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1-2 私以外にとってのプロローグです。


 このゲーム『Beast Life Fantasy Online』は、基本的なシステムは他のVRMMORPGと大きな差は無い。

 レベルがあってスキルと魔法を育て魔物と戦う。

 戦わない者は何らかの職業について活動する。

 メインストーリーは多くを語られておらずよく分かっていないが、ゲーム開始時にシステムメッセージから語られる『龍の宝玉』がキーアイテムになっていると思われる。


 BLFOはそんなよくあるMMORPGではあるが、もちろんプレイヤーを引き付ける特徴もある。

 プレイヤーはゲーム開始時に自分の種族を決める必要があるが、そこに『人間』が無いのだ。

 プレイヤーは『獣人』と呼ばれる、体に動物の特徴を持つ種族から自分の種族を選ぶことになる。

 よくあるジョブやクラスと同じに考えて構わない。

 犬族と猫族はスタンダードタイプ。

 熊族はパワータイプで狐族なら魔法タイプと言った感じだ。


 しかしそれだけだったら今までのVRゲームでもあったが、この全感覚型VRでプレイするBLFOではその動物の特性を自分のものにすることができる。

 例えば猫族を選べば遠くの音が聞こえ、犬族では繊細な匂いを感じるといった風にだ。

 もちろんその種族を選んだからと言ってすぐにその特性を使えるようになるわけじゃない。

 普通の人間には無いんだから使いこなすには練習が必要だ。

 逆に無意識に特性を使ってしまい、開始してすぐに耳が痛くなってしまうというプレイヤーもまれに居るが。(その場合は一旦ログアウトし専用のキャリブレーションを経てもう一度ログインすることになる)

 しかしその特性を使いこなすことでリアルの自分とは違った自分を楽しむことができるのがこのゲームの特徴だ。


 例えばキイが得意とする索敵能力。

 察知のスキルを使えば誰でも見えない魔物を発見できるが、キイの場合スキル以上に遠くまで発見し、そこからさらに魔物の種類まで判別することがある。

 本人曰く『足音だったり匂いだったりいろいろ』らしいが、まさしく種族特性を存分に活用している典型例だろう。

 キイの猫族、俺の犬族はほとんど同じ方向性で、特性に慣れやすい上に種族性能も平均的で人気が高い種族だ。

 更にプレイヤーによっては尻尾を動かすこともできるので、その可愛さから選ぶ人も多い。


 そして一方で最も人気の無い種族が鳥族になる。

 いやある意味では最も人気がある。

 背中に生えた翼はいかにも天使と言った感じで非常に見栄えがいい。

 中二な心を持っていてもいなくても、つい目が行ってしまう種族だ。

 そういった意味では人気がある。というかそういった意味でしか人気が無い。

 どうしてそこまで人気が無いのか。

 一言でいえば、鳥なのに飛べないからだ。


 考えてみてほしい。普通の人間が翼の動かし方なんか知っているだろうか?

 耳や鼻なら人間にもある。

 犬族になって遠くの音が聞こえるのも、普段から耳を使っているからそれの延長として使えるのだ。

 尻尾は普通の人間には無いが、人間は元をたどれば猿だったという。

 猿には尻尾があったのだから本能的に理解して動かせる。というわけだ。

 運営公式見解は出ていないためあくまでプレイヤーによる推論でしかないが、尻尾まで動かせるプレイヤーは限られるため、その『本能的に理解できるかどうか』ということが真実味を帯びているとして有力説となっている。


