6-1 これもクエストでしょうか?
今日はいつも通りの登校です。
真里と仲直りもできたので早起きする必要もありません。
梅雨明けはまだですが気温と湿度を除けば清々しい朝です。
全然清々しくないですね。
昨日は部活の朝練もあったようですが、テストまで一週間を切ったので今日からは朝練もありません。
なのでいつもより人通りが多く、余計に気温が上がるような感じです。
教室に着けば少しは下がりますよね。
「おはようござい……ます?」
教室に入った瞬間に抱きつかれました。
気温は下がりませんでした……。
「碧ぃ……」
やっぱり真里です。昨日とは逆ですね。
「おはよう碧」
「おはようございます東さん。それと真里も。……初日から勉強させすぎじゃないですか?」
間違いなく勉強を叩き込まれた真里ですね。
早くもお疲れモードです。
「だから学校にいる間は慰めてあげてね。放課後は私の番だから」
「志乃の鬼ー……」
「碧を取り上げてもいいけど」
「ごめんなさい」
学校にいる間が休憩時間で放課後が勉強時間みたいですね。
この場合間違ってませんが。
「それとおやつは与えないでね。勉強中の餌だから」
「あたしは猿かーっ」
「バナナはおやつに入りますか?」
「遠足かーっ」
「食べ物類は禁止で。ジュースくらいはいいから」
東さんのことなのできっと勉強中のおやつのカロリー計算までしてるに違いありません。
「わかりました。しっかりお世話しますね」
「碧にお世話されるならいいかな」
「なんて安い」
「碧は高級品だぞー」
私が高級品なら真里と東さんは特級ですね。
「ところで真里、そろそろ離してください」
「昨日離してくれなかったからやだ」
「椅子に座らないと膝抱っこできませんが」
「先生が来る前に席に着くのが生徒だよねっ」
真里はこれが好きですからね。上でも下でも。
今日は真里が上です。
「やっぱ落ち着くなぁ……」
そんなものでしょうか。
「しっかりエネルギー補給しときなさい。今回は前日が日曜日だから学校でも勉強とは言わないけど、進み具合によっては碧を取り上げるわよ」
「横暴だー碧は誰のものでもないぞー」
「真里の物でもないということね」
「嫁だからちがーう」
「赤点取るような人はちょっと……」
「あたし碧のために頑張るよっ!」
「何この茶番」
いつも言ってますからね、これ。
「まぁでも終わったらゲームできるでしょ。テスト最終日は半日で思いっきり遊べるんだから少しは頑張りなさい。……なのにどうして凹んでるの」
「……その日……親戚の叔母さんと姪っ子が来るから……」
相手をしないといけないと。
なんともタイミング悪いですね。
「でもテスト休みは一日オッケーだから! 碧のこと考えてないわけじゃないからね!」
言いながら真里が抱きついてきます。
暑いです……。
「わかりましたから、私もその日は予定入れないようにしておきます。でも午前中は家のことするので午後からですね」
「やったー!」
抱きつきが強くなりました……。
「でも残念だったわね水曜は夜からイベントがあったのに」
イベント?
