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12-16 嗚呼すれ違い。


「もしかしてーって来てみたら、やっぱりこうなったね。予想を裏切らないなぁイオンは」


 土砂の隙間を通ってトンネルに入って来たキイさんは、何故か会うなり私の頭を撫で始めました。

 何故かいい子いい子する感じの手つきで……。そのうえ優しいのとか楽しいのとか揶揄うような感じが混ざってる微妙な笑顔で……。


「期待通りの展開を見られて~来て良かったです~」


 何故かエリスさんも……。


「穴が空いてるんならウチが吹っ飛ばさんでもええなぁ。我慢せんでええから助かったわ。礼にフミを撫でてええで」


「どうぞっ」


 抱っこさせてもらったので遠慮なく撫でさせて頂きます。お耳の弾力が素晴らしいです……。


「アヤメやっぱりやるつもりだったな……」


「いざとなればプルストさんに犠牲になってもらうつもりでしたが、必要なくなりましたね」


「そういうときは盾役が吹っ飛ばされるもんだ」


 プルストさんとバルガスさんも入ってきて、エスの全員が集合。


「…………」


 最後に入ってきたロロさん、無言で背中をポンポンしないでください……。


「それにしても見事にやっちゃったねー。投げ槍も凄い威力だし。試しに本気出してみた?」


 無言で頷きます。どうしてわかるんですか……。


「新しい武器持ったらやってみたくなるもんだって。プルストだってそれで壊したばっかりでしょ」


「思い出させるな……」


 車を買い変えたら、とりあえず全開で踏んでみたくなるのと一緒ということですね……。確かにそんな風に考えてた気がします……。


「まだ入り口の工事は必要だけどトンネルが開通したのはいいことなんだから、そんな申し訳なさそうにする必要はないんだけど……アレだね、他人から見て凄いことでも、知らずにやっちゃったあとならそのことを指摘されても『そうなんですね』って言いながら平然としてるけど、事前知識があると『やりすぎた』って気が引けちゃうのか」


 意識したことはありませんでしたけど……そう言われるとそんな感じかもしれません……。

 なんかこう、『非常に難しいことだ』って知っていることを自分がやってしまうと、他の頑張っていた人たちに申し訳ない気分になってしまうというか……。

 でも、そういったことを終わったあとで知ったなら、『じゃあ私の場合は偶然上手くいったんですね』くらいに考えてしまって、実感するまでしばらく時間がかかるというか……。


「じゃあ、イオンにはこれからも事前知識を与えない方向で」


「どうしてそうなるんですかっ」


「「「「「そのほうが面白くなるから」」」」」


 どうしてそこで皆さん同じ言葉を……ロロさんまで頷いて……うぅ……。


「冗談だって。でも知らないほうが楽しめるんじゃない? 変に考えるより好きに動けるでしょ」


 それは……確かにそうかもしれません……。

 『アレは絶対に倒せない魔物だ』なんて聞いていると、私にも無理だと考えて行こうとしなくなるかもしれません。

 知らなかったら魔物と戦うのか、と聞かれればそれはわかりませんけど、でもその選択肢を消してしまうなんてことはないです。


 そんな強い魔物と戦って負けたなら、きっと誰かに相談するはずです。

 倒せない魔物だって聞けば諦めますし、実はこんな倒し方があるって聞けば改めて戦いに行きます。

 誰も知らない魔物だったら、全員に倒す楽しみができます。

 先日もエンシェントシーサーペントと戦って、勝てなかったから相談して、全員で戦う楽しみもできましたし。


 気にしたことありませんでしたけど、私は知らないでいたほうが楽しめるタイプかもしれないですね……。


「自分でも納得したって顔だね」


「納得はしましたけど、でも無理に隠すとかは……」


「先回りして言わないってだけだから、隠しはしないって。聞かれれば答えるし、危なそうなことしてるって気付いたらアドバイスもするから。って今までと変わらないね、これ」


