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2-9 VRゲーム、始めます。【幕間2】


一応三人称。

ゲーム内でイオンとマリーシャが分かれた直後まで時間が戻ってます。

※マリーシャ


「しまったなぁ……まさかあんなにショック受けるなんて思わなかった……」


 イオンと別れ姿が見えなくなってすぐ、マリーシャは盛大な溜息を吐いた。


「そんなにか? あんま変わってないように見えたけど」


「あんたには分かんないよー……」


 ともすれば馬鹿にするような言葉だが、実際イオンとマリーシャのやり取りを見てお互いが分かり合ってるのを知っているリードは何も言えなくなる。


「あぁこんなところに居た」


 マリーシャとリードを見つけて駆け寄ってくる二人組。

 狐族の女性と猪族の男性。

 女性の方がマリーシャ達の反応が弱いことを気にしつつ話しかける。


「ちょっと連絡くらいしなさいよ。ずっと待ってたのに」


「悪いシーラ、ちょっと色々あってな」


「色々って何よ。それにあの子はどこ? 一緒じゃないの?」


 それを聞いた途端、マリーシャはビクッと体を震わせる。

 そんなマリーシャを見たリードはやっちまったと言わんばかりに顔を手で覆う。


「え、ちょ。……一体なにがあったの?」


 そのままぷるぷる震えるマリーシャに、ただ事ではないと感じた狐族の女性、シーラが慎重に問い掛ける。


「……イオンが……」


「イオン? 新さんのキャラネーム?」


 後半の言葉はリードの方へ投げかける。

 頷くだけで返答する辺り、リードは自分を脇役だと理解していた。


「それでイオンがどうしたの? 名前を知ってるという事はキャラ作成までは終わったんでしょ?」


「……キャラ作成は出来てた……」


「そこまでは問題ないのね。彼女のことだからこっちの方が可愛くなったんじゃない?」


「……天使だった……」


「そこまで変わったの。やっぱり元がいい子は違うわね。それで? 今は初心者の館に入ってるの?」


 親友を嫁と公言するほど溺愛しているマリーシャのセリフだが、あながち冗談でもないと分かっているシーラは気にせず話を聞き出す。


「……天使だった……」


 しかし帰ってきた言葉は先ほどと同じ言葉。

 頭の回転の速い彼女は、このセリフがキーワードだとすぐに理解した。


「まさか悪質なナンパにでもあってたの?」


 ゲーム内でのナンパ行為は一応ゲームの規約としても禁止されている。

 だが細かく言い出すとパーティメンバーの勧誘行為さえ該当してしまうため、行きすぎたもの以外は黙認されているのが現状だ。

しかも問題だからと言って無味乾燥なシステムだけの勧誘に変更してしまうと、一言で言って面白くないしゲームの世界観も損なってしまう。

 もちろん行き過ぎた行為はハラスメント警告を運営に送ることで対応してもらえるが、ある程度は許容されている。

 ほとんど暗黙のルールとしてナンパ行為が禁止されているにすぎないのだ。

 そしてそういった現状である以上、ナンパ行為に嫌気が差しやめていくプレイヤーも当然居る。

 特に容姿変更の制限が大きい『Beast Life Fantasy Online』ではよく聞く話でもあった。


 本人は気付いてないが碧は間違いなく美少女と呼ばれるカテゴリーに入る部類だった。

 現実世界では容姿に無頓着なこともあり美少女枠からは外れていたが、このBLFOでは容姿に対してシステムがある程度の補正をかけてしまう。

 当然システムはプラス方向へ(必ずしも全員がそうなるとは限らないが)補正をかける。

 碧からイオンとなり、無頓着から生じていたマイナス分が消されてしまえばどうなるか。

 真っ先にその線を疑うのは当然のことだった。


「……天使だった……」


 しかし帰ってきた返答は三回目になる言葉。

 ナンパじゃなかったのはいいことだが、では何が問題なのかシーラには分からなくなってしまった。

 始めたばかりで問題が発生するとすれば、作成したキャラか街の住人関係の問題しかない。

 天使と言うほどであればキャラには問題が無く、住人関係での問題となると、始めたばかりのプレイヤーに対してはナンパぐらいしか思いつかないのだ。

 思考を巡らせていると、先ほどから一言も発していなかった猪族の男性、ウェイストがシーラの方を軽く叩いた。

 何かと思って振り返ると、ウェイストが声を出さずに口だけを動かしていた。

