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14-5 空を飛ぶ練習、始めるよ!


本日二本目。

一本目がまだの方はそちらからどうぞ。





 ……ダメダメ。相手の勢いに引っ張られて、私まで慌てちゃダメ。

 両方が慌てたら、それこそ収拾つかなくなっちゃうもんね……。


 でも本当、こういうときどうしたらいいんだろう。

 高校生の相手はいつもやってるけど、エディ君は小学校の低学年くらい。そういう子の相手した経験なんて、ほとんどないし……。


 とりあえず、私からミーアさんに『エディ君のほうを見てあげて』って言うのはダメだよね。こういうときに気を使うと逆に怒らせちゃうっていうお話は、いっぱいあるし。

 エディ君からすると、私が気を使うと挑発に見えちゃうんじゃないかなって思う。

 それどころか、エディ君を通さず直接ミーアさんに何か言うのもダメだと思う。エディ君を無視するような形になっちゃうから。


 だから、私からミーアさんにお願いしてエディ君の希望を先回りして叶えてあげるんじゃなくて、あくまでエディ君を相手にしながらゴールに導くのが、理想的な解決方法。……ていう感じになるのかな?

 うぅ、そんなの難し過ぎるよぉ……。


 なんて考えごとしてるあいだもエディ君とミーアさんの言い合いが続いてるし、いい加減止めに入らないとだよね……。

 エディ君かなりヒートアップしてて、そろそろ何かが爆発しそうになってる。『お前のかーちゃんでーべーそー!』とか言って泣きながら走って行きそうな感じで……。

 とにかく割り込んでみよう。最善の結果を出すのは難しすぎるから、目指しつつも被害を抑える方向で……。


「エディ」


「なんだよぉ!」


 うっ、本当に爆発しそう。ちょっと涙目になってるし……。

 え、えっと、まずは話を逸らしてみよ。


「次の練習って何」


「はぁ!? そんなのどうでもいいだろ!?」


「何?」


「だからー!」


「次の練習って、何」


「だーもーっ、何ってアレだよ!」


 逸らす先は、さっきエディ君が言ってた『次の練習』。

 しつこく繰り返したおかげでなんとか答えてくれた。よかった……。

 渋々指をさして教えてくれた方向を見ると、おっきな木の枝の上で翼を広げてる子たちの姿が見えた。


「あそこから飛んで、風に乗るんだよ」


 翼を広げた子たちは次々に枝を蹴って、空を舞っていた。

 ……一部の子は。

 他の子は、舞ってるというより……その……。

 ストレートに言っちゃうと、落ちてる。地面に向かって、まっすぐ。


「バングルの補助無しで翼を動かせるようになったら、ああやって風に乗る練習をするんです。最初は風を捕まえて、少しでも長く空に居られるように。慣れてきたら距離を伸ばす、というような感じで。風に乗れないと落ちちゃいますけど……」


 一部の上達してる子はちゃんと風に乗ってるらしく、ゆっくりおりてくる。翼も羽ばたかせて、少しでも空にいる時間を延ばそうとしてる。

 でもそれ以外の子は、翼は広げてるけど風に乗れてないらしく、ほとんど墜落と言ったほうがいいくらいに真っ直ぐ落ちてくる。

 地面にぶつかる前にバングルの効果で一旦止まって、それからゆっくり下りてくるから、なんかバンジージャンプでもやってるみたい。いくらバングルのおかげで安全だからって、あれじゃ見てるほうが怖いよ……。


 ……って、ちょっと待って?

 次の練習って、あれ?

 そ、そうだよね。翼を動かせるようになったら、次は風に乗れれば空を飛べるわけだから。

 でもあの枝、結構高いところにあるよ? 学校の屋上より高いよ?

