5-3 ようやく現状認識しました……それとクランです。
プルスト視点です。
ちょっとだけ鬱展開。
その後ゆっくりお茶を楽しみ(俺以外が)、しばらくしてようやく本題へと入ることになった。
「あーそれじゃ昨日のゲイル山攻略時の報酬について話をしたいと思う。が、その前に」
報酬に関することよりも何よりも俺にはまずしなければいけないことがある。
「イオン、昨日は本当にすまなかった」
イオンへの謝罪だ。
報酬取り決めの前にこんなことをすれば、当然その後の交渉は不利になるだろう。
だがこれは絶対に譲るわけにはいかない。
メンバーにも話して既に了承は貰ってる。
ほとんど独断みたいな形だったが、最悪無報酬でもいいということになっている。
俺はイオンにそれだけのことをしたんだからな。
「もしかしてNPCの件でしょうか?」
「そうだ。プレイヤーとNPCを間違えるなんてあってはならないことだからな」
「NPCさんと話したことありますけど、とても自然なので間違えてもおかしくないと思いますが。NPCと一緒にされても特には嫌だったとも思いませんし」
むしろ謝られることが疑問だといった表情のイオン。
確かにこのゲームのNPCはとても自然だ。
全感覚型VRが登場して多数のゲームが出ているが、ここまで自然な対応をするNPCは他にない。
NPCだけじゃない。
グラフィックや音声や匂いなど、五感に感じる感覚のレベルが他のゲームより一段も二段も上だ。
システム面から見れば確かに甘いところが多々あるが、それを補って余りあるほどのリアルさがこのゲームにはある。
むしろパラメータが曖昧な分、気合いや技術で何とかなったり、絶対的なステータス差にやられるといったことも無い。
そう考えると確かにこのゲームは現実と変わらないと言っていいかもしれない。
仮想なのに現実と思わせる世界。
だからこそこのゲームに人気があると言っても過言ではない。
「それでもだ。どんなに自然であってもNPCはただのコンピューターだ。つまり俺がしたことはお前はコンピューターだと言ったにも等しい。それは――」
言葉は口から出てくれたが、その言葉が自分の耳に入った瞬間、自らの記憶を揺さぶり、得も言われぬ不快感に襲われる。
止まるな。最後まで言え。
お前がここで逃げていいはずがない。
あんな奴らと一緒になってはいけない。
「それは、人格の否定。人間としての存在否定ですらある行為だ。決して許されていい行為ではない」
お前は人間ではない。コンピューターに過ぎない。
目覚めるのではなく起動。
自ら行動はしない、実行されたアプリケーションを動作させるだけ。
一日が済めばシャットダウンする。必要であれば休止から復帰させ最適化を行う。
ハードウェアに入ったOSはそれができればいい。
だからお前は一生――
「なるほど。言いたいことは分かりました」
そう言ってイオンは、一度お茶をすすり、改めて俺の目を見据えてきた。
さっきまでの柔らかい雰囲気なんて微塵も無い。
静かな怒りが伝わってくる。
「確かに私の考えが足りなかったようです。今の話を聞いて私は不快感を覚えなければいけないと分かりました。責任を取ってください」
「もちろんだ。どんな事でもさせてもらう」
そうだ。
そんなことをされて怒らない人間なんかいない。
だからそれに対して怒る俺は、人間だ。
「といっても一日の出来事ですからそんなに無茶を言うつもりもありません。三つ、私の要望を聞いていただければそれで構いません」
「分かった」
三つか、内容にもよるが妥当かもしれない。
さすがに一生貢げと言われると少しきついが。
「では一つ目です。今後、NPCとプレイヤーを区別して扱うのはやめてください」
NPCとプレイヤー……?
「確かにNPCはコンピューターによって動かされているかもしれませんが、生み出したのは私たちと同じ人間です」
同じ、人間。
「同じ人間から生まれたNPCとプレイヤー。そしてゲームの中では両者は等しく、ただどちらもデータの塊に過ぎません。同じものから生まれた同じもの。なのに生まれが違うだけで区別される。それはただの人種差別、血統だけで人間を選別する行為と同じだと思います」
血統だけで選別……!?
