表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/152

12-11 嗚呼すれ違い。


「ではロールケーキセットを三つと、お持ち帰り用に十本ですね。少々お待ちください」


 注文を取って奥に入っていくミーアさん。

 レースが終わったので予定通りロールケーキを食べに来ました。

 動こうとしないエレノアさんを引っ張って。


『こうなるとなかなか動きませんから、無理矢理連れて行くのが一番です』


 とミーアさんのアドバイスがあったので……。


 そもそもどうしてエレノアさんがまた謝ってきたのか。

 それについてはなんとか聞き出した(ミーアさんが居なかったら無理でした……)んですが、順を追っていくとこんな感じになりました。


 まず私が街に来たとき。

 接近戦でワイバーンを倒しましたが、これがきっかけです。

 どうもこちらの世界の鳥族の方は、空で接近戦というのはほとんどしないということでした。


 スピードを出せば大きな威力になるとわかっていても、それ以前に鳥族はそこまで強くない。

 熊族や猪族といった体の強い種族ならともかく、そうでない鳥族は接近戦自体が危険。

 メリットは大きいけどデメリットも大きいので、基本的に弓や魔法の遠距離攻撃が主体となるんだそうです。


 当然ですよね。こないだプルストさんから聞きましたが、NPCの方は一度やられると二度と生き返らないそうですから。

 やられても結界石からやり直せる私たちとでは、リスクに対する考え方が大きく異なります。


 ですがリスク云々はどうでもいいそうです。

 私が異世界の冒険者だろうとそうでなかろうと、『空で接近戦。しかもワイバーン二匹を相手にしたのに無傷。種族も何も関係なく、間違いなく強い』となるのが重要だそうで。

 私が鳥族以外の方から注目されていたのも、どうもこの辺りが原因だったようです。


 エレノアさん一人では、ワイバーンには勝てない。つまりエレノアさんより私のほうが強いのは確実。

 仮にも自警団の団長で、ホーレックの鳥族の中では一番強いと言われていたらしく、ショックを受けてしまったということのようです。


 なので少しでも自信を取り戻したいと考え、自分の得意なレースで勝負をしようと私を案内。

 どうもエレノアさん、スピードという面で見るとこの街で最速だったそうで……。


 けれどいざ始まってみれば、直線では勝ってたのにコーナーからスラロームで差を詰められてしまった。

 加えて最後の区間。私は正面のルートを選びましたが、実はレースでそのルートを選ぶ人はいないんだとか。


『あそこ、枝を折ったら怒られるので誰も飛ばないんです。ごめんなさい、もっとはっきり言えばよかったんですけど……』


 そうですよね……飛んだからわかりますけど、あんなの練習でも飛ぶような場所じゃありません……。

 テンションが上がって後先考えなかったから飛べたようなものです。次回飛ぶときは選びません……あと枝を折らなくて本当によかったです……。


 そんな無謀なルート選択のおかげもありましたが、最後はギリギリの僅差。

 初めてレースする私に対して、ホーレックで最速と呼ばれていたエレノアさんが。

 一応勝ったけど内容的には惨敗同然、ということのようです……。


『空での戦闘技術、そして飛行技術は鳥族にとって最も重要な力。だからこそ、それに優れた者には敬意を払うものなのだ。なのに私は二度も軽んじた! 謝って許されることではないが、どうか今後はイオンに尽くさせて欲しい!』


『お願いですからやめて下さい……』


 許すも何も全く気にしてませんし、尽くされる理由も無いので即座に遠慮しました。

 街に入るときとは違ってなかなか諦めてもらえませんでしたけど、こちらもミーアさんに手伝ってもらってなんとか諦めてもらいました……。


『慎み深さまで兼ね備えて……イオンは本当に素晴らしい方だな……』


 諦めてもらえたんですよね……?