 バングルもあるし、ここは仮想世界なんだから、何かあっても死ぬわけじゃない。

 だけど、あんな高さから、生身で飛ぶ。


 ……………………。


 怖くて飛べない人、いっぱい居るんじゃないかなぁ……。

 もしかしたら、ここが一番の難関だったりしないかなぁ……。


 よく考えたら、イオンさんはもっと高いところ飛んでるよね。山越えだってしてるんだし。

 公式イベントのリレーではとんでもないスピードで狭いとこ飛んでたよね。絶叫マシーンみたいに。あれだって、何かにぶつかったりしたら考えたくないことになるよね。


 私は高いところは平気だし、絶叫マシーンだって大体のものは平気。

 レイチェルから『絶叫系とか苦手そうな外見なのに、そんなところで意外性出さなくても』って言われたことあるくらいには平気。特別好きというわけでもないけど。

 でもそういうのが苦手な人は、この練習大変なんじゃないかな? バンジージャンプを飛べない人って、いっぱい居ると思うし。

 翼が動かせるかどうかより、そういう意味で飛べない人が出てくる気がしてきた……。


「あの練習、バングルのおかげで安全に見えるんですけど、実は危険なところもあって」


「墜落はしなくても、木にはぶつかるから?」


「そうです。真っ直ぐ落ちてくるだけならいいんですけど、翼を動かすのに慣れない子が変に翼を動かして、それで木にぶつかっちゃうことは結構あるんです。だからバングルの補助無しで翼を動かせても、普通は練習を始めてすぐの子にはさせない練習なんですけど……エディはバングルで魔力を補助していれば、翼の動かし方も上手だったから」


 バングルは、同じくバングルを付けた人と地面には接触しないけど、木や建物には接触する。

 練習を始めたばかりだとちょっとしたことで慌てちゃって、翼の動かし方が雑になったり、辺に動かしちゃったりして、それが原因で木にぶつかっちゃうかもしれない。

 多少の怪我も勉強のうちっていう方針らしいけど、危険は避けるべきだもん。当然だよね。


 ……あ、そうだ。これ使えないかな?


