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13-1 母のいる日常。

大変、大変お待たせしました……。



時系列的には12-21の数時間後から始まります。

前回からそのまま続いてると考えてもらって大丈夫です。

(ただし12-22は21の一日後なので、忘れてもらったほうがいいかも)


今話は三人称とイオン視点とそれ以外の誰かを切り替えていきます。

特に表記しないのでご注意下さい。



「今日の訓練はここまでだ!」


「「「「「ありがとうございました!!」」」」」


 ルフォート自警団、訓練場。

 たった今まで訓練に励んでいたのは、本来その場に居るはずの自警団ではなかった。


「ルドルフ団長。どうっすか、これから一杯!」


「バッカおめえ、飲む前に食いに行くに決まってんだろ。良い肉抑えてあるんで焼き肉行きましょう焼き肉!!」


「いやいや新しくオープンした和風ダイニングバー行きましょうよ! あそこの冷酒マジウマでしたよマジで!」


「馬だけに?」


「ウマーッ! って何言わせんだよ!」


 訓練が終わるなり団長を誘っている彼らは、クラン・ホースメンに在籍するプレイヤーたち。

 訓練の最中は厳しい鬼団長だが、それ以外の時間は気の良い兄貴。メンバーから慕われているルドルフだった。


「わりぃが、今日は用事があってな。また今度誘ってくれ」


 そんな誘いをバッサリ断るルドルフ。

 今日のルドルフには、これから重大なミッションが控えている。ルドルフにとっても嬉しい誘いだが、それに乗るわけにはいかなかった。


「マジっすか。じゃあ次はお願いしますよ、団長居ないと盛り上がんないっすから!」


 すげなく断られて残念そうではあるものの、素直に引っ込む団員たち。

 彼らが気分を害しないのは、断りの言葉を口にした団長の、荒々しい中にもどこか決意が秘められた“(おとこ)”の面構えを見たからだろう。

 そんな顔をした団長にアレコレ言うなど、無粋以外の何物でもない。

 『訓練が終わったばっかなのに、これから勝負に行くんだな……団長、サスガっす!』と察した団員たちは、むしろ喜んで引き下がるのだった。


「ありがとよ。じゃあまたな」


「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」


 団員に背を向け、歩き出すルドルフ。

 その足に、迷いは感じられなかった。


 歩きながら、ルドルフは今日に至るまでのことを思い返していた。


 長かった。

 長い道のりだった。

 たった一つの素材を手に入れるために、予想以上の時間がかかってしまった。

 手に入れた素材を、秘密裏に加工してくれる職人を探すのも大変だった。

 おかげで結構吹っかけられたが、全ては今日、この日のため。

 全てに細心の注意を払わなければ、決して成功しないほど困難な戦い。

 いや、そこまで準備をしていても、勝てるかどうかは全くの未知数。

 それほどまでに、危険かつ無謀。


 だが、ルドルフは足を止めなかった。


 準備もした、あらゆる事態に備えたシミュレーションもした。

 それでもなお、迷いはある。

 もし今足を止めてしまえば、二度と動かせなくなるかもしれない。それほどの恐怖。


 それでいいのか?

 いいはずがない。


 何も出来ずに終わってしまうことこそ、男としてあってはならないのだ。

 事ここまで至ってしまえば、あとは実行するのみ。


 進め。立ち止まるな。

 例えその先に、破滅が待っていようとも。

 自らにそう言い聞かせ、ルドルフはただひたすらに歩き続けた。




 しかし、そんなときこそ運命の女神はいたずらするものである。




(もしやと思ったが、やはり居たか)


 歩みを進めるルドルフは、宿敵とも言える男の存在に気が付いた。


(巌ッ!)


