13-6 母のいる日常。
本日二本目。
「セレックさんは、あまり納得されてないようですね?」
「えっ、いや……」
急に水を向けられて焦るセレック。
納得できていない、あるいは理解が追いつかないといったような、どこか上の空な表情になっていた。
「納得できない、というわけじゃないんですが……」
(言ってることは、多分わかる。だけど……だけどアライズのやってることは……)
理屈のうえでは納得できる、だか感情は納得できていない。
それがセレックの本音だった。
飛行方法について悩みに悩み続け、鳥族プレイヤーとの相談の結果、イオンにお願いしに行ったらまさかの特大情報。
しかも教官NPCから詳しい話を聞いてみれば、イオンはただ情報を持って帰ってきたのではないことがわかった。
本物の鳥族NPCでもお手上げだったトンネルの魔物を、イオンはたった一人で駆除に向かった。
少しでも手助けにとトンネルに向かえば、魔物に囲まれ窮地に陥ってしまう。
そんな状況なのに、イオンはたった一人で飛び込んで助けてくれたというではないか。
もし自分が空を飛べたとして、そんなことを一人でしろと言われたら、躊躇なく実行できるだろうか。
そんな苦労までして手に入れてきてくれたホーレックの情報とトンネルの開通。そして教官役のNPCの存在。
なのに、イオンの頑張りを台無しにするかのような、アライズによるトンネル封鎖。
アライズ側にどんな理由があろうと、簡単には納得できなかった。
「いえ、納得できないのは当たり前ですし、そんな悩まなくても」
「……え?」
イオンの言葉と自分の感情。
その二つに折り合いを付けようと考えていたというのに、なんと当の本人から納得できないのが当然と言われてしまった。
何故納得できないのかと言われるかと思いきや、全く正反対の言葉。
どういうことか、サッパリわからなかった。
「だって、私はイオンさんではないんです。さきほど言ったのは、あくまで『無責任な立場の第三者』としての言葉。そんなものを簡単に信じろと言うほうが間違ってます」
「ッ!!」
この期に及んで、なお自分はイオンではないと言い張る目の前の人物。
これだけ自分が真剣に考えているというのに、この人はどこまでふざけているのか。
理性で押さえ込もうとしていた感情がついに限界を超え、大声となって現れてしまった。
「ところでセレックさん、いくつか聞いてもいいですか?」
「――っ、…………なんですか」
だが、いざ口を開いたところで聞こえてきた、イオン(仮)の声。
先ほどまでと同じく、どこか柔らかい調子の声であればそのままセレックの言葉は止まらなかっただろうが、何故か今に限って芯の通った声に聞こえた。
そんな今まで聞いたことない声に完全に出鼻を挫かれてしまったセレック。渋々、質問に答えることにした。
「先ほどイオンさんが『ひどい目に遭っている』と言われましたが、具体的にどんな目に遭ってるんですか?」
何を当たり前のことを聞いているのか。
当たり前のことを聞かれるということに僅かな疑問を感じつつも、セレックは質問に答えて始めた。
「どんなって、だからイオンさんのことをアライズが完全に無視してて」
「はい」
「自分たちが一番だって言い張って、トンネルを封鎖して……」
「はい」
「……鳥族が一人もホーレックに行けなくて、イオンさんのしたことが完全に無駄になってて……」
「はい」
「……その……」
「はい」
「…………」
「他にもありますか?」
芯の通った硬い声のまま、淡々と先を促すイオン(仮)。
対するセレックの、先ほどまであったはずの大きな感情の勢いはどこへ行ってしまったのか。
次第に言葉を発するペースが遅くなり、ついには止まってしまった。
まるで詰問されているかのような状況に、セレックはようやく気が付き始めたのだ。
だが、気付くのが遅すぎた。
イオンの表情は先ほどまでと変わらない、少しだけ笑みを浮かべたような柔らかい貌をしている。
しかし今のイオン(仮)を見て、笑っているように見える者がどれだけいるだろうか。
大多数は『怒っている』、穿った見方をする者は『面白がっている』ように見えると言うだろう。
そんな、胸の内をうかがい知れない表情をしていた。
