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13-13 母のいる日常。

本日三本目。

連続投稿はここまでです。


 と、このまま解散となるような流れだったのだが、折角大きくなったこの騒ぎ。

 半ば勢いと勘で、この場の空気を利用する者が居た。


「あー、丁度いいからこの場を借りてナイツオブラウンドからも一言いわせてくれ」


 基本的に考えてから行動するタイプのマスグレイブだが、今回はいけると踏んだらしい。

 珍しく、結末を確信する前に口を開いていた。


「マスグレイブさんにしては珍しいですねいきなり。しかもナイツオブラウンドとして、なんて。どんな爆弾発言してくれるんですか!」


「爆弾ってほどでもない。今プルストが言ったのと、そこまで変わらないしな」


「と言いますと?」


「うちも今まで通りに動くってことを、改めて宣言しとくだけだ。最新の攻略ポイントにはこだわらないし、クラン戦をこっちから仕掛けることもない。正反対のことを噂されてるみたいだが、そんな予定は一切ない。たった一つのクランの登場に振り回されて、今までのやり方を変えるってのはカッコ悪いしな」


 ナイツは今まで通り。そう宣言しただけ。

 マスグレイブの言う通り、プルストの言ったことと何ら変わりはしなかった。

 どうしてそんな当たり前のことをと思うかもしれないが、マスグレイブの言う“噂”の内容は、本当に正反対のことが言われていた。

 『ナイツから大量にメンバーを引き抜いたランドルフに、制裁としてクラン戦をするんじゃないか』とか、『攻略のためにトンネル調査権を奪い返してくれるんじゃないか』といった、憶測というか自分の希望がふんだんに入り交じった噂が。


 当然マスグレイブにそんなつもりはない。

 ナイツが動けば間違いなく全面戦争に発展する。

 ゲームが面白くなってほしいと考えるマスグレイブなので、そんな殺伐とした状況は絶対に作りたくない。

 それに、ナイツオブラウンド内でもアライズと敵対するような意見は本当に少ない。

 さすがに全くのゼロではないが、抜けたメンバーのほとんどはランドルフの隊に配属されていたので関わりも薄かったし、わざわざトンネルにこだらなくても他にすることは沢山あるのだから、今後の活動への影響もほぼ無い。

 最新最速の攻略にはそこまで魅力を感じていない者ばかりが残ったので、敵対してる暇があるなら既存のダンジョンでレベリングしたい、という意見が大多数を占めていた。

 なので噂は本当に事実無根。第三者の憶測に過ぎなかった。


 だったらもっと早く否定したらいいのだが、本人には確認してないからこそただの噂。

 マスグレイブに直接真偽を確認するような者は、一人も居なかった。

 では動画でもアップして宣言すればという意見もあったが、それは却下された。

 もしそうしていた場合、クラン戦をしない、トンネルにはこだわらないということは信じてもらえただろうが、言葉の受け止め方は非常にネガティブなものになった可能性があるからだ。