 敵に視線を向けると同時、あちらもルドルフに気付いたらしい。

 向けられた視線には、隠そうともしない敵意が込められていた。

 そしてその視線だけで、互いに全てを理解した。


(ルドルフ……貴様も今日を選ぶとはな。これも宿命というヤツか)


(宿命? ハッ、そんなもんは今日で終わりだ。格の違いってモンを見せつけてやるぜ)


 足を止め、獰猛な笑みを浮かべるルドルフと巌。

 だが足を止めた時間は、ほんの一瞬。

 次の瞬間、お互い真正面から突っ込み――


ダダダッ!


 ――ぶつかり合う直前で方向転換し、目的地に向けて猛烈な勢いで走り始めた。


(足で付いて来れるかよクマヤローが! 大人しく剥製になってろ!)


(いつまでも図に乗るなよ駄馬が! 馬刺しになって食われていろ!)


 ルドルフと巌。足の速さだけを見れば、ルドルフに軍配が上がる。

 だが、


(くそ、離れねぇ!)


 巌は、ルドルフの横を離れなかった。

 本来の実力以上の力を発揮したのは、その意地故か。

 巌にも秘めたものがあることを、認めないわけにはいかないルドルフだった。


(それなら俺だって負けねぇ! 絶対に勝ってみせる!!)


 気合いを入れ直し、一層足に力を込めるルドルフ。

 その気配を感じ取り、さらなる力を振り絞ろうとする巌。

 勝負の行方が見えなくなった、そのとき。


((!!))


 唐突にその争いは終わることになった。

 いや、目的地に辿り着いたと言うべきだろう。


(イオン!)


(イオン殿!)


 目的地というか、一人のプレイヤーに会いたかっただけなのだが。


(おぉ……)


(いつ見ても可憐だ……)


 相変わらず、一方的かつ強すぎる感情を持っている二人。

 見えているのはまだ後ろ姿だが、二人が間違えるはずもなかった。


(綺麗な後ろ姿だ……。だが贅沢は言わん。用意した【翠玉の首飾り】を着けて欲しいなど、そんな大それたことは。ただ、受け取ってさえもらえれば……)


(持参した【そよ風の腕輪】、気に入ってもらえるだろうか……ッ、俺は何を贅沢なことを考えている! ただ受け取ってもらえればそれでいい! ただそれだけで十分なのだ……)


 彼らの用事。

 なんのことはない。ただイオンに贈り物をしたいだけなのだった。

 ちなみにどちらのアイテムも、素材は貴重だが効果は無いに等しい。ただのアクセサリーアイテムである。


 なんの脈絡もないように見える二人の行動だが、理由も無しに贈り物をしようとしているわけではない。

 彼らには、彼らなりの理由があってのことなのだ。


(あのリレーを終えてから、クランの実力はは一気に伸びた。それはあのとき、イオンに敗北というものを正しく突きつけられたからだ!)


(あれほど見事な勝利をして見せたにもかかわらず、一切奢りも見せずただ飛ぶことにのみ邁進する姿勢。その姿を見ているからこそ、我らはここまで強くなれたのだ!)


 公式イベントのリレーからこっち、ホースメンも黒帯もかなり早いペースで成長していた。

 そして二人によると、どうもそれはイオンのおかげということになっているようだった。


 確かに、イオンの存在がゲーム全体にいろんな意味で影響を与えたのは間違いないだろう。

 しかしクランのメンバー全員に良い影響があったというわけではない。実のところ、プラスに働いたのはほぼルドルフと巌の二人だけである。

 イオン効果で実力が伸びたわけではない。


 とはいえ、やたらと気合いの入っているリーダーに感化されて、メンバー全員が一層気合いを入れたのは間違いなく事実。

 そういう意味では、全くの無関係とは言えないかもしれない。


 とにかく、ここ最近の好調は二人にとってはイオンのおかげ。

 近況報告も兼ねてお礼の品を持参した。というわけである。


 見る者が見たら、想いが募りすぎて明後日の方向に大暴走。イロイロこじらせているだけにしか見えないだろうが。


 そういう訳なのだから、当初振りまいていた重すぎる空気は忘れるべきだろう。

 完全武装(最高の贈り物を用意)しているとは言え、二人にとっては敵地のど真ん中に飛び込んで行くも同然。

 現実では女性に縁がない者同士。人生で一、二を争うほど悩み抜いた末の決断。そのためにあの無駄に重い空気が漂っていたのだ。

 この場は、そんな彼らの行く末を、暖かく見守ってあげるべきなのである。


((!!!!))


