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3-1 おやつのために空を飛びます。

途中で三人称になります。

 初めてVRゲームをプレイした次の日。

 目覚めは爽快でした。

 空を飛べると思ってゲームを始めてみれば、すぐにそれは出来ないと言われてしまいました。

 そのため一時はどん底まで落ち込みましたが何とか無事にそれも解決。

 その後はとても楽しくゲームをプレイすることが出来ました。

 楽しいなんてものじゃないですね。

 空を飛んでいる間は今まで味ったことない最高の気分でした。

 一度寝て起きた今でも、ずっとそんな気分が続いています。

 自分でも分かりますが今までにないほど浮かれてしまってるようです。

 お父さんが起きてきました。

 あまり浮かれてると心配されるかもしれませんし、少しは抑えないといけませんね。


「お早う、お父さん」


「ああ、おはよう……朝からどうした?」


 全然抑えられてないようです。


「そんなに分かりやすいですか?」


「見た目変わんないんだが雰囲気がな。アイツもそうだった」


 お母さんと言う前例があるならすぐばれますね。

 というかあのお母さんの雰囲気を理解できる辺り流石です。


「ゲームが楽しかったので、それでですよ」


「ゲームやっただけで何したらそうなるんだよ……」


「空を飛んだだけですよ」


 コーヒーを渡しながら一言で説明します。

 本当にこれだけですし。


「空……? そういやガキの頃そんなこと言ってたな。まだ覚えてたのか」


 欲求自体は収まっていましたが忘れたことは無いです。

 我ながら諦めが悪いというかなんというか。


「あんな小さい頃のことをなぁ……その辺は俺に似たのかね」


 いつまで経っても諦めないとかそういう事でしょうか。

 お父さんの場合は車ですね。

 今の車は二十年から欲しかったと言ってましたし。


「にしてもゲームにハマった思えばそういう事か。変なことじゃないなら何でもいいけどな。昨日も言ったけど少しは遊べ。仕事の手伝いはいいから」


「遊ぶことに関しては同意しますが仕事の方は今まで通り手伝います。それはそれこれはこれですから」


「いやけどなぁ」


「伝票処理漏れが無いんだったらすぐにでも手伝いやめるんですけどね」


「……それはそれこれはこれだ」


「ご馳走様です。それじゃ私もう出ますから洗い物お願いしますね」


「……分かってるよ」


 言ってきますと声をかけて家を出ます。

 朝から父にも心配かけてしまいましたし少しは落ち着きましょう。

 きっと真里にもすぐばれますしお父さんみたいに心配かけるだけです。

 真里のことだから心配かけないように明るく振舞ってるんだーとか言い出しかねません。

 一旦思い込むと大変ですから。


 そんなことを考えているうちに学校に到着しました。

 いつもなら真里は既に登校しているはずですが今日はまだのようです。

 珍しいですねと思いつつそのまま教室へ向かいます。


「おはようございます。東さん」


「ええ、おはよう」


 教室に入り席に向かいつつ友達に挨拶します。

 (あずま)志乃、私と違い小学校から真里と一緒だったそうで、真里のことは私以上に分かっている方です。

 ストレートの髪にメガネも相まって、知的なお姉さんと言った感じです。

 成績は常にトップテンに入ってますし。


「真里はまだ来てないんですね」


「そうね。あの子にしては珍しいわね」


 ギリギリまで粘ると確実に遅刻するから早く来るようにしてると自分から言っていましたからね。

 私より真里の方が遅かったことなんてほとんどありません。


「碧は普通なのね」


「普通って、何がですか?」


 別に遅れる理由もありませんでしたし。


「昨日、色々あったって聞いてたから」


 そちらのことでしたか。

 そういえば東さんもBLFOをやってると真里が言ってました。


「すいませんご心配おかけしました。あの事ならもう解決しましたので大丈夫ですよ」


 心配をけてたのは真里と相田君だけじゃなかったんですね。

 本当にありがたい事です。

 無事に飛ぶことが出来て本当によかったです。

