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13-3 母のいる日常。


 ルフォート、結界石の広場。

 この街の結界石は、他の街の結界石に比べて圧倒的に利用率が高い。

 理由は簡単。あらゆる面でこの街が便利だからだ。


 例えば各種ショップ。プレイヤーの経営するショップはそのほとんどがルフォートに集中している。

 NPCの経営する各種ショップも当然存在するが、プレイヤーのショップのほうが品質的な面で上回りつつあるので、ある程度攻略が進んでいるプレイヤーはこちらを利用する。

 クランの拠点や個人的なプレイヤーホームのほとんどはルフォートにあり、他の街へ行こうとすればルフォートの結界石を利用することになる。

 便利になれば人が集まる。人が集まれば便利になる。

 全プレイヤーが一回のログインで一度は利用すると言われるほどだった。


 それほどの利用率なのだから、人を探すのにもうってつけだ。

 結界石の広場に立っているだけで、全てのプレイヤーに会える可能性すらある。


「なのにそうしてるってことは、まだ会えてないのね」


「その通りだ……」


 可能性はあるが、確実に全てのプレイヤーに会えるわけではない。

 いくら待っても会えないときは会えない。

 世の中、そんなものかもしれない。


「私が悪かった。だからマルグレーテ、少し手伝っては……」


「ダメよ。貴方一人の力でイオンさんに謝るって、クランの全員で決めたことでしょう。ジークフリート、リーダーのくせにそれを破るつもり?」


 待ち人はイオン。待っているのは、クラン・暁の不死鳥リーダー、ジークフリート・フォン・ヴァレンシュタインだった。

 その理由は先ほどマルグレーテが口にした通り、先日の行いについて謝罪するため。

 話を聞いてもらえるかどうかは置いといて、まずは一人だけで謝ってこいと、クランメンバー全員から叩きだされているのだ。


「そんなつもりはない。だがもう三日目だぞ。ログインしてるあいだは常にここで正座しているが、一度も彼女は見ていない。ログイン時間が合わないか、避けられてるかのどちらかだと考えるのが普通だろう」


「なら、焼死覚悟で拠点の前に張り込む?」


「…………」


 エスの拠点の場所は、少し調べればすぐにわかる。だからそちらを張り込むほうが、会える可能性が高くなるに決まっている。

 もちろんジークフリートも初日に実行したのだが、イオンと会う前にアヤメと遭遇。

 話しかける間もなく魔法が飛んできたので、拠点の前に張り込むのは諦めたのだった。


 ちなみにイオンはそのことを知らない。

 アヤメとしては生ゴミを焼いただけ。ジークフリートとは口をきいていないのだから、イオンが目的だということなど知るはずがない。

 燃やされても何回も来るほど根性を見せるならアヤメだって無碍にはしないだろうが、一度で消えるならやはり生ゴミ。

 わざわざ言うほどのことではない、というわけだ。


「言っとくけど、貴方がここでひたすら待ち続けてるのだって、意味があることなのよ」


「それもわかっているが……」


 言いながら周囲を見渡すマルグレーテにつられて、同じように見渡すジークフリート。

 注目の的、と言うほどではないが、二人を見る視線に好意的なものは少ない。

 それどころかあからさまに嫌悪が含まれた視線もあり、とても良い状況とは言えなかった。


 暁の不死鳥はそのロールプレイ色の強さから、何かと話題になることが多かった。

 良い意味でも悪い意味でも話題になり、最早ネタ扱いが当たり前になるようなクランだ。

 だが最近になって悪い方向に拍車をかけてしまったのが、先日のイオンに対するセクハラ事件である。


 事件直後はまだ無名だったイオン。それほど騒ぎにはならなかったのだが、公式イベントが終わる頃には、イオンはあらゆる意味で有名人になっていた。

 そして一部の人間が思い出してしまったのだ。

 『あのプレイヤー、勇者にセクハラされてなかったか?』と。

 イベント会場のど真ん中でやってしまったのだから隠しようがない。噂はあっという間に広まり、暁の不死鳥の評判もそれに引っ張られてしまったのだった。


 あの事件から三日前まで、ジークフリートはメンバーの総意によりログインを禁止されていた。『セクハラは許さん!』という、暁の不死鳥メンバーの総意によって。

 というのも、今回ジークフリートが通報された理由はイオンに対するセクハラ行為だが、実は暁の不死鳥、及びジークフリートがセクハラ行為で通報されるケースは、ゼロではないが非常に稀だったりする。