「終わりなら次の質問に行きます。先ほど聞いたイオンさんの遭っている『ひどい目』ですが、どれも身体的な被害ではないようですね。ということは精神的な被害を被っていると思うのですが、イオンさん自身が、それらについて精神的苦痛を訴えたのでしょうか?」
「……恐らくは」
「恐らくは、ですか。曖昧な言葉ですが、イオンさん本人に、セレックさんは直接確認されたのですか?」
「…………いえ」
「そうなんですか。ということは、セレックさんはなんらかの情報を手掛かりに推測したのでしょうか? 例えば、あの日からログインしていないようなので、ショックを受けたのではないかと思った、とか」
「……その通りです」
考えていたことをズバリ言い当てられ、観念したように答えるセレック。
求める答えが得られたのか、イオン(仮)は満足そうに頷いていた。
一方のセレックはといえば、質問に対して一つずつ答えていくことで、自分のしたことを思い知ることになっていた。
イオンの情報を無視して、自分たちが一番だと言い張っていた横暴なアライズ。
だがイオンにとってはそんなことどうでもいいと、先ほど聞かされた。
鳥族がホーレックに行けなくて、イオンのしたことが無駄になった。
しかしホーレックの情報は、そもそも自分たちが要求したから提供されたもの。自分たちの都合に合わせて提供されたのだから、無駄にさせたのはむしろ自分たち。
教官NPCの存在も、鳥族のことを考えてのことではなく、イオンが無駄な手間をかけさせられないようにお願いしたのかもしれなかった。
しまいにはイオンがショック受けたと勝手に思い込み、イオン本人にもそれを押しつけようとしていた。
本人はショックどころかなんとも思っていないかもしれないのに。
失礼、などという言葉ではすまされない、相手の意思を無視したひとりよがりな行動。
弁明のしようがまるでないほど、愚かな行いだった。
ようやく自分の行いに気付いたセレック。
穴があったら全力で飛び込みたい。まさにそういう心境だった。
だが本当に穴があっても飛び込むわけにはいかなかった。
自分のしでかしたことに気付いたのだから、次はその後始末をしなければならない。
イオンに謝罪を、いやその前にイオンから罰せられるのが先。
セレックは、イオンの断罪を待つしかできなかった。
「ありがとうございました。質問は以上です」
「…………え?」
断罪の言葉が聞こえるはずが、まさかの無罪放免。
つい惚けたような声を漏らし顔を上げてみれば、いつの間にか元の微笑みに戻ったイオン(仮)の姿が目に入った。
「聞きたいことは聞けましたので、これで話しは終わりですよ」
「いや、でも……」
優しく教えるかのようにもう一度同じことを言うイオン(仮)。
それを聞いたセレックからは、『何故?』という意味のこもった呟きが漏れていた。
「えっと、もしかして先ほどの質問内容、よくわかりませんでしたか? あまり難しいことを聞いたつもりはなかったんですけど……」
『質問の意味を理解できなかったのか。そんな簡単なこともわからないのか』
セレックには、そう聞こえた。
「いっ、いえそういうわけじゃないんですが……」
セレックは慌てて否定した。
裏の意味はどうあれ、言葉の上では本当に簡単な質問だけ。それについては正直に答えたつもりだった。
しかしこれから叱責されると身構えていたのに、唐突に話しは終わりだと言われてしまった。
見捨てられた、にしては呆気ない終わり方。本気でそのつもりなら、先ほどのように口には出さずとも態度で示すことだってできるだろう。
それすらも無いということは、都合のいい解釈かもしれないが“まだ続いている”と取ることもできた。
だから、今言えるのはこれが限界だった。
「……その、反省と、イオンさんに謝罪が必要だと思ったので……」
せめて次の機会を認めてほしいと思いつつ、セレックはそう言った。
「そうですか。でも良かったですね、セレックさん」
「良かった……ですか?」
何故か、先ほどより嬉しそうに見えるイオン(仮)の笑顔。
話の流れがサッパリわからなくなってしまったセレックは、恐る恐る聞き返した。
「だって、本人に会う前に反省点がわかったんですよ? 次に会うときは、今までより仲良く話せるかもしれませんね」
「!」
次に会うことを考えてくれている。
