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1-3 私以外にとってのプロローグです。

 つーか何コレ?

 ラクショーすぎじゃね?


 あの後イオンがコーヒー飲み終えたタイミングで俺たちは山道に入った。

 初めのうちはウィンドゴーレムとロックリザードばっかでイオンの出番は無かったが、中腹手前辺りからゲイルファルコンが出始めた。

 そこからはもうイオンの独壇場だった。

 いや地上側の敵も居たから俺らだって戦ってたけどイオンの働きに比べりゃ全然だ。

 なんせ一発もゲイルファルコンの魔法が飛んでこない。

 いきなり真正面から突っ込んでタゲ取ったかと思ったら、避けようともせずそのまま直進して魔法撃たせる前に二羽落としやがった。

 何言ってるかよく分からねーと思うがイオンはそれしかやってない。

 ただ槍を横に構えて飛ぶ。

 敵とすれ違いざまに槍を突き出し切り裂く。

 マジでこれだけ。

 上空からとんでもない速さで急降下してきたと思えばいつの間にか切られた敵が数羽落ちていく。

 集団が固まって魔法撃ちまくってきたら今度は複雑な軌道を描いて避けまくる。

 飛行機の曲芸飛行(アクロバット)でも見てる気分だ。

 そんで一瞬でも途切れたら加速して敵に突っ込み敵が落ちていく。

 十羽くらいに囲まれても援護を求めもしない。

 つーかこっちから援護しようとする前に半分近くまで減ってる。

 とにかく速い。

 急降下してくるときとか、あれ絶対に車ぐらいスピード出てるよな?

 マジでバランスブレイカーレベルだわ。これ。

 そのすごさに見とれてしまう俺はきっと悪くない。

 いやもちろんこっちも戦ってるよ?

 じゃないとマジで燃やされるしな……。


「ヘビースラッシュ!」


 ウィンドゴーレムを二体まとめて切り捨てる。

 風属性を持つゴーレムだが基本それだけだ。

 魔法は防御用しか使わないから物理ダメージを通せるなら大した敵じゃない。


「左!」


 キイの声に返事もせず正面に身を投げ出す。

 直後、俺の居た辺りに岩がぶつかったような嫌な音がする。

 すぐに身を起こしそちらを見れば案の定ロックリザードの姿があった。

 しかしそのロックリザードには既にキイが飛び掛かっており、逆手に構えたダガーを首に突き刺していた。

 ロックリザードはそのままキイに任せ残ったウィンドゴーレムに向かおうとしたが。


「そのまま! アイスシャワー!」


 アヤメの氷系範囲魔法が発動。

 ウィンドゴーレム三体に直撃して残りは……一体残った!

 動きを止めたところで止めを刺しにかかる。


「ふっ!」


 ダメージを負ったウィンドゴーレムはバルガスの槍に沈められ。


「ギィッ!」


 そのバルガスの横に迫っていたロックリザードを俺が切り捨てたところで、動いてる魔物は居なくなった。


「お疲れ様です」


 丁度イオンも終わったらしい。

 声をかけながら降りてきた。


「え、まだかなり居たと思ったのにもう倒したの?」


「多いかどうか分かりませんが、とりあえず向かってきたのは全部倒しましたよ」


「私援護しようと見てましたけど~二十以上は倒してましたよ~……」


「ホンに凄いなぁ」


 俺も見てたが今の戦闘だけで二十三羽倒したはずだ。

 こっちが十体倒してる間にその数。

 確かに全部が一度に出てきたわけじゃないが、それにしたってすごい数字だ。

 山に入ってからは五十羽以上落としてるんじゃないか?

 にしてもこんなに出てくるとなると、確かに他のパーティが山頂まで持たないわけだ。


「でもごめんね空側を完全に丸投げしちゃって」


「いえ私にはこれしかできませんので。足手まといになってないならよかったです」


「足手まといどころかMVPだって」


「本当に素晴らしいですよ」


「えっと、ありがとうございます」


 皆に褒められて少し恥ずかしそうに照れている。


「可愛くて、強くて、控えめで、可愛くて、清楚で、可憐で、可愛いとか、俺夢でも見てんのかな?」


「そうねーとりあえずここから落ちたら目が覚めるかも、ねっ」


ゲシッ。


「あぶねぇっ! 落ちるっつーの死ぬっつーの!」


 人が浸ってるところに遠慮なく蹴りやがって。

 だが俺はそんなことでは負けんよ!


