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12-18 嗚呼すれ違い。


 全員で戦うようになってから、しばらく。

 途中、周囲の魔物も集まってきていつの間にか数が増えていましたが、同じ魔物ばかりだったので戦いそのものは至って順調に進行。

 気が付けば、空の魔物は居なくなっていました。

 地上にも居ないようですが……キイさんから『まだ魔物居る?』と合図が来ました。

 居ませんと合図したら武器を仕舞い始めたので、地上も大丈夫ですね。


 それにしてもたくさん倒しました。

 ワイバーン、マンティコア、マウンテンコンドル。

 地上からはグリーンリザード、ハードエルク、パワーベア。

 多数の魔物に囲まれて、なかなか楽しい時間でした。


 そんな事を考えながら着地したら……。


「っ、とと」


 少し足がもつれました。

 気が付けば世界の早さはいつも通りなので、まだ少し感覚がずれてるんでしょうか?

 二、三度、手をギュッと握って感覚を確かめます。

 ……特に問題ないようですが、どうも疲れてるみたいです。

 そこまで長時間戦ってたわけではないと思うんですけど……。


 ――その代わり、いつもの何倍も集中してましたわ。


 戦うことしか考えてませんでしたね。本当にそれだけでした。


 ――私とのやり取りも、完全に無意識でしたの。


 そういえばぐりちゃんとやり取りしたような記憶はあるんですけど、言葉では覚えてないです。

 言葉でやり取りせず、自然にブーストかけてました。


 ――初めて力をお貸した際にも言いましたが、言葉でやり取りする必要はありませんわ。むしろ、これが本来の戦い方ですの。


 自分とぐりちゃんが一つになったような感じですね。

 いえ、元々私の一部みたいなものなんでしたっけ。


 ――そうですの。だからこれは良いことですの。


 デメリットとか、悪いことはないんですよね?


 ――あったら止めてるですの。


 だったら、次はいつでも出来るように頑張りましょうか。

 ぐりちゃんとのやり取りは楽しいですけど、危険な状況でまで楽しむものではありません。

 そのうちそういう方向でも強くなれるようにも頑張りましょう。

 あくまで、そのうち、ですけど。


「どうしたのイオン。何か調子悪い?」


 手を何度もギュッと握ってたせいですね。キイさんが心配そうな顔になってました。


「いえ、むしろ良すぎたので、少し疲れただけです」


 だけど疲れたことは正直に言います。魔物は居ませんので、もう戦わなくていいですし。


「正直でよろしい。でもあれだけやれば疲れるよね。今日はいつも以上にぶっ飛んでたし」


 お疲れーと言いながら飲み物くれましたけど……。

 あの……ぶっ飛んで……ましたか……?


「キレッキレだったよな、ワイバーンが何もできないままボコボコにされてたし」


 キレッキレでボコボコって……。


「ええ感じに無双しとったなー。イオンのハエ叩きのおかげでウチは吹っ飛ばすだけやったからな。気分ええわー」


「主様、とっても楽しそうでしたっ」


 ハエ叩き……。


「いつもはキイさんとアヤメさんが撃ち落とすまでが面倒でしたからね。山脈周辺は効率という面では良くない狩り場のはずだったんですが、イオンさんとロロさんのおかげで段違いの効率でした」


「私は落としただけ。トドメのほとんどはイオン」


「ザコを蹴散らすというか~蹂躙という言葉が似合いましたね~」


 蹂躙……。


 あの、何故かものすごい言われようなんですけど……。


 ――……まさか、どんな戦い方をしてたか覚えてないんですの?


 えっと……正直に言うと、よく覚えてないですね。

 とにかく倒すことだけに集中してたので、どんなことしたとか、どんなことを考えてたとか、あまり覚えてません。


 ――……お姉様。


 でも一匹ずつに時間をかけてなかったはずなので、そんな言われるほどのことはしてなかったと思うんですけど……。


 ――……お姉様、確認したいのですけど。


 なんですか?


 ――マンティコアを倒したことは覚えてますの?


 たくさん倒しましたね。


 ――以前リレーでも戦ったはずですが、どちらが強かったと思いますの?


 え、リレーのほうじゃないですか?


 ――何故そう思うんですの?


 だって今日のマンティコアは大した攻撃してきませんでしたし。


 ――そんなわけありませんの。魔法の威力は同じくらいでしたの。


 そうなんですか?


