表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/152

13-4 母のいる日常。


 日曜日になりました。

 お母さんのおかげで仕事が入ってるので、午前は仕事を手伝います。家のことは午後にまとめて片付けます。

 家のこともお母さんが手伝ってくれるので、まとめてやっても普段より楽です。ついでなので色々片付けましょう。

 それからお母さんの車で買い物です。車なのでまとめ買いします。ここぞとばかりに。

 そんなわけでお店に入りましたが、お店ではお母さんから魅力的な質問がありました。


「碧、何か欲しいものはありますか? 一緒に買い物するのも久しぶりですから、欲しい物があれば少しくらい買ってあげますよ?」


 そんなことを聞けば、誰だって遠慮しながらもアレコレ考えてしまうと思います。

 でも同じ言葉を一日に三回聞くと、さすがに何か怪しいと思ってしまいます……。


 一回目はホームセンター。収納ケースが欲しかったので行きました。

 ケースに目星を付けて、他も見て回ろうと思ったらさっきの言葉です。

 即座に14mmのセミディープソケットをお願いしました。昨日の作業中、奥まった位置にあるボルトを回したいのに、通常のソケットでは浅いしディープソケットでは大きすぎて入らないしで困ったんですよね……。


 二回目は業務用のスーパーです。調味料とかの買い置きが無くなってたので。

 ここではコーヒーをお願いしました。インストタントですけど、いつもより少しだけ高い物で。

 ゲームの中で美味しい物に慣れてしまったので、つい……。


 そして三回目。ショッピングモールです。

 食料品を買うだけだったので普通のスーパーで良かったんですけど、どうせならこっちにしましょうと言われてここに来ました。

 そしたら入って早々にさっきの言葉です。

 食料品売り場に着いてないのに。どこかのテナントにも入ってないのに。


 ……ここまでわざとらしいと、さすがに私でもわかります。

 その言葉自体に何か意味があるので、それに気付けということですね。

 それから、そのことについて的確な返答もしろと。

 ただの買い物が、何故か母のテストを受ける時間になってしまいました……。


 でも今回のは何か重要なことというわけではないようです。

 お母さん、テストをしているというより、いたずらしてるような顔してます。

 なので冗談で済ませられるものとか、ちょっとしたアドバイスとか、そういうものなんでしょう。

 でもとりあえず真面目に考えてみます。


 ショッピングモールで買える物。

 入り口で聞いてくると言うことは、個別の製品名ではなく分類で答えられる範囲。

 質問の内容は『私が欲しい物』。

 でもお母さんの望む答えがあるということは、多分ですが……『私に欲しがってほしい物』という意味。

 逆に言えば、普段の私が欲しがらない物。

 ショッピングモールにあるけど、私が買わない物。

 それは……。


「……服。いえ化粧品とかも含めるので、まとめればお洒落に関する物。を、欲しがればいいんですか?」


「あら、よくわかりましたね。一度で正解するとは思いませんでした。花丸をあげましょう」


 一瞬驚いてから嬉しそうな顔をするお母さん。

 なんとか最適な答えを言えたようです……。


「何度か友達と来たんですけど、相手の目的は大体それなので」


「碧だけはいつも適当なお店で暇を潰してるんですね。フードコートとか」


「本屋とペットショップも見てます」


 メインはフードコートですけど。……思い出したらアイス食べたくなりましたね。買って帰りましょう。


「やっぱりというか何というか。続きは歩きながら話しましょうか」


 入り口で立ってたら邪魔ですからね。

 先ほどの話なんて無かったかのように、真っ直ぐ食料品売り場へ行きます。


「花丸をもらえたんですから、アイスお願いしますね」


「私もそのつもりでしたので」


 真面目に考えて正解でしたっ。

 たまにはトリプルも……いえ、油断は禁物です。ダブルにしましょう。最近またキツくなってきた気がするので……。


「ところでさっき話に出た友達のことなんですけど、前に聞いた佐々木さんですか? 碧が珍しく懐いた」


「懐いたって……あまり否定できませんけど。その通りです。それと東さんという方も一緒です」


 どこかへ行くときは、大体この三人です。


「二年になっても同じクラスなので、何度も誘ってもらってます」


「断る場合が多いけど?」


「その通りです……」


「なのに誘い続けてくれるって、なかなか凄い子ですね。お節介な親っぽく『お礼したいから今度うちに連れてきなさいな』って言うべきでしょうか」


「それを言ったら喜んで突撃してきますね」