 言われてみればその通りです。

 ということは、深く考えず今まで通り楽しめばいいだけです。


「それでは、今まで通りということで」


「そうゆことで」


 上手くまとまって良かった……んでしょうか?  若干丸め込まれた気分もしますけど……やめましょう、堂々巡りになりそうです。

 そんな事より気になることがありますし。


「それで、どうして皆さんここに居るんですか? それにロロさんまで」


 さっき別れたのにもう集合です。しかも連絡も何も無しで。


「どうしてって、そりゃあこの先に興味があるからに決まってるでしょ」


 そう言いながら、笑顔でトンネルの奥へ歩き出すキイさん。

 他の皆さんも歩き始めたので、私も付いていきます。


「あんな話聞いたら、誰でも行きとうなるわ」


 今まで腕の中に居たフミちゃんが、アヤメさんに回収されていきました……。


「森そのものが街になってるなんて~ファンタジーの王道ですからね~」


 マジックランタンを取り出しながらのエリスさん。声が弾んでます。


「そこに行くだけでも、価値があるというものです」


 珍しくバルガスさんも楽しみのようです。


「でかい森だと今までとは違う魔物が出てくるだろうしな。その辺も期待できる」


 プルストさんがいつも通りで安心します。


「楽しみ」


 一言だけのロロさんですが、少しだけ口元が緩んでます。

 皆さん早くホーレックに行きたかったということですね。

 私だって皆さんの立場だったら行きたくなったはずですし、トンネルが通れるかどうかわからなくても様子見くらいはすると思います

 こうなるのは当たり前のことかもしれないですね。


「そういえばロロ、トンネルでもサングラス外さないんだな」


「外す気はない」


 外したらクールなロロさんではなくなっちゃいますからね……。


「イオンこそ、そのメガネどうしたの。悪くないけど」


 あ、まだメガネをかけっぱなしでした。


「さっきバトルデイズで買ってきたんですけど、暗視機能が付いたメガネなんです。ロロさんのもそうですよ」


 メガネを外して、キイさんに渡しながら答えます。

 試してみたいと言われると思うので。


「わぁ、スゴイねこれ」


「次ウチな」


「私にもお願いします~」


 やっぱりこうなりました。


「いい物ですね。洞窟内で明かりを使うと間違いなく魔物に見つかりますが、これなら明かりは必要ありません。ロロさんのような隠密性重視の方には、間違いなく売れるでしょう」


 言われてみればその通りです。明かりがあるということは、こっちの居場所を知らせるも同然です。

 ただ見えることよりも、そっちのほうが重要かもしれないですね。


「あそこ一体どれだけ新製品出すんだよ……」


「これ自体は以前からあったそうです。でも素材がなかなか手に入らないので、店頭に並べにくいとレイチェルさんが言ってました」


「そっちの理由か。それじゃ仕方ないな」


「今回はたまたま大量に素材が入荷したそうです。それで、一部のプレイヤーにだけ勧めてると言ってました」


「一部っていうのは宣伝になりそうな人……と有効活用できそうな人、かな。普通はマジックランタンで十分だから、全員が欲しがるわけじゃないもんね」


 そこまで聞いてませんが、多分その通りだと思います。

 ちなみに素材が手に入りにくい理由ですが……。


『私絶対行かないからね! あそこ気持ち悪いもん!』


 ロロさんが思い出したくなさそうな顔で全力拒否してたので、具体的な理由を聞くのはやめました。

 素材を聞いてしまうと使うのを躊躇してしまいそうなので……。


「でも本当に真っ直ぐなトンネルだな、向こうの出口見えてるし。……すげぇ遠いけど」


 前半は感心したような声、後半は今から疲れたようなプルストさんです。


「飛んできたので気にしませんでしたけど、言われてみると結構距離ありますね」


 山を通り抜けるんですから当然のことでした。


「……でも皆さんどうやってここまで来たんですか? 街からここまでも結構距離があると思うんですけど」


 街からトンネルまでは結構距離があります。

 いくら急いだといっても早すぎると思うんですが……。


「前にオレストでサブクエやったんだけどな、その礼ってことでいつでもゴーレム馬車出してもらえるんだ。頼み込んで飛ばしてもらった」


 私がタルトを作ってもらうのと、似たようなものということですね。

 そういえば最近行ってませんでしたっけ。思い出したら食べたくなってきたので、近いうちに行きましょう。


「本気で飛ばされたから荷台でシェイクされたけどな……」


「イオンは馬車に乗らなくてもいいもんね……ホント羨ましい……」


 ……ここは自慢してもいいでしょうか?


