13-16 母のいる日常。【幕間】
本日一本目。
※山脈、トンネル入り口にて
「さすがに暇だな」
「土日はそこそこ来たけど、平日まで来るやつ居ないだろ」
「土日に来たのも微妙なヤツばっかだったけどな。お前らだけのもんじゃないーとか優先権がどうたら口ばっかで、結局何もせず帰ってくし」
「ここは高レベル帯のプレイヤーしか居ないしな。ケンカ吹っかけても負けるだけだし、効率重視ののアタマがイイ連中は実力行使なんて無駄なことしないって」
「たまにはバトルになったほうが暇じゃなくていいんだけどな」
「だな。つーか今の調査隊は何やってんだろうな。時間掛かりすぎじゃね。暇だからって始めた入り口の土砂の撤去、もう終わりそうだぞ」
「俺たち割り当て地域の調査速攻終わらせてしまったしな」
「終わらせたらひたすら門番って知ってたら、もうちょいゆっくりやればよかった……」
「ていうか、トンネルとかどうせ何も無しで終わると思うんだが」
「俺も同意。途中に怪しげなスペースがあったけど、どうせただの休憩所だとかそんな気がする」
「それか、デカイ馬車がすれ違いやすいようにとかな」
「そんなところだろうなぁ」
「街の方を調査してる連中はどうなってんだろうな。まだ辿り着いてないっぽいけど」
「イオンさんの情報見れば一発だよな?」
「あの情報な、参考にしてないらしい」
「なんでよ」
「団長の方針。自分たちの力でやらねば意味がないとか」
「わかるけど、無駄手間っちゃあ無駄手間だよな」
「ま、しかたない。アレのせいで騒ぎになったみたいだし、見たくないわな」
「だな。つーか最近ログインしたら即こっち来てるからよくわからないんだが、街の方どうなってんだろうな」
「俺も同じだからわからん」
「掲示板は荒れっぱなしで参考にならんしなー」
「そろそろおうちに帰りたい……」
「同意……っと、お客さんが来たぞー」
「おっ、やっと仕事か」
「さーて次はどんなのが来たのか……」
「結構居るな。二十人は超えてる」
「今回は本気の連中か?」
「一体どこの……げっ」
「なんだよその反応はぁ! カンドーの再会なんだからもうちょっとアイソよくしろやぁ!」
「ダ、ダスティ……」
「フェイスオフが来たのか……」
「お、お久しぶりっす……」
「一週間程度でなぁにが久しぶりだよこのバカヤロウ! どこの年寄りだてめーは!!」
「うす! すんません!」
「お前何謝ってんだよ……」
「イヤなんつーか、反射的に」
「そいつの言う通りだろぉ。もう他のクランに行ったんだからいつまでも下っ端気分でいるんじゃねーよ!」
「ま、まぁそうなんすけど。……つーか、何も言わないんすね」
「ああ? 何もって何がだよ」
「勝手にクラン抜けたことっすよ。俺以外にも居るけど」
「んなことどうだっていいだろ。もう抜けてんだし」
「ど、どーでもいいっすか」
「お、そういや装備の持ち逃げがどーとか、何も言わずに勝手に抜けただのなんだの騒いでたバカが居たなぁ! んな細けーことで騒ぐんじゃねぇよなぁ!? お前は男に逃げられて騒ぎだすウゼェ女かっつーの!!」
「俺が騒いでるわけじゃないんで……。ていうか俺は拠点の倉庫に戻しといたんすけど」
「わかってるよんなこたぁ。持ち逃げしたのは一部だけってのもな。それはいいから文句があるなら口より先に手ぇ動かせってんだよ、奪われたんなら奪い取ればいいだけだろ!!」
「人も、物も、っすよね」
「おうよ! 欲しけりゃ力で奪い取れ! 邪魔をするならブッ飛ばせ! 小難しいリクツはブチ壊せ! テメーの欲しいもんはテメーの力で手に入れろってんだ!!」
「しかもバカ正直に正面から。それがフェイスオフ、っすもんね」
「じゃねえと面白くねーだろーが。アタマ使った作戦とか、んなメンドクセーことはそういうのが好きなやつらがやってりゃいいんだよ!」
「だから力づくでトンネルの先に進ませろってわけっすか。ダスティさんらしいっすよ」
「わかったらどけ! いややっぱどくな。どいたら暴れられねぇ!」
「どっちっすか……っつーか、そんなやる気なのに一体何やってたんすか。ここ最近ログインしてなかったですよね。一応、クラン抜ける前には一言いっとこうと思ってたんすよ。これでも」
「わりぃわりぃ、食中毒で入院させられてなー。やっぱ車ん中に忘れてた二日前のビニ弁とか食うもんじゃねーな!」
「そっすか……」
「つーわけで久々にログインしたらおもしれーことになってるからケンカ売りに来たってわけだ! わかったらクラン戦の時間だぞお前ら!」