「死ぬ程度じゃ駄目よね。バカは死んでも治らないし」


「死なない程度に半殺しし続ければいいんと違う?」


「ひでぇ!」


「二人とも~そんなことする労力の方が無駄ですよ~」


「そうですよ。罠を漢解除させるとか大部屋単騎突撃とか、もっと有効に使いませんと」


「もっとひでぇ!」


 だがしかし! 俺にはイオンが居る! イオンなら俺のことを分かってくれる!

 そうだよねっ! チラッチラッ。


「えっと……元気は有効活用した方がいいですよね?」


「イオンが望むなら(わたくし)、ボスを単独撃破する所存でございます」


 女の子の望みをかなえてこそイイ男ってもんですよ?


「だからダンジョン終わったらぜひ俺とデーとぉおおお!?」


 言い終わる前にまた蹴られて今度こそ落ちるマジ落ちるあぁぁぶねぇぇぇ!


「弱かったか……」


「惜しかったなぁ」


 ヤバい、目がガチだ。


「すいませんでした真面目にやるんで魔法で吹き飛ばすのは勘弁してくださいお願いします」


 イイ男は謝るときも速やかに土下座します。

 決してビビった訳ではありません。


「じゃ、ボスに単独特攻よろしく」


「ホンットすいませんせっかくボスまで来たんで僕も普通に戦いたいです今度リンジーのスペシャルパフェ奢りますのでマジお願いします」


「三回ね」


「承りました」


 イイ男は金で解決することは潔く金で解決します。

 新しい剣欲しかったのに……。


「……スペシャルパフェ?」


 呟くような声はなんとイオンから聞こえてきた。


「もしかして興味ある? ルフォートで食べられるんだけど、本人の気が向かないと作ってくれないパフェなんだよね。よかったらこの後一緒に行かない?」


「興味はあるんですが用事がありますので。すいません誘ってもらったのに」


 残念そうには見えない顔で断るイオン。

 隠してるのか本当に興味ないのか。

 NPCだから興味ないよな。

 ……いやそれだったらそもそもそんなセリフ言わないんじゃないか……?


「そういえば時間があるんだっけ。まだ大丈夫だよね、みんな回復終わった?」


 キイの言葉に意識を戻される。

 実はさっきの戦闘の最中、イオンから山頂が近いと言われて少し先を見に行ってたが本当にすぐそこだった。

 なので戦闘が終わってすぐに俺たちは話しながらも回復に勤しんでいたのだ。


「大丈夫です~」


「こっちもや」


「同じく問題ありません」


「私も大丈夫です」


 エリス、アヤメ、バルガス、イオンから返答が入る。

 イオンに至ってはノーダメージだしな。


「ここのボスはNPC情報だとゴーレム系だったよね。どうする?」


 全員の視線が俺に集まる。


「恐らくゲイル(疾風)山の名前の通り風属性のゴーレムだろうな。途中のウィンドゴーレムの強化版と考えればいいだろうけど、そのまま強化なんてわけないだろうしな……」


 そこで切ってイオンに顔を向ける。


「イオン、頂上はどんな感じの場所だった?」


「周りが岩に囲まれてる以外は平地だったと思います。普通の広場のような」


 風魔法を使うゴーレムが相手で場所は戦いやすい広場か……。


「今までのボスが一体だった前例から考えると大型ゴーレムだな。NPC情報でも『山の上の巨風』って言葉があったしも間違いないだろ。ついでに攻撃にも魔法を使ってくると思う」


