のうえで重要なんて言われてるけど、あたしにしてみるとこの世界で“生きてる”って方が重要だと思うんだよね」


 この世界で生きてる、ですか。


「だから本当はサブクエなんて呼び方せずに、ただの日常の一場面程度に考えた方がいいと思うんだよね。まぁ攻略とか言ってる時点であたしはまだまだってことだけどさ、だからもうこの世界に慣れ始めてるイオンはすごいなって思うわけなのよ」


 この世界に慣れ始めてる。

 そういえば今日でゲームを始めて七日目、丁度一週間です。

 まだまだ知らないことも多いですが……慣れてきてると言われればそうかもしれません。

 セカ村でNPCの方と会話してからは、相手がNPCとかそういうことは意識しなくなりましたし、精霊さんとおやつも食べるようになりました。

 アーニャさんにはタルトを作ってもらえて、ラザさんとコーブさんからは仕事までもらって。

 自分では遊びに来てるつもりでしたが……言われてみると生活してるようでもありますね。

 それがこうして結果になっているのは、なんか嬉しいです。


それにサブクエストが面白いというのもわかりました。

 全く関係ないように思えるセカ村での仕事を受けてたからすんなり話が進みましたが、きっとそれが無ければ私もコーブさんから祭壇のことを聞くのはものすごく大変だったと思います。

 キイさんたちはゲイル山に近い町という事でこの街から調べ始めたようですが、私だってそれを知ってれば同じことをしたでしょう。

 今回のことは運と偶然が重なった結果です。

でもそれは強さも知識も関係なく、ただ自分の行動が反映された結果。

 人と人とが繋がっている、一つの世界だから迎えた結果。

 サブクエストというのは、本当にこの世界の一部として生活するという感じなんですね。


「でも祭壇は今聞いたとして用途はどこで聞いたの? 確認したってことは別のとこで知ったんだよね。学術クランもまだ何も知らなかったんだけど……」


「その辺は森の精霊さんに聞きました」


「森の精霊……もしかしてルフォートの西の?」


「そうです。森の中で広場になってるとこの」


「あぁブラックフォレストベアのいたところか」


「なるほどね、精霊のことは精霊に聞いたらいいってことね。会うにはアイテム持ってるのが条件ってことかぁ」


「持ってなくても会えますよ?」


「えっ……どうやって?」


 あれ、普通は会えないんでしょうか?

 でも二人もブラックフォレストベアを倒して精霊さんには会ってるようなので、私だけ何かしたわけじゃないと思うんですが……。

 そういえば二回目来た時は精霊さんもどうして来たんだろうといった感じで警戒してましたし、普通は何回も行くことろじゃないかもしれないですね。


「普通に呼んだら会えましたよ。いつも一緒にドーナツ食べてますし」


「……そういえば森の広場でドーナツ食べてゆっくりしてるって言ってたっけ……そっか会えるのかぁ……」


「いつもなんて言うほど精霊も食ってんのかよ……」


「大体十個くらい食べますよ。特にシュガーがお気に入りです」


「食い過ぎだろっ!」


 どうやらまず甘さが最優先のようです。

 でもチョコの甘すぎないところも好きになり始めてるようで、更に若干苦みの残るカフェオレにも慣れようとしてます。

 他の飲み物を用意すると言ったら、苦みの後にドーナツを食べると甘さ引き立つのが素晴らしいので頑張ると言われたんですよね。

 それに私と同じものの方がいいとまで言ってくださったんですよ。

 嬉しいですが少し照れくさいですね。

 ともあれ順調に気に入ってもらえてるようでなによりです。


「勧めてみたら食べられるということだったので、一口食べてもらったらとても気に入ってもらえたんですよね。それからは時間があるとドーナツ持って寄ることにしてます」


「そ、そうなんだ……まさかそこまでとは思わなかった……」


「私以外の人を見たことがないですし、精霊さんと話す人というのは少ないかもしれないですね」


「あー確かに……聞いたことないかなぁ……(あれってイベントだけの登場かと思ってた……)」


「俺もないな……(二回目行っても出てこなかったしな。しかもドーナツ食うって……)」


 キイさん達が知らないとなると本当に少ないみたいですね。

 もしかしたら私の他は誰もいないなんてことが……いえでも最初に会った時にも話しましたし、いくらなんでもそれはないですよね。


「とりあえず封石についてはそんなところです。それでコーブさんから祭壇に行くんだったらついでに仕事を頼みたいと言われまして」


「それで仕事の依頼って訳ね。そういうことならもちろん手伝うよ。それが目的だったわけだしね」


「だな。むしろなんでもいいから少しは働いた気分にさせてくれ」


 遊びに行くのはいつでもできるし、とキイさん。

 せっかくなのでお言葉に甘えます。

 ここまで来ると気になりますしね。


「ありがとうございます。場所はゲイル山から少し外れた辺りになるので、遠いですがよろしくお願いします」


11/15

コーブの台詞を変更しました。

知らないやつには祭壇の場所を教えたくないような言い方を、別に秘密じゃないという形に変更しました。

ほんのわずかにフラグくさいですが流れに影響はありません。


11/9

矛盾点があったので若干修正しました。

大まかな流れに変更はありません。


プルスト→ひたすら話すコマンドを連発するADV状態から、ようやく一人目の重要人物にたどり着いたところ。

きっとこの次はどうやれば機嫌が収まるのか聞きまわったはず。


イオン→最小コマンド入力でチャプターエンド。


お使いに行った先でお使いを頼まれるのはお約束ですね。

次回はようやく……。

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