 例えば、『アライズにビビってナイツが逃げた』、といったように。

 そう言われること自体はどうでもいいが、それを燃料にしてまた煽りだす者が出てくるかもしれない。

 それではわざわざ噂を否定する意味がない。

 だが今この場でなら、そう受け止められる心配はない。

 そう判断したからこそ、マスグレイブは今のタイミングで宣言した。


 ナイツオブラウンドの発言さえもマイナスイメージとして捉えられるほど蔓延していた、アライズ排斥の空気。

 だが、メグルとマリーシャの作り出した、真面目な話をしているはずなのにどこか緩い空気と、いつも通りのマイペース過ぎるマイペースさで我が道を行くエスの発言。

 そこから発生し始めた、『アライズなんてどうでもいい』といった空気。

 マスグレイブとしては、利用しない手はなかった。


 そして、狙いは的中した。

 ひたすら我が道を行くエスの話を聞いた直後だったこともあり、ナイツもいつも通りに動くだけという言葉はすんなり受け入れられた。

 ナイツとアライズの全面戦争。期待していた展開ではあるが、状況に流される情けないナイツという、カッコ悪い姿も見たくない。

 ギャラリーからは、マスグレイブを支持する歓声が飛んだ。


「おおっ、周りを気にせず己の道を行く人ってやっぱりイイですね!」


「ですね! でも確かに色んなとこがクラン戦しかけるんじゃないかって噂が飛び交ってますよね。ちなみにホースメンと黒帯と獣人雑伎団はどうなんです?」


 マスグレイブによって作られた新しい流れ。空気に敏感なメグルとマリーシャが気付かないはずがない。

 メグルは『揉め事回避できそうだから乗っちゃえ!』と全力で流れに乗っかり、マリーシャは『なんとなく良い流れだから乗っとこう!』とこちらも全力で乗っかった。


「あぁ、うち(ホースメン)もする気はないな。何人か誘いがあったらしいが全員断ったからな。何も無かったんだから関係ねぇ。俺たちは俺たちの道を行くだけだ。向こうが邪魔するってんなら話は別だがな」


こっち(黒帯)もだな。しつこい勧誘を受けた者が居たようだが、個人的に白黒付けてるらしいからな。アライズとのことなどどうでもいい。仮に仕掛けられた場合は、全力で叩き潰すだけだ」


 ルドルフも巌も、あっさりとクラン戦などしないと切って捨てた。

 特に気負った様子もなく平然と、だが仕掛けられた場合を話すときだけは、獰猛な表情で語る二人。

 二人のコメントが終わるとすぐにギャラリーから『兄貴カッケー!!』、『師範カッケー!!』と声援が飛んでいた。


「獣人雑技団はリーダー次第ですが、今のところはしないようですね。うちも引き抜きはありませんでしたし。……正直、ホーレックに行けないのは鳥族として思うところはありますが、クランと、それに関わる人たち全てに、自分の考えを押しつけて迷惑かけるわけにはいきません……」


 セレックは獣人雑伎団のリーダーではないのでハッキリとしたことはわからないようだったが、クランとしては特に不利益も被っていないので、やはりクラン戦はしないだろうと答えた。

 本音も混ぜている辺り百パーセント納得しているわけではないようだが、後悔が滲み出るよな表情で言う姿からは、当分は暴走しないだろうということを感じさせた。


「ホースメンと黒帯は確実、獣人雑伎団もほぼ確実っと。最後、暁の不死鳥はどうですか? トンネル封鎖なんて良くない所行に見えますけど、勇者として何か行動したりは」


「勇者として思うところは少なからずある。だが勇者としての自覚が足りないと思い知ったばかりだ。期待している者には悪いが、今は自分を見つめ直したいと考えている」


「素晴らしい冷静さだ! これは新生勇者として新技に覚醒して帰ってくることを期待せずにはいられない!」


「その期待には必ず答えることを、勇者として約束しよう!」


「ほどほどに期待してます!」


 いつもはその場のノリと勢いで暴走するはずの暁の不死鳥が、なんと自分を見つめ直すと言うではないか。

 暁の不死鳥の普段の行いを知っている者は『何か変な物でも食ったか!?』と半ば本気で心配したが、いくらジークフリートでもあれだけ釘を刺されればさすがに大人しくなる。

 暁の不死鳥なら暴走するだろうと期待していた者たちもこの展開には驚き、ジークフリートでさえ冷静に考えているのだから、自分たちだって冷静にしなければさすがにカッコ悪いと気が付いて、慌てて冷静になろうとするのだった。


「このゲームのクラン戦は正直美味しくないですからねー。冷静に考えれば、どこもそうなりますか」


 なるほどーと納得しているメグルだが、実はこの答えを予想したうえで質問をしていた。

 ホースメン、黒帯、獣人雑伎団、暁の不死鳥には、一つの共通性がある。

 それはゲームを攻略するということ以外の目標、信条や心構えといった、クランとして明確な方向性があるという点だ。

 ホースメンは馬族の強さを追求することに日夜明け暮れているし、黒帯は熊族や猪族を中心にパワー重視の接近戦を追求している。

 獣人雑伎団は、全員がそれぞれの種族の持ち味を引き出そうと日夜努力している。

 暁の不死鳥だけはどう出るかわからなかった。熱血勇者モードであればアライズに仕掛ける可能性もあったが、ジークフリートは本気で反省しているようだったので、今は冷静勇者モードだろうと判断。

