14-6 空を飛ぶ練習、始めるよ!
まさかの本日三本目。
無駄に更新が遅かったわけじゃないんですよ!
「それで、結局どうなったの?」
「時間がかかったけど、なんとか機嫌を直してもらえたよ……」
練習終わって、ホーレック周辺でちょっとだけ狩りをして、今はバトルデイズに素材を持って来たところ。
なんか、機嫌を直してもらうまでが一番大変だった……。
「トラブルになってないならいいけど。にしても、いつの間にホストになったの?」
「なんでそうなるの!」
そういうお店入ったこともないし!
「女の子から丁寧に教えてもらってるんでしょ? 手取り足取り」
翼を動かす練習で、こんな角度で動かしたらいいですよとか、こう動かしたらいいですよって、私の翼をミーアさんが掴んで、動かしながら細かく教えてもらったけど……。
「部活のマネージャーみたいにお世話してもらって」
休憩中に汗ふきタオル持って来てくれたりとか、飲み物持ってきてくれたりするけど……。
「自分で入れたお茶とかケーキとか、女子力アピールまでされて」
ミーアさんのお店に行ったら、店長であるお母さんのとは別に、ミーアさんが作ったっていうケーキとお茶が出てきた。
まだ練習中だからお代は結構ですって言われたけど、ミーアさんのも十分美味しかった。
「どう見ても恋する女の子の行動だと思うんだけど、私だけかしら?」
「……私もそう思います……」
「突然現れたクールな仕事人に入れ込む女の子。そんな状況を見かねた幼なじみの男の子が女の子の目を覚まそうと邪魔に入る。それどこの恋愛漫画よ」
「でも私も女だし、ミーアさんだってそのことは知ってるし……」
翼を動かす練習してるとき、『ロロさんも女性ですよね? だったら体に触っても問題ないですよねっ』って言ってたし。
何故か嬉しそうに……。
「ミーアさんだってそんな事はわかってるわよ。例に出すなら某歌劇団とか、ファンのほとんどは女性でしょ。憧れる対象に性別なんて関係ないの」
「うぅ……」
わかるけど、自分がそういう対象に見られるのはなんか複雑……。
「ちなみにトップスターになればファンの人から車もらったりマンションもらったりしてるそうよ。この世界なら馬車や一軒家になるかしら。頑張ってみたら?」
「頑張らないよ!」
そんなこと言われたら何がなんでも考え直してもらうから!
「それは残念。それはそうと、空を飛ぶ練習はどうなの? というかさっきもそういう意味で聞いたつもりだったんだけど」
「だったらそう言ってよ……ものすごく恥ずかしい勘違いしてたってことじゃない……」
「あとで聞くつもりだったから順序が逆になっただけよ。で、どうなの? 新しい練習を始めた成果はあったの?」
聞かなくていいから……って反論するのはやめよ。やぶ蛇になって話が進まないし……。
それに、ちょっと見せたかったし。
「そっちは、うん」
「あら」
返事をしながらレイチェルに背を向けて、背中の翼を開いて見せた。
「翼を開くのと、少し動かせるだけなんだけど」
言いながら、今度は軽く前後に動かした。
その動きは昨日までよりずっとスムーズで、少しは羽ばたいているように見えると思う。
「ちゃんと動かせるようになったのね。凄いじゃない」
本心から褒めてくれてるレイチェルの声がものすごく嬉しい。
練習、頑張ってよかったぁ。
今日やったのは、翼を開いたまま枝の上から飛び降りる。たったそれだけ。
もちろん風に乗ることはできなかったけど、飛び降りてるだけでも背中から伝わってくる感覚が段違いだった。
そしてその感覚を忘れないうちに動かす練習をしたら、今までよりずっとスムーズに翼を動かせるようになった。
多分、錆びたロボットからは抜け出せたと思う。
「風を感じることで情報量が増えて、翼からの感覚を掴みやすくなった、というとこかしら」
「ミーアさんもそんな感じに言ってた。逆にその感覚が強すぎて、翼を動かす余裕がなくなっちゃう場合もあるそうだけど」