「エディ。ミーアと一緒に、それ教えて」


「教えるぅ? 風に乗る練習をか?」


 よくわからないという顔をしているエディ君の質問に、頷いて肯定する。


「なんで俺がそんな事しないといけねーんだよ」


「風に乗る練習を始めたら、すぐ飛べるようになったって言った」


「練習始めたばっかのヤツは危ないって、ミーアねーちゃんが言ったばっかだろ」


 エディ君が言っちゃダメなセリフだと思うなぁ、それ。

 ミーアさんも『エディがそれ言うの……』って顔してるし……。

 まぁ言ってることはその通りなんだけど、それは私には当てはまらない。


「大丈夫」


「何が」


「私は異世界の冒険者。怪我をして何かあっても、元の世界に戻されるだけ」


 こっちの世界でやられた異世界の冒険者は、強制的に元の世界に戻されると認識されている。

 つまり、死ぬようなことがあっても大丈夫。


「……ずっりー」


 私もそう思う。でも誰かに迷惑かけるものじゃないし、有効活用しないとね。

 積極的に死に戻りしたいわけじゃないし、見てるほうは気持ちいいものじゃないと思うけど……。


「ていうか、何で俺が手伝わねーといけねーんだよ」


「私も、早く飛びたい」


「だーかーらー」


「飛べるようになれば、練習は終わる」


「はぁ?」


「練習が終われば、仕事に行く」


「仕事? つーかさっきからなんだっつーんだよ。仕事なら勝手に行けばいいだろどこでも…………あ」


 私の言いたいことに気付いたらしく、不機嫌そうな顔がすぐに消えてくれた。


「そうだよな、いつまでも練習ばっかしてるはずないもんな。異世界の冒険者はいろんなとこに行くんだよな!」


「そう」


「だったらミーアねーちゃんがあんたばっかり教えるのも終わるよな!」


 私が早く飛べば、ミーアさんの独り占め(してるつもりはないけど、そう見える状況)もすぐに終わる。

 エディ君が手伝ってくれれば、私も早く飛べるようになる(かもしれない)。

 ミーアさんを私から引き離すことができないなら、私のほうをさっさと追い出してしまえばいい。


「エディが手伝ってくれれば、ミーアも楽になる」


「そうだよな、ミーアねーちゃんの助けになるよな!」


 ミーアさんの役に立つことができるし、ミーアさんが私にべったりな状況も邪魔できる。

 エディ君にとっては、いいことずくめ。


「だったらしょうがないな! 俺が教えてやるしかないよな!」


 さっきまでとは打って変わってご機嫌な顔のエディ君。

 でもミーアさんはいまいち納得できてないみたいだから、できればミーアさんからも許可が欲しい。


「ミーア、風に乗る練習、やってもいい?」


「さっきも言ったように、本当はバングルの補助無しで、ある程度翼を動かせるようになってからする練習なんですけど……」


 私は、バングル外すとぎこちない動きでしか翼を動かせない。

 風に乗るってなると微妙な動作が必要だろうし、やっぱり早過ぎるかな……。


「……でも、中には風を受けながらのほうが翼を動かす感覚を掴みやすいっていう子も居て、風に乗る練習しながらのほうが、上達が早い場合もあるので……」


 ていうことは?