 とにかく話は終わったということにして、お茶を飲んでやっと一息です。

 余計に疲れたので甘いものが欲しいです……。


「っ、美味しいです!」


 スポンジが緑がかってたのでもしかしてと思いましたが、まさかの抹茶ロールです。

 ほどよい苦みとクリームの丁度いい甘さ。ものすごく美味しいですっ。


「気に入ってもらえて何よりだ。ここは日によって味が違うからな、何度来ても楽しめるぞ」


「本当ですかっ」


 明日も絶対に来ましょう。


「な、なぁ、やはり今からでも支払いは……」


「ミーアさん、先にお支払いしたいんですけどいいですか?」


「計算しますのでちょっと待ってくださーい」


「むぅ……」


 勝負に負けたのは私なのに、ここの払いを持とうとするんですよね。譲りませんけど。


「最初に約束したじゃないですか」


「それはそうだがな、しかし」


「エレノアさんは、私に約束を破らせたいんですか?」


「そんなことはない!」


「では、私が払うということで」


「うぅ……」


 少し強引ですが、諦めてもらいましょう。

 というかこうしないと話が進みません……。

 でも気にしっぱなしなのも良くないですし……。


「それなら聞きたいことがあるので、いくつか聞いてもいいですか? 気になってることがあるので」


「いくらでも聞いてくれ。なんでも包み隠さず話すぞ!」


 おかしいですね。エレノアさんは鳥族のはずなのに、何故か尻尾が揺れて喜んでるように見えてた気がしました。


「それではまず飛行補助具についてですけど……。あれって、私たちがお借りすることもできるんですか?」


「補助具か? 構わないが……ああ、イオン以外の異世界の冒険者にということか」


 高いところから落ちても問題ない、あの補助具があれば、飛べない人の訓練に使えるんじゃないかと思ったので。


「構わないが、街から持ち出すのは禁止しているんだ。実はあの魔道具を作り直す技術がなくてな。万一があっては拙いのだ」


「そうなんですか?」


 てっきりこの街の誰かが作ったかと思ってたんですけど。


「あの魔道具、正しくは【リーンバングル】と言うが、アレは私が生まれるよりずっと昔、この街を訪れた魔法使いが作ったものらしくてな。簡単な修理方法はわかるが、新しく作ることは出来ないんだ。魔道具の名前も魔法使いの名前が由来になっているらしい」


 飛行補助具は腕輪型の魔道具です。

 今は返してますが、あれを一つ付けるだけで墜落を防止できるなんて、きっと本当に凄い魔道具なんだと思います。

 簡単に複製できないのは当然ですよね……。


「でも街の中で使うなら大丈夫なんですよね?」


「もちろんだ。それもダメならイオンにも貸してはいない」


 安心しました。


「アレがあれば翼を動かせない者でも練習できるからな。異世界の者にも役に立つだろう」


 ……翼を、動かせない人でも?


「どうかしたか? 何かわからなかったか?」


 疑問が顔に出てしまったからですね、エレノアさんから問いかけられましたけど……。


「あの、翼を動かせない人でも役に立つというのは……」


「ああ、あれは複数付けると効果が増えるんだ」


「効果が増える?」


 ……そういえば私が借りたのは一つだけでしたけど、複数付けてる子が居ましたっけ。

 中には三個も付けてる子も居ましたけど、墜落と接触防止以外にどんな効果があるんでしょう?


「こちらの世界の鳥族は、生まれつき翼を動かせる者と、動かせない者が居てな。動かせる者は一つでいいが、動かせない者は三個から始めるんだ」


 翼を……生まれつき動かせない!?


「こっちの世界にも翼を動かせない鳥族が居るんですか!?」


「全員ではないが、それなりに居るぞ」


 …………なんと。


「……こっちの世界の鳥族は、生まれつき飛べるものかと思ってました……」


 さっき練習場に居た子たちはみんな動かしてましたし、てっきり生まれつきの鳥族なら動かせるだろうと……。


「残念だが違う。詳しいことは知らんが、他種族との交配が進んだ結果だと考えられてるらしい。翼を持って生まれても、血が薄いのが原因で動かせないのではないかと言われている。それ自体は仕方のないことだし、真実かどうかはわからんがな」