 そんな二人に、一つの衝撃が走った。


((メガネ……だとっ!?))


 後ろ姿しか見えていなかったその人物が、ふと顔を横に向けた瞬間、それが目に入った。

 今まではかけていなかったはずの、メガネ。

 何でもない、ただの視力矯正器具。不要な者にとってはただ邪魔なだけのはずのそれ。


(悪くない……いやむしろ……)


(理知的な姿も良い……)


 そんなメガネをかけただけで、どうしてああも魅力的に見えてしまうのか。

 本人たちにはただのイオン補正がかかっているだけなのだが、そんな野暮な突っ込みをしてはいけない。

 彼らに、眼鏡属性が芽生えた瞬間だった。


(そうか、変装か)


(装備も初期装備に変えているようだから、間違いないな)


 後ろ姿でイオンを判別した二人だが、実はその服装には疑問があった。

 何故か初期装備。いつも肩に乗っているはずの契約精霊の姿も無かった。

 だがメガネをかけている姿を見て納得した。

 あの姿は、少しでも身を隠すための変装だ、と。

 装備を変えただけで変装? と思うかもしれないが、特徴的な装備をトレードマークにしているプレイヤーはそれなりに存在する。そしてその装備をしていない時はオフタイム、という意味にするプレイヤーも存在した。

 イオンは普段から特徴的な装備をしているわけではないが、装備を全て変更し、メガネまでかけていれば察することができるというものだ。


 公式イベント以降、何かと話題になるイオン。

 しかも僅か数時間前、北の街ホーレックに関する情報を公開したばかり。

 二人とも、訓練の休憩中に団員が騒ぎ始めて何事かと思ったのだったが、情報の内容と、その情報源がイオンだと知り即座に納得した。

 と同時に、ある種の使命感に襲われたのだ。


((こんな大きな話題を作ってしまっては、イオンにちょっかい出すバカが出るかもしれん!!))


 そう考えた二人は、訓練が終わるなりイオンと会うためにエスの拠点に直行。

 近況報告ついでプレゼントを贈り、それと同時にさりげなく周囲の状況を聞き出し、あわよくば何か力になる。


((イオンのことは、俺が必ず守ってみせる!))


 以前から何か礼をしたいと考え、プレゼントを用意していたルドルフと巌。それが出来上がったタイミングでのこの騒ぎなのだから、これはきっと運命に他ならない。

 二人揃って、そんな行き過ぎた事を考えていたのだった。


 だがそもそも、まともなプレイヤーならイオンに手を出そうとは考えない。

 考えたとしても、即座に無謀だという結論に至るだろう。


 必死すぎる二人は完全に忘れているが、イオンのそばには二人以上に頼もしいエスのメンバーが揃っているのだ。

 そこら辺の有象無象は近づく前に吹っ飛ばされるだろう。


 それ以外にも、一般プレイヤーの間ではイオンを狙う不埒者は世にも恐ろしい最期が待っていると考えられている。

 例えば、見えない位置からロロに撃たれ続ける(PKはしない主義のロロなので実際には撃たない)とか、バトルデイズから職人に声がかかって何も買えなくなる(売り上げが落ちるのでやらない)とか、イオンを気にかけているメグルがキレてよろずやの総力を挙げて社会的に抹殺する(これはガチで実行される)とか、そういった最期が。

 そのため、普通の者はイオンのことを知れば知るほど、手を出すのを躊躇うのだった。


 とにかく、またしても話題になってしまったイオン。

 街を歩き回るのに変装するというのは、十分に考えられることだった。


(しかしどうするか……変装してるんじゃ話しかけづらいが……ん?)


