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3-3 おやつのために空を飛びます。


 おやつを終えて森から飛び立ちました。

 方向は街とは正反対。

 このまま森を抜け新しい観光スポットを探します。

 ですが特に目的地は決めていませんので、実のところ適当に飛んでるだけですね。

 そのうちよさそうなとこが見えたら降りてみる、その程度です。


 森を抜けたところはまた草原でした。

 森の手前の草原と似たような感じですが、そこにいる魔物が違います。

 牛は居ない代わりに馬が居ます。

 それに他の種類も居るようです。

 すぐに見えるところには兎、大きめの猫も居ます。

 形だけ見ると普通の動物なんですが……緑色の馬とか黄色の兎とか、色はいかにも魔物といった感じです。

 私に気付いて顔を向けてきますがそれだけです。

 多分襲ってみようにも届かないんでしょうね。

 私も無視してそのまま通り過ぎ……ようとしましたが気になるものが見えました。


 一見すると緑の球体。

 ですが半透明で、よく見ると完全な球体ではなくゼリーのように形を変えています。

 TVゲームでも見た覚えのある、あんな色をしたゼリー状の魔物。

 という事はもしかして、あれはスライムじゃないでしょうかっ。

 RPG以外のゲームでも度々登場し、いつもその愛くるしいボディでプレイヤー楽しませる魔物。

 いつも序盤で登場しすぐにやられていく可哀そうな魔物。

 時々リアルな外見だったり終盤で強くなって出てきて困らされますがそこも魅力の一面にしてしまう魔物。

 私でも知っている、あの有名なスライムが居ましたっ。

 やっぱり突っついたらプルプル揺れるんでしょうか。

 肌はゼリーの様にツルツルしてるんでしょうか。

 是非一度膝の上に抱えてプニプニして遊んでみたいですねー。

 なんて考えつつ眺めていましたが……スライムが兎に近づいたと思うとそのままスライムの手(?)が兎の足を捕まえ、そのまま引きずりスライムの体の中に取り込まれてしまいました。