 ――魔法を使わせる前にボコボコにしてただけですの。発動の兆候が見えた瞬間にタコ殴りでしたの。ついでに翼だけ切り落とされてただのネコにされた哀れなマンティコアを大量生産してましたの。


 ぐ、ぐりちゃん?


 ――ワイバーンが口を開ければ槍を強制的にご馳走してたですの。焼夷槍なんてこんがりワイバーン焼きの尾頭付きでしたの。冷凍したあと切り刻んでワイバーン解体ショーでしたの。炸裂槍なんて汚い花火でしたの。


 え、あの、


 ――マウンテンコンドルなんてウィンドアローで穴だらけですの。羽毛が集まらないですの。ハードエルクは角ばかり折られてたですの。角をそんなに集めて壁にでも飾る気ですの? グリーンリザードはどれも真っ二つですの。せめてパワーベアのように首だけ落とせば大きな皮が取れたですの。熊の皮は絨毯にするですのそうするですの。


 ……なんか……随分と大暴れしてたような表現なんですけど……。


 ――周りから見た光景そのまま言ってるだけですの。そう聞こえたのなら実際にに大暴れしてただけですの。


 ……そんなこと……してました?


 ――し・て・ま・し・た・わ!!


 ……その……。


 ――確かに一匹ずつに時間をかけなかったかもしれませんわ。でもそれはお姉様が以前より速く、効率的に戦ったからですの。決して相手が弱かったからではありませんの!


 そう……なんですね……。


 ――戦いに集中して効率的に、確実に魔物を倒す実に見事な戦いぶりだったかもしれませんわ。自分の行動を理解いたうえでなら、どんなことやっても辛うじて許せますの。でも覚えてないなんて暴走同然ではありませんの! この皆さんだったから平気ですけど、傍から見れば戦いが楽しすぎて夢中になってるただの危ない人ですのーっ!!


 全く否定できません……それは皆さんからもアレコレ言われるのも当然です……。


 ――戦いに勝つことはいいことですの。冷静に対処してた辺り、完全に我を失っていたわけでもないですの。でも自分を制御できていなかったということはわかって欲しいですの!