(あいつ、まさかイオンに声をかけるつもりじゃないだろうな……)


(いい度胸してんじゃねぇか……)


 周囲に人の姿が無い、細い路地。

 イオンがそちらへ入ってすぐ、二人の男がイオンの正面からやって来た。

 変装などともっともらしく言っても、所詮は服を変えてメガネをかけただけ。よく見ればすぐに判別できるのだから仕方がない。

 空気の読める者は『バレバレだけど、あれは今は声をかけられたくないっていう意思表示だな』と考えるかもしれないが、そもそもそれに気付かない者は多いだろうし、敢えて無視する者だって居る。

 となれば当然、話しかけようとする者も居るわけだが……。


((ビクッ!))


 イオンの正面から歩いてきた二人の男は、何故かピタリと足を止めてしまった。

 ついでに、何故か足が小刻みに震えているようでもあった。


(それ以上近づいてみやがれ……地獄を見たいならなッ)


(ここしばらく対人戦からは遠ざかっていたからな……力加減を忘れてしまったが、まぁ仕方なかろう)


 関節をバキバキ鳴らしながらガンを飛ばす巌と、ターゲットを睨みつけながらいつでも走り出せるように腰を落とすルドルフ。

 ハッキリ言って危険人物にしか見えない。


 ルドルフと巌が居るのは、イオンの後方。

 イオンの正面方向から歩いてきた男二人は、イヤでもルドルフと巌を見てしまうことになる。

 一見、時代遅れのヤンキーにしか見えないルドルフと、本物の熊と間違えそうになる巌。

 何も悪いことをしていなくても、そんなのに全力で睨まれれば誰でもビビる。

 男二人はいかにも脇役らしく軽く頭を下げながら『お呼びでない……ですよね! こりゃまた失礼しましたー!』と言わんばかりに走り去って行った。


 去って行った二人だが、もちろんイオンにちょっかいを出そうとしていたわけではない。

 先ほど行われた鳥族へのホーレックについての報告会兼試食会。そこに出店していたとあるお店を開いているプレイヤーだったのだが、予想以上に良い反応を得られたらしく、どうやら大口の注文も入ることになりそうだった。

 メグルから試食会を開く切っ掛けにイオンが関わったと聞いて、一言お礼を言いに来ただけだったりする。


 そんな可哀相な二人が突然走り去って行くのを見れば、何かあったのかと気になるのが当然の流れ。

 ルドルフと巌の想い人は自然と振り返り、その姿を正面から見ることになった


((しまった!!))


 想い人に突然見られてしまえば慌てないはずがないのがこの二人。

 表面上は変わらないが、中身は思いっきりパニクっていた。


(くそっ、巌とザコ二人のせいでシミュレーションがパァになったじゃねぇか! どうすりゃいい!)


(いかんっ、この場合の手順はどうすべきだった……思い出せ、思い出すのだ○○(本名を口走ったた)○○(め伏せ字にさせて)○○(いただきました。)!!)


 どうすればも何も、ただ話しかければいいだけなのだが、それができないからこんな二人が出来上がったのである。

 【家族以外の女性との会話スキル:未取得】の二人にとって、突発事態とは絶対に避けなければいけないものだった。

 だからこそあらゆる場面を想定したシミュレーションを幾度となく行ってきたのだ。アドリブで動けるのなら、とっくに彼女……は無理でも、女性の友人の一人くらいできている。

 見た目は肉食系だが、中身は草食系で生きてきた二人。それどころかペンペン草も生えない荒野系を貫いてきたのだ。

 二人が通信ラグでもあったかのようにフリーズしてしまったのは、本当に仕方のないことだったとして見逃して頂きたい。


 一方そんな二人とは違い、ある程度の社交性を身につけているのが目の前の人物である。


「こんにちは」


 強面の二人に対して、小さく微笑みながら、まるで親しい友人を相手にするかのように柔らかい挨拶をしてくれるではないか。

 それだけで二人は、あっさりと舞い上がってしまった。


(ヤベえ! ヤベええええええええ!!)


