4-2 買い物です。パーティです。
前回の別視点です。
久しぶりに面白いお客様が来ました。
総合武具店バトルデイズを開店してから多数の客様にご愛顧いただいておりますが、こんなにも興味を惹かれるお客様はそうは居ません。
入ってきたのは女性です。
それだけなら珍しい事でもありません。
BLFOはそれなりに女性プレイヤーも居ますし、何よりこのお店は女性にも入りやすい店構えを考えています。
小さく狭い専門店は確かに心強く感じますが、女性はまずその外観から薄暗さとマニアックさを感じ取り敬遠してしまいます。
お店は広く明るく清潔に。
何でも聞ける総合店。
この点だけは外せません。
そして今日来店されたのは今時珍しい鳥族のお客様です。
見た目だけの種族だけと言われるようになってからはとんと見なくなりましたが、入ってきた方はとても可愛らしいお客様です。
肩下まで伸ばした空色の髪。
優しそうな輝きをした同色の瞳。
柔らかそうででもすっきりとした目鼻立ちはとても可愛らしく。
ともすれば容姿が種族に負けてコスプレ扱いされてしまう事が多々ありますが、このお客様の場合はそれぞれが引き立て合う、とても素敵なお客様です。
初心者装備なんてさせているのがもったいなくて仕方ありません。
これは絶対に可愛い装備を着せ替えさせてスクショ撮りまくって……。
おっと口調が。
コホン。
初心者装備なので装備変更だと思いますからうまく誘導させていただきましょう。
お店の売り上げのためです。
他意はありません。
「すいません、お聞きしてもよろしいですか?」
「いらっしゃいませ。どういったご相談しょうか」
さりげなく近くで商品整理をしていましたのでうまく声をかけていただけました。
こちらから声をかけると警戒させてしまうことがあります。
先手を取っていただいた方がお客様から攻めてきてもらえますから。
「あの、お客様?」
と思ったのですが少し考え事をしているようでしたのでこちらから声をかけます。
間近で見るとやっぱり可愛いわぁ……。
「すいません、ついお綺麗な方だと見入ってしまいました」
そう言って微笑んでくれます
こんな可愛い子が笑って奇麗な方って!
何この子、私を萌え殺す気?
ああいけない口調が崩れてしまいます。
「よかったらお客様も着てみますか?」
「いえ、私にはそんな可愛い服は似合わないと思いますので」
口調は気合で戻したのについ言葉が先走ってしまったわ。
貴方に似合わなかったら世界のほとんどの人は似合わないわよ!
しかも謙遜も嫌味たらしくないし。
あれね、天然系なのねもしかして。
ああ間違いなく天然だわ。
要件聞いたら服よりも武器って。
そりゃ破損したら買い替えるけど、そもそもそんなお金あるんだったらまず服買ってるわよねふつー。
それなのに今まで初期装備って。
周りの人は誰も何も言わないの?
もったいなさすぎる。
ここは私の出番に違いないわっ。
武器の話はそこそこにして服と防具を……って何コレ?
【冒険者の鉄槍】が大破損?
何したらこんなことになるの?
確かに初期装備の冒険者シリーズはそんな強い武器じゃないけど、代わりに耐久性は相当高い。
ゲーム始めてすぐ武器が破損したらそこで詰むんだから当たり前。
それを小も中も通り越して大破損。
どこまで使い込んだのよ……ていうかなんでそこまで使い込むのにまだ初期装備なの……。
「失礼しました。冒険者装備を大破損まで使い込まれる方はそうは居ませんので、少々驚いてしまいました」
「そうなんですか? 三日で壊れたので、最初の武器だとこういうものかなと思ったんですが」
三日!?
三日で大破損ってどれだけ廃人プレイしてるの?
いやそもそもそんなことできるの?
これは先にいろいろ聞いた方がいいわね……。
「……よろしければ、どういった使用をしたのかお聞きしてもよろしいでしょうか。新しいものを用意するにしても、用途に合った物でなければすぐに破損させてしまいますので」
「わかりました。ですが何と言えばいいんでしょう……」
そりゃ秘密のレベル上げとか言いづらいわよね。
下手に言えば運営に対策されて使えなくなるし、そうなったら迷惑を受けるのは自分だけではい。
別にバラす気は無いけど信用してもらえるかどうかは別問題なんだから。
「えっとですね、刃の部分を横に向けて持って、そのまま敵とすれ違うときに切り付けてます」
なんて警戒していたのに、帰ってきた答えはただの槍の使い方。
持って切り付けるだけって。
分からないでもないわね。
槍なんだから正面に構えて突くという使い方を考えてしまうけど、正面から魔物が迫ってくるとあれは結構怖いから。
だから魔物を見ないように横に構えるというのも無くは無い……わよね?
まぁそこはいいでしょう。
「なるほど、突くよりも切るようにしてお使いなんですね。いつもそういった使い方を?」
「はい。振ったりとか分かりませんので、それだけです」
「そうでしたか。ちなみにどういった魔物と戦ったのか、そちらもよろしいでしょうか」
槍自体の使い方は分かった。
なら堅い魔物とばかり戦ったとかそちらのほうかな。
それなら三日で破損も出来ないことはないと思うし。
「まず一日目が街の西にある森でカラスと熊ですね。熊は一体でしたがカラスは数えてません。あと森からの帰りに草原の牛を四頭くらいだったと思います」
は?