「あたしはいいよーどうせ出ても前線組には勝てないし、見るだけなら後で動画でいいよ」
「あらそう? 真里のことだからダメ元で出るとか言い出すかと思ったのに」
そうですね。真里なら面白そうなことには首をつっこむと思いますが。
「もっとすっきりするイベントだったら出たかったけどさー、なんでゲームの中でまであんなに走らないといけないの」
「ようするに暴れられないからということね」
「納得です」
「二人とも酷い……大体あれクランに入ってないと出れないでしょ。あたし入ってないし」
クランに入ってないと出れないイベントなんですね。
そういえばプルストさんがそんなクエストもあるって言ってましたね。
それと似たようなものでしょうか。
「それはそうだけど、クランは人数が揃えば……」
「みんなー席に着きなさーい」
東さんの言葉の途中で担任、ではなく副担任の先生が来ました。
いつもより少し早いですが何かあったんでしょうか。
「あれ、ともちゃんせんせー」
「先生を名前で呼ばないでくださいっ」
「じゃあくろちゃんせんせー」
「ちゃん付けはダメ!」
「くろせんせ―」
「ちゃんと黒田先生って呼びなさい!」
副担任の黒田智子先生。
去年採用のまだ若い先生なので、生徒から友達感覚で親しまれてます。
特に二年生は同じ時期に学校に入ったので余計にその感覚が強いですね。
真里曰く『野暮ったいメガネが保護欲とSっ気を誘ういじられ先生。このままだと彼氏に尽くし続けて捨てられるかヒモを養うかのどっちか』でした。
酷い言われようですね。
「担任の斎藤先生は夏風邪をひいてお休みです。皆もテスト前だから気を付けてください。それから……佐々木さんは早く席に着きなさい」
まだ私の膝に座ってましたね。
「ここが私の席です」
「そこは新さんの席ですっ」
「先生まで私から嫁を奪おうって言うんですかっ。先生だからって負けませんよ!」
「嫁じゃありませんし奪ったりもしません私はノーマルです!」
「えっ、ウソっ」
「何でそこで疑われるんですかっ、いいから席に着きなさい!」
「真里、席に戻らないともう膝抱っこしませんよ」
「すぐ戻るよっ」
「……なんで私の言うことは聞かないのに……」
先生が落ち込み始めました。
「先生、彼氏に壁ドンされて『俺が帰るまで絶対家から出んなよ……』って囁かれたらどうですか。それと同じです」
「先生は壁ドンより頭ポンポンがいいです。それはわかりますが今は関係ありませんっ」
「先生、朝礼の時間ですよ」
「えっ、コホン。えー今日の連絡についてだけど……」
友達感覚というかもう完璧友達です。
愛されてますね。
でもテスト後に真里と遊べないのは少し残念ですね。
私も期待してたんですが……でも用事があるので仕方ありません。
それに翌日のテスト休みは遊べるということですからね。
それまで私は私でゲームをやってましょう。
◇◇◇
では今日もゲーム開始です。
昨日クランに入ったばかりですが、好き勝手していいとのことなので拠点にはむかいませんでした。
……いえ昨日の時点では行こうと思ってたんですよ。
あそこはクランメンバーなら好きに使用していいとのことだったので、コーヒー飲んでゆっくりしようと思ったんです。
ところが今日ログインする直前にキイさんからのメールに気付きまして……。
『今日と明日は改装やってて拠点の立ち入り禁止だから。
P.S. 初心者の館に行くといいんじゃないかな。』
梯子を外された気分です。
ですが言う通りだと思いますので初心者の館へ向かいましょう。
……実はまた初心者の館のこと忘れてましたしね……。
私もしかして無意識に初心者の館を避けてないでしょうか……。
それと忘れないうちにキイさんにはメールを返しておかなければいけません。
何故なら昨日試作ドーナツを食べ損ねたんですよっ。
数が足りなかったとか誰かに食べられたとかではありません。
拠点に入ってすぐ畳に座ったせいで、流れで緑茶とお煎餅を頂いてしまいドーナツは食べなかったんです。
キイさんも後になって忘れてたと言ってましたし。
どれくらいで痛むか分かりませんが、大丈夫なのであればせめて一個だけでも取っておいてほしいのです……。
私は精霊さんと半分こできればいいですしね。
精霊さんは物足りないかもしれませんが。
気を取り直して初心者の館です。
結界石の広場に隣接された二階建ての建物へ向かいます。
外観は特に目立つものではありません、レンガの外壁の普通の建物です。
中はカウンターがあって職員さんらしき女性が一人。
受付を済ませると、まずは学科からと言われそのまま二階の部屋へ。
中は学校の教室のようでした。
机が並び正面に黒板。
教卓には受付の職員さんと同じ制服を着た女性がいます。
どうやら受講するのは私だけのようで、机に一人座って講義を受けました。