 そして先ほどの言葉に戻るわけだ。

 人間は翼の動かし方なんか知らない。

 ゲーム開始直後はそれこそ一番人気の種族だった。

 見た目もよくて空も飛べるとなれば誰だって選びたくなる。

 しかしすぐに翼を動かせないことが判明し評価はガタ落ち。

 飛ぶためのスキルを探すため成長させようとしたプレイヤーもいたが、運営から『各種族の特性を直接サポートするためのスキルは無い』とのアナウンスが出たことから断念。

 それでもその見た目にこだわって使い込むプレイヤーもいたが、成長させるにつれ他の種族に比べ成長速度が遅いことが判明。

 結果、見た目しか評価の残らない種族になってしまったのだ。

 そして今、そんな種族が最前線のダンジョンの入口に居る

 ということは。


「もしかして、サポートNPCじゃないか?」


「だね。こんなとこまで来れる鳥族プレイヤーが居たら知らないはずないし」


 最前線にいるパーティは限られるからほとんどのとこと顔見知りだ。

 自然とこの結論になる。


「でもそんな情報聞いてないですよ~」


「知らん間にイベントフラグ立てたんと違う?」


「ここに来るまで特別変わったことはありませんでしたが」


「違うといえばまともに魔物倒してたことくらいか。確か他のパーティは山優先でここまでは戦闘回避してたはずだし」


 俺たちは死に戻り前提でレベル上げも兼ねてたから、ここまで来るのに戦闘を回避したりはしなかった。

 他のパーティは山の攻略優先でここまでは戦闘をしないようにしてたらしい。


「討伐数で変わるとか? 検証大変そうだなぁ」


「その辺は検証班にお任せだな。とりあえず魔物とPKの可能性捨てたいから話しかけてみようぜ、キイ」


「はいはいあたしが犠牲になればいいんでしょー」


 一言文句を言われるがだれも口を挟まない。

 キイの能力はみんな知ってるから危険回避はキイに任せるのだ。

 しかも相手は女の子。

 いくらNPCとはいえ俺やバルガスが話しかけると警戒させてしまってサポートしてもらえないかもしれない。

 決して知らない女の子に声をかけられないほど童貞をこじらせているわけではない。


「ヘタレ」


 ちがいますー適材的所ですー。


「でもホントに可愛い子ですね~」


 エリスに言われよく見てみると、遠目では分からなかったが確かに整った容姿の子だった。

 はっきりとした目元だが柔らかそうな頬と相まって非常に優しそうな顔だちをしている。

 みずみずしい唇ですっきりとした鼻筋からのラインがどことなく可愛らしく、女性というより少女という印象だ。

 軽くまとめるだけの髪は無造作に流されているが、それがかえってとても自然体に見え少女の魅力を引き立てているようでもある。

 服装はシンプルなロングスリーブのシャツとズボンだけで防具らしいものは見えないが、小さく施された細かな刺繍から高価な装備だという事が分かる。

 肩に立てかけるように持つ槍は真っ黒で女の子が持つにはどことなくアンバランスな印象を受けるが、これも店売りでは見たことが無い武器だ。

 恐らく相当なハイレベルNPC。

 確かにこのNPCがサポートしてくれるんならここの攻略は一気に楽になる。

 プレイヤーでは鳥族の翼は役に立たないが、NPCは空を飛べるのだ。

 人間は翼の使い方なんて知らないが、コンピューターは与えられた機能を使うだけなんだからできて当たり前だ。

 PVにはもちろん空を飛ぶシーンがあるしゲーム中でもNPCが飛んでいるところを目撃されている。

 というかあのPVのせいで無駄に期待値が高まったんだろうな。

 いかにも気持ちよさげにイケメンと美少女が飛んでくシーンとか公式最大の釣りだったと今でも言われてる。


 なんにせよ空からの攻撃がつらいこのダンジョンで鳥族のサポートNPCが入るんだったら一気に話は変わる。

 ここの攻略の出遅れた分、メンバーのレベルは上がってるからそこまで消耗していない。

 うまくいけば一気に踏破できる。

 しかしNPCにここまで近づいても緊急イベント発生のメッセージも出ないしクエストポイントの表示も無い。

 ってことはNPCにサポートしてもらえるかどうかはリアルと同じく交渉次第というわけだ。

 なので頑張れキイ!

 全ては君の力にかかっている!


「やっぱヘタレや」


 うるさいやい。

 アヤメの言葉をスルーしてキイの交渉がうまくいくように念を送る。

 ウザそうな視線はきっと気のせいに違いない。


「こんにちは」


「あっはい、こんにちは」


「こんなところに一人でどうしたんですか?」


「別にここに用事があった訳ではないんです。ただ休憩ついでにコーヒー飲んでただけで」


 コーヒー?

 言われて手元を見れば確かにカップがある。


「よければいかかです?」


 そう言いながら魔法ポットを向けてくる。

 NPCからコーヒー勧められる?

 店のおばちゃんNPCから試食勧められたこともあるし、ありえないわけじゃないのか?