(俺はッ、俺はッ! 俺はああああああ!!)


 フリーズした次は熱暴走。二人にはもうどうしようもなかった。

 挨拶をした当人はといえば、そんな二人を微笑んだまま見ているだけ。

 そのあまりの落差にどうしようもなくなった二人が大暴走してしまうのは、当然の流れなのだ。


「「受け取ってくれ!!」」


 前振りも何も無し。

 突然腰を九十度折り、ただ贈り物を差し出した。


「…………」


 そして訪れる、沈黙の時間。

 当たり前だ。

 男二人に挨拶したと思ったら、なんの前振りもなく頭を下げながらアイテムを差し出された。

 突然そんな事されても意味がわらない。


 仮に、この状況を理解できたとしよう。

 数回顔を会わせただけの男性から、高価な装飾品を贈られた。

 しかも二人同時。なんの言葉もなく。全くの突然に。

 普通に考えてドン引きものである。そんな状況にノータイムで対応できるほうがおかしい。


 だから、この沈黙は絶対に必要な時間なのだ。

 しかしながら、ルドルフと巌にとってもそうかと言えば、そんなはずもなく……。


(うおおおおおお何やってんだ俺のアホ屑ゴミやろおおおおおおおおおお!!)


(死んで詫びてしまうべきだこんな存在価値の欠片もないゴミカスな自分などおおおおおおおお!!)


 その場に漂う静寂が一層彼らを慌てさせ、可哀相なほどテンパっていた。

 当初想定していた、『男らしさの中に僅かばかりの優しさを光らせるスマートな渡し方』に失敗した。

 それどころか、妥協案として準備していた『危なそうに見えるが実は不器用なだけのお兄さん』的な渡し方にも失敗した。

 更に更に最悪のパターンとして用意していた、『たまたま手に入れたけど自分には使い道のないアイテムをさりげなく渡しに来た仲の良い知り合い』的な渡し方にも失敗した。


 挨拶もせず、小洒落たトークもなく、出会い頭に全くの唐突にアイテムだけ差し出す。

 ゲーム機の電源を入れてすぐ、タイトル画面でコマンド(裏技)を入力し、『THE END』の文字を表示させて『クリアしたぜ!』と自慢げに語るガキンチョ並の行いだった。


((終わった……))


 下げたままのその顔には、“絶望”の二文字がエンドマークよろしくでかでかと書かれていた。

 そして、二人にとっての処刑が始まった。


「あの、そのままで聞いてくださいね」


 聞こえてきた声は、まさに死刑宣告。

 しかしそんな終わらせ方をしないのが、二人が勝手に女神と呼び一方的に崇拝するそのお方。


「ひとまず、今日のことは無かったことにしましょう」


 ゲームでエンドマークを出した後にすることといえば、電源オフかリセット。ラスボス前のデータをロードしてやりこみ要素を潰しにかかるのもいいし、ニューゲームを始めるのもいい。

 つまり、エンドマークを無かったことにして、仕切り直せばいいのである。


「私は何も見ませんでしたし、何も聞きませんでした。なので次会ったとき……できれば月曜日以降ですね、にもう一度お願いします」


 その言葉を聞いたルドルフと巌は、頭を下げたまま打ち震えた。


((こんな俺に、もう一度チャンスをくれるとは……っ!))