ちょっと待て。
俺はまさか、あいつらと同じことを!?
「ここは“仮想”ではありますが“現実”です。その同じ現実に存在する同じ住人を区別する必要なんてありません。同じ人間でいいんですから」
“同じ人間でいい”
思考に囚われそうになった寸前、俺に言葉が響く。
同じ人間でいい。
NPCもプレイヤーも何も関係ない。
ここにいる間は全てが同じ。
俺も、同じ……。
「ここまでが一つ目です。そしてそれを理解していただいた上の二つ目ですが、先ほどの謝罪を撤回してください。一つ目を受け入れてもらえれば、そもそも謝罪なんか必要ありませんから」
確かに、必要無くなる。
NPCとプレイヤーが同じものなんだから間違えたっていい。
A市で生まれたかB市で生まれたかを間違えた程度の話だ。
A市とB市が仲が悪いのでなければ謝罪も必要ない。
「そして三つ目ですが、多分今のプルストさんにはこれが一番難しいのではと思うんですが……」
これ以上難しい事って何だよ。
正直頭ン中ぐちゃぐちゃだぞ俺?
さっきまですげーいやな気分で自己嫌悪しまくってトラウマにフルボッコされながら奈落の底に叩き込まれたところにクモの糸が降りてきた気分なんだよ。
うまい事糸を上れたらスゲーすっきりしそうな感じするけどでも今は難しいことは勘弁してくれよ。頼むから。
「リンジーさんのスペシャルパフェを五回奢ってください。三つめはこれだけです」
めちゃめちゃ笑顔で言われた。
は? パフェ?
「私はこのゲームを楽しいから、面白いと感じるからやってるんです。だから私にとって必要ない謝罪なんていりませんので、その分私の楽しみに協力してくださいね?」
そうあっさりとさっきまでの調子に戻るイオン。
言葉の調子も軽いのに、これ以上鬱陶しいことはごめんですと言う感じがひしひしと伝わってくる。
しかも嫌な感じは全然せずむしろ優しい印象さえある。
「……えっと、友達から借りた漫画で見たんですが、こういう感じで言えば丸く収まるんですよね」
「漫画の真似かよ!」
癒し系漫画の締めみたいだなと思えばその通りだったのかよ……。
「突っ込みたいけどでもハマってるから何も言う気が起きない……むしろもっと見たいわー」
キイがそう言うが俺だって見たい。
イオンに漫画見せたやつグッジョブ。
「まぁ偉そうに色々言いましたがとりあえずパフェだけ奢ってもらえればそれでいいですよ。他はどうでもいいので」
「どうでもいいとか言われちゃったよ……」
「そうですよ。人によってはNPCと一緒にするなーって言うのは当たり前だと思いますしね。NPCがATMの音声案内程度だったら私も嫌がったと思いますから、結局私にとって都合のいいこと言っただけです。だからさっきのはパフェに至るまでの演出という事で流してください」
「パフェのためにあれが演出って、どんだけ食いたいんだよ……」
やべー。
女はみんな女優とか聞くけどさ、こんな天然そうに見えるイオンまでこれとか。
俺、女性不信になるかもしれん。
「どれだけって……プルストさん、先ほどあれだけお話したのに、まだ分かってないようですね?」
ヒィッ!?
イオンからなんか変なオーラがっ、菓子について熱く語ってきた時と同じオーラがっ。
「プルストさん」
「スンマセン大丈夫です十分理解していますホントに大丈夫です」
「正座をお願いします」
「……ハイ」
笑顔はいつも通りなのに、何でしょうねこの迫力。
女って……。
というわけで幕間で凹んでた理由でした。
今後に引っ張る予定はありません。
勝手に自己解決してもらう予定です。
出てきてもあまり深い話にはならないはず……。