しかも仲良くなれる、関係を改善できるかもしれないと言ってくれている。
「謝罪がどんなものかはわかりませんけど、そちらもうまくいくといいですね」
「っ、はい!」
「明日以降、会えるといいですね」
「ありがとうございます!」
激励の言葉に加え、なんと明日にでも会いに来ていいという。
今日は出会ってすぐから怒鳴るような真似をして、しかも本当に失礼な思い込みを何度もぶつけてしまった。
なのに遠回しに自分の考えを伝え、自分から反省するように話を誘導し、やり直しの機会まで与えてくれるという。
そんなイオン(仮)の対応に、セレックは心の底から感動した。
一方。
(……宗教家も真っ青だぞ? これ……)
ずっと脇で聞いていたマスグレイブは、内心恐ろしいものを感じていた。
言葉の調子はそれほど変わらないのに、何故か全く違う印象に聞こえる語り口調。
僅かな違いで、何故かもの凄い迫力を感じさせるその表情。
いつの間にか引き込まれてしまう、本物の宗教家もかくやという語りぶりに、イオンこそ評価を改める必要があるのではないかと考えるのだった。
「えと、セレックさんでしたっけ。もう失礼してもよろしいですか?」
「はいっ、もう大丈夫です。その、突然呼び止めてすいませんでした」
「いえ、こちらこそおざなりな対応でしたから。本物のイオンさんと会ったときには、気を付けたほうがいいかもしれませんよ」
「はい!」
一時はどん底まで落ち込んだ様子のセレックだったが、結局最後までポジションを変えなかったイオン(仮)に助けられることになった。
もしどこかで自分はイオンだと認めていれば、先ほどの失礼な物言いは全てイオン本人にしたことになっていた。
しかしここにいるのはあくまでイオンではない、ただの別人。イオン本人には、何ら関係ないということになる。
(そこまで考えて頑なに否定してたんだとしたら、恐ろしすぎるぞ……)
まさしく信者の如き視線になりつつあるセレックを見て、本気で恐ろしくなるマスグレイブだった。
「それでは失礼しますね。マスグレイブさんも、ありがとうございました」
「こっちこそいい話聞かせてもらったよ。ありがとな」
末恐ろしいものを感じつつも、表面上は取り繕って見送った。
(だが本気で助かった。今の話聞いてなかったらな、ナイツの方向性もブレてたかもな……)
アライズとのことでアレコレ悩んでいたマスグレイブだったが、イオンの言った『どうでもいい』を聞いて、良い意味でどうでもよくなった。
(俺も何様だって話だよな。勝手にゲーム内の勢力をコントロールできる気分になって、動かしてる気分に浸って。そんなの俺一人でどうにかなるわけないだろうに)
自分もステージの上に引っ張り出された配役でしかなかったことに、マスグレイブは今更ながらに気が付いていた。
どれだけの力があろうと、所詮は一人のプレイヤー。
脚本は無く監督も居ない即興劇だとしても、ステージ上の全てを把握できていない立場でステージを動かそうなど、愚かにもほどがある。
(アライズとのことでどうこう考えるより、まず自分たちがどうしたいかを考えないとな。俺も、いつの間にか状況に振り回されてたってことか)
自分たちのことよりも、考えていたのはそれ以外のこと。勝手に話を大きくして、勝手に首を突っ込んで、勝手に慌てて。
自分のことじゃないのだから、答えなど出るはずがない。
悩んでも無駄なことはひとまず放っておく。まず自分にできることにだけ全力を尽くす。
胸の内がようやく晴れたマスグレイブだった。
(ついでに、俺以外にもそう思ってるヤツが居るみたいだしな)
イオン(仮)が去ったあとに残っているのは、本当の信者になりかけているセレックと、いい話を聞いたといった様子のギャラリーたち。
特にギャラリーの雰囲気は最初とはまるで違っていた。
イオンはどんな爆弾発言をするうのか、ついにアライズとの前面衝突が始まるのか。
ギャラリーはそんなことを期待してヒートアップしかけていたが、今ではすっかり落ち着いている。
今までは一方的にアライズを叩けばよかったはずの状況だった。しかしアライズ叩きの急先鋒であるはずのイオンが、一方的に叩くのは不可能だと自分から解説してしまった。
気にせず叩き続ける者はもちろん居るだろうが、影響されて今一度考え直す者が増え始めた。