 風属性魔法は障害物の影響を受けやすいから平地になってるんだろう。


「エリス、バフは物理耐性より魔法耐性アップ優先で頼む。持久戦になるだろうから回復分を多めに残しといてくれ」


「分かりました~」


「アヤメ、ダメージよりも相手の動き妨害を優先してくれ。物理をまともに食らうと多分ヤバい」


「了解や」


「キイは攪乱と全員のサポート頼む。与ダメは気にしなくていい。バルガスは初撃入れてその後はいつものようにヘイト任せた」


「分かった」


「了解です」


「イオンは好きに動いてくれていい。ダメージにだけ気を付けてくれ」


「分かりましたが……いいんですか?」


「ああ構わない。死なない程度に頑張ってくれ」


 空の敵が相手ならともかく地上の敵相手だとどうなるか分からない。

 だったら本人のやりやすいようにさせた方が一番能力を出せるはずだ。


「はい、了解しました」


「俺はひたすら殴り続ける。死なない程度にフォロー頼んだ」


 言いつつ愛用の両手剣を抜く。

 皆から返事は無いが大丈夫だ。

 役割だけ振れば後は勝手に何とかする。

 なんだかんだ言ってやる時はやってくれるメンバーだ。

 フォローは任せて俺は突っ込むだけだ。


「んじゃ行くぞ!」


 気合い一発、山頂の広場に向けて走る。


《イベント発生条件を満たしました。これよりイベントを開始します》


 システムメッセージが頭に響き、地震のような振動が始まった。

 いや地震じゃない。広場の中心にわざとらしく転がってる岩山が動き出している。

 動き出した岩はパズルのように積みあがっていき、やがて巨人の形をとった。

 大きさは多分五メートルほど。

 今までのゴーレムは人間と同サイズだったから倍以上のサイズだ。


「鑑定でました~、名称はエレメントゴーレムです~」


 エリスから鑑定結果が報告されるが、残念ながら事前情報以上の情報は無いようだ。

 RPGの常として魔物の名前から弱点を探ることができる場合があるが今回は外れだ。

 まだスキルのレベルが低いせいか、現時点の鑑定スキルでは魔物のレベルやスキル情報は読み取れない。

 これはエリスに限ったことではないため、鑑定では名称とHP以外の情報は読み取れないのではないかと言われ始めている。

 しかもHPと言っても正確な数値ではなく、相手の名前の『色』によって大雑把に読み取ることしかできない。

 普通はグリーン、約60%でイエロー、30%を切ってレッドだ。

 これはプレイヤーにも言えることで、プレイヤーも自身のHPは数値として把握できず、前時代のFPSのように視界が狭くなったり体が重くなるといった、感覚的にしか把握できない。

 どうしても知りたければ自分に向けて鑑定するかだ。

 そのため回復役は味方に向けても鑑定を行い、回復の必要性を判断することになる。


「作戦そのまま! バルガス!」


 情報が無いならやることは変わらない。

 まずはバルガスにヘイト取ってもらってから俺も、っておい!

 あいつ開幕から範囲魔法か!?

 エレメントゴーレムの前に、いかにも攻撃魔法なエフェクトが広がりはじめた。


「ヤバいっ、全員防御!」


 『溜め』が必要らしく発動までは遅いが今からじゃ間に合わない。

 エフェクトのサイズ的に結構ダメージ貰いそうだけど死ぬよりはマシだ。

 とりあえず防いだらバルガスだけ前に出て俺は回復してから――


ギィイン!


 考えを切り裂くように耳をつんざくような音が響いた。

 音の元をたどればよろめくエレメントゴーレムと、その向こうへ飛び去るイオンの姿。

 まさか魔法の発動前に一撃入れたのか。

 間に合わなかったら間違いなくヤバかったろうに、そんなとこに正面から突っ込んだのか?

 いや今はそんなことどうでもいい。

 イオンがスゲーってだけだからなっ。


「バルガス突っ込め! イオンの一撃無駄にすんなよ!」


「もちろんです!」


 エレメントゴーレムが立て直す前にバルガスが一撃を入れ、そこに俺も続く。

 アヤメとエリスの支援も入り始め、キイも攪乱に動いているのが見える。

 一撃かまそうと突っ込んでみればエレメントゴーレムにやり返され、そこを更にイオンの一撃が返した。

 ようやく、そこから戦闘が始まった。




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