 ぐりちゃんの指摘に返事しつつも、つい項垂れてしまいました。

 本当にその通りです……戦いに対しては正しく動けていたのかもしれませんけど、いつだってそれでいいとは限りません。


 さっきの戦いだって、エレノアさん一人でトンネルに行ってもらいました。

 一応、危険がないように気を配っていたつもりではありましたが、本当に安全を重視するなら最後まで私も付いていくべきでした。

 キイさんが間に合うということはわかっていても、想定外の事態なんていつ起こるかわからないんですから……。

 本当に、深く反省しなければいけません……。


 ――……わかってもらえたのならいいですの。反省は終わったら褒める時間ですの。


 打ちひしがれていると、ぐりちゃんが肩から下りて私の正面に来て、


 ――何はともあれ、エレノアさんが無事で良かったですの。本当にお疲れ様ですの。


 笑顔で、労ってくれました。


 ――次は戦いに集中しながら周りの目も気にするですの。何時如何なる時も己を魅せてこそ立派な淑女ですのっ。


 そのまま指を立てて可愛らしく指導するぐりちゃん。

 こないだ小さい子に囲まれたときもこんな感じでしたっけ。


 ……前向きに善処しますね。


 私も小さい子扱いされたわけですが、でもイヤではなかったので、小さく笑いながら返事をしました。


 ――その返事はダメな返事ですの……でも今日は許すですの。


 ぐりちゃんも笑ってくれて、私の肩へ。

 やっぱりそこに居てくれないと落ち着きません。


「なんか嬉しそうだね。レベルでも上がった?」


 二人で笑い合ってたので、いいことでもあったと思われたみたいです。


「いえ、さっきの戦いについて、ぐりちゃんと少し反省してただけです」


 レベルも上がってますけども、そっちはあまり気にしてませんし。


「反省? 暴走してたこと?」


 やっぱりそう見えてたんですね……。


「もしかして、結構怒ってたから暴走しちゃった?」


 ……そこまで考えてませんでしたけど、言われてみると納得です。

 今気付いたように頷きました。


 何故、魔物の中に突っ込んでいったのか。

 エレノアさんの背後に迫ってた、嘲笑するようなマンティコアの顔。

 それを見た瞬間、カチンとしたというかプツンとしたというか。

 でも頭の中は不思議と冷え切って、冷静に対処して。

 頭は冷静だったつもりですけど言葉で聞いてすんなり納得する辺り、結構怒ってたかもしれないです……。


「そっかー、怒らせると静かに怖いタイプだったかー(普段のんびりしてる子ほど怒ると怖いって、本当だったのね……)」


「まぁ、おかげで助けられたんだから、いいんじゃないか? (前にお菓子で怒られたが、あんなん可愛いもんだな……)」


 キイさんもプルストさんも、、乾いた笑い方です……。

 以前に戦闘狂とか言われましたけど、本当に否定できない気がしてきました……。


「……もしかして私、結構暴力的だったりとか……ふぁっ!?」


 独り言のように言葉にしたら、いきなりキイさんが頬を引っ張り始めました。


「いやいや、そこまで言うほどのもんじゃないから。なーに変なこと言い出すかなこの子はー」


 ぐにぐに引っ張られて……結構痛いです……。


「ていうか真面目すぎ。深く考えすぎてもいいことないよー?」


「そうですよ~。私の武器がメイスの理由なんて~鈍器で殴るのが楽しいからですよ~」


 私も危険人物ですね~なんて言いながら、エリスさんが反対を引っ張り始めました……こっちも痛いです……。


「ウチを放火爆弾魔言うんはこの口かーこの口なんかー」


 二人が離してくれたと思ったらアヤメさんに変わりました……もっと痛いです……。


「……私、トリガーハッピー?」


 ロロさんは肩を揉んできましたけど、力が強くて痛いです……。


「俺は切り裂き魔兼、刃物フェチか」


「防御担当の私はマゾ気質になりますね」


 男性陣からは何も無くて助かりました……。


「イオンが暴力大好き人間って事なら、戦闘が楽しいって言う人は全員暴力的って事になるよ? でも現実じゃそんな事ないでしょ」


 ……ひとまず自分のことは置いといて、確かにそうです。VRゲームで戦う人が、現実でも同じように戦うわけではありません。

 マリーシャだって現実では暴れたりしませんし、シーラさんたちだってそうです。


「それに今回は人を助けるって目的もあったでしょ。目的をきちんと達成したうえでなら、少しくらい過程を楽しんでもいいんじゃない? 楽しみすぎて過程と目的が入れ替わったらダメだけどさ」


 それは……そうかもしれないです。一から十まで完璧を求められるのであればともかく、途中が自由なら、楽しむくらいは構わないと思います。

 モチベーションも維持できますし、良い結果に繋がるはずです。むしろガチガチに完璧を求められると、絶対に息が詰まります。


「だから、『このままだったらヤバイかも?』って自分で気付いたイオンは問題ないの。難しく考えずに、もうちょっとライトに考えなさいって。わかったら返事」


ふぁふぁひふぁひふぁ(わかりました)


「よろしい。アヤメ、ロロ、解放」


「あいたっ」


 最後、思いっきり引っ張られました……。


「でも正直に話したことは良し。また変な考えに嵌まりそうだったら言いなさい。一緒に愚痴に付き合うくらいはするから。ただしおやつ持参でね」


 おどけたように締めるキイさんが一瞬の姉さんのように見えたのは、きっと気のせいじゃないですよね……。

 深く考えてない、何となく口に出てしまった言葉のつもりでしたが、話を聞いて納得したあたり、実は気にしてたのかもしれないです。

 皆さんそのことに気付いたのか、それとも偶然なのか。

 どっちでもいいですね。それを聞いた私は嬉しかったんですから。

 本当に、私の周りには頼りになる人が多いです……。




「で、話がまとまったところで聞くけど……アレ、何?」


 最後は何も無かったかのように話を変えてくれましたが……アレ、の方向にはエレノアさんの姿。

 エリスさんに魔法で治療してもらってたので、怪我の跡は消えてなくなってます。


 でも何故か、跪いて頭を下げてます。

 王に仕える騎士とかそんな感じで。


 ……おかしいですね。ポーズは違うのに、昨日もあんな姿を見た気がします。


 ――悪化してるだけですの。


 やっぱりですか……。


「あの、エレノアさん」


「なんでしょう、イオン様」


 …………。


 な、なんですか“様”って!


 何があったらこうなるんですかっ。エレノアさんをトンネルに送り出してから、一体何があったんですか!