街について、魔物について、戦いについて、と項目ごとに解説がありましたが、内容は知ってること知らないことが混ざってたので聞き流すことはできませんでした。
それに一つだけ、全くと言っていいほど知らない項目がありました。
スキルについてです。
要点だけまとめると以下のようになります。
・スキルについて
修得することで術、魔法を使用できるようになるなど、新しい戦い方を覚えたり、自らの能力の底上げや、行動についてのボーナス効果を得ることができるようになる。
・修得について。
1、レベルアップ時に取得するポイントを割り振り修得する。割り振りは街のスキルショップで行う。
2、スキルの元となる行動を繰り返し行うことで、自然習得することもできる。
3、スキルのレベルアップは1、2と同様。
・効果について。
1、各武器スキルは、適切な武器を使用することでダメージに増量がある。スキルレベルを上げることで術を使用できる。術の修得はスキルショップで行う。
2、魔法スキルはスキルレベルを上げることで新しい魔法を使用できる。魔法の修得はスキルショップで行う。
3、術は自らの体を、魔法は自らの魔力を正しくコントロールすることで更なる性能を発揮することができる。
・その他。
1、種族特性を直接サポートするためのスキルはないが、種族特性と組み合わせることでより大きな効果を発揮するスキルは存在する。
2、自らの意思で発動するスキルとは別に、状況に応じて自動的に発動スキルがある。その場合は音声コマンドも必要ない。
大体こんなところですね。
修得についてはお金を払って覚えるか、自力で覚えるかと言った感じですね。
なんとなく自力の方が効果が強そうですね。
武器スキルはダメージが上がるという事なので、私の場合は槍のレベルを上げてもいいですね。
術というのは必殺技みたいなもののようです。
私の場合は槍なので槍術ということですね。
飛んでるだけの私にも使えるようなものがありますでしょうか。
キイさんから聞いてた通り、魔法はスキルショップで修得する際に設定ができると解説がありました。
しかも魔法だけでなく術についても設定が可能だそうです。
聞いてませんがプルストさんやバルガスさんは術のコントロールとかもできるんじゃないでしょうか。
それにしてもここで魔力を操作できるって解説してますね。
きちんと解説されてるのに魔力操作についてどうこう言う人がいる……。
言葉で説明されても自分に感じ取れないことは納得できないという事ですね……。
種族特性と組み合わせることで大きな効果を発揮する、というのはキイさんの索敵が分かりやすいですね。
足音だとか匂いだとかで感じ取ってるそうなのでまさにその通りです。
自動的に発動すると言うのはよく分かりませんが……スキルは能力の底上げも出来るということなので、力が上がったり素早さが上がったりでしょうか?
よく分からないので今度マリーシャに……いえテストが終わるまで聞けませんね。
クランで聞いてみましょう。
でもスキルですか……新しいスキルって習得した方がいいんでしょうか。
今習得しているのは……。
==========
【イオン】
レベル:28
基本属性:風
状態:正常
【能力値】
身体能力値:47
魔法能力値:52
【スキル】
槍:10
風属性魔法:15
無属性魔法:9
視界:5
==========
スキルは四つですね。ほぼ予想通りと言った感じです。
武器は槍しか使ってないので当たり前ですね。
魔法は風属性と無属性が上がってますね。
飛ぶのに必要な魔法はこの二つということですね。
風の方はわかりますが、無属性の方は重量変更や身体強化でしょうか。
視界は気付いてませんでしたが、そういえば鳥って視力もいいんでしたっけ。
遠くを見るようにしていればレベルも上がるんでしょうか?
以上ですね。
数は少ないですが他に必要な物もわかりませんし、スキルショップに行くのはた今度にしましょう。
それにしても初めてステータスを見ましたが随分少ないですね。
昨日バルガスさんも言ってましたが“身体能力値”と“魔法能力値”の二つだけです。
『ちから』とか『すばやさ』とか細かくわかれてません。
解説にありましたが、“数値はあくまで自分の成長の目安として、他人との比較には使わないように”と注意がありました。
他人と比較するための数値としてではなく、自分がどれだけ成長したかを確認するために使ってほしいということですね。
これはスキルについても同様とのことでした。
ですが数値になっている以上、こうやって説明されてもどうしても比べてしまいますよね……。
私は飛ぶときは常に魔法を使ってるので、魔法関係の能力が若干上になっている。
今の戦い方で成長したければ、今覚えてるスキルを成長させればいい。
私はその程度が分かればいいです。
次は実技です。
二階の教室から地下へ移動しました……よね?