 狙いが当たり、全てのクランがアライズには何もしないという結論に至った。


 ホースメンらそれぞれのクランは、良い意味でも悪い意味でも独特なため、合わない者はさっさと辞めていくし、長く所属するような者は余程のことがなければ辞めたりしない。

 攻略を優先したければ、とっくに抜けているはずなのだ。

 そんなクランに所属する、アライズの求める実力者。

 そういった者たちに対して、『アライズに入って一緒に攻略のトップを走ろうではないか!』などと誘ったところで、アライズに魅力を感じる者が一体どれほど居るだろうか。

 もちろん、どこのクランも攻略を目的に新しいダンジョン挑戦しないというわけではないが、そんな事はあくまで二の次。自分たちのやりたいことを優先したい者ばかりなのだ。


 つまりマスグレイブと同じく、『一つのクランに振り回されたりしない』ということに、他ならなかった。


「余所は余所、ウチはウチ。いやー新しいクランに振り回されて騒いでる自分たちが恥ずかしくなっちゃうくらいカッコイイですね!」


「黙って俺に付いてこいって感じでイイですよね! あれって外すと見てらんないですけど、ここの皆さんそんな事ないしっ」


 暗に『皆さんアライズなんかに振り回されてないで落ち着きましょうよ! じゃないとカッコ悪いですよ!』と言うメグルと、そこまでは考えずとも良い空気の流れを全力で後押しするマリーシャ。

 もちろん二人とも、盛り上げるためだからといって適当にヨイショしているわけではない。本心から格好いいと思っている。

 周囲の状況に影響されず我が道を行く、その筆頭であるイオンのことが好きな二人なのだから、そういう姿を好ましく思うのは当たり前なのだ。


 どんな状況でも我が道を行くエス。

 トラブルに巻き込まれても、自分たちを貫こうとするナイツオブラウンド。

 ケンカは買うが無駄に売るほど子供ではない、ホースメンと黒帯。

 自分たちの大願を盾に、周りを振りまわしていることに反省した鳥族としてのセレック。

 正しいことを行うには、まず自分を見つめ直してからという冷静さを見せた暁の不死鳥。


 確たる自分を持った真っ直ぐな姿勢は、振り回されている者たちにとっては非常に眩しく見える。

 その場に居る者たち全員に、今一度冷静になって、アライズのことを考え直してみようという雰囲気を作り出すことに成功していた。


 これがゲーム全体にどこまで影響するかはわからない。

 だが少なくとも、街中の至る所に導火線があるような状況ではなくなった。

 そのことだけは、間違いなかった。




 などと平和に話が終わりそうだったのだが、もちろん世の中そう考える人間ばかりではない。


「そういえばアッチとソッチはクラン戦仕掛けるみたいなんで、『とりあえずアライズってムカつくからやられてしまえ!』って人はそこを応援しましょうねー!」


「そんな言い方していいんですかメグルさん!」


「大丈夫です。立ち上げ式のあの演説は明らかに挑発的な内容でした。そんな意図はなかった、と言うなら今からでも訂正すべきです。それも無いということは挑発としての意味もあったということ! そして挑発されればムカつくのは当たり前! つまりっ、どんな綺麗事言おうとムカついてしまうのは仕方がないってことです!」


「なるほど!」


 そんなプレイヤーももちろんこの場に居たし、そういう者たちはイマイチ空気に乗りきれていなかった。

 メグルはそういったギャラリーにも気づいていたし、マリーシャも話を振られて遅ればせながら気が付いた。


 折角落ち着き始めたのに、また対立を煽りだすかのように見えるメグルのセリフ。

 だが『状況に流されて自分を見失うヤツ、カッコワルイ』の空気が流れているこの場でならそんな事もない。

 それは、アライズと敵対する道を選ぶのも自分次第ということでもあるからだ。


 アライズを叩く理由が少ないのはわかった。

 でも自分には十分な理由がある。

 アライズにはアライズなりのやり方があるのもわかった。

 それが自分のやり方とぶつかるのだから、衝突するのは避けられない。

 いや避ける必要などない。遠慮なくぶつかればいい。

 それが、本当に自分の意思なのであれば。


 メンバーを引き抜かれ直接影響を受けたクランには、アライズに恨みを持つ者も多い。

 当分は、アライズが叩かれる状況が続くだろう。


 この場は平和を訴える場でもなければ、争いを加速させる場でもない。

 ただ偶然集まったプレイヤーが勝手に好き勝手言ってるだけの、それこそ本当にトークショーなのである。

 話を聞いて何を思うのも自由だし、何も思わないのも自由。


 そんなことより、司会者としてはできるだけ多くの観客に楽しんでもらって初めて役を全うできたと言えると、メグルはそう考えている。

 今ならアライズに対しての不満を刺激するような話をしても大丈夫。

 場をさらに盛り上げるために、そういうイマイチ乗り切れていなかったギャラリーも巻き込もうとするのだった。


「でもお得じゃないのに仕掛けるとこなんて、ホントに有るんですか?」


「アッチのクランは引き抜きの被害大きかったみたいなんでとりあえず一発殴らないと気が済まないでしょうし、ソッチのクランはなんというか、ノリで? まだ本決まりじゃないみたいなんで、どことは明言しませんけど」