 通常はプレイヤーに対する過度の干渉、迷惑行為として通報されているのがほとんど。

 セクハラ通報の場合も、女性プレイヤーに対する干渉を“しつこいナンパ”として通報されたものばかり。

 身体的接触を伴う通報は、異性、同性を問わず、実は今回が初めてだったりする。

 暁の不死鳥内でも『いくらなんでも体に触れるのはアウト』の意見がほぼ全員を占め、反省のため謹慎処分となっていたのだった。


 だがそれだけでは不十分だと考えたメンバーたちにより、イオンに謝罪させることを決定。

 ひたすらイオンを待ち続ける姿も、謝罪に対して本気の姿として見てもらいたい。

 一人で待ち続けるのも、三日程度で諦めさせないのも、全て意味があってのこと。

 マルグレーテとしても、そう簡単に緩めるつもりはなかった。


 ジークフリート自身としても、メンバーに言われる前からイオンに謝罪をするつもりだった。

 基本的に相手のことを考えず自分のペースで動いてしまうタイプなので、気が付いたら本気で怒らせていた、ということは度々ある。

 それに気付くのに時間がかかるジークフリートだが、気付いた以上はしっかりと謝りに行くのもジークフリートだ。

 それがまた相手のことを考えない一方的な謝罪になることもあり、結局は修復不可能になることもあるが、少なくともジークフリート自身は本気で謝りに行っていたし、一部は関係が修復することもあった。

 勇者たる自分の行動は全て正しい、だから謝る必要はない。などとは考えていない、そこまで独善的な勇者ではないジークフリート。

 独善的と言うよりは、思い込みが激しく暴走しがちなタイプなのだった。


「それとも貴方の考える勇者というのは、たかが三日で投げ出すような、根性の弱い者のことを言うのかしら?」


「そんなはずはない! 必要とあれば一ヶ月でも一年でも待ってみせる!」


 ちょっとした煽り文句にも簡単に影響され、いちいち腕を振ってポーズを決めながら明後日の方向に視線をキメて言い放つジークフリート。

 ただしポーズを決めるのは上半身だけ。下半身は正座したままなので動かせない。


 しかもこのセリフ、本人としては本気のつもりで言っている。本当に実行するかどうかは別だが、少なくともこの時点では本気だ。

 そんなところが手に負えない、と素人は考えるだろうが、プロ(マルグレーテ)からしてみれば扱いやすいことこのうえない。


「そう。なら待ち続けなさい。これは貴方が真の勇者となるために必要な試練よ。いかなる困難が待ち受けようとも、絶対に逃げず、やり遂げて見せなさい。それでこそ、勇者としての道が開けるのだから……っ」


「この身、この命に替えて、必ずッ」


 ジークフリートと同じように、こちらは全身でポーズを作って返すマルグレーテ。

 決意の言葉に真剣な表情で頷き返した。


(これで最低一週間は大丈夫ね。見に来て良かったわ……)


 勇者とその仲間による決意の一幕。

 はたから見ればただの寸劇。もっと言えば中二病全開なアホの会話。

 一応フォローしておくと、暁の不死鳥の中でもここまで中二病をこじらせているのはジークフリートだけである。

 他のメンバーは軽度(自称)の中二病患者。現実世界では恥ずかしくてできないロールプレイ(勇者ごっこ)を、ゲームの中でくらい思いっきりやりたいという者たちだった。


 暁の不死鳥が勇者を名乗るのは、魔力操作を早い段階で修得したメンバーが多かったから、自分たちに特別な力があると思い込んでいるからだと、周りには認識されている。

 だがそれは自分たちがそのように宣伝したからだったりする。

 思い込みの激しい、ネタ集団だと捉えてもらえるように。

 真面目に勇者だと認識してもらうなど、普通に考えてまず不可能。というより本気で勇者扱いされたら自分たちだって困る。

 そんなことよりもネタとして勇者扱いしてもらったほうが、自分たちもやりやすいし周りもノってくれるかもしれない。それこそ、ヒーローショー的なノリで。

 少々やり過ぎてしまって、今となってはマイナスイメージも付いてしまったが、概ねその方向に進んでくれた。


 そんなクランなのだから、たまにやり過ぎてしまうアホでも自分たちにとって楽しいオモチャ……ではなく、理想的な勇者を全力で体現してくれるジークフリートがリーダーに選ばれているのだった。


