3-2 おやつのために空を飛びます。
さてBLFO二日目開始です。
やることは観光と空を飛ぶことと決まっていますが、今日は少しだけ方向性を決めました。
まずは観光です。
昨日は結局街の一部しか見れませんでしたので、今日は別のところに行ってみます。
とはいえ全部を回ると空を飛ぶ時間が無くなりますので、毎日少しづつ開拓していきます。
更に今日は目的も設定しました。
それはお菓子を買うことです。
気持ちよく空を飛び眺めの良い景色探す。
見つけたスポットでおやつを楽しむ。
間違いなく最高の時間になるでしょう。
というわけで早速お店を探します。
昨日はあまり眺めていませんが、武器屋通り(勝手にそう呼ぶことにしました)から少しずれた辺りにそれっぽい広場が見えましたのでそこへ向かいます。
まだ道が分かりませんので昨日の道をなぞるように。
途中から道を外れ、昨日見えたと思われる広場へ。
予想が当たりました。
広場にはテントが立ち並び様々な食材が並んでいました。
一部には屋台も並び、出来立ての軽食やお菓子も販売されています。
いかにもヨーロッパの市場と言った感じですね。
屋台が並ぶ方へ足を運びましたが、どれにしようと選ぶまでも無く一番手前のお店に決めました。
ドーナツのお店です。
しかもその場で揚げたものを販売しているので、ここからでも香ばしい香りが漂ってきます。
正直反則です。
真っ先にそんな匂いを嗅がされたらお腹はドーナツ専用になってしまうに決まっています。
抵抗なんてできません。いえこうなった以上は素直に従った方が幸せになれます。
料金もそんなに高くないですね。
ではこちらで決定です。
「いらっしゃいませーお決まりですかー?」
「プレーンとシュガーとチョコを五個ずつお願いします」
どことなく気の抜けた感じのするお姉さんに注文します。
もちろん一人分です。決して多くはありません。
「はーい。一緒に飲み物はいかがですかー?」
「コーヒーでお願いします」
「ありがとうございまーす。お客さん魔法ポットはお持ちですかー?」
魔法ポットって何でしょう?
「いえ持っていません。どういうもの何ですか?」
「あれ、知らない? ああ初心者装備ってことはお客さんまだ始めたばかりなのね。電気ポットみたいな感じだけど、温めるだけじゃなくて冷やすこともできるの。魔法瓶代わりに使われるのさー」
さすがゲームですね。便利です。
「持ってないお客さん用にうちでも売ってるから一緒にどう? 大中小の三サイズで小サイズでコーヒー三杯分。ワンサイズ上げるごとに倍になるよ」
小で三杯、中で六杯、大で十二杯ですか。
「では中サイズをお願いします」
「ありがとうございまーす。合計で8100ゼルとなりまーす」
魔法ポットが高かったですが今後も使うので仕方ないですね。
「ポットは壊れない限りずっと使えるけどドーナツとコーヒーは痛むから早めにお召し上がりくださーい」
「どれくらい持ちますか?」
「ドーナツは十日、コーヒーは五日が限界でーす」
かなり長いです。こういうところはゲームの世界ですね
「正確なところはストレージから状態を確認してくだいー。はいこちらですねーお待たせしましたー」
「ありがとうございます」
「それからいっぱい買ってくれたのでプレーン一つおまけでーす。揚げたてなんですぐにどうぞー」
そう言っておまけは別に手渡しくれました。
なんだか申し訳ないですがつい受け取ってしまったので頂きましょう。
お礼と頂きますを言ってから口に入れます。
うん、美味しいです。
揚げたてと言うのはもちろんですがきっと冷めても美味しいです。
ゲームの中なのにこんなに美味しいもの食べられるって幸せですねー。
「ご馳走様でした。すごい美味しかったです」
「こちらこそありがとうございますー。次のご来店お待ちしてまーす」
是非また来ます。
あとはカップを買いに行きましょう。
途中で雑貨屋さんがありましたしそこでいいですね。
それを買ったら町から出ましょう。
ドーナツ食べるのにいいところが無いか、飛びながら探しましょうか。
◇◇◇
「あれは卑怯だろ……」
「ホントになーあんな可愛い子に店の前で食わせるとか」
「しかもあの笑顔。破壊力高すぎ」
「ドーナツ一個でものすごい宣伝効果」
「端の店って目にはつくけど、一回りしていいとこ無かったら選ぶ、ってやつが多いから普通あんなに人行かないのにな」
「あのNPCが飯テロ宣伝してから客がこっちまでこねぇよ……」
「あれってNPCなのか? プレイヤーかと思ったんだが」
「俺もプレイヤーだと思った。NPCって屋台の辺りにはめったに来ないし」
「いやNPCだろ。今時、鳥族選ぶ奴なんて居ねーよ」
「だよな。しかもあんなに可愛いのがリアルにいるとか許せん」
「いやそれは許せよ。人類の宝だぞ」
「俺、次あの子が来たらうちの焼き鳥食ってもらうんだ……」
「いや死亡フラグ立てるタイミングじゃねーし。つーかうちのたこ焼きに決まってんだろ」
「お前らあんな可愛い子にそんなの食わせるなよ。うちのワッフルが最強だっつーの」
「いやいや意外とどら焼きもいいと思わないか」
「うちのフランクフルト一択だろ!」
「「「「「それだ!」」」」」
「サイテー」「女の敵」「社会のゴミ」「生きる汚物」「不買運動徹底で」「女性は近づかないようにBBSにカキコした」
その日からしばらく、市場では男性店員の肩身がものすごく狭くなったらしい。
◇◇◇
さておやつスポットに到着しました。
場所は昨日熊と戦った森の広場です。
昨日はゆっくりできませんでしたしね。
今日も泉が奇麗でいい場所です。
泉の側に座ってドーナツとコーヒーを出します。
ゲームは便利ですね。手ぶらで移動してもメニューから選択するだけで物が出せるんですから。
この魔法ポットも便利です。パッと見は普通の魔法瓶に温度調節のダイヤルが付いただけですけど。
先にカップにコーヒーを入れ一口飲みます。
味とかあまり分かりませんけどいつものインスタントより美味しいです。
砂糖と牛乳を買い忘れたので街に戻ったら買いましょう。
ブラックでも大丈夫ですがたまには変えたくなります。
続いてドーナツを一口。
店頭でプレーンは食べたので今はシュガーです。
うん、やっぱり美味しいです。
すぐに食べ終わってチョコも食べます。
薄めにかけられてますがしっかりチョコ感があって最高です。
といいますかどれも美味しすぎです。
他のお店のも食べてみますけどここのドーナツは外さないようにしましょう。
それにしても少し残念ですね。
昨日の森の精霊さんに会えるかと思ってたんですが居ないようですし。
せっかくなのでお会いしたかっです。
熊はもう結構です……よね?