「風を感じすぎる、敏感な人には向かないということね。その場合は地上の練習で翼をしっかり動かせるようになってからになるのかしら。人によってどっちの練習がいいのか、試してみるまでわからないわね」
「それがいいかもしれないんだけど、余裕がなくて翼を動かせないだけならまだしも、パニックになってメチャクチャに動かして、事故になっちゃう場合もあるんだって」
「ああ、それで怖い思いをすると更に難しくなりそうね。下手するとトラウマものだし」
結構な勢いで木にぶつかった例もあったそうだし、そんな経験したら飛びたくなくなっちゃうよね……。
「やっぱり地上でしっかり練習してから風に乗る練習をするのが一番確実なルートで、ロロの場合は運が良かったと」
「そういうことみたい」
だからミーアさんにものすごく安心されたっけ……。
「でも、まだ飛べるようにはなってないのね」
「うん。今までよりは動かせるようになったけど、まだまだだから……」
翼は、一応動かせる。
だけど細かい動きはまだ全然ダメ。
「大雑把には動かせるけど細かい動きは全然だから、風を捕まえられなくて……」
羽ばたけなくても、風に乗ることができればゆっくり地面におりてくる。紙飛行機みたいに。
でもそれができない私は……。
「ずっと紐無しバンジー状態で、真っ直ぐ落ちるだけの練習だったのね」
その通りです……。
「エディ君だっけ。その子のアドバイスはどうだったの?」
「それが、とある野球監督の指導法みたいな感じで……」
「ガッとしてグッする、みたいな?」
「ガッと風を捕まえてグッと乗っかる、って言われたよ……」
「小さい子なんだから理論的に説明しろって言われても難しいだろうし、仕方ないといえば仕方ないわね。どちらかと言えば、ミーアさんがしっかりしすぎてるわけだし」
結局は、今までと同じくミーアさんから教えてもらう時間のほうが長かった。
エディ君の機嫌を損ねないように、エディ君の言うことをミーアさんが解説するみたいな感じになってたけど……。
「それはそれはご苦労様。明日からも頑張ってね」
そういう意味での苦労はしたくなかったよ……。
「練習を頑張るのはいいけど、もう少しホーレック周辺の魔物素材を獲って来ることはできない? 全然足りないのよね」
「いいけど、なんでそんなに足りないの?」
「ロロ、あなたまた掲示板見てないでしょ」
ぎくっ。
「だって、毎日追いかけるの大変だし……」
「全部を追いかけなくても、総合スレッドを流し読みするだけでもいいのに。まぁいいけど。ホーレックでエス以外のプレイヤーの姿、見たことある?」
「……そういえば、見たこと無いような」
記憶を探ってみたけど、見た覚えがない。
言われるまで考えもしなかったけど、おかしいよね。鳥族の練習場とか、絶対人が集まるはずなのに。
「ホーレックに向かうトンネルがとあるクランに封鎖されてたんだけど、知ってる?」
「封鎖? なんでそんな事になってたの?」
封鎖しないといけないような、危ないものでも見つかったのかな……。
でも過去形で言ってるって事は、今はもう解除されたっていうことだよね。
「アライズっていうクラン、知ってる?」
「聞いたことないけど?」
話の流れ的に、それが『とあるクラン』だろうということはわかるけど。
「イオンさんにそっくりな人が居るんだけど、知ってる?」
「それは知ってる。というかなんでレイチェルが知ってるの?」
日曜日にショッピングモールで見たあの人だよね。なんでレイチェルが知ってるんだろ? あとなんで話がそこに飛んだんだろ?
「なんでっていうのは私のほうが言いたいわよ。どうしてそこだけピンポイントに知ってるの」
「日曜日にショッピングモールで買い物してたら、イオンさんと一緒に居るところを見かけたもん」
「リアルで見たのね……まぁいいわ。その人もこのゲームをプレイしてるんだけど、なんとイオンさんのお母さんだそうよ」
「お母さん!?」
確かに年上には見えたけど、そこまで年上には見えなかったよ!? いいとこ二、三歳くらいしか違わないように見えたよ!?