 本決まりじゃないとは言っているが、メグルがこんな人の多い場所で言うほどのことである。

 確定に近い情報だろうと、誰もがそう思った。


「ノリ! そんなクランがあったんですか!」


「あったんですよねーこれが。誰かさんたちは結構突っかかられてますよねー」


「あぁ……」


「あそこか……」


 若干疲れた顔で頷くプルストとマスグレイブ。心当たりがあるらしい。


「つーか、今まで動かなかったほうが不思議なんだよな」


「しばらくログインしてなかったようだから、リアルのほうが忙しかったんだろ」


「タイミング悪いな。アイツが居れば初日でケリがついてたろ」


「ホントにな。こんなときだろアイツが暴れて誰もが喜ぶのは」


「まったく……」


「なんでこう……」


「うわー、プルストさんもマスグレイブさんも言葉が重いー」


「一時は毎日のようにやってましたからねー」


 しみじみと“ソッチのクラン”について話すプルストとマスグレイブ。

 ギャラリーの多くも『ああ、あそこね。ご苦労様』と納得していた。


「にしてもアッチはどこだ? そんなクラン有ったか?」


「有ったというか出来たってほうですね。わかりやすく言えば『被害者連合』です」


「納得だ」


 “アッチのクラン”というのは、メンバーを引き抜かれたとあるクランや、クランは組んでいないがやはりアライズにメンバーを引き抜かれたとあるパーティ。

 それらが集まって形成された、完全な反アライズ集団。


 アライズに対して不満を感じつつも、どこのクランも今までクラン戦を仕掛けなかったのは、単純に実力差を考慮してのこと。

 高レベルプレイヤーばかりのクランに対して、高レベルプレイヤーを引き抜かれたクランがケンカを売って勝てるかと問われれば、答えはもちろん否。

 しかし全てのクランから根こそぎ引き抜かれたわけではないので、そういった者たちが集まって反撃を計画していたのだ。


「そろそろ準備が出来るっぽいんで、今週はトンネル周辺が大変なことになりそうですよ!」


「観戦に行く人は武器と防具とおやつの準備を忘れずに!」


「おやつとご飯はガッツリ系もデザートもなんでもござれ! テイクアウトもできるこちらのお店、喫茶店ポーを是非ご利用下さい! ポーはポーでも吸血鬼は居ないんでどうぞご安心を!」


「宣伝はわかりましたが後半のネタがわかりませーん!」


「これが……ジェネレーションギャップ……ッ」


「私だって生まれてませんから、ネタの選択ミスですね」


「こんなに大きな娘さんが居るシオンさんまで! っていうか知ってるんじゃないですか!」


「雑学は会話を盛り上げる引き出しですので、このくらいのサブカル知識は必須レベルです。メグルさんはもう少し一般方面を強化しましょうね」


「わかりましたお義母様!」


 今度は反アライズの空気を少しだけ煽って盛り上げるつもりが、何故かあっという間に脱線してしまった。

 しかもそっちの方がギャラリーの反応もいい。

 となれば全力で調子に乗ってしまうのがこの二人。

 脱線したまま暴走し始めるのだった。


「いろんな発言が飛び出しましたけど、やっぱり一番面白かったのはイオンさんですねー。真面目なこと言ってるように見えて、結局のところは面白くないからどうでもいいですよ。あれですか、興味ないことはどうでもいいってタイプですか、実は」