何故か自分でも疑問形です。
苦労したので二度目は遠慮したいと思うんですが。
でも何故か熊を戦って苦労したそれを思い出すと……なんというか……。
……自分でもよく分かりません。
まぁそのうち分かるでしょう。
今はゆっくりドーナツです。
気持ちのいい場所で美味しいもの食べるってものすごく贅沢気分です。
「精霊さんも居れば最高だったですね」
ぽつりと口を付いた言葉。
それに反応するように、泉が波打ち始めました。
波は小さいものでしたがあっという間に人の形を成し、気付けば昨日見た精霊さんの姿がありました。
「貴方は昨日の……どうしてここへ?」
昨日と同じ優しそうな声が響きます。
ですが表情は少し硬いですね。
「もしかして来てはいけなかったですか?」
そういえば封印とか言ってましたし、何か神聖な場所で限られた人しか入ってはいけない場所だったりしたんでしょうか。
「そういうわけではありませんが、ここに何度も来る方はそうは居ませんので」
ダメと言うわけではないんですね。
「それならよかったです。えっとここへ来た理由ですが、こことはとても気持ちのいい場所なのでゆっくりおやつとコーヒーを楽しみたいなと思っただけです」
「おやつと……コーヒー……ですか?」
理由を話すと表情も昨日のように柔らかくなりました。
申し訳ないことに警戒させていたようです。
「はい。あ、もちろん汚さないように気を付けますしゴミも持ち帰りますので。あと騒いだりもしません」
熊が出なければですが。
「それは特に構いませんが……」
よかった許可が出ました。
ダメだったら泉を眺めてボーっとすることだけ許可をもらうところでした。
「ありがとうございます。よかったら精霊さんもドーナツ食べませんか?」
せっかく精霊さんが出てきたんですし。
「……私?」
「はい。コーヒーも苦手じゃなかったらどうぞ」
言いながら買っておいたもう一つのカップにコーヒーを入れ、カップとまずはプレーンを差し出します。
戸惑ってるようですが気にしません。
美味しいもの食べれば誰だっていい気分になりますから、警戒させたお詫びです。
「でも私は……」
「もしかして食べたりできませんでした?」
普通に話してますけど水が人の形になっただけでしたね。
だとするとかなり失礼なこと言ってる気が……。
「いえそれは大丈夫ですが……食事はしなくても問題ありませんので……」
「大丈夫だったらどうぞ。私も食べましたけどすごく美味しいですよ」
食べることができてよかったです。
是非、と手を差し出し受け取ってもらいます。
なんだか恐る恐ると言った感じですが、確かにコーヒーは真っ黒なので知らないと怖いですよね。
なので大丈夫ですよと、私もドーナツを齧りコーヒーを飲みます。
やっぱり美味しいです。
それを見てようやく少しだけドーナツを食べてもらえました。
「んぅっ!?」
最初の一口はほんの少しでしたがすぐに二口目が続き、気付けばあっという間に一個無くなりました。
最初の固い表情が今はすっかりほころんでいます。
気に入ってもらえたようでよかったです。
「よかったらもう一個どうぞ」
「えっ! いっいえ、ですがこれ以上頂くわけにはっ」
結構ですっ、といった感じで顔を顔を逸らされます。
「こっちは味が違いますので」
「ええっ!」
逸らしていた顔がすぐに戻りました。
どうやら興味を持ってもらえたようです。
「あと二種類ありますので」
「二種類も!?」
はい、とシュガーとチョコを差し出します。
精霊さんの目が二つのドーナツの間を行ったり来たりしてます。
「食べてもらえる人が居るなら一人で食べるよりみんなで食べたほうが美味しいですから」
「そっ、それでは……一つだけ……」
まずはシュガーから。
ですがすぐに食べ終わりやっぱりチョコも。
そのあとはプレーンからもう一周と次々食べていただけました。
最後まで顔が緩んでましたからとても気に入ってもらえたようです。
気付けば十二個も食べてもらえましたが、どうも足りないようだったのでまた持っていくことを約束ました。
私の分も食べてしまった上にそんなことと断られましたが、そんなのはどうでもいいことです。
むしろ食べてもらった方が私も気持ちよく過ごせます。
場所は素敵で一緒におやつを食べてもらえる人も居る。
予定が無い限りはできるだけここへ寄ることにしましょう。
それからコーヒーの苦みがダメのようなので、別の飲み物か牛乳と砂糖を用意しましょう。
コーヒーを口に含んだ途端、とんでもない表情をしていましたから……。