 聞いた瞬間に逃げたくなったんですけど……。


「あの、エレノアさん。普段通りにしていただいて大丈夫ですよ? あと様なんて付ける必要ないですよ?」


 何故こんなところに居たんですかとか、色々聞きたいことはありますけど、そんな事より何より一番気になってるとこから聞いてみますが……。


「崇敬し、尊ぶべきイオン様にそのような振る舞いをすることは、自分自身が許せません。どうか、ご寛容頂きたく」


 逃げていいですか……。


 ――今対処しないと、後々大変になりますの。


 手遅れな気がするんですが……。


 ――……何もしないわけにもいきませんの。


 否定しないんですね……。


 ――とにかく話してみるですの。


 はい……。


「とりあえず立ってもらうことは……」


「私如きがイオン様と同じ高さで口を開くなど、あってはならぬことです」


 やっぱり逃げていいですか! あっ、一瞬キイさんと目が合いました! お願いですから助けてください!


 必死の訴えが届いたらしく、溜め息を隠しながらキイさんが隣に来てくれました。


「えーっと、エレノアさんだっけ。私はキイ。イオンと同じ異世界の冒険者なんだけど、私たちこういうの慣れてないから、立ってもらわないと逆に気を使うというか……」


「大変失礼致しました!」


 立ってもらうことには成功しましたけど、軍隊みたいにピシッと気を付けしたまま微動だにしません。

 キイさん、苦笑いしながら後ずさりしないでください。というか逃がしません。袖を捕まえたので離しませんよ。


「あ、ありがと。いくつか聞きたいことがあるんだけど、いい?」


 あとでケーキ奢ってね、と口パクされました。十個でも二十個でもどうぞ!


「何でもお聞きくださいキイ様。私に答えられることは、包み隠さずお話し致します」


「…………」


 キイさんも逃げたそうな目を向けてきました……。

 そうなりますよね! 仕事中ならともかく、いきなり様付けなんてされたら何事かと思いますよね!

 と言いますか仕事とかそういうのとは全然違いますよ。なんて言うか心の底から崇拝してる主人に対する態度とかそんな感じです。映画で見るような妄信的な感じさえしますよ! 傅かれるこっちが落ち着かない気分になってきますよ!


「え、えーっと。イオンが様付けなのは、まぁ同じ鳥族だからわからないでもないけど……なんで私まで?」


「当然のことです。キイ様の弓の腕前は私とは比較にならないほど素晴らしいものでした。同じ弓を扱う者として、敬意を払わずには居られません」


「……そ、そう」


 あっ、キイさん今逃げようとしましたねっ。逃がしませんよっ。睨まれても掴んだ袖は離しませんよ!

 そんな見苦しい攻防を繰り広げていることに気付かないまま、エレノアさんの言葉は続いていきます。


「もちろん、それは他の皆様も同様です。そちらの犬族の方は恐ろしいほどの剣の使い手。あれほどの剣さばきは、今まで見たことがありません。心が震えるほどでした」


「そ、そうか」


 プルストさん、腰が引けてます。


「鼬族と狐族のお二人の魔法は実に素晴らしいものです。どこを見ても文句の付けようがない。そちらの熊族の方には鉄壁という言葉が相応しい。盾持ちの鑑と言えるでしょう」


「プレイヤーの方から言われるのとは~全然違いますね~……」


「なんや、背中がかゆくなってくるわ……」


「同じプレイヤーからだとお世辞半分で聞けますが、これは気恥ずかしいですね」


 あ、それです。プレイヤーから言われるのとは全く違う気がするんです。

 あっちもあまり褒められると恥ずかしいのは変わらないんですけど、でもそれとは全然違うんです! ものすごく恥ずかしくなってくるんです!


「そして、そちらの鳥族の方。よろしければ、お名前をお聞かせ願えませんか」


「……ロロ」


 いつものぶっきらぼうな感じではありますが、緊張してるように聞こえるのは気のせいではないと思います。


「話は伺っていました。異世界の鳥族は、イオン様以外飛べないと」


 ロロさんのことは話してないはずですけど、そこは話しましっけ。


「しかしロロ様は飛ばないどころか動きもせず、あれほどの数の魔物を倒して見せた。本来その翼で動き回って戦うはずの、鳥族で。……同じ鳥族として、これに畏敬の念を抱かずに居られましょうか!」


「っ!」


 突然大きな声を出されて、ロロさんビクッとして驚いてます……。


「異世界の冒険者には強い方が多いというのは聞いておりましたが、ここまでのものとは想像だにしておりませんでした。特に皆様の、息の合った戦いは素晴らしいの一言に尽きます! 私も戦いに身を捧げる者として、皆様の戦いには心を振るわせずには居られない!」