 本当のところがどうかはわからなくても、血が薄くなって、というのは納得できる考えです……。


「そっちの世界は……イオンしか飛べないんだったな。全員が翼を動かせないのか?」


「自力で動かす、という意味でならゼロのはずです」


 メグルさんは少しだけ動かせましたが、あれは私が手伝ったからでしたし。


「なら【リーンバングル】が役に立つだろう。元々、そういう者のために作られた物だからな」


 そこまで考えて作られた物だったんですか……。


「空を飛べない理由は大きく二つ。魔力の扱いが苦手な者。翼を動かせない者。そっちの世界でもそうだろう?」


 はいと頷いて返事をします。

 バルガスさんが考えた仮説そのままなので。


「補助具一つでは墜落と接触防止。二つで翼を補助し、三つで魔力を補助するように作られているんだ」


 翼と、魔力の補助。


「まず魔力の補助だが、これは簡単だ。強制的に魔力を翼に流し、翼を動かせるようにする。ずっと続けていれば魔力の流し方が体に染みついて、自然に流せるというわけだ」


 私がメグルさんにしたのと同じということですね。

 それを長時間続けて、体に覚え込ませる。慣れてしまえば補助具を外しても、魔力を流せるようになると。


「翼の補助は……少し無理矢理に聞こえるかもしれないがな、腕の動きと翼の動きを連動させるんだ。こう、腕で羽ばたくと、翼が同じように動く」


 こう、と言いながら席から立って、腕と翼を動かしてくれるエレノアさん。

 腕と翼が繋がってるように、羽ばたく動きをしました。


 確かに無理矢理に聞こえるかもしれませんが、でも効果はあありそうな気がします。

 魔力操作ができる人でも翼を動かせないのは、まず翼自体の動かし方、その感覚がわからないから。

 無理矢理にでも動かして、その感覚を体に覚え込ませれば……ということでしょうか。


「確かに強引かもしれませんけど、でもそれで飛んだ人は大勢居るんですよね?」


 二つ以上付けてる子は結構居ましたけど、でもかなりの数が飛んでました。

 もちろん危なっかしい子だって居ましたけど、まだ練習中なんですから当たり前です。

 時間がかかっても飛べるようになるのであれば……。


「諦めてしまったという者も居るがな、かなりの数が飛べるようになっている。私も、最初は翼を動かせなかった一人だからな」


「エレノアさんもですかっ」


 スピードも戦闘技術も、この街で一番だって聞いたんですけど……。


「同年代では一番下手だったんだがな、悔しかったからムキになって練習し続けていたら、いつの間にか街一番と呼ばれるようになった。所詮は街の中止まりで、今日負けたわけだがな……」


 レースはエレノアさんの勝ちでしたし、戦いのほうは見てもいませんけど……訂正は止めておきましょう。多分長くなりますので……。


「とにかくだ、私がそうだったからこそ言える。練習を続ければ、私のように飛べるとな」


 少しだけ自信を滲ませたその言葉は、何というか、重みが違って聞こえました。


「だがスピードだけは負けるつもりはない! イオンにも、次はもっと引き離して勝ってみせるぞ!」


 自信満々のその言葉は、何故か軽く聞こえてしまいました……。


「良ければすぐ始めますか? 今ならもっと速く飛べる気がするので」


 美味しい物食べましたから、やる気は再充填されましたよっ。


「……すまないが、また後日で頼む」


 残念です。


 話が途切れたところでお茶とケーキをお代わり。

 今度は明日出す予定だった紅茶ロールが出てきましたけど、これも最高です……。


「こっちもお持ち帰りしますか?」


「十本、大丈夫ですか?