 即答でオーケーすると思います。


「でもいつもいつも断ってるわけではないですよね。最近はどこに行きました?」


「えっとこないだ――」


 その続きを口にしかけて、はたと気付きました。

 ゲームを買ってからゲームの中でばかり遊んでいて、現実でどこかへ行ったりはしてませんでした。

 ゲームの中ではあちこち行ったので、いつの間にか色々行った気分になってましたが……ゲームの中のあそこに行きましたというのは、この場合はダメですよね……。


「……ゲームショップに行きました」


 なので最後に行った先はこれでした……。


「ゲーム、いいじゃないですか。多分徹さんも言ったと思いますけど、碧はもう少し遊んだほうがいいです」


「同じことを言われました」


 苦笑する私と、やっぱりと言って笑うお母さん。


「説得力はありませんけど、本人としては真面目なつもりですよ?」


「それはわかってます」


「そのことをダシにしてシャコチョーをねだったようですけど、どうせ思いつきですからね?」


「それもわかってます」


 自分がパーツを買いたいから遊びを勧めたのではなく、勧めたあとで思いついたに決まってます。

 そこまで考えてるなら最初から言ってるはずですし。


「本人は何をやっても楽しいっていうタイプの人ですからね。碧にも楽しいことを見つけて欲しかったからの言葉だと思います。そこまで考えず、ただ仲間を増やしたかったくらいにしか考えてないでしょうけど」


 お母さんの言う通り、お父さんは大抵のことを楽しめるタイプなんだと思いです。

 キツいはずの作業でも『ここを外さずに進めたら前より三十分早く終わったぜ。外さない分、難しくなったけどな!』って楽しそうに整備について語ったりとか、お客様からクレームを受けても『五時間正座して話聞いてたら許してもらえたうえに仕事もらえた。やったぜ!』って、お客様との話を嬉しそうに話してくれたりとか。

 大変だったとか、疲れたとか、そんなことより嬉しいことや楽しいことが先に来るお父さん。

 どんなときでも楽しそうに仕事する姿は、少しだけ“いいな”と思うこともあります……。


「碧も、そうなってくれていいですからね」


「……私もですか?」


 いいなとは思いましたが、私もあんな風になれるかと言われると……。


「仕事や学校、それとゲームも買ったんですよね。どれも楽しくないですか?」


 仕事と、学校。

 仕事のお手伝いは大変なことだってありますけど、決して嫌々やってるわけではありません。仕事が上手く回ると楽しいですし、難しい整備作業を終わらせると達成感もあります。

 学校は真里や東さんのおかげでいつも楽しいです。最近は相田君や西君と話す機会も増えましたし、その繋がりで他の方と話す機会も増えてきてます。

 ゲームの中では本当に遊んでばかり。ずっと楽しい時間をすごしてます。


 もちろん大変だと思うこともあります。

 でも、楽しい時間が増えてきてるのも事実です。

 言われてみれば、私もなんでも楽しんでたかもしれません……。


「なんでも楽しくなると考えると、少し抵抗あるかもしれませんね。それでいいのかなって」


 あります。悪い事なんて無いと思うんですけど、なんとなく。

 お母さんの言う通り“それでいいのかな”って。


「でも問題ありません。何故問題ないかと言えば、それらは普通、何もせず勝手に楽しくなるものではないからです」


 勝手に楽しくなるものではない。

 勝手に楽しくなるのではないのなら、自分から楽しくなるように動かなければならない……ということでしょうか。


「仕事はお客様のおかげ。学校は友達のおかげ。そう考えるかもしれません。でもそれらと向き合うのは全て自分です。仕事をしなければお客様は来ませんし、ただ最低限に仕事を片付けるだけなら、いずれお客様は離れていきます。繋ぎ止めるには、自分が頑張る必要があります」


 仕事を頑張ったり、考えたり。

 自分で何かしなければ、いずれは楽しくなくなってしまう。


「学校が楽しいのは佐々木さんのおかげだと考えるかもしれませんけど、佐々木さん自身が楽しそうにしてることは全くないですか? 碧のほうから佐々木さんとの時間を楽しめるように動いたことは、一切ありませんか? 能動的に(自分から)ではなく、受動的に(言われたから)したことでも、です」


 ……どこまで能動的と言っていいのかは正直わかりませんが、真里と一緒に楽しいことをしたいと考えて動いたことは、何度かあるつもりです。

 VRゲームも、最初は真里と遊びたいからと考えて始めることにしたんですし。


「だったらそれは自分からも歩み寄っているということです。そうは見えないかもしれなくても、友達のあり方なんて人それぞれです。それぞれに合ったやりかたで付き合えばいいんですから」