今回のことがどこまで影響するかはわからないが、アライズだけが一方的に叩かれる状況に、一石を投じることになりそうだった。
(多分こうなることを狙ったんだろうな、イオンさんは。あまりに一方的な状況だと、感情の整理がまるでできないまま終わってしまう可能性がある。そうなると組織が潰れても個人までは潰れない。一人残らず潰さないと復讐される危険性だって残る。そして一度でも復讐されれば復讐が復讐を呼ぶだけだ。そんなの、誰にとっても歓迎できるものじゃないからな……)
自分の優位性を崩すような発言をしたうえで、アライズの正当性を認めるような発言もする。
一方的に傾いていた天秤を、自ら戻してしまった。
釣り合うまで戻せば騒動は鎮静化するだろう。そこまでする気なのかどうか、それはマスグレイブにはわからなかった。
しかし今現在の、街のそこら中に導火線があるような状況だけは回避できたのではないか。
マスグレイブは、ひとまずそのことに安堵した。
(少しは状況が落ち着いてくれればいいけどな……。ま、なるようになるか)
今この場で自分にできることはもう無い。
それを理解したマスグレイブは、拠点へ戻ることにした。
(イオンさんのおかげで見失わずに済んだ。さっさと戻って面倒ごとは片付けて、そんで憂さ晴らしにダンジョンでも行くか。クサクサしてないで、俺もゲームを楽しまんとな)
まずはドーナツを配って、それから仕事に取りかかろう。
そう決めたマスグレイブの足取りは、疲れなど微塵も感じさせない、やる気に満ちたものになっていた。
◇◇◇
「くそっ、今日はよりによってマスグレイブか!」
「セレックだけでもヤバイが、マスグレイブまで居るとなるとな……」
「はぁ? 所詮鳥族だろ。まさかアイツまで強いとか言うのか?」
「……このパターン、昨日も一昨日もだったが……」
「そのまさかだよ。ああ見えて接近戦も遠距離戦も、ついでに魔法もそれなりのオールラウンダーだ。器用貧乏とは言えない程度に強いらしい」
「目がいいだけの斥候かと思ってたが、戦闘もできるのか……」
「あらゆる方向から鳥族を研究した結果なんだとさ。おかげで苦手分野がほぼ無い。一人でどんな状況でも立ち回れる。奇襲しようが乱戦に持ち込もうが、効果は薄いだろうな」
「そこにマスグレイブまで居るとなると、手の出しようがないか……」
「マスグレイブは接近戦特化だが、それこそ隙がないからな……」
「チッ、だがもう三日目だぞ! これ以上放置していいのか!」
「わかっている。だが二人が離れるのを待つしかないだろう」
「また待つしかないのか……ッ」
「だがさすがにこれ以上は伸ばせん。こうなったら、多少犠牲が増えるのは仕方ないだろう」
「では、二人が居なくなったところで仕掛けるか?」
「ああ。少々のザコならどうとでもなる。目撃者もまとめて片付けてしまえばいい」
「あまりやり過ぎると、クランを叩く材料にされてしまうかもしれんが……」
「むしろまとめてやってしまえばいい。それならクソ女は“巻き込まれただけ”と判断される」
「関係ない一般人が偶然被害に遭っただけ、ということか」
「どのみちこれ以上の引き延ばしはできん。やるしかないだろう」
「……そうだな。蒙昧なる愚民どもが真実に気付くはずがない。気付いていれば、我らアライズの正当性にも気付いているはずだからな」
「これ以上、クズどもに我らの名を汚させるわけにはいかない。あの悪女を早急に排除し、アライズの正当性を認めさせる必要がある」
「ログインしなくなった者の情報など、誰も信用しなくなるだけだからな」
「外面ばかり取り繕った女だ。街中で襲われれば、怖がって二度とログインしなくなるだろうよ」
「してくるなら、何度でも排除するだけだ」
「よし。今日こそ必ず」
「おいお前ら、少し静かにしろ!」
「どうした、いきなり」
「あの女が我らについて何か言おうとしている。内容によっては、実力行使せずともいいかもしれん」
「自ら墓穴を掘りに来たか。我らを批判するというのなら、こちらからも批判させてもらおうではないか」
「誰か近くで撮影してこい。確実な証拠になるからな」
「俺が行ってこよう。お前はここからでも聞こえるよな、ここで話の内容を全員に伝えてくれ」
「わかった。気を付けろよ」