 兎はしばらく暴れていましたがすぐに大人しくなっていき、そのまま動かなくなりました。

 ……きっとあれって食べてるんですよね。

 ということは私がプニプニしようと近づいたらああなると言うわけで……。

 ……残念です。

 やっぱり仮想とはいえ現実の世界。

 デフォルメされた可愛いスライムはゲームの中にしかいないんですね……。


 いえここもゲームでした。

 なんだか自分でも訳が分からなくなりそうです。

 ゲームなのか現実なのか区別しきれてないようですね。

 魔物が居たり精霊が居たりどう考えてもゲームの世界。

 でも肌で感じる空気やドーナツを美味しいという感覚は現実のそれと変わりません。

 どうも頭と感覚で食い違ってるようですが……まぁほっとけばそのうち落ち着くでしょう。

 今考えて分からないことは放置するに限ります。


 気を取り直して前方に意識を向けます。

 何か見えたような気がしたので高度を下げてみると街のようなものが見えました。

 サイズ的には村と言った感じですね。

 大きな建物も無く畑が目につくくらいの小さな村です。

 特に面白そうなものは無いようですがそれでも寄ってみましょう。

 案外名産のおやつとかあるかもしれないですし。

 村の入口へ向け高度を下げます。

 いきなり村の中に降りると驚かせてしまいますしね。

 昨日もゲームを終了しようと結界石の広場に降りたら周りの人に見られていましたし。

 街中で飛ぶのは控えることにしました。

 頭の上を通ると考えるとなんだか失礼な感じですし。

 なので入口から入ろうと着地します。

 昨日何度も練習しましたから今では完璧です。

 走る牛の背中にだって降りられるようになりました。

 高度を下げ入口に降ります。

 ゆっくり近づいてふわりと着地しました。

 入口に門番(門はありませんが)の方が居ますので、あまり速いと驚かせてしまいますから。


「こんにちは」


「ああこんにちは。珍しいなぁ鳥族の人がこんなとこに来るのは」


 門番の方に挨拶しつつ近づきます。

 普通の人間なのでNPCですね。

 コンピューターとは思えないほど自然に見えます。

 一応武器を持ってるようですが特に防具とかは無いので普通の村人さんのようです。


「特に用というほどでもないんですけど飛んでたら目に入ったので。入ってもいいですか?」


「そりゃ構わんが、こんな小さい村には何も無いけどな」


「休憩ついでに散歩させてもらうだけなので大丈夫です。それでは失礼しますね」


「ああ。ようこそセカ村へ、ってな」


 明るく見送られ村に入ります。


「っとそうだった。あんた冒険者だよな」


 入ろうとするところで呼び止められました。

 確かこのゲームのプレイヤーは全員が冒険者だったはずです。

 特に冒険的なことはしなくても、始めた段階で冒険者ギルドというところに登録されていて、そこから色々な仕事を受ける事が出来るとマリーシャが言ってました。

 街でお店をやっているだけでも一応は冒険者なんだそうです。

 なので空を飛んでいるだけの私でも冒険者という事になりますね。


「一応は冒険者です。まだまともに仕事はしたことないですけど」


「そうか。戦い慣れてるようには見えんしな。まぁ気が向いたら宿の店主から話聞いてやってくれ」


 冒険者に対して、話を聞いてやってくれという言葉。

 冒険者じゃないと出来ない仕事をお願いしたいとかそういったことでしょうか。

 気が向いたらと言ってましたがやめておきましょう。

 戦い慣れてないというところで無理だよなーという感じの表情でしたし。


「気が向いたら聞いてみますね」


 嘘はよくありませんが建前のセリフだけ言って今度こそ村に入ります。

 村は建物を中心にして周りに畑が広がっています。

 今はその畑の端から建物が集まる方へ歩いています。

 畑にはカボチャやピーマンと言った普通の野菜が並んでいます。

 夏野菜ばかりなので現実に合わせてあるという事でしょうか。

 かと思えばピンクのキュウリのようなよく分からないものまであるので、案外適当かもしれません。


 そういえばどうして入口に番をする人が必要なんでしょう。

 今日ルフォートから出るときは南側の門から出ましたが、そちらには誰も居ませんでしたし。

 結界石がある街は魔物が入ってこないと言ってましたが、もしかしてこの村は無いから番をする必要があるんでしょうか。

 そういう街でゲームをやめる場合は、確か最後に立ち寄った結界石に戻されることを承知でログアウトするか……。


「宿屋を利用して部屋の中からログアウトする、でしたっけ」


 自然と仕事を受けるように作られてますね。

 さすがゲームです。

 確か宿屋や結界石の無いところでログアウトすると、その間に取得したお金や経験値が減るデメリットがあるんでしたっけ。

 ですがここまで飛ぶのにそこまで時間かかりませんでしたし、また飛んで戻ればいいことですね。

それに何かあって戻されても問題ありません。

 でないとドーナツ買えませんし。


 考えてるうちに畑が終わりようやく村に入ったという感じになりました。

 ルフォートの町と違いほとんどが木製で平屋。

 田舎という印象そのままです。

 中心の広場には井戸があるだけで結界石はありません。

 やっぱり宿屋を使えという事ですね。

 その広場の向こう側にある、二階建ての建物。

 一階が食堂の様になってるようなので、あれが多分この村の宿屋だと思います。

 他に目につくものは……一応食料品兼雑貨屋さんに見えるお店があります。

 他は普通の民家ばかりです。

 驚くほど何もありません。

 恐らく街から街への中継用といった村なんでしょうね。

 他のプレイヤーさんもこの村では宿屋を利用するだけがほとんどじゃないでしょうか。

 ですが宿屋に行くと仕事が待っていると。

 なのでお店の方へ行きます。

 受ける気も無い仕事の話なんて聞かない方がいいですしね。

 相手にもぬか喜びさせるだけです。

 それでお店の方ですが、店の手前に食料品、奥に雑貨が並んでいます。

 雑貨で欲しいものは特にないので食料品ですね。


「いらっしゃい。何が欲しいんだい」


 奥からエプロンを付けた女性に声をかけられました。

 人間なのでこの人もNPCです。

 他に見かけた人も全て人間だったので多分人間しかいない村ですね。

 それにしてもNPCなんて聞くと堅い印象でしたが、話してみるとそんな感じは全然しませんね。

 先ほどの方もそうでしたし、普通の人としか思えません。

 わざわざ区別して考える方が失礼な気になりますね。


「これと言って決まってないんですけど、何かこの村の美味しい物とかないですか? できれば果物とかいいんですけど」


「美味しい果物ね。特別この村にしかないって訳じゃないが、ミルマの実なんかがいいかね」


 そう言いながら食材の入ったカゴの中からピーマンを丸くしたような物を出してきました。

 そのまま半分に切って片方を差し出されます。


「こう見えても結構甘くてね。どうだい試しに」


「頂きます」


 せっかくなので遠慮なく頂きます。

 外から見るとピーマンですが中は果肉が詰まっています。

 小さめに齧ってみると苺に近い味がしました。

 大きさのせいか普通の苺より水っぽいようですがこれでも十分美味しいです。

 酸味が弱いのもいいですね。

 強い方がいいという人も居ますが私はこの方が好きです。


「美味しいです。でもお菓子にしたらもっと美味しそうですね」


 ジャムにするだけでもいいですね。


「そうなんだよ。いつもなら美味いタルトも食えたんだけどねぇ……」


 そう言いながら頷いていますが……ゆっくりと女性の顔は宿屋の方を向いていきます。

 なんだか嫌な予感が……。


「食堂で働いてた娘が魔物の毒で倒れちまってね。しばらくは食えないのさ」


 やっぱりです……。

 そうですよね、宿屋を利用しなくてもお店だけ利用する人も居ますよね。

 お店を利用したら宿屋に誘導されるように作ってあってもおかしくありませんよね。

 しかもずるいことにお菓子を食べられないというんです。

 これは脅迫ですよ。

 そこまでして宿屋の仕事を受けろと言うんですか。

 しかも簡単なものだったらやってもいいかなと思い始めてしまってます……。

 我ながら単純です。


「よかったら事情を聴かせてもらってもいいですか?」


 せめて心の準備をしてから向かいましょう……。



8/30誤字修正しました。

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