14-1 空を飛ぶ練習、始めるよ!
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
更新が遅くなり大変申し訳ございませんでした……。
今日は、
土曜日!
土曜日だから、
仕事はお休み!
お休みだから、
一日中ゲームしてても大丈夫!
……な、なんか、ゲームの話ばかりしてる生徒の気持ちが少しわかった気がする……。
でもようやく飛行練習ができるようになったんだから、私だって楽しみなの!
一昨日の木曜、イオンさんたちとエレノアさんを助けたその足で、ホーレックに行った。
でも、その日はそのままログアウトした。山での戦いが結構忙しかったから、弾も無くなりそうだったし。
金曜はレイチェルが素材採取の依頼をお願いしてきたから、そればかりやってた。数が多くて……。
でも今日はそんな事もないから大丈夫!
練習に行っても大・丈・夫!
というわけで早速ホーレックに出発!
……こほんっ。
慌てちゃダメダメ。
私慌るといっつも失敗するんだから。
しっかり落ち着いて、それから練習を頑張らないとね。
すー、はー。と一度深呼吸。
よし落ち着いた。
それじゃ急いでゲーム機をセットして起動してログイン先はホーレックに決定!
落ち着いてるけど今回は急いじゃうよ! 早く練習したいから!
それに急ぐ理由もある。
練習用の魔道具って数が限られているから、全ての鳥族プレイヤーが練習できるわけではないんだよね。
元々魔道具を使うのはホーレックに住んでる人たち、それも鳥族の子供だけが使う物だから、そこまで数が多くないんだって。
それに街の子供たちが今でも練習に使ってる分もあるわけだから、全てを借りることもできない。
エレノアさんが街の人たちと相談してくれてて、私たち異世界の冒険者用として数を確保してくれてるけど、その数はぴったり百人分。
BLFOに何人鳥族が居るかは知らないけど、さすがに百人以上は居るはず。だから間違いなく取り合いになっちゃう。
エレノアさんたち街の人たちは誰に貸すかについては関与しないから、その辺は異世界の冒険者達で決めてねって言われた。
取り合いに首を突っ込むなんて、トラブルの元にしかならないもんね。街の人に迷惑かけるわけにはいかないから、その辺は当然のことだと思う。
イオンさんは、昨日セレックさんたち鳥族のプレイヤーを集めて、ホーレックの情報を公開することになってたはず。そこで数に限りがあるという話もしてるんじゃないかな。最初から決めておけば、収拾もつけやすいし。
でも他の鳥族の皆さんには申し訳ないけど、私だけは絶対貸してもらえることになってる。
既にホーレックに到着した私は結界石でいつでも行けるから、すぐに練習を開始できる。
少しでも早く練習を始めて、早く飛べるようになって、私が使ってた分を次の人に回そう、という理由で。
それに、トンネルからホーレックへの道のりは結構大変だった。
ひろーい平原で障害物は少ないし、私にとってはものすごく撃ちやすい場所。
のはずなんだけど、草むらに隠れて背を低くしながら近寄ってくる魔物が多くて、結構狙いにくかった。私じゃ魔物の接近に気付かなかったこともあったし。
イオンさんが空から、キイさんが音と匂いで索敵してくれたから問題なく進めたけど、他のパーティだとこんな簡単にはいかないんじゃないかな。
トンネルからホーレックまで距離が結構ある(馬車を使いたいってみんな言ってた)し、魔物もそこそこ強いのが多かったし、山脈付近は相変わらずワイバーンとかの強敵が多い。
だからトンネルが開通したと言っても、誰でも自由にホーレックに行ける、というわけではないんだよね。
そういう理由もあって、私だけでもすぐに練習を始めようということになったの。
あ、あと……これはあんまり関係ないんだけど……その、エレノアさんが『ロロさんほどの実力者を後回しにすることなど、この私が許せません』とかなんとか言って……これだけは譲れないとか言い出して……。
ありがたいけど、そんな風に言われるのはちょっと恥ずかしい……。
と、とにかく練習は急いで始める。でも落ち着いて練習する。
一日でも早く空を飛べるように頑張るよ!