「その様子だと、本当に現実でもそっくりなのね」
「姉妹かと思ったくらいに似てたよ……」
イオンさんに姉妹は居ないって言われたけど、まさかお母さんとは思わなかった……。
「そんな人が現れたら、騒ぎにならなかった?」
「もちろんなったわよ」
それから、月曜日にあったっていう、イオンさんとお母さんの騒ぎの内容を詳しく聞いた。
それと、アライズとトンネルに関するイザコザも聞いた。
知らないところでそんな事になってたんだぁ。
「なんか、いろいろ大変だったんだね……」
こういうこと言っちゃうと当事者の人には失礼かもしれないけど、巻き込まれなくてよかった……。
「ねぇロロ。本当に何も知らないのよね?」
「え、なんで?」
「アライズに関する一連の出来事をイオンさんも知らなかったんだけど、解説を聞いてからの第一声が全く同じセリフにだったわよ」
「ただの偶然だよ……。それに、余りに色々ありすぎて自分と関係してる実感がないってい言うか……」
「それもそうか。自分の知らないところで事件が起きてて、全て終わってから『貴方もそれに関わってました』なんて言われても、『あ、そうなんですか』としか言えないわよね」
本当にその通りだと思う……。
「良かったわね、ホーレックで練習に集中してて。ロロが姿を見せてたら絶対巻き込まれてたし、間違いなく話しもややこしくなってたはず。イオンさんといいロロといい、情報収集の弱さを良い方向に持って行けるのは羨ましいわ」
良い方向かどうかはわからないけど、巻き込まれなかったのは本当に助かった……。
「イオンさんとロロみたいな世俗に疎いのが居る一方で、メグルみたいに庶民を代表するようなのも居る。鳥族のトッププレイヤーになるには、どっか極端じゃないとなれないのかしら」
「そんなわけないでしょ……大体私がトッププレイヤーなわけないし……」
世俗に疎いの部分は否定できないけど……。
「初見でエレメントゴーレムの弱点突いてトドメをさせるプレイヤーが、一般プレイヤーに分類されるわけないでしょ」
それも否定できません……。
「話がズレたけど、そんなわけでまだホーレック周辺の魔物素材が入ってこないのよ。昨日からクラン戦が始まって、それからずーっと連戦。疲れ切ったアライズがついさっきやっと負けたらしいから、各クランやパーティはこれから向かうって段階なの」
「強い人たちばかりのクランでも、連戦で疲れちゃうとどうしようもないよね」
「最初はフェイスオフだけだったみたいだけど、すぐに他のクランも合流したらしくてね。まさに数の暴力でクラン戦を連続で仕掛けたらしいわよ。クラン戦のあとは強制インターバルがあるとは言っても、攻められ続ければ補給も間に合わなくなるから。アライズのリーダーは、『調査が終わったから開放しただけだ』って言い張ってるらしいけどね」
参加した皆さん、お疲れ様……。
「早いところは今日明日にでもホーレックに到着するでしょうけど、素材が足りない状況はしばらく続くから。当面は高めに買い取るわよ」
「やったっ」
高く買い取ってくれるのはわかってたけど、それがしばらく続くのは嬉しいな。
「じゃ、お願いね」
「うん」
明日からは狩りの時間を長めに取ろうっと。
空を飛ぶ練習もしたいけど、焦る必要はないんだから。
連続更新はここまでです。
時系列的には13-16、17の翌日まで来てるので、今後は日付の重複はありません。
Q:で、次回の言い訳は?
A:ネプ子さんがログインしたので、げふんっ、雪の影響で家に帰れなくて……。
Q:皆さん迷惑するから雪乞いはするなよ?
A:そ、そんなことするはずないじゃないですかー。