(今回はそのアホさ加減が助かるわね。何日もただ待ち続けるなんて、私だったら絶対ゴメンだし)


 ここまでアホでなければこんなことにもならなかったのだが、それは今更言っても仕方ないこと。

 マルグレーテとしては、失敗したときの対策について考え始めるだけだった。


 だが、それを考えるのは今ではないらしい。


「ジークフリートっ」


「ああっ!」


 たった今、一人の鳥族がログインしてきた。

 白い翼と、背中に流れる青い髪。

 それだけなら他のプレイヤーの可能性もあるが……。


「装備は違うけど間違いない。イオンさんよ」


 初期装備に身を包み、メガネをかけてログインしてきたその人物。

 だが正面斜め方向からその顔を見た二人の目には、その人物はイオンだと判断できた。


「……変装……かしら。昨日もまた話題になってたものね、それくらい考えられるわ」


 装備は違うが、そこまで疑問に感じていないジークフリートとマルグレーテ。

 キャラクターの上に常時キャラネームが表示されるようなゲームでは難しいだろうが、BLFOではそんな表示もない。

 装備によっては、変更直後は誰が誰だかわからなくなることは珍しくない。制服姿しか見たことないクラスメートが私服姿になっただけで、全く気付けなくなってしまうのと同じことだ。