「でもホントに長いトンネルだね、山を抜けるんだから当然だけど。入り口の工事して馬車で通れるようにしないと、みんな絶対苦労するね」


「そういえば工事をしてくれるようなクランとかありますか? 実のところ、メグルさんにお願いしたら何とかなるかなと勝手に考えてたんですけど……少し頼りすぎという気も……」


 エンシェントシーサーペントの件といい、さっきの鳥族の件といい、本当に頼りっきりです……。


「ダイジョーブだって。よろずやはそうやって大きくなったところだから」


「何でもお願いされて、何でもするから、誰にでも必要としてもらえるクランです。むしろ遠慮されるほうが迷惑でしょう」


 そ、そうですね。遠慮して仕事が減ってしまったら元も子もありません。


「レイドボスと海の精霊とトンネル工事くらいなら、よろずやだったらなんとかするって。多分」


「いえ、それがもう一つ増えまして……」


 さっきの出来事を、可能な限りオブラートに包んでお話しします。

 でないと、怒らせてしまうかもしれませんので。


「次会うときは呼んでな。そいつ燃やしたるわ」


 ダメでした……。

 キイさんとエリスさんは武器を磨き始めましたし、ロロさんも銃の動作確認を始めますし……。


「セレックってどこの所属だ?」


「獣人雑伎団です。たまにはクラン戦でも申し込みましょうか」


「そこまでしないでくださいっ」


 プルストさんとバルガスさんまで……しかも『どっか適当にドライブ行くか』くらいの調子で……。


「そうは言うけど、一人に対して十人以上で“お願い”しに来るって、それ十分威圧行為だから。ホーレック行ったあとだったとかメグルが入ってくれたとかタイミング良かったからいいけど、もしそうじゃなかったら絶対大変なことになってたでしょ」


「それはそうかもしれないですけど、でもそれは仮定の話であって現実では丸く収まったんです。過去のことにアレコレ言ってもどうしようもないですから」


 確かに驚きましたし正直どうやって逃げようかなと思いました。でも結果は丸く収まったんですから、仮定の話について考えたって仕方ありません。これからのことを考えたほうがよっぽど建設的です。


「それ後悔したときとか失敗したときに言うセリフなんだけど……まいっか。イオンがそう言うなら今回は何もしないけど、でも当日は私たちも付いてくからね。それで文句の一つくらいは言わせてもらうから」


「それは必要なことだと思うので、お願いします」


 いくらなんでも二度目は御免です。


「じゃあトンネルも開通したんだし、早いとこやっちゃう?」


「そうですね。相手方の都合がわかりませんけど、可能な限り早くがいいと思うので」


 メグルさんが場所を用意したりとか、準備もあるでしょうし。


「おっけ。それじゃメグルに連絡しときますかー」


 メールを送って、準備を始めてもらうようにお願いします。

 何度かやり取りをして、話し合いの時間は明日に決定。本当にお店を貸し切ることになりました。


『メグル:飲食店系のクランとかプレイヤーに集まってもらって新製品の試食会も兼ねたビュッフェをお願いすることになりました! 話し合いが終わったあとは一般開放もするんで建前じゃないですよ! 他にも呼んでますけど宣伝になるよねって事でイロイロお安くしてもらいましたよ! 褒めてーっ!!』


 か、可能な限り褒めちぎってみました。

 でも私だけでは足りないような気がしたので、ぐりちゃんにも文面を考えてもらいました。


『メグル:イオンさんだけでなくグリーンさんにまで褒めてもらえるなんてーーー!! 家宝にします。額縁に入れて飾ります。これであと十年は戦えます……ッ!!』


 喜んでもらえて何よりです……。

 そんな風にメールをしたり話をしたり、のんびりとトンネルを進んでもうすぐ出口かな、という辺り。


 不自然に言葉を切ったキイさんが、表情を硬くしました。


 それを見た全員が神経を尖らせます。

 キイさんがそんな反応をするということは、多分魔物に関することです。


「……まだ結構遠い……外?」


 出口付近に魔物が居るということでしょうか。


「……マンティコア。こっちには背を向けてる」


 ロロさんが狙撃銃のスコープ越しに確認しています。

 背を向けてるなら私たちに向かってくるというわけではないですよね。一安心で……、


 本当に、安心していいんでしょうか?


 私たちに向かってくるわけでないなら、マンティコアは静かなはずです。魔物だって四六時中吠えてるわけではありません。

 なのに、キイさんが気付いたということは、


「……誰か戦ってる」


 その言葉を聞いた瞬間。翼を広げて地面を蹴り、出口に急ぎました。




6/16誤字脱字修正しました。

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