 そうでなかったら今頃大変でした。


「……そう。ゲームのことで何かあったら相談にのるから言ってね。魔法系なら私の方が詳しいから」


「はい。真里に相談してから東さんにも相談しますね」


「そうして。でないと拗ねるから」


 ですねと笑いあった後、席に戻りました。

 それにしても遅いですね、もうすぐ先生が来てしまします。

 教科書の整理をしていると先生が来ましたが真里はまだ、と思ったら先生の後ろから入ってきました。


「セーフ!」


「タイミング的にはアウトです。遅刻にはしないけど次は気を付けなさい」


「はーい……」


 早々に先生から注意されてます。

 遅刻扱いにされなかっただけいいですね。

 早く昨日のことを報告したかったんですが、私と真里の席は離れていますので今は報告できません。

 次の休み時間に報告しましょう。

 と、考えていたんですが……。


「真里、昨日のことなんですが……」「あたし先生に呼ばれてたんだ行ってくるーっ!」


 残念です。次にしましょう。


「真里、ゲームのことで……」「授業の教科書忘れたから借りてくるねーっ!」


 真里ならよくあることですね。次です。


「あの真里……」「シャーペンの芯が無くなったから購買行ってくるーっ!」


 それくらいなら貸すんですけど。


「真里」「今日別のクラスで食べる約束してるから行ってくるねーっ!」


 ……もしかして避けられてるんでしょうか。

 流石に私でも分かります。


「まったくあのバカ娘は」


 東さんもため息をついています。


「すみません。私が真里に心配かけたばっかりに」


「碧が気にする事じゃないわよ。逃げてるあのバカ娘が悪いんだから」


「ですがあそこまで落ち込むとは思ってませんでしたので……」


「本当にね。私も初めて見るわね。あそこまで落ち込んだところなんて」


「そうなんですか? 東さんは真里と付き合いが長いのでそういうことも知ってるんじゃないかと思ってました」


「そりゃ付き合い長いからそういうところも見てるけど、あそこまでは初めてよ」


 ということは私は相当酷いことをしてしまったという事ですね……。


「言っとくけど、理由は碧が酷いことしたとかじゃ絶対にないから勘違いしないように」


 そこで一度言葉を切って、私の方を見ながら続きました。


「あそこまで落ち込んだ理由は『結果』じゃなくて『誰が』の方。相手が碧じゃなかったら、あそこまで落ち込まないわよ」


 相手が落ち込んだから、ではなく『私が』落ち込んだから。

 優しい真里のことなので相手が誰でも落ち込ませたら真里は落ち込むと思います。

 ですが……もし本当にそうなら嬉しいと思ってしまうのは自惚れが過ぎるでしょうか。

 私は真里のことが大好きです。

 同じように真里も少しは私のことを気に入ってくれているというのは、自惚れかもしれませんが嬉しいです。

 真里が私のことを気遣ってくれるように、私も何かしたいんですが……今は近寄ることもできないのが残念です。


「東さん。私は大丈夫ですって、真里に伝えておいてください」


「伝えておくわ。まぁさすがに週明けになれば持ち直すと思うから、少しの間だけ待ってて」


 明日は土曜日で学校は休み。

 日曜も挟んで月曜日となれば、多少は改善しているでしょうし。

 消極的かもしれませんが一旦東さんにお願いしましょう。

 父と母を見ていれば時間も重要だと分かりますので、私が話すのは月曜日にしましょう。

 私はそれまでに少しでもゲームに慣れておくことにします。

 ゲームをしていればお互いフレンドリストで分かりますし、ゲームの中だったら話してくれるかもしれません。

 連絡が入ればすぐにでも飛んでいきましょう。

 土日は仕事の手伝いがありますがそれ以外は出来るだけゲームをしていましょう。

 そうと決めたら今日も帰ったらゲームです。

 父には心配されるかもしれませんのであらかじめ説明しておきましょう。

 友達と遊びたいのでゲームをしています。友達と遊べないかもしれませんがそれでも楽しいので、しばらくは放っておいてださい。と説明しました。


「思ったより重症だな……」


 何やら呟きながら母へ相談しようか迷ってました。

 そんなことで連絡するなって怒られても知りませんよ?