「ああ」
「それで、どんなことを言ってるんだ」
「待て、今始まったところだ…………ん?」
「どうした」
「静かにしろ。……………………批判、ではないな」
「なんだと?」
「トンネル開通の功績など『どうでもいい』と言っている。先に見つけても報酬も何も無いから、と……」
「何も無いだと!?」
「ふざけたことを!」
「……優先権も必要ないと言っているな。トンネルを開通させなければ、北へ行けるのは空を飛べる自分だけ。トンネルを先に見つけて開通させたと主張しても、自分のメリットは何も無いと言っている。功を誇りたければ、そのように動いていた、ともな」
「優先権も必要ない……?」
「確かに止めようが無いのは事実だが……」
「…………」
「どうした。今度はなんと言っている」
「……アライズの主張は当然のことだ、と」
「……何?」
「どういうことだ……?」
「我らが先だったのかあの女が先だったのか、証明する方法は無いと。だがアライズが調査の結果トンネルを発見したのは事実。どちらも正確な日時は不明なのだから、自分のほうが遅かった可能性もあると……」
「どういうことだ? 何故我らを擁護するようなことを言う?」
「上げて落とすつもりだろう。姑息な女のやりそうなことだ」
「…………ッ!?」
「どうした、やはり批判に移ったか」
「……落ち着いて聞け。アライズの“今”には、意味があると言っている」
「やはり挑発か!」
「だから落ち着けと言っている。新しいものは叩かれても仕方がない。だが今この状況を乗り越える価値がある、だそうだ」
「価値だと?」
「乗り越えられれば批判に負けない強固なクランになれる。メンバー同士の結束も強まるだろうと言っている……」
「試練を与えたつもりか? 何様だ一体」
「……そうだとしても、逃げるわけにはいかない」
「何故だ」
「お前のクランに対する思いはその程度か。少々炎上した程度で揺らぐものなのか?」
「そんなはずがないだろう!」
「……団長がそう考えていたとしたら、どうする?」
「ッ!」
「なるほど。試しているのはあの女ではなく団長ということか」
「始まりはあの女の罠だったとしても、今の状況は団長にとっても都合がいい」
「団長はあの女のことは放っておけとしか言わなかったが、それにこんな意味があったのか……」
「……団長の意図はわかった。だがそれとあの女を排除することは別だろう」
「そうだな。この騒ぎが収まったら……」
「いや、そう簡単にはいかなくなった」
「戻ったか。どういうことだ?」
「確認するが、今の話は聞こえていたか?」
「我らを擁護するような内容に聞こえたが、間違いないか?」
「やはりそう聞こえたか。そのおかげなんだろうな。俺はあの場に居たからわかるが、我らを閉め出そうとする雰囲気は完全に消えていた。むしろ受け入れてもいいという空気まで漂い始めていた。全て、あの女が口にしたことが原因でな」
「それがどうした」
「今までは周りが勝手にアライズを悪だと決めつけていた。叩きたがるヤツはあの女の代弁者のつもりで我らを叩いていた。だが今のことで状況は変わった。あの女は我らと敵対する気は無いし、我らに理解があるようなことも言っていた」
「しかし……」
「そんなやつを排除してみろ。『自分たちの味方まで切り捨てる殺人狂が在籍するクラン』と呼ばれても不思議ではないぞ」
「グッ!」
「そうなってしまえば完全に悪だ。誰がどう見てもな」
「敵と味方と中立、ではなく、全てが敵になってしまうだろうな」
「……だが、我らがやったという証拠を残さなければ……」
「今の状況では、真っ先に疑われるのは確実に我らだ。ほんの小さな火種でも、容易に炎上するだろう」
「しかしっ」
「お前、本当にクランのことを考えているのか? 自分の怒りだけで動こうとしてないか?」
「俺だってお前の気持ちはわかる。だが今勝手をすればクランに多大な迷惑をかける。今動くのは、絶対に駄目だ」
「……クソッ!」
「すぐに落ち着けってのが無理なのはわかる。とりあえず場所を変えよう」
「拠点……はマズいな。適当なダンジョンで憂さを晴らすか。おい、行くぞ」
「……わかった」
9/13誤字修正しました。
隠す気ない?
そもそも隠してないです!
この時点では日曜日なので、次は……。