 明日の分ということなので、迷惑になってもいけないんですが……。


「ぜんぜん大丈夫ですよー」


「お願いします」


 なら遠慮なく。


「本当に好きなのだな……」


「私だけが食べるわけではありませんけど、好きです」


「イオンの仲間か。いずれ会ってみたいものだな」


 それです。次に聞こうと思ってたのは。


「あの、昔は山脈を越えるルートがあったと聞いたんですけど、それについて知りませんか?」


 これがわかれば誰でもホーレックまで辿り着けます。

 飛行補助具は街から持ち出し禁止なので、鳥族の方は絶対に来たいはずですし。


「知ってはいるが……少し問題があってな」


「本当ですかっ」


 肘をついて手に顎を乗せて、少し困った表情に。

 問題があっても知っているなら一歩前進ですっ。


「街から南に行ったところに、山脈を貫通するトンネルがあるんだ。それが南とを繋ぐルートなのだが……」


 予想はしましたけどやっぱりトンネルですか。……ダンジョンではなかったのは残念と言ったらいいのか安心したと言ったらいいのか。

 でも山脈の南側、ルフォート側から発見できていないということは……。


「入り口が塞がってる、とかでしょうか?」


「北側は大丈夫だが、南側がな」


 崩れているのは片側だけ。

 でもそれ意外にも理由が有りそうですね。そこまで口にしても、まだ難しい表情のままなので。


「トンネルの中に魔物が住み着いているんだ。そいつが厄介でな……」


 魔物でしたか……。


「そんなに強い魔物なんですか?」


「いや、そうでもない。住み着いた魔物はジャイアントスパイダー、ワイバーンと比べれば大したことない相手だ」


 蜘蛛の魔物……ですよね。ワイバーンと比べると大したことない。なのに厄介。

 ということは……。


「トンネルの中というのが問題、ですか?」


 そうだ、と大きなため息をつきながら頷かれました。


「巣を張って獲物を捕食する、普通の蜘蛛と変わらない魔物だ。普段は森に居るんだが、森なら巣を張るにも限界がある。どこかに穴ができるんだが……」


「……納得です」


 そこまでで大体わかりました。


「狭いトンネルなら巣を張ってしまえば壁も同然。巣が邪魔で近づけないんですね……」


 森なら巣を迂回して攻撃、とかできるかもしれませんが、それもできない。

 進むには巣が張ってあって近づけないし、巣を壊しているあいだは攻撃される一方になってしまう、と。


「巣の向こうから毒液を飛ばしてくるんだが、少し触れただけでも毒にやられてしまう。この街の戦力では危険すぎるんだ」


 手を出せないはずです……。


「ついでに言えば、他の街との繋がりがなくなってもさほど困っていなかったからな。どうしても必要な物は、私や他の鳥族が山を越えて買いに行けば事が足りた。無理をして魔物を倒す理由も無かったんだ」


 手を出さないはずですね……。


 でも、それなら私が手を出せばいいだけです。


「それなら私が戦ってみますから、場所を教えてもらえますか?」


「構わないが……本当に一人で行くつもりか? いくらなんでも一人では危険だぞ」


「一度現地を見てから考えます。今のままでは絶対無理なので、とりあえず下見です」


 ワイバーンほど強くないというなら、しっかり対策さえしていれば戦えるかもしれませんし。


「状況を見て、クランの皆さんと対策を考えて、本格的に戦うのはそれからです」


「それならいいが……必要な場合は遠慮なく頼ってほしい。絶対に協力する!」


「えっと……もし力が必要な場合はお願いします……」


 とは言いましたけど、力を借りずに何とかするつもりです。

 私だったら何度やられてもやり直せますが、エレノアさんはそういうわけにもいきませんので。


「そのときは何でも言ってくれ、いかなる困難にも立ち向かってみせよう!!」


 や、やけに気合いが入ってますけど……もしかして、断っても付いてくるんじゃないでしょうか……?


 ――本番は内緒で行ったほうがいいかもしれないですの。


 そうします……。




6/10若干表現を修正しました。


ようやく練習装備が出ました……。

本当ににこんな方法で動かせるかはわかりませんが、ここでは大丈夫ということで。



それと混血については今後触れるかどうかわからないので軽く書いておきます。

・他種族との交配は普通のこと。

・他種族と交配してもどっちの特徴を受け継ぐかはわからない。

・混ざって両方の特徴が出るというのは無し。

ということにしてます。

(今後変更する可能性はあります)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