初日から西?
なんでいきなり一番強いとこに行くの。
しかもやられずに倒してるような言い方だし。
ていうかカラスはフォレストクローで熊はブラックフォレストベアのことよね。
あんなの初日で倒せるわけないでしょ。
パーティについてってパワーレベリングした?
いやそれなら大破損させるほど使い込めないわね。
「二日目が西の森のカラスと、その向こうの草原で出てくるよく分からない鳥ですね」
今度は鳥ばっかり。
どんだけ鳥が好きなの。
たしかに鳥系は多めにお金落とすけど。
「三日目は二日目と同じ内容に加えて、セカ村の北にある山ですね。多分雑貨屋の奥さんが言ってたワイバーンという魔物だと思うんですが、トカゲと蝙蝠を足したような大きい魔物を倒すときに槍が折れました。以上です」
……ワイバーン?
ねぇ今ワイバーンって言った?
セカ村の北にいることは知ってるけどなんでそんなとこに行くのよ?
しかも倒すときに槍が折れたってことは、やっぱりパーティについて行って後ろからテキトーに遊んでるだけじゃないってことよね。
どういうこと?
確かにこのゲームはほかのゲームに比べてステータスが重要視されてない。
プレイヤー自身の技術がそのまま反映されることが多くて、武道を修めてる人がスキル持ってる人より活躍したなんて初期のころは散々聞いた。
でもこの子はそうは言わなかった。
槍を持って切り付けるだけなのに、ワイバーンとまともに戦えるはずがない。
それとも嘘?
いえそんな嘘つくメリットなんて全く無い。
使い方にしろ魔物にしろ、嘘を言うならもっと真実味のある嘘が言えるはず。
分からない。
「……これは秘密にしていることもあると思ますので無理にお答えいただかなくてもいいのですが、よければワイバーンと戦った時のことを伺ってもよろしいでしょうか?」
つい踏み込んだことを聞いてしまった。
これでこの子が帰ってしまうならしょうがないわね。
可愛い子に可愛い服を着せられないのは残念だけど、バグでも利用するようなプレイヤーだったら付き合いたくないし。
「大丈夫ですよ、別に秘密にしてるわけでもありませんし。といっても先ほど言ったことと変わらないんですよね。空を飛んで、すれ違いざまに構えた槍で切り付ける。それだけでしたし。他はや尻尾や翼に当たらないよう気を付けただけで」
なのに警戒する私の気なんか知らないと言わんばかりに、あっさりと話してくれた。
……でも今変なフレーズが聞こえたような。
「空を……飛んで……?」
「はい。何故か私は飛ぶ事が出来たので、飛んでる勢いで敵に切りつけてます」
口をついた言葉に、またしても何でもないように答えてくれる。
空を、飛ぶ。
ゲーム開始時、多数のプレイヤーが挑戦し、そして例外なく全てのプレイヤーが挫折したその行為。
それを、この子がやっている?
一体どうやって?
どうして今になって?
それとも全てが嘘?
訳の分からないことだらけ。
話す彼女を見ているととても嘘を言っているようには見えない。
最初から最後まで自然体に見える。
全てが演技?
嘘だとしたら、この子にどんなメリットが?
分からない。
……分からないけど。
もし、全てが本当だったら?
空も飛べるし、ただ単に槍が壊れたから買いに来ただけ。
確かに一番しっくりくる。
正直、話の内容はとても信じがたいことばかりだけど……。
よし。
「分かりました。沢山の質問に答えていただきあありがとうございます」
こうなったら全て本当だという事を前提に動きましょう!
分からないことだらけだけど、そもそも商品を売るだけのうちには何のデメリットも無い。
変な要求されたら突っぱねればいいし、悪質プレイヤーだったらそのうち分かるでしょう。
むしろ本当だった方が面白いわ。
もしそうならこの子は絶対有名プレイヤーになる。
今のうちに手を付けといた方が絶対いい。
三日でワイバーンを撃破する強さ。
その上誰にもできなかった空を飛ぶことができる。
おまけに見た目は抜群。
話題にならない理由が無い。
そうと決めたら絶対に逃がさないわ!