「本気でやる……つもりっすよね。でもこっち、結構なレベル帯っすよ」
「だからどうした。レベルだけで勝てるゲームじゃねーって知ってんだろーが。お前俺よりレベル高いくせに、俺に勝ったことあったか?」
「無いっすけど。でもこっちは数が揃ってるんで、そう簡単には勝てないっすよ?」
「だからどーしたって言ってんだろうが」
「……まさか、ダスティさんもイオンさんのためにーとか言うつもりじゃないっすよね」
「あー、あの嬢ちゃんももうちょっと待ってくれたらよかったのにな。マジ惜しいことしたぜ」
「待つって、なんのことっすか」
「なんだ知らないのか。昨日、あの嬢ちゃんがアライズには何も思うことなんかないから、騒ぎたいなら勝手にやってろみたいなこと言ったんだぜ?」
「はぁっ!?」
「おかげでアライズなんかほっとけみたいな空気になってっし。昨日まではアライズにケンカ売ればそれだけでヒーロー扱いだったらしいけどな!」
「マジっすか……ってか、ダスティさんヒーロー扱いされたらそいつらもボコるんじゃないっすか」
「隣で騒ぐウザいハエが飛んでたら叩かれても仕方ないだろ!」
「その調子だと、来る前にもやったんすね」
「アライズなんとかして下さいって騒いでたバカを殴り飛ばしてきた。自分でやれっつーの!」
「なのにやるんすね」
「そいつらのことなんか関係ねぇ。嬢ちゃんが何考えてるかも関係ねえ。俺がやりたいからやる。んでもって後ろの連中はその辺知ってんのに付いてきてる大バカどもだ。やる気も役者も舞台も揃ってんだから、暴れたほうが面白くなるに決まってんだろ!!」
「やっぱ、そー来ますよね。でもこっちも引けないんで」
「わかってるよんなこたぁ! いいからランドルフ出せや! さっさとクラン戦の準備しやがれ!」
「りょーかいっす。誰か、団長に連絡だ」
「おい、誰が来ても無視しろって言われてるんだぞ」
「無視し続けたら平気でPKしてトンネル抜けるだけだぞダスティさんは」
「あたりめぇだ!」
「しかも一人残らず殺そうとするからな」
「残したらもったいねーだろ!」
「今はフェイスオフしか居ないからいいけど、誰も居なくなったらコソコソ隠れてるやつらがトンネル抜ける。それはヤバイだろ」
「目についたハエは潰してきたが、隠れるのが上手いハエも居るしな。ったくウゼェ」
「ってわけだ。防衛するならここでクラン戦やったほうがいい。関係プレイヤー以外はクラン戦地域に入れなくなるしな。それに勝てば向こうは死に戻り。回復と修理が終わるまで戻って来られない。こっちが負けても予備の人員を残しておけばすぐに突破されることはない。ダスティさん、全員倒すまで進まないからな。わざわざクラン戦にするのも、こっちに準備する時間を与えるって意味しかない。先に進みたいだけなら問答無用で殴りかかってきてるはずだ」
「わかってんじゃねーか」
「……仕方ないか……」
「早くしろよな! じゃねーとマジお前らぶっ殺して先に進むぞ!」
「アレ、本気だからな。俺も何度も付き合わされたぞ。急いだほうがいい」
「わ、わかった」
「とりあえず向こうにいるワイバーンと遊んでくっから準備できたら呼んでくれや! おうお前ら、付いてきたいヤツだけ付いてこい!」
「「「「「「うす!!」」」」」」
「っしゃあ! 行くぞおらぁ!」
「……話に聞いてた以上だな、フェイスオフは……」
「あの調子でナイツにも何回もケンカ売ってたからなぁ。付き合うほうは大変だった……」
「マスグレイブさん、途中から一騎打ちで勘弁してくれって言い出したもんな」
「ナイツならまだいいけどな、エスにケンカ売るのは勘弁して欲しかった。一人も倒せずにただこっちがボコられるんだぞ」
「エスも途中からプルストさんだけが相手するようになったよな」
「他の人らが『メンドクサイ』って言って、プルストさんに投げたんだよ。プルストさん、文句言いながらも結局ダスティさんに付き合うし」
「いろんな意味で凄いなどっちも……」
「凄いって思うところでもあるんだが、俺には合わなかったんだよなぁ……」
「だから抜けたのか?」
「それも、だな。俺が入った当時は新しい攻略ポイントに行くのが優先だったんだが、最近はそうでもなかったんだよ」
「そうなのか。でもなんで変わったんだ?」
「フェイスは、っていうかダスティさんは戦って面白けりゃそれでイイって人だったからなぁ。初期は強い魔物と戦いたければ新しいとこに行けばよかったが、最近は新しいダンジョンも見つからなくなってきてたろ」