「実はも何もそりゃもーものすごいですよ。パリカルスで配達クエストあるじゃないですか、薬運ぶヤツ」


「ああ、配達だけのはずが条件満たすと途中で戦闘が発生して、その経験値が美味しいあれですか。もしかして『面倒なので戦闘は無しで』とかですか」


「です。しかもノータイムで。あれ一回しか受けられないんで説得に苦労しましたよ……」


「のほほんとしながら『イヤです』と言う姿が目に浮かびますねー。ちなみにどう説得したんです?」


「パリカルスのチーズケーキワンホールで一本釣りしました!」


「あれ美味しいですもんねー。そういえばこないだ私もロールケーキ貰いましたっけ。甘い物に反応するあたりは普通の女の子で安心しました! っていうか今思ったんですけど、イオンさんってもしかしてゲームとか興味なかったタイプじゃないですか? なんでVRゲームなんてやってるんです?」


「私が口説き落としました!」


「マジですかマリーシャさん! BLFO最大級のぐっじょぶですよ間違いなく!」


「今日のメグルさんもスゴかったですよ!」


「「いやぁそれほどでも!!」」


「すいませんがあまりマリーシャを褒めないで頂けますか。調子に乗ると鬱陶しいので」


「うちのメグルも図に乗ってムカつくので、その辺にして下さい」


「「ヒィッ! すいませんでしたぁ!」」


 いつまでも続くかと思われたメグマリオンステージは保護者(シーラとムっちゃん)の登場によりあっさりと終演を迎えた。

 ブーイングしようとしたギャラリー(怖いもの知らず)は二人から思いっきり睨まれ尻尾巻いて逃亡。

 今度こそ、騒ぎは収まるのだった。




「シオン、いろんな話が出ましたけど、結局何がどうなったんです?」


「バカなことやってる暇があったら、ゲームをもっと楽しみましょうねってことですよ」


「それって当たり前のことだと思うんですけど……」


「時間が経つと忘れちゃうものです。イオンも気を付けましょうね」


「わかりました」




◇◇◇




「おいどうする」


「…………」


「おいっ」


「何もしない」


「何を言っている!?」


「お前こそ何を言っている。さっきの話を聞いていたか」


「聞いていたがそれがどうした」


「……はぁ」


「お前、本当のバカだったんだな」


「な、なんだいきなり」


「お前のことだ、『どうせ全ては嘘なんだから、気にせずPKしてしまえばいい』とか言うんだろう」


「違うのか?」


「……違う」


「いいかよく聞けよ。今の状況だと、あの女は我らの敵ではない」


「何故だ」


「本人がそう言ったからだ」


「それが」


「いいから聞け。あの女の提供した情報は、悔しいが我らの物より進んでいる。それは事実だ」


「俺たちはまだホーレックに辿り着いてすらいないしな」


「それは知っている。だがトンネルの件と街の件は別だろう」


「まぁな。だから我らの情報を見て、ホーレックのことにトンネルの情報を追記しただけという可能性もあった」


「我らより進んだ攻略情報を見せつけ、我らからトンネルの調査権を奪い取るためにな」


「だがあいつは、いやあいつらはそんなものどうでもいいと言った。クランの総意としてな」


「つまり、我らに敵対する意思はないということだ」


「まさかそんなデタラメを信じるというのか?」


「信じる信じないではない。建前上そうだというだけだ」


「だったら」


「だが建前だけでもそう宣言されてしまった以上、こちらが手を出せば我らは悪となる」


「何故だ!」


「当たり前だろう。敵対しないどころか、向こうはこちらに気を遣うような発言までしている」


「トンネルの調査権は放棄。封鎖についても容認するような発言。クランの初任務を邪魔するのは大人げないとさえ言っている」


「引き抜きについてもおかしなことは言っていない。むしろ俺の思っていたことを代弁してくれたに近い」


「俺もだ。前のクランに不満は無かった。ただアライズと団長のやり方に惹かれただけだ」


「向こうの情報を無視するような俺たちの行動も、別に気にしてはいないしむしろ当然のことだと言っていたな」


「我らアライズに対して特に思うことはなく、何かするつもりもない。公衆の面前でそう宣言したのだから、あいつらは俺たちの敵ではないと宣言したということだ」


「それからプルストも言っていただろう。情報を使って騒ぐのは構わんが、自分たちを巻き込むなとな。つまりアライズに対して文句を言っているのは、関係ない第三者だけということだ」


「だが、全てが真実とは……」


「そうだな、実は裏で手を引いている可能性はあるだろう」


「だが表向きは敵ではないと宣言したんだ。敵ではない者を攻撃するわけにはいかない」


「しかし!」


「さっきも言ったがあの女は我らに気を遣うような発言までした。好意的に見れば、味方をしているともとれる言い方で」


「平然と味方を切り捨てた、などと思われてしまえば、アライズ内部からも批難される可能性がある。味方にも容赦がないと思われてしまえば、クランから脱退する者もいるかもしれない。それは避けねばならん」