 なんだか演説みたいになってきました……。

 自警団の仕事は結構暇だぞって、ロールケーキを食べながら聞いたんですけど……。ケンカの仲裁とか街の中での仕事がほとんどで、魔物と戦うことなんてほとんどないとも言ってたはずですけど……。


 おかしいです。

 魔物から助けただけで、こんなことになるものでしょうか。

 そんなはずないですよね。きっと何か調子が悪いんですよね。

 あ、きっとまだダメージが残ってるんですよ。エリスさんに回復して貰ったはずですけど、でも精神的に疲れてるんですよ。

 きっとそうです。そうに違いないです。


 ――大人しく現実を見るですの。熱弁が盛り上がる一方ですの。


 ぐりちゃんの言う通り、さっきからエレノアさんの言葉が止まりません。

 もう私たち全員、居たたまれない気持ちで押しつぶされそうです……。


「さらには戦いの最中のイオン様の言葉。それを聞いて、私はいかに自分が矮小な存在であるかを思い知ったのです!」


 ……聞き捨てならない言葉が聞こえてきたんですけど。

 私、何か言いましたっけ。

 言うこと聞いてもらうために何か言ったはずですけど……魔物との戦い以上に覚えてないんですよね。あまり重要なことだった気がしませんし。

 そんな思い知らせるような内容でしたっけ……。


「普段は優しげなイオン様。しかし戦場では私の言葉を『黙れ』の一言で潰すほどに苛烈。『弱いくせに意見するな』、『のんびり飛んでたら槍で刺すぞ』、『寝てても追いつける』と罵りながらも、その実、全ては私を思いやるための言葉。自分が憎まれても相手の命を救うという生き様は、とても私には真似できるものではありません……っ!」


 感極まったように頬を紅潮させるエレノアさん。

 私も恥ずかしさで真っ赤になってる気がします。

 あと皆さんから視線が刺さってます。痛いです。


 ち、違いますよ。そんなこと言ってないですよ。

 内容的には合ってるかもしれませんけど……。

 でもそんな言葉ではなかったですよ! 本当ですよ!

 いまいち思い出せませんけど……。


 ――内容が間違ってなかったらアウトですの。


 うぅ……戦いに夢中になってたからです……二度とそんなことは言いません……。

 やっぱり戦いを楽しむのはほどほどにしましょう……絶対です……。


「なるほど。つまりエレノアさんにとってイオンさんは、主君のような存在というわけですね」


 主君!?

 慌てて否定しようとしたら、あの、バルガスさん? 笑顔が黒いですよ?


「そうです。私にとって、至上の存在と言っても過言ではありません」


 ……私は一体どういう扱いになってるんですか……。

 エレノアさんの目が、何と言っていいのかよくわからないほど真っ直ぐに見てきます。目が輝いてます。もう何を言っても受け入れそうな気がします……。


「確認しますが、イオンさんの仲間である私たちも、それに近いものということでよろしいですか? もちろん、一番はイオンさんですが」


「その通りです」


 一番でなくていいです……。


「では、私たちの言うことには従いますよね? イオンさんを優先するのは当然ですが」


 逐一私を引き合いに出さないでください……。


「この身を賭して、いかなる命令もやり遂げて見せます!」


 エレノアさん、なんで嬉しそうなんですか……。


「それでは、今から言うことを全て、確実に実行してください。いいですね?」


 ……それから。

 真っ黒笑顔のバルガスさんが命令……ではなく、いくつも“お願い”をしました。

 その結果、ある程度普通に接してもらえることになりました。

 はい。ある程度、です。

 私の様付けだけはどうしても外れませんでした……他の皆さんは外れたのに……。


 私はどうしてあんな事を言ってしまったんでしょう。

 私はどうしてホーレックに寄ってからトンネルに行かなかったんでしょう。

 私はどうしてエレノアさんを説得しなかったんでしょう。

 私はどうして……。


 もう暴走なんてしないと、心に決めました。

 しばらくは後悔に苛まれそうです……うぅ……。


 あ、でもバルガスさんの提案でちょっと大変なお願いも聞いてもらえることになったので、そっちは助かりました。

 明日からよろしくお願いしますね、エレノアさん。




6/19誤字脱字修正しました。


一応反省していただきました。

が、思いのほか評判が良かったので(皆様、本当にありがとうございます)またいずれ種割れしたブラックイオンさんがオ○チノチニメザメたりしながらゼ○の領域に入るかもしれません……。

でも当分予定はないのでご安心(?)を。


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