 ルドルフと巌の様子から、二人が何か失敗してしまったことを察したらしい。

 何も言わず、何も聞かず、ただ無かったことにしてくれた。

 そのうえ、やり直しの機会まで。


「もしそれで良かったら、そのままで居てください。そうでない場合は、顔を上げてください」


 当然二人とも顔を上げなかった。

 いや、感動のあまり身動きがとれなかった。


「……ありがとうございます。それでは今日は何も無かったということで、挨拶も無しにして失礼しますね」


 会ってないのだから、挨拶も何も無い。

 ルドルフと巌は、ただ去って行く足音だけを聞いた。


 後に残ったのは、頭を下げたまま感動に打ち震える、残念な男の姿だけだった。




◇◇◇




「おい、どうする」


「……今日のところは諦めるしかないな」


「本気か? 俺は早めに叩くべきだと思うが」


「そうだ、もてはやされてはいるが、相手は所詮初心者に毛が生えた程度。一気にやってしまうべきだ!」


「それはそうかもしれんが、だがあの二人と一緒では無理だ」


「二流クランのリーダーごときが、俺たちに敵うとでも言うのか?」


「ただのリーダーならそうだろうが、あの二人の組み合わせではな……」


「何か知っているのか?」


「ああ。あの二人、普段は仲が悪いように見えるが、いざ共闘するとなったら恐ろしく相性が良いらしい。黒帯とホースメンが合同でパリカルスの洞窟レイドクエストに挑んだことがあるそうだが、二人だけでボスを倒しきったそうだ」


「あの掃討クエストか? まさかっ、ただのデマだろう」


「信じられるか」


「残念だが、俺はこの目で見ているんだ。あの日はクエストの関係で、結界石の広場から離れられなくてな。連中がクエストに行く姿も、二人以外が全滅して死に戻りしてきたとこも、二人がボスから入手できるレア素材を持って帰ってきたところもこの目で見た。少し探せば俺と同じこと言うやつは何人も居る」


「二人以外が死ぬ前に自爆特攻して削ってただけじゃないのか?」


「戻ってきたやつの会話を聞いていた限りでは、そもそも二人がボスを押さえてその他がザコを担当していたらしい。ザコを倒しきる前に死に戻りしたんだと」


「つまり自爆特攻する前だったってことか……」


「あそこのボスはそこまで強いわけではないが、二人で倒すとなると相当なレベルか戦闘技術が必要だ。少なくとも俺には無理だ。任せられる相方も居ないしな」


「それが全てが真実ではなくても、こないだの公式イベントはかなりの強さだったな」


「マンティコアの突撃をノーダメージで殴り飛ばせる前衛と、剣と弓で走り回る遊撃。一発で仕留めきれなければ確実に長引くし、時間をかけるとバレる可能性もある」


「くそっ……」


「失敗はともかく、俺たちがやられるのはマズいか……」


「焦る気持ちはわかるが、闇雲に突撃するわけにもいかんだろう」


「……わかった」


「お前らの気持ちもわかる。だから次を成功させるぞ」


「当然だ」


「必ず報いを受けさせてやる……」





9/1誤字修正しました。


シリアスから始めると途中で壊したくなる病にかかっている気がしないでもない。

ちなみにこの時点は金曜夜~深夜という時間帯になります。



Q:タイトル画面からエンディングに行けるゲームなんて、本当にあるの?

A:ワギャ○ランド。パッと思い出すのはそれくらいだけど他にもあったはず。なんとなくギャーよりもガーが好きでした。


Q:で、やけに更新遅かったね?

A:後半が難産だったので。今話は賛否わかれそうというか否が多そうな予感……。


Q:ホントはポケットなアレにGOしてたんだろ?

A:運転中、ダメ絶対。


Q:いや歩いてやれよ?

A:歩きスマホ、ダメ絶対。


Q:で、本当のところは?

A:赤緑が出た頃、持ってたGB(初代)が壊れて動かなかったのでプレイできずじまい。

中二なアレをこじらせつつあったので『流行り物に飛びつくとかカッコワリー』と無駄な意地を張り、そのまま手を出せず今に至る。


Q:ざまぁ

A:く、悔しくなんて(略



今話の投稿についてですが、連日投稿になる日もあれば二、三日空いたりすることもあるかもです。

日が空いたらごめんなさい……。


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