「ッ。……だが、我らがやったいう証拠がなければ……」


「またそれか。昨日も言っただろう。なんの証拠も無ければ、真っ先に疑われるのは我らアライズだ」


「今までなら知らぬ存ぜぬで通せば良かったかもしれん。あの女と敵対したところで、誰もがそうなるだろうと思っていたからだ」


「だが、あの女は敵ではないと宣言した。『敵かもしれない』者が敵になるのは誰もが納得する。だが『敵ではない』者を敵にするのは批判の理由になる」


「結局、俺たちは手を出せないということだ」


「…………くそっ」


「すぐに納得できないのはわかる。時間をかけて折り合いを付けろ」


「…………」


「なんにしても、この騒ぎのおかげで助かったのも事実だな」


「そうだな。結局のところ、今の騒ぎは関係ないバカどもが騒いでいただけだと証明されたようなものだ。無責任な第三者も少しは静かになるだろうよ」


「勝手に恨んでるやつはまだいるだろうが、今までと比べれば雲泥の差だ」


「ランドルフ団長も『あんな情報など気にするな』と言っていたが、我らも状況に流されていたということか」


「マスグレイブでさえ振り回されかけていたようだからな」


「ランドルフ団長ほどではないとはいえ、ナイツを運営していた力は本物だ。そこに気付く程度にはバカではないということか」


「ルドルフの言葉ではないが、我らは我らの道を行こう」


「ああ。折角ランドルフ団長にも詳細を告げずに出てきているのだ。団長とクランのために貫いて見せようではないか」


「ああ。なら……おい、まだ何か言いたいのか?」


「…………いや」


「安心しろ。まだ機会はあるんだ。これからそれについての話し合いをするつもりだったんだからな」


「……どういうことだ?」


「証拠が無ければ我らが疑われると言っただろう。あの場に居た連中に多くはアライズに敵対することはなくなるだろうが、アライズに敵意を持っているクランはまだいくつも存在する」


「そんなやつらが我らのフリをしてあの女を攻撃してみろ。疑われるのは我々だ」


「!」


「だから、俺たちは引き続きあの女の周囲を見張らなければならん。無実の罪を避けるためにな」


「あの女を守れというのか……」


「守る必要はない、見ているだけだ。そのついでに、あの女の本性がわかるかもしれんがな」


「永久に見張るわけでもない。もう少し事態が落ち着くまでは必要だが」


「やりたくないならお前は抜けてもいいが、どうする」


「……やるに決まっている。でなければ、ランドルフ団長を影ながら支えるという、俺の信念を曲げることになる」


「わかった。だが絶対に暴走はするなよ。一歩間違えば、お前一人のせいでクランに大きな迷惑を与えることになるからな」


「肝に銘じる」


「よし。なら一旦拠点に戻るか。話し合いもだが、クラン戦が始まるならまずそっちが優先だ」


「そうだな。監視も重要だが負けるわけにはいかん」


「わかった。行くか」




10/2誤字修正しました。


これだけ色々言っておいて、結局はイオンと騒ぎを切り離して軟着陸させただけというオチ。

アライズがアレでナニされるのは、今後に期待ということで……。


あとストーカー誕生的な感じに書いてますが、特に何事も無くフェードアウトの予定なのでご安心を。


今話はもうちょっとだけ続きます。




喫茶店ポー

ルフォート市場のすぐ近くという好立地。オープンテラス付きのオサレな店構えと見た目も味も素晴らしいスイーツに定評のある一見リア充専用にも見える喫茶店だが、その実ケチャップベタベタナポリタンやらガッツリ系ハンバーグセットやら大盛りカレーがメガ盛り級だったりと、喫茶店なのかなんなのかよくわからない幅広いメニューが男女問わず人気のお店。

店名は店長が適当につけた。メグルさんが言ったアレが元ネタではない。


ていうか私も生まれてません。そして読んでません(おい

でも11人のほうは読んでるんで!


Q:そんなの、なんでメグルさんが知ってるの?

A:今年40年ぶりに復活したらしいので、最近の人が知っててもおかしくないはず!


40年……こ○亀といい、今年は凄い年ですね……。


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