「ああ、確かに」
「古いところだろうが面白けりゃどこでもいいし、初期装備縛りとかも平気でやってた。クラメンもそれに付いてくってヤツが多かったし実際それはそれで面白かったんだが、俺は新しいのを探してそっちに行きたいんだよ」
「新しいのが見つからなくて微妙にマンネリ始まってたからな。風山から炎道の発見まで、大した話題は出なかったし」
「ここ数日で一気に増えてきたところを見ると、ただ動きの少ない時期ってだけだったんだろうけどな」
「暇な時期っつーか、レベル上げて備える時期だったってことだなぁ」
「マンネリで思い出したが、超大作さんのほうは発売一年経つのにマンネリとは無縁らしいぞ」
「そういうとこはいいんだけど、あれだけネタにされるとなー」
「今からあっちやろうって気は出ないな」
「強い職選んでもすぐ他の職が強化されるからな。やってられん」
「お前ら、同じゲームをやり込むくらいなら、新しいゲームを買うタイプだろ」
「おう。つかお前もだろ」
「当然。だから常に先に行こうとするアライズに入ったわけだし」
「一部、信者じみたやつも居たのは驚いたけどな」
「あいつらか……あいつらはなー……」
「なんか知ってるのか?」
「いや詳しくは知らないんだけどな。どうもたまたまもらったアドバイスが的を射すぎていた? みたいなことがあって、なんか信じるようになったらしいのな。その当時の団長はどこか違うクランに居たらしいんだが、ナイツに入ってそこで凄いことやって、それから新しいクランを作る、みたいなことを当時から言ってたみたいなんだが、言葉通りのことをやったわけだろ? 段階が進むごとに信者になってったらしい」
「わかったようなわからんような……」
「基本的に能力が全てな廃人ネトゲーマーな連中のはずなんだが、一応団長って強いだろ。団長はそのうえ声もデカくてやることやってんだから、そりゃゲーム内弁慶な連中にはカッコよく見えるさ」
「団長の口のデカさと本当にやってしまうのは確かに凄いしな。アヤシイのもあるが」
「それは公然の秘密ってヤツだ」
「そういえば俺、団長を含む一部のメンバー見てると、ぶっちゃけオタサーのイメージが湧いてきたんだよな」
「オタサー? なんでだよ」
「過去の栄光をいつまでも語る巨大サークルから独立した俺様部長と、俺頭使ってるぜアピールを欠かさないくせに実は誰かに指示されないと動けないなんちゃって俺様部員による相互依存関係。部員は団長が居なけりゃ動けない、実は引っ込み思案な連中がゲームの中でオラオラしてるだけ。そんなやつらが団長のテキトーな言葉をホイホイ信じるもんだから、団長も本気になって勘違い系俺Tueeに浸ってる的な」
「おまっ」
「すごいこと言うな……」
「オタサーとの関連はわからんけど、言いたいことはわかるなぁ……」
「それ、他の連中が居るとこでは言うなよ。アライズは俺たちみたいなマンネリ嫌いで攻略大好きな連中も居るが、こっちは少数派で信者のほうが多いしな」
「わかってるって」
「つか、よくあんなに信者見つけたよな」
「そこは素直に凄いと思う」
「正直、信者とそれ以外で分裂する未来しか見えない」
「俺もだ。……お、ダスティさんたち始まったな」
「ここまで笑い声が聞こえてくるって、マジヤベーよ」
「ホンモノの戦闘狂だから、敵にすると本気で怖え」
「だからって、負けるわけにもいかないけどな」
「団長がどうするつもりかは知らないが、俺たちだってやりたいことがあるからアライズに入ったわけだし。そう簡単にここを通すわけにはいかないよな」
「俺たちもアップしとくか」
「「「「おう!」」」」
9/30表現を若干修正しました。
アライズにも信者じゃない人は居るんです。
たまーに名前が出てたフェイスオフが“ソッチのクラン”でした。
途中、力で奪えみたいなことを言ってますが、PKしても装備を奪ったりはできません。アイテムさし出せば殺しはしないぞとか、クラン戦で取られた金を返して欲しけりゃ装備よこせ、とかって交渉するくらいです。
車の中の放置品。いつの間にかヤバいことになってるので皆さん気を付けましょうね!
車を掃除したら腐海の森にありそうなフワフワした謎植物的な物体に遭遇したことが何度か……。
全く関係ないですが、ダスティさんの途中のセリフ、読み直したらふと『撃って、奪って、ぶち壊せ!』のキャッチコピーなシューティングを思い出したので久々にプレイしましたが、五面で落ちました……。