◇◇◇




「あなたは一体何をやってるのよ」


 放課後の帰り道。

 真里を無理矢理捕まえた志乃はストレートに怒っていた。

 怒ってはいるものの、碧と真里の仲のよさとは違う年期を積んだ気兼ねの無さが感じられた。


「……だって」


「だっても何もない。むしろ真里の方が心配かけてたわよ」


「分かってるけどさ……顔見たらなんかテンパっちゃうんだよ」


 思った以上に根深いことに気付きつつも志乃は言葉を重ねる。

 こういう時に攻めるのが自分の役目だと、長年の付き合いから志乃は理解していたからだ。


「あなたが勝手に自分を責めてるからでしょ。碧と話したけど、本当に気にした感じは無かったわよ」


「俺らから見てもそう見えたな」


 真里の確保に協力した和彦が口を挟み、もう一人の無口な男子、西雅人も頷いている。

 和彦は昨日ゲームを買うのに付き合っていたから事情も様子もよく知っている。

 雅人だけほとんど伝聞、ゲームの中でウェイストとして状況を聞いただけで碧とは話もしてないが、彼の目にも落ち込んでるようには見えなかった。


「いくら俺でも昨日よりマシになってることくらい分かるぞ」


「あたしからもそう見えたけどさぁ……」


「じゃあ何であんな態度続けるのよ」


 苛立ちを隠そうともせず真里に問いかける志乃。

 友人のらしくない行動とそれを見て落ち込む友人に挟まれていた志乃。

いい加減限界がきそうだった。


「だって碧だよ? あたしのこと気にして明るく振舞ってるだけだよ絶対」


「言いたいことは分かるけど考えすぎでしょう。朝から落ち込んでる様子なんて見えなかったわよ。真里関係以外では」


 真里と違い話もしていた志乃は碧と接した感想をそのまま言う。

 以前碧が落ち込む姿を見た時は、明るく振舞っていても時折落ち込む姿が見られた。

 しかし今回はそういった姿が全く見られなかったため、志乃には碧が落ち込んでいるようには全く見えなかったのだ。


「いーやっ、あの碧だよっ? どんどんあたしに心配かけないように隠すの上手くなってるんだから。今回もそうに違いないのっ」


 間違いないっ、と言い切る真里の言葉は、碧との仲の良さを考えれば確かに信憑性の高い言葉だった。


「……言いたいことは分かったけど、それより貴方はどれだけ迷惑かけてるのよ……」


「えっ、いやそういうつもりは無いんだけど……」


 頭を抱える志乃を見てその言葉が藪蛇だったと気付いたがもう遅く、顔を上げ真里を見る目は捕食者のそれだった。


「いい機会だからこのまま少し話しましょうか。帰りにファミレスもあることだし」


「いやっ、私用事がっ」


「今日はBLFOしないって言ってたしなー用事なんて無いよなー」


 逃がさないとばかりに横をふ塞ぐ和彦。


「いやでもほら、お金無いし」


「駅前。クーポン」


 後ろを塞ぐ雅人。


「じゃそっちにしましょう」


「ちょっ、えっ」


 雅人からの援護射撃で逃げ道は完全に塞がれた。

 言い訳を重ねるが聞く耳を貸さない三人。

 退路も言い訳も塞がれドナドナされる真里だが、何かおかしいとふと気付いた。


「そもそも今の問題は碧が落ち込んじゃったことだよね。話すんだったら私じゃなくて碧と話した方がいいでしょ。話す相手が間違ってるって」


 どうだと言わんばかりの顔の真里だったが。


「碧には貴方をぶつけた方が早く確実に丸く収まるから間違ってないわよ」


 せっかくの名案は一言で却下された。



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