地下の部屋に入ったら草原のような場所に出たんですが。
後ろを見れば草原の真ん中にドアが一つだけあってとてもシュール……というか、どこ○もドアみたいですね。
車の必要性を否定する憎き存在です。実用化したら間違いなく経済崩壊です。
そうなると車は趣味用途でしか残りませから何かの専門に特化するかそれとも……。
……今はどうでもいいですね。どうせ私が生きている間には実現されません。
コホン。
実技はまず魔物との戦い方です。
魔物はツノのない牛でした。
練習用らしく動きも遅いし体も大きくて狙いやすいですね。
私の武器に合わせたらしく、教官のお姉さんが槍で一突き。
続いて私も同じように突きました。
今まで突いたことありませんでしたがこんな感じなんですね。
しっかり握ってないと擦れて手が痛くなりそうです。
やっぱり突くより切る方が使いやすそうですが、切るのもただ振ればいいというわけでもないですし……やっぱり難しいですね、戦うのは。
次は槍術を使って倒すように言われました。
ここにいる間だけ初級の槍術を使用できるとのことでした。
使用でるのは大薙ぎという槍術ですね。単に横に振るだけの術です。
構えを取って『大薙ぎ』と音声コマンドを言えば勝手に体が動きました。
ただ振るだけでしたが槍なので範囲は広いですし、振りも早いので使いやすそうでしたが……なんか不思議な気分ですね、勝手に体を動かされるのって。
簡単に振っただけだったのでいいですが……なんというかこう、“かっけ”の検査とでもいうんでしょうか。
あそこまで不思議な感覚でもないですが……複雑な動きの術だともっと変な感じなんでしょうね……。
でも大薙ぎくらいだったら修得してもいいかもしれません。
スキルショップに行ったら修得しましょう。
それに魔法と同じくコントロールできるとのことだったので、この辺はバルガスさんに相談してみましょう。
プルストさんに聞いても『なんとなく』で終わりそうですしね。
次は魔法です。
こちらも初級魔法が使えるとのことで、基本属性の風魔法を使えると言われました。
魔法はウィンドアロ―。矢というか小さな棒が飛んでいくだけの魔法です。
牛の方向を向いて音声コマンドで発動。
目に見える程度の速さなのであまり速くはありませんが一応命中しました。
発射前に詠唱時間があるので飛び出すまでタイムラグがありましたし、実際飛んでいくのも速くありません。
戦闘で動き回ってる魔物だと当てにくそうですが、こういうために前衛の方がいるんですよね。
戦い方の実技はそのくらいでした。
あとは魔物を見つけるにはどうしたらいいか、逆に隠れる場合はどうしたらいいかと言った戦い方以外の解説。
最後に実際に戦って自分なりの戦い方、その場に合わせた対応方法を見つけてくださいとの言葉で終了しました。
最後はほとんど解説だけで終わりましたが、なんかその部分が重要だと思ったんですが。
たまにテレビでやってる戦争の映画とかで何でそんな歩き方してるんだろうと思うことがあるんですが、ああいうのって意味があるからやってるんですよね。
そういうのに詳しい方はきっとこの世界でも強いんじゃないでしょうか。
相手が魔物と人間とでは違うかもしれませんが、それでもやってることの意味を知っていれば応用も出来ると思いますし。
でも自分なりのやり方を見つけてくださいとのことでしたし、私は飛べるのでその方向で頑張りましょうか。
知らないことを勉強するのもいいですが得意なことからやりましょう。
……でないと飛ぶ時間が少なくなりますしね。
こ、これなら大丈夫なはず……。
ようやくマリーシャと遊べる日が決まりました。
一週間先ですが。
一応ステータス出ましたがこれ以降ほとんど出ない可能性が高いです。
あとレベル上がり過ぎじゃね?と思われるかもしれませんが、プルストたちとは倍以上離れてます。