 なんか変わったNPCだな。


「あーせっかくだけど苦手だからあたしは遠慮しとくかな。胃が荒れちゃうんで」


「いえ苦手だったら仕方ないですから。やっぱりそういう方用にカフェオレ用の牛乳を買っておいたほうがいいですね」


 カフェオレ用の牛乳って。

 確かにこのゲームのNPCはよくできてんなーっていつも思うけどここまで自然なのかよ。

 サポートNPCなんか入れたことないからここまでとは思わなかった。


「あのー、一人ってことは飛んでここまで来たんだよね?」


「はい、そうです」


 NPCならそう答えるよな。

 プレイヤーがNPCぶってる線もまだ消えてないが。

 ちなみにNPCかプレイヤーかを判別する方法は、なんと驚くべきことに、無い。

 全く無いわけではないが、相手の意志と無関係に確認する方法は街中でしか使えない。

 NPCもプレイヤーも、世界に存在する同じ『人』として接してほしいからというのが運営の言い分だ。

 言いたいことは分かる。

 いちいちNPCを示すマークとか見えてたら興覚めもいいとこだ。

 ただし今回みたいにPKに利用される可能性はあるので、出来れば何らかの対応は欲しいと思う。

 盗賊NPCだったら一緒じゃんという考えもあるので、どっちにしろ警戒するのは変わらない気もするが。


「もし時間あるんだったら一緒にこの山のダンジョンに挑戦しない?」


「ダンジョンにですか? 足手まといにならないでしょうか」


「地上は私たちやるんで空の敵だけお願いしたいんだけどだめかな。無理そうだったら途中で抜けてくれてもいいし」


「そうですね……こういうの初めてなのでよく分からないんですが、どれくらい時間がかかりますか?」


 やっぱり初めてか。

 情報が無いわけだな。


「あたしたちも初めてだから予想になるけど、大体一時間から二時間かな」


 一番山頂に近づいたパーティが一時間だったらしいから、ボスも居ればそれくらいになるはずだ。


「一時間半くらいなら大丈夫ですがその後は用事があるので……」


 サポート有りだと時間制限付きになるのか。

 多分時間オーバーでリポップ上昇とかステータス強化されるんだろうな。

 キイも他の奴らもどうする? と俺の方を見てくるがそんなもん決まってる。


「是非頼む。空側を担当してもらえるんなら間に合うだろうしな」


 どのみち死に戻り予定なんだし、楽に進める方を選ぶ。


「わかりました。しばらくの間ですがよろしくお願いします」


 お願いします、のところで頭を下げられる。

 顔を上げたその表情には柔らかな微笑みが浮かんでいた。

 ヤバい、NPCなのに惚れそう。


「こちらこそよろしく。あたしはキイよ。メインは弓なんだけど今回はダガーで地上の敵を相手にしてるわ。斥候も兼ねてるから索敵は任せて。あとこの変態には近づかないでね」


「ちょっ!」


「ウチはアヤメや。攻撃魔法担当やからヤバそうやったら援護するわ。あとこの変態に何かされたら燃やすから言うてな」


「燃やすな!」


「エリスと言います~。回復と補助担当なので怪我したら言ってくださ~い。あとこの人には話しかけない方が……」


「話すのもダメ!?」


「バルガスです。盾役ですのであまり空のお役には立てませんが、何かあったらいつでもどうぞ。あと彼は女性となると見境有りませんのでくれぐれも注意してください」


「はーい皆さんから暖かいご紹介いただきました変質者で危険人物認定なプルストですーメインは剣でアタッカですー危ないんで近づかないでくださいねー……どーせ俺なんてカナブン以下のゴミクズ同然なんでー……」


 みんな酷いよ……。


「えっと、イオンと言います。特にこれと言って特技は無いんですが空を飛ぶのは好きです。それからプルストさんはみんなに愛されてていい人ですね。大変だと思いますがこれからも頑張ってください」


「貴方が天使か!!」


 NPCなのにこの気遣い!

 NPCじゃなかったらマジで惚れてるわ。


「戦ってる時は迷惑かけないようちゃんと離れてますので、戦闘も頑張ってくださいね」


 そう言って微笑んでくれる。

 しかも俺の方を向いて! 俺に向かって!


「おうよ任せとけ! 一匹残らず剣の錆にしてやんよ!」


 やっべーマジやっべー。

 俺新世界の扉開いちゃいそう。

 もうNPCでもいいんじゃね?


「……ていよく距離を置かれてるのに気付いてないわね」


「……やっぱり変態や」


「……拘束系魔法準備しときますね~」


「……運営にメールする準備はできてますのでそちらはお任せください」


 外野の声なんて聞こえませーん。

 俺とイオンのバラ色の未来が待ってんだからなー!

 あっ、いや、すんません。真面目にやります。

 まだイオンがPKの囮って線も消えてないわけだし、気を抜くなんてあるはずないじゃないっすかーハハハ。


 結論から言えば取り越し苦労だったわけだしな。

今のうちに申し上げておくと、種族特性を生かすシーンはあっても種類は多くない予定です。

基本的に耳と鼻と目が強化されるくらいです。

プルストが言ってたようにジョブと同じ程度に考えてください。

期待していただいた方は申し訳ございません。


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