「お客様の場合ですと、形状は刃の部分を長めに取った物の方がよろしいかと思います。効果範囲を増やすことで攻撃力を増加させることはもちろんですが、すれ違いざまという事であれば魔物に近づきがちでしょうから、安全を確保する意味でもその方がいいでしょう。ですが勢いを利用する関係からどうしても武器を痛めがちですので、攻撃力よりも耐久性を重視した方が、戦闘中の破損も抑えられ戦闘に集中できるのではと思います」
すぐさま最適な武器を提案。
武器は適当にするつもりだったけど、まず少しでも彼女の信頼を得ないとね。
「それでお願いします。予算は100,000ゼルですので、その範囲で見繕ってもらえますか?」
少し考えた上で頷いてくれた。
どうでもよかったと言うよりしっかり考えてくれたように見えるから、提案した内容は間違ってないみたいね。
予算も十分。
鳥系ばっかり倒してるだけあって流石に持ってる。
でもこれだけじゃ終わらせない。
「100,000ゼルですね。それだけあれば要望に合ったものをご用意できますが、よろしければ一緒に防具の方もいかかでしょう」
決して着せ替えを狙っているわけではない。
ワイバーンが出るようなところまで進んでるのに初期防具なんて、殺してくれてと言ってるようなものなのだから。
「是非お願いします」
よし、まずは一歩。
「ですがお金は足りますか? どれくらいするものか分かりませんが」
「一通りご用意はできますがやはり品質は落ちますので……そういえばお客様、魔物の素材はお持ちでしょうか?」
ここでうまく話を進めれば着せ替えも……げふんげふん。
「魔物を倒すとお金とは別に素材が手に入ることがあります。特にお客様の場合は槍の攻撃だけで倒していますので、多めに持っていると思います」
知らないような表情だったので少し解説。
まだ四日目だからあんまりシステムのこと知らないようね。
話しぶりからソロっぽいし、教えてくれる人が居なかったんでしょうね。
「そういった素材は冒険者ギルドで換金できますし、当店でも買取を行っています。そしてそれを踏まえての提案なのですが」
そしてここからが勝負っ。
頑張れ私っ、素敵な未来が目の前に……っ!
「よろしければオーダーメイドで装備をおつくりしませんか?」
オーダーメイド。
このゲームでは生産系スキルであらゆる武器や防具を作れる。
店頭に既製品として置いてあるものもそうだから、そういう意味ではプレイヤーの店で売っているものはほぼ全てオーダーメイド。
ドロップ品の売買も行ってはいるけど、ギルドでの買取金額が高いためほとんどはそちらに売られていく。
既製品となるのはいわゆる汎用品。
形状、攻撃力、耐久力が平均的なもので、改造枠が多めのものがほとんど。
多くのプレイヤーは既製品を買い、それを自分好みに育てることが多い。
オーダーメイドにはリスクも多い。
オーダーメイドだからと飛びぬけて性能が良くなるわけではない。
既製品に比べ好きな形状で好きな性能にできるけど、ほぼそれだけという認識がほとんど。
性能は既製品を改造することでである程度対応できるし、形状はよほど特殊なものでない限りは大抵慣れる。
なのにオーダーメイドで希望の装備を作るには素材も結構必要だしお金もかかる。
逆に湯水のようにお金と素材をつぎ込めば強力な装備もできるけど、普通のプレイヤーはそんなことできないのだから。
「お持ちの素材を利用して装備を作成。余った素材はそのまま買い取らせていただきますので予算の上乗せにもなります。欠点としては作成までにお時間がかかることですが、槍と装備の一揃えでしたら……午後一時には出来上がります」
だけど今回こそ伝家の宝刀オーダーメイド!
ある程度店側の自由にさせてもらえるのなら足りない素材はこちらで用意するから素材を全て用意する必要はないし金額も下がる。
当然自由度は下がるから普通ならやっぱり既製品でとなってしまうけど、ワイバーンの素材があるなら強い装備も作れてお財布にも優しい。
しかも、こちらの好きに装備をデザインできる!
「それくらいでしたら大丈夫です。オーダーメイドでお願いします」
きた!
あとは詳細を詰めないといけないんだけど、多分この子の選択基準は性能重視なんじゃないかと思う。
だから恐らくデザインにはあまりこだわらないはず。
「槍は先ほど話していただいたもので構いません。防具は軽くて動きやすい物で、空を飛ぶのでフリルとかひらひらするのもやめてください。あとスカートではなくズボンで。それくらいですね」
やっぱり。
要望と言っても機能面だけでデザイン的なことにはほとんど触れてない。
スカートを選べないのは残念だけど空を飛ぶなら当たり前ね。
けどその辺だけ注意すればあとはこちらの自由にしていいってこと!
「分かりました。そのように進めさせていただきます」
表向きは努めて冷静に締めて素材と代金を預かった。
本当は着せ替えしてデザインを詰めたかったけど、多分そういうのは嫌がるタイプだと思うから素直に諦めた。
にしてもやっぱり結構持ってるわね。
魔法で攻撃すると素材はほとんど手に入らないないけど、物理だけだった彼女ならこれだけあっても不思議じゃない。
これなら性能もかなり良いものが作れるわね。
こうしちゃいられない。
槍担当と防具担当を集めてすぐに作成にかかってもらわないと。
でもその前にデザインよ。
凝ったデザインにしたいところだけど多分彼女の好みじゃないわよね。
一度作って終わりじゃ意味が無いから好みに合わせないと。
こちらの好きなデザインなんて付き合っていればそのうち機会もあるでしょうし。
一度の大きな儲けより継続的なお付き合いよ。
ああ急がないと。
タイムリミットは午後一時。
バトルデイズの総力を挙げて最高の装備を間に合わせて見せるわ!