「ガアアアアアァァァァァァ!!!!」
って勢い込んでホーレックにログインしたら、街の上にワイバーンが一匹。元気に飛び回って歓迎してくれました。
イオンさんから話は聞いてたけど、本当に街までワイバーンが来るんだね……。
ログイン早々にワイバーンの雄叫びを聞いて一瞬驚いたけど、でも街の中は結界で安全なんだから慌てる必要はない。
空を飛ぶワイバーンは結界に邪魔されて入ってこられないし、街の人も平然としてる人が多い。
日常茶飯事なのかな? こんな日常はイヤだなぁ……。
「グギャアアアァァァァァァァァァ!!!!」
「きゃっ!」
平然としてる人が多いけど、そうでない人も居た。
十歳前後かな。小学校なら高学年くらいの鳥族の女の子が、ワイバーンの声に驚いて転んでた。
一応怪我は無いみたいだけど……。
「……。大丈夫?」
「……えっ?」
少し顔色が悪そうだったから、手を差し出しながら声をかけた。
実害が無くても怖いかどうかは別だよね。『人食い鮫と一緒のプールで泳いでください。仕切られてるから安全です』って言われても、怖いものは怖いって人は多いと思う。というか私だったら怖い……。
「えと、あの……ありがとう、ございます……」
女の子は迷うように手を差し出して、おっかなびっくり手を掴んでくれた。
可愛い子だなぁ。無地のエプロンワンピースがよく似合ってて、まだ小さいのになんとなく『みんなのお姉さん』な感じがする。将来は綺麗な子に育つんだろうなぁ……。
……あれ? もしかして、私怖がられてる? 立ったらすぐに手を離されて距離を取られちゃったし。
こんな仕事人とか言われちゃう真っ黒な見た目じゃ、仕方ないけど……。
「ロロさん!」
そんな事を考えてたら突然名前を呼ばれた。
声の方向に顔を向けてみれば、こっちに駆け寄ってくるのはエレノアさん。
「ん、ミーアか。どうしたこんなところで」
「私はワイバーンに驚いて転んじゃって。……エレノアさん、こちらの人とお知り合いですか?」
「ああ、イオン様の仲間の方でな、この方も相当な腕だぞ」
「あっ、そうだったんですか。ごめんなさい、見たことない人だったので……」
「構わない」
そっか。他の街と交流が無いんだから、知らない人のほうが少ないよね。
まして同じ鳥族なら顔見知りばかりだろうし、知らない人だから警戒させちゃったんだ。
それにしてもエレノアさん、やっぱりイオンさんのことは様付けで呼んでるんだね。
バルガスさんが頑張ってくれなかったら、私もこう呼ばれてたんだ……。
イオンさんには悪いけど、バルガスさん助かりました……。
「ところでロロさん、申し訳ないのだが、力を貸してもらえないだろうか?」
力? って、あのワイバーンのことかな?
もちろん今も街の上を飛んでるし。
「言うまでもないな。あのワイバーンについてなのだが」
私の視線の向いた先を見て、エレノアさんが事情を話し始めた。
どうやらあのワイバーン、結構な時間居座ってるんだって。
いつもならもう諦めてどこかに行ってるくらいの時間は経ってるのに、いつまで経っても居なくならない。
街の中が安全なのはわかってるけど、気持ちのいい状況じゃないのも確か。
だから、さすがになんとかならないかって街の人から相談されたみたい。
でもエレノアさんの装備はこないだの戦いでボロボロになって、今は修理中。
もちろん他に戦える人は居るけど、丁度いいところに私が来たから手伝ってもらえないかってことみたい。
結界の中から攻撃し続ければ安全に戦えるけど、念には念を入れたいって。命がかかってるんだから当然だね。
「サポートだけで構わないし、もちろん依頼料も出す。どうかお願いできないだろうか」
「構わないけど、条件がある」
「条件?」
条件なんて言ったけど大したことじゃない。エレノアさんたちは何もしなくていいことだし。
「依頼料はそのままで構わない。代わりに、私一人で戦う」
本当に、何もしなくていいだけだから。
「それは、ロロさんの腕なら心配はないだろうが……しかし一人というのは何かあった場合に」
「問題ない」
説明するのも時間がかかるだけだから、言葉を遮って三歩ほど離れて、ストレージから【M82A2ラシキナニカ】を取り出して構える。
そしてワイバーンが大きく口を開けて、もういちど雄叫びを上げようとしたその瞬間。
ドガン!
口の中から頭を撃ち抜いて、ワイバーンを倒した。
「終わった」
ワイバーンのクリティカルポイントは眉間とされているし間違ってはないんだけど、正確には眉間の少し奥、脳みそのある辺りが正しいクリティカルポイント。
だから眉間からでなくても狙えるし、特に口の中なんて堅くないから簡単に撃ち抜ける。M82A2だったら眉間からでも撃ち抜けるけど。
口の中からなんて狙いにくいようにも見えるけど、大きく飛び回らずに結界の近くで叫んでるだけなんて、狙ってくださいと言ってるようもの。だからこんなの簡単。
エレノアさん達のサポートをしてもいいんだけど、それだと時間かかるもんね。今日は早く練習したいの!