「早過ぎる気はしますけど、でも何かあっても大丈夫なわけだから……。風に乗る練習をやってみるのも、いいと思います」


 ものすごい渋々だけど、ミーアさんからも許可が出た。

 私も先生だからわかるつもり。『なんとかやれそう』なら応援したくなるけど、『無謀』に見えるチャレンジは考え直して欲しくなるもんね……。


「でも、何度かやってみて全くダメそうだったらまた翼を動かす練習からですからね。何かあっても大丈夫でも、何も無いほうがいいんですから」


「わかった」


 だからダメだった場合は大人しく言うことを聞く。エディ君とのことはあるけど、ミーアさんに心配させたくないし。


「よっし決まったな。それじゃ行こうぜ!」


 そう言って一人走り出すエディ君。ミーアさんの手伝いをできるのが嬉しいのか、すっかり元気になってた。

 さっきまでの不機嫌顔よりずっといい。なんとか丸く収まってよかった……。

 見てないでエディ君を追いかけないと。木の上から飛ばないといけないから、あの大きな木を上らないといけないし。


「……あの」


 と思って歩き出そうとしたら、ミーアさんから呼び止められた。


「……私より、エディほうが良かったですか……?」


 何か注意事項でもあるのかな、なんて軽い気分で振り返ったら、少し不安そうな顔をしたミーアさんが居た。

 もしかして、ミーアさんの教え方が下手だらエディ君に変えた、っていう風に見えちゃったのかな? 失敗したなぁ……。


「違う。ミーアの教え方は丁寧。何も問題はない」


 これ以上不安にさせないように、ハッキリ答える。


「ミーアは沢山の子に飛び方を教えている。それを邪魔したくない」


「そんな。邪魔になるどころか、ロロさん遠慮してあまり聞いてくれないじゃないですか」


 言われた通り、ミーアさんのほうから教えてもらうことはあっても、私から聞いたり教えてって言ったことは、一回も無い。


「それも違う。遠慮したからじゃない」


 無いんだけど、それが理由ではない。


「ミーアが子供たちに囲まれている姿を、もっと見ていたかった」


「……? 私が囲まれているところを、ですか?」


 そんなものをどうして、という顔をするミーアさんだけど、私にとってはちょっと憧れる光景だったりするんだよね。


 さっきも言ったように、ミーアさんは沢山の子供たちに飛び方を教えていて、相手はエディ君くらいの、小学生くらいの子が多い。

 そんな子たちに囲まれているミーアさん。


 はたから見ると、まるで生徒から頼りにされる人気者の先生、みたいに見えるんだよね。


 そういう、生徒に囲まれたり頼りにされるのって、正直に言って憧れがある。

 と言っても私の生徒は高校生だから、さすがに大勢の生徒に囲まれることは期待できない。

 でも、時々でいいから頼っては欲しいなって思う。

 思うんだけど、今の私は生徒からすると“頼りになる先生”ではなく、“気軽に話せる友達感覚の先生”、みたいな扱いになってるらしいんだよね。

 普段の接し方からして間違いないだろうし、体育祭の借り物競走でそのお題が出たとき、私が連れて行かれたし……。


 とにかく、良くも悪くも友達感覚。

 気軽に色々話せるけど、本当に重要なことは、しっかりとした答えをくれそうなベテランの先生のところに行ってしまう。


 私は先生になってまだ二年目。今はまだ足りてない部分が沢山あるんだから、仕方ないと言うよりは、それが当然とも言える。

 適材適所。私は生徒の息抜き相手、重要な相談事はベテランの先生へ。


 自分には、まだそういうのは早い、ということはわかってるつもり。

 ……そう思ってはいるんだけど、やっぱりこう、生徒から頼りにされる先生っていうのは、ちょっと憧れる。


 生徒の年齢だって、ここに居る鳥族の子たちと高校生じゃ全然違う。頼りにする、の意味だって、全然違ってると思う。

 でもどういう形であれ、生徒に頼られる先生、みたいなミーアさんを見てると、素直に『いいなぁ』って思っちゃって、つい眺めていたくなってしまうんだよね。


「みんなに頼りにされるミーアは、凄い」


「そんな、私なんて……」


「ずっと見ていたくなる」


「ずっと!?」


「頼りにされてて格好いい。小さい子と一緒に頑張ってる姿は可愛い。一生懸命に教える姿はとても綺麗」


「かっ、かわっ!? きれ!?」


「だからミーアを見てたい。ダメ?」


「だだだだだだだ、ダメ!! …………じゃ、ない、です…………」


 顔を赤くして恥ずかしそうに俯きながら答えるミーアさん。

 ちょっと大げさだったかな。でもこれが本心だし、相手を褒めるときはしっかりハッキリ言わないと。適当なこと言うと、また不安にさせちゃうから。

 あっと、最後にちゃんと確認しとかないと。


「エディに手伝ってもらえれば、そんなミーアをもっと見ていられる。手伝ってもらっても、いい?」


「も、もっとですか!?」


「ダメ?」


「い、いいえ! どうぞエディをこき使って下さい!」


「ありがとう」


 こき使うつもりはないけど、よかった、ミーアさんにも納得してもらえて。


「でも……」


 でも?


「あの、見られるのは、少し恥ずかしいので、ほどほどにというか、その、お、お手柔らかに……」


「善処する」


「お願いします……」


 つい目が行っちゃっうと思うけど、その場合はごめんね。


「そ、それはそうとっ、早く練習に行きましょう! 私が変なこと言って時間取っちゃいましたし! あっ、エディの言うことがわからなかったら言ってくださいね。私も今まで通りサポートしますから!」


 今にも手を引きそうな感じで急かされた。不安が消えてくれたのは良かったけど、テンション上がりすぎのような……。

 でも不安な顔してるよりずっといいよね。

 それじゃ今度こそ練習に……。


「何やってんだよ……?」


 行こうとしたら、今度は不機嫌そうなエディ君の声が聞こえてきた。


「待ってても来ねーから戻ってきたら、二人だけで楽しそうにしやがって……っ」


 せっかく機嫌が直ってたのに、また不機嫌になってるー!

 あ、ミーアさん待って! 注意したらもっと不機嫌に……あぁ遅かった……。


 また言い合いが始まっちゃった……。

 ホント、どうしたらいいの……。





そういえば2/14ですが、バレンタイン的なものはありませんごめんなさい……。


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