 口の動きから察せられる言葉は……。


『と・り・ぞ・く』


 なるほど、とシーラは思った。

 鳥族、その一言で考えが繋がる。

 天使と言っていたのは容姿だけでなく種族も含めてのことだったのだ。

 鳥族のあの翼を広げた姿は天使のように見えるてもおかしくない。

 それとイオンの容姿をかけて天使と言うのは、シーラにはよく理解できた。


 そして鳥族ということが問題となったこともシーラは理解した。

 よく言えばオールマイティ。

 はっきり言えば悪い意味での器用貧乏。

 鳥族は外れ種族とされていたからだ。

 その上目を引きやすいその姿もマイナス要素として認識されていた。

 他のほとんどの種族が耳と尻尾が精々なのに鳥族は大きく目立つ翼がある。

 その外見から、目立ちたがり御用達、コスプレ用、イケメンと美少女しか使ってはいけない種族等と揶揄される。

 極めつけにその目立つ翼は全く役に立たない。

 外れどころか地雷とさえ言われる種族なのだ。

 せっかく親友を口説き落とし一緒に遊べると考えていたところにそれ見てしまうと、確かに落ち込むだろう。


 だがそれだけでここまで落ち込むだろうか?

 シーラの知るマリーシャは、イオンがミスしたり間違えた程度でここまで落ち込むことは無いはずだ。

 まして外れ種族を選んだイオンを怒ったりもしないだろう。

 むしろそのまま褒め称えて可愛がるはず。

 ということはマリーシャではなく、イオンの側に何かあったという事だ。

 恐らくイオンにとって落ち込むようなことがあり、それに気付いたマリーシャが自分のせいだと自己嫌悪に陥っているのではないか。

 イオンにとって落ち込むようなこと。

 マリーシャとリードがアドバイスしていれば鳥族を選ぶことは無いだろう。

 であれば鳥族を選んだのはイオンの意志。

 イオンが鳥族を選んだ理由は何か。

 ゲームのことを何も知らない人間が鳥族に感じるメリット。

 それはやはり翼だろう。

 そして翼があることでできることといえば――。


「大体は分かった。でもそれはあなたが気にしてもどうしようもない事でしょう」


「……それはそうだけど」


「このゲームを勧める時に種族の説明をしなかったってことはイオンが断ったんじゃないの? それならイオンは自分で決めたかったのか、その時点で決めてたことがあったからでしょう。あの頑固な彼女に説明しなかったのはあなたのせいじゃないわよ」


「……でも」


「いい加減鬱陶しい!」


 パンッといい音を立て、マリーシャの頬は両側からシーラの手で挟まれていた。


「いひゃい」


「その方がいいでしょ。そんな顔で明日イオンと会うくらいなら腫れ上がってた方がマシよ」


 そう言いながら今度は左右に引っ張る


「やーふぇーへー(やーめーてー)」


「いいけど今やめたら明日現実でもするからね」


「おーふぉーふぁー(横暴だー)」


「嫌ならちょっとは切り替えなさいっ」


「いたっ」


 最後に勢いをつけ思い切りに引っ張ってから放す。


「シーラひどいよー」


「酷くて結構。明日二人の間で微妙な空気にさらされる身にもなってみなさい」


 うーと恨みがましい目で見てくるが、その様子に少しはマシになったと安堵するシーラ。


「リード、ウェイスト、こういう時にすっきりするクエストとかないの?」


「そんな都合のいいもんあるかよ」


「あるよ」


「あんのかよ!」


「オレスト。無双。無条件」


 ようやく口を開いたウェイストだが言葉数は非常に少なく、要点しか口にしてない。

 だが付き合いの長いメンバーはそれだけで理解できる。


「オレストの街で魔物退治のクエストね、無双できて挑戦に制限なしと。よかったわねマリーシャ、大暴れできるわよ」


「人を暴れん坊みたいに言うなー」


「違うの?」


「違うのかよ?」


「え?」


「お前ら全員ぶっ飛ばすぞー!」


 三人に疑われ怒り出すマリーシャだが、そのおかげですこしだけ元気が出たことにも気づいている。


「もーっ、やるならさっさと行くよ!」


 先頭に立って歩き出すマリーシャ。

 手のかかるやつだと思いつつ付いていくが、まだ空元気から抜け出せてない辺り、本当に大変なのは明日だろうなぁとも思う三人だった。




本当は本編の中に組み込もうとしましたが流れを切りたくなかったので外しました。

次から話が進みます。

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