 だから何かしらの理由で隠れてプレイしたいときに装備を変えるというのは、それなりに使われる手段だった。

 昨日、またしても話題を振りまいたイオンが、いちいち話しかけられるのが面倒で装備を変えていたとしても、なんら不思議ではない。


「変装はわかった。ならすぐに」


「待ちなさい。今はマズいわ」


 正座を解いて立ち上がろうとするジークフリート。

 しかしすぐに待ったの声がかかった。


「何故だ、折角のチャンスだぞ」


 ジークフリートの言うことはもっともだ。三日も待ってようやく見つけたのだから、今を逃せば次がどうなるかなんてわからない。

 すぐに動こうとするのは、むしろ当然だ。


「少しは考えなさい。変装してるということは、自分が“イオン”だと知られたくないということでしょう。それなのに話しかけたら……」


 自分の存在を少しでも隠そうとしている人物に、悪い意味で有名なジークフリートが謝りに行く。

 当然、周りのプレイヤーもイオンを認識してしまうだろう。

 折角の変装を、完全に無駄にする行為である。


「それはそうかもしれないが……なら、後を付いていって人の居なくなったところで……」


「完全にストーカー行為ね。弁解の余地無しだわ」


 今この状況なら、本人ではなく周りから通報される可能性すらあった。


「ぐっ……しかしならどうする。もうどこかへ行ってしまうぞっ」


「それはそうだけど……」


 ログイン直後、メニューを操作していたららしく足を止めていたが、たった今歩き始めてしまった。

 このままでは自分たちの前を通り過ぎてしまう。

 危険を承知で謝りに行こうとするジークフリートと、いざとなったらPKしてでも止めようと考えるマルグレーテ。

 二人の意識は、いつの間にかお互いにのみ向けられていた。


「あ」


 それが功を奏したのかもしれない。

 今の目的を思い出して視線を戻したそこには、目当ての人物が二人を見て小さく笑っている姿があった。

 結界石の広場という平和を象徴する場所で、軽く殺伐とした空気を出していた二人。

 いつの間にか、注目を集めてしまっていた。


 そんな過程はともかく、今の状況は好都合だった。向こうから意識を向けてくれたのであれば、話しかける理由として成立してくれる。

 それどころか、なんと本人から近づいてくるではないか。

 柔らかい表情のまま歩いてくるので不機嫌そうには見えないが、内心がどうかは全くわからない。

 ジークフリートとマルグレーテは慌てて姿勢を正し、少しでも早く謝罪の言葉を口にしようと身構えた。


 だが声をかけようとしたその寸前。

 声をかけるには少し遠い距離で、目当ての人物は足を止めてしまった。

 大きな声で話しかけるか、こちらから一歩近づくか。

 一瞬悩んだそのタイミングで、目当ての人物は人差し指を縦にして、自らの唇に当てた。

 何故そんなことをするのかはわからないが、そのジェスチャーの意味は非常に簡単なもの。沈黙の意を理解した二人は、口を開けなくなってしまった。

 喋らせてもらえない。やはり会いに来たのは失敗だったかと後悔しかけたが、聞こえてきた声はすぐにその不安を払拭してくれた。


「ごめんなさい。用があるのは承知していますが、今日は人の目もありますし、私も用事があるので、また後日でお願いできないでしょうか」


 特に怒っている様子は感じられない。しかも今日は無理だが、後日であれば取り合えってもらえるというではないか。


「もちろんここで一日中待ってる必要なんてありませんので。十分、わかりましたから」


 そのうえ、自分たちの未熟な謝意まで汲み取ってくれた。

 これではどちらが気を使っているかわからない。だがこんな事態に慣れていない二人にとって、非常にありがたいのもまた事実。


「月曜日以降なら大丈夫だと思いますので、お手数ですが……」


 今は土曜日の夜。

 プレイヤーの活動も活発な時間帯なのだから、確かに引き止めづらい時間帯。

 折角声をかけてもらえたのだからと欲張って、後日訪れるだろう機会をフイにするわけにはいかない。

 一瞬だけ顔を見合わせたジークフリートとマルグレーテは、ブンブンと音が聞こえそうな勢いで頷いた。


「ありがとうございます。それでは、また」


 二人の様子に小さく笑って、会釈しながら待ち人は去って行った。


「……これで良かったのか?」


「ひとまずは上々でしょう。……いえ、最良の結果だわ」


「まだ謝罪してないのにか?」


「周りを見てみなさい」


 言われて見渡すと、先ほど以上に注目されているのはもちろんだが、良くない視線は減っているではないか。


「少し遠くから声をかけてくれたから、周りにも声が届いたのよ。イオンさんの言葉をそのまま受け取れば、あまり怒ってないように聞こえたはず。叩いてた人も、本人が許すのならある程度減ってくれるはずよ」


 もちろんそんなことは関係なく叩く者も居るだろうが、減ってくれることも事実。

 今の暁の不死鳥にとっては、非常に嬉しいことだった。


「つまり……助けられたのか?」


「今のところはね。まだ気を抜けないわよ」


 そう。いくら良い方向に進んでいるとはいえ、今はまだ謝罪すらしていない。

 これからどうなるのか、まだ全くわからないのだ。


「結局のところ、どうしたらいいのだ?」


「ここで待ち続けないでいいというのが本人の意思だから、それは尊重しないとね。だから……通常運転かしら。目立った行動は控える必要があるけど」


 それくらいしか思いつかなかった。

 月曜日までログインを自粛させることは簡単だが、叩きたがりな連中に『イオンがジークフリートを追い出した』なんて言われてしまえば、もう完全に泥沼である。

 多少叩かれるのはいつものこと。いつも通り、ただしひっそりと活動したほうが、今後プラスになる可能性が高いとマルグレーテは考えた。


「そうと決まったら仲間と合流するわ。まずは報告よ」


「……ん? ああそうだな、報告は大事だなっ」


 立て続けにいろいろあって理解が追いついていないらしいジークフリートだが、放っておくのが一番だと知っているマルグレーテはあっさり放置。

 あとで叩き込む予定だけ立てて、転移するために結界石に近づいていった。


(全く、これじゃどっちが勇者なのやら……)


 迷惑をかけたのはこちらのはずなのに、こちらの境遇に気付いて手を差し伸べてくれるなど、一体どこの聖人だと言いたいマルグレーテ。

 まだどうなるかわからないが、気分だけは持ち直した。

 転移が終われば、いつも通り、勇者の仲間らしい自分になれるだろう。


「行くわよ、暁の勇者ジークフリート!」


「今行く! 麗しき薔薇のマルグレーテ!」


(……この呼び方、変えようかしら)