というわけで弾代高いけどM82A2使っちゃった。こういう時くらいいいよね。
「……も、もう終わったのか。ロロさんはそんな武器も持っていたのだな……」
一発で終わっちゃったからエレノアさん驚いてるけど、そういえばエレノアさんには見せてなかったっけ。
あの日はイオンさんが本当に凄かったから、【SVDカモシレナイナニカ】だけで十分だったんだよね……。
「報酬」
「わかってる。ロロさんは飛行練習に来たのだろう? リーンバングルも報酬も自警団の詰め所で渡すから、付いてきて欲しい」
「わかった」
急かしてごめんなさい。でもエレノアさん、急かさないといつまでも戦闘の話をしてそうだし……。
「なら行くか。……ミーア、どうした?」
動き出そうとしたエレノアさんが、ミーアさんの様子に気付いて足を止めた。
なんだかぼーっとこっちを見てるけど、どうしたんだろ?
一応、怖がってる感じじゃないけど……いきなりM82A2なんて撃ったから驚かせちゃったかな。音、おっきいし。
「驚かせたなら、ごめん」
「いっ、いえそんな! 驚きましたけど、でもそういうんじゃなくてっていうか、謝ってもらうようなことじゃなくてなんていうかっ」
話しかけたら、何故かミーアさんは慌て始めた。
特に変なことを言ったつもりはないんだけど……と思いつつ、もしかしたら現実での私もこうなのかな、なんて思い始めた。
相手からすると不思議なタイミングでも、自分にとってはちゃんと慌てる理由があるんだよね。理由と言っても言葉にはしにくいんだけど。
そっかぁ。現実での私もこんな感じなんだぁ。
ってのんきに眺めてたらダメだよね。私が話しかけて慌て始めたんだから、落ち着いてもらうところまで私がしないと。
小さい子の相手は普段しないから、私にできるかな、と思わないでもないけど多分大丈夫。慌てることに関しては大先輩だから!
言ってて情けなくなってくる……でも今回はその経験が役に立ってくれるはず。
まずミーアさんにきちんと正対して、でも近すぎない程度に距離を空ける。
あと小さい子だから目線は下げたほうがいいかな。地面に膝をついてから話しかけた。
「大丈夫だから、一度大きく息をして、落ち着く」
「えっあっ、はい……」
できるだけゆっくり話しかけて、深呼吸してもらう。
「私はロロ。貴方は?」
「えと、ミーアです」
名乗るついでに名前を聞いて、ミーアさんの口を動す。
自分から何か喋れるようになってないと、落ち着いてる側がずーっと主導権握ってるみたいな感じになって、慌ててる側は『はい』か『いいえ』くらいしか言えなくなっちゃうんだよね。
経験則として……。
「ミーア。ワイバーン、怖い?」
「……はい。街の中なら安全だとわかってても、あの牙の生えた口を見ると……」
やっぱり怖いよね。あれと比べたら、大きなワニでもペットに見えちゃうくらい迫力あるし。
「大丈夫」
「……?」
「私が倒す」
「えっ」
「ミーアは、私が守る」
「!!」
格好つけすぎかな。
でも少しくらい大きく言ってもらえたほうが安心するんだよね。素直に『そんなこと言えるなんて凄い人なんだ!』って思うから。
やっぱり経験則として……。
「私はいつもこの街に居るわけじゃない。でもしばらくはこの街に通う。そのあいだは私が倒す。居なければエレノアが追い払う。だから、安心していい」
「は、はいっ」
あとになって前提条件を追加するのは格好悪いかなと思ったけど、ミーアさんは気にしてないみたいだから別にいいよね。
無理なことは無理なんだもん。私はリアリストな仕事人なんだから!
って自分で仕事人なんて言っちゃった……。
と、とにかく、ミーアさんは顔色もよくなって安心してくれたみたいだから、これで良し。
それじゃエレノアさんから報酬もらって、早く練習に……、
「……かっこいい……」
……今、何か聞こえたような。
つい振り返ってみたら、何故かミーアさんの目がキラキラしてた。
この顔、どこかで見たような気が……。
「ロロ様! 私にお礼させてくれませんか!」
……………………。
ふぇっ!?
1/21誤字修正しました。
冬休みブーストできたので元日更新。
更新再開しましたが、今後の更新は以前に比べてペースが落ちますのでご了承下さい……。
詳しくはこの後書く活動報告で。朝までには書いてるはず……。
久しぶりの更新なので、忘れてる方用に時系列について少しだけ解説。
本文中で土曜日と言ってますが、時系列的には13-2と同じ日になります。
木曜日→トンネル開通、ロロさんホーレック到着。
金曜日→アライズ設立。トンネル封鎖。
土曜日→今ここ。
なのでこの時点ではエスとロロさん以外はホーレックに辿り着いていません。