 それに続けられた『私と徹さんみたいに』という言葉には、素直に頷かされました。


「世の中、仕事も趣味もそれ以外の時間も全て楽しめる人なんて、非常に少ないんです。全てに対してそれなりの手間や努力が必要ですからね。だからなんでも楽しめるということは、とてもいいことなんです」


 全部楽しんだって、なんの問題もない。

 楽しめるのは、自分自身がそうなるように動いているから。

 だから、


「だからお母さんも、そんなに楽しそうなんですか」


 今こうして話してるだけでも、どこか楽しそうなお母さん。

 何をしても楽しいというのは、お父さんだけではなくお母さんも同じ。

 私の言葉を聞いたお母さんは、もっと楽しそうな笑顔になりました。


「可愛い娘とのひと時が楽しいなんてのは、親として普通のことです。それはそうと、その佐々木さんに会ってみたいですね。さっきも言いましたけど、今度は本当に」


「会うって……どうしてです?」


 こんな場所(食料品売り場)で少し真面目な話しをしてたと思ったら突然話が変わって、何故か真里に会いたいなんて。

 特に用はないと思うんですけど。まさか本当にお礼が言いたいから、ではないと思いますし。


「それはあれです。『いつも娘がお世話になってます』っていう定番のセリフとか、『うち子って変わってるでしょー? 迷惑かけてごめんなさいねー』って無意識に子供を傷つける無神経な母親らしいセリフを言ってみたいから」


「「「うっ!」」」


 そんな事ですか……。

 というかどうして後半部分だけ少し声を大きくするんですか。何故か周りに胸の辺りを押さえてる奥様方がいますし……。


「予定は決めてませんが、今度うちに遊びに来ることになってますので」


 西君が仕事場を見たがってた件です。どうせなら夏休みに入ってからにしようとなってたので。

 お母さんは長めに居るとは言ってますけどいつ帰るかわかりませんし、明日にでも予定を立ててしまいましょうか。


「なら良かったです。ちなみに男の子は?」


「最低一人は来ますけど車が目当てです。こっちはお父さんに相手してもらう予定ですね」


「最低、ということは二人以上の可能性もあるんですね。そっちの子はどうなんです?」


「私以外を目当てに来るかもしれません」


「残念です。家に上がれたというだけで舞い上がって勘違いしちゃった残念な男の子に、単に仲の良い友達だから家に上げてもらったという、むしろ全く意識されていないからこその現実を、容赦なく突きつけてあげることはできないんですねぇ」


「「「ぐはっ!」」」


 今度は男性方が苦しみだしました……。


「そんな楽しみ方はやめて下さい。明日学校で予定立ててきますから」


「よろしくお願いしますね」


 とはいえ真里たちが嫌がったら諦めてもらうつもりです。

 真里は嫌がらないと思いますけど、他の方まではわかりませんし。

 とにかく、一度話してみることにしましょう。


 そういえばアイスは結局トリプルにしました。

 期間限定ってズルいですよね……。





涼しくなる前にアイスもう一回食べたいなぁ……。


Q:14mmのセミディープソケットって何?

A:工具の一種。ボルト・ナットを回すソケットレンチという工具がありますが、ソケットレンチはソケット部とハンドル部で分離可能になっていて、ソケット部を変更することで各サイズに対応出来るようになっています。14mmというのがそのサイズ。セミディープとなっていることから想像付くと思いますが、スタンダードとディープもあって、それぞれ長さ(深さ)が違う。奥まった場所や狭い場所など、場所によって付け替えて使用する。

更にハンドルを差し込む側のサイズも複数。ボルト・ナット側も六角と十二角。ヘキサゴンやらトルクス等々、バリエージョンが無数にあって揃えるのが大変。お財布的な意味で。

『このサイズがあれば基本的に大丈夫!』というのはありますが、『ただし外車は除く』という注釈が付く。ぐぬぬ。


Q:自腹なの? 会社から工具代とかないの?

A:あるわけないじゃないですかー。そんなの都市伝説ですよ都市伝説!(社畜洗脳済み

という冗談はさておき、お店によってはあるはず。でも退社後も自分の車は自分でメンテしたいって人は工具が必要なので、自腹(私物)じゃないと持って帰れないので特に何も言わない。いらないって人は先輩後輩に売りつけてったりします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