 ノリきれてない状態でその名を呼ばれると、地味にダメージが入ってしまうマルグレーテだった。




◇◇◇




「今日は偽勇者と一緒か……」


「勇者を騙るクズか。まとめて片付けたいところだな」


「その意見には全面的に賛成だが、さすがに場所が悪すぎる」


「いくら一瞬で片付けたとしても、結界石の広場には常に誰かの目があるからな……」


「まぁ偽勇者の事は放っておけ。しばらくすれば離れていくだろう。あの程度の男はいつでもやれる」


「待つことには同意だ。だがあの勇者、そこまで舐めないほうがいい」


「なんだと?」


「初期から魔力操作を修得したことから勇者を自称しているというのは知っているだろう? そのおかげか知らんが、あんなバカでもそれなりの実力はある」


「にわかには信じられんが……」


「ただのザコなら、魔力操作の件もデマだったとされているか……」


「そういうことだ。クランのメンバーもバランスよく揃っているらしく、総合的な戦闘力もあるらそうだからな。頭のおかしい中二患者と舐めてかかるのは危険だ」


「なるほどな。だが我らほどではないのも事実だろう? 油断さえしなければ、我らが負ける道理はない」


「その通りだ。今は時と場所が悪いだけだ」


「おい、そろそろ動きそうだぞ」


「どの辺で仕掛ける」


「場所はどこでも構わん。人の目さえ無ければな」


「焦らずとも機会はいずれ来る。どうせ最後にはクランの拠点に向かうだろう。あの辺は倉庫街に近いからな、人通りも少ない」


「わかった、機会を待とう……」




「……おい」


「なんだ」


「いつ機会は来るんだ」


「知るか」


「どうして今日に限ってさっさと拠点に向かわない……」


「俺が聞きたい」


「事前の調べでは、市場とバトルデイズに寄る程度のはずだが」


「俺もそう聞いている」


「なのに何故今日は街中を歩き回っている」


「だから知らんと言っている」


「ついでに小遣い稼ぎ程度のサブクエストもやっているようだが……」


「ゲームを始めたばかりの初心者がやるようなクエストばかり、今ので五つ目だぞ。そんなに金に困ってるのか?」


「そんなこと知るわけないだろうが」


「人目がなければ仕掛けるつもりだったが……」


「どういうわけか、必ず人の目があるな……」


「いっそ、そいつもまとめてやってしまうか?」


「普通のプレイヤーならそれでもいいが、万一NPCだった場合は面倒だぞ」


「NPCへの攻撃はシステムにより防がれる。ダメージを与えることはないが、意図的に攻撃した場合は自警団に指名手配されるからな……」


「くそっ。雰囲気重視だかなんだか知らんが、NPCくらい一目で判別できるシステムにするべきだろう」


「俺に言うな。というかお前、別のゲームは表示が多過ぎて雰囲気に浸れないと愚痴っていただろうが」


「その表示のオン、オフはプレイヤーの判断に任せるべきだろうと言いたいんだっ」


「そうするとオンのプレイヤーが有利になるからオフのプレイヤーには救済措置が必要だと言い出すんだろう。我が儘なプレイヤーの言いそうなことだ」


「なんだと貴様!」


「落ち着けお前ら。今何をすべきなのか忘れたのか」


「だがこいつが!」


「落ち着けと言っているだろ! お前らは一時の感情に身を任せてクランの未来を台無しにするつもりか!」


「ぐッ……!」


「……悪かった。つい苛立った」


「……こっちこそ売り言葉に買い言葉だった。さっきのは取り消す」


「落ち着いたところで、これからどうする」


「今日はやめておくべきだろうな。この調子ではいつ機会がやってくるかわからんし、機会が来たとして確実に成功すると言えるか? こんな頭に血が上った状態で」


「…………」


「少し頭を冷やすべきだな」


「……仕方ない。失敗だけは許されんからな」


「ああ、俺もそこには同意する」


「だが次は絶対に実行するぞ」


「わかっている。これ以上のさばらせておくつもりはない」


「次こそは、必ず……」



9/4誤字修正しました。


マルグレーテさんの容姿について描写できませんでしたが、

今のところは『ゴージャス系魔法使い』ということでお願いします。

『露出過多系軽戦士(武器はもちろんムチ)』でもよかったかなぁ……。


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