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12-10 嗚呼すれ違い。


 合図と同時に思いっきり城壁を蹴り、空中に身を投げ出します。

 と同時に翼を強く羽ばたかせ一気に加速。

 第一コーナーまでは長いストレート。

 何度も翼を動かし、ひたすら速度を上げることだけ考えます。


 私の前を飛んでいる、エレノアさんに追いつくために。


 スタート時、真っ直ぐ水平に飛んだ私に対して、エレノアさんは斜め下に向かって城壁を蹴っていました。

 最低高度ギリギリまで下げつつ加速したため、重力の分もプラスされていたんだと思います。

 スタート直後、あっさり前を取られてしまったんです……。


 予想はしてましたがやっぱり速いです、エレノアさん。

 今はただ真っ直ぐ飛んでるだけですが、全然追いつけません。

 それどころか私の前に出て妨害が始まりました。あ、もちろん直接的なものではありません。

 では何かと言えば、ただ私の真正面を飛んでるだけです。

 ただそれだけなんですが……後方乱気流って言うんですか? 空気が乱れてものすごく飛びにくくなりました。

 そのせいで私のスピードは上がらず、エレノアさんに追いつくどころかジリジリ離され始めています。

 車だったら前車の後方ぴったりにつければ空気抵抗が減ってくれるはずですが、空だとそうもいかないようです……。


 なのでエレノアさんが正面に来ないように飛んでるんですが、これが結構大変です。

 上下に振っても左右に振っても全然離れません。ずーっとついてきます。相手がどう逃げるかわかってて、先回りされてる感じです。

 一人で飛んでばかりの私とじゃ、やっぱり年季が違いますね……。

 最初は小さかった差も今では結構大きな差になってますし……やっぱり無謀だったかもしれないです……。


 ……だからって、簡単に諦めるつはりもないんですけど。


 スタートしてすぐに前を取られ、追いつけなくて、離され始めました。

 とはいえまだレースは始まったばかり。コーナー一つ回ってないんです。

 諦めるなんてもったいないです。


 だって楽しいんですよっ。全力で飛んでも追いつけないって初めてですしっ。

 妨害されて追いかけるというのも、なんだか“競り合ってる”って感じがします。


 今、私は一人ではなく、エレノアさんと飛んでいる。


 そういう感覚をこれでもかと実感できます。

 やっぱり、誰かと飛ぶのは楽しいです!


 だから私だって負けませんよ!

 負けてもぐりちゃんは『たまにはいいクスリですの』なんて言うかもしれませんけど、だからってみっともない負け方したらきっと怒ります!

 私だって少しはやり返しませんと!


 気合いを入れ直したところで見えてきた第一コーナー、アールのキツい右コーナーです。

 エレノアさんはコーナーの手前で減速、丁寧にスピードを落として旋回を開始。

 すごいです。城壁(アウト側)ギリギリまで寄せて、減速も最小限。(イン側)を掠めるように最短距離を通りつつ、綺麗な円を描くように水平に旋回して、できるだけスピードを落とさないように抜けていきました。


 でも……綺麗なラインですけど、少し大回りな気がします。コーナー進入から木に寄せるとこまではいいかもしれませんけど、コーナー出口ではかなり膨れてましたし。

 それに減速もやけに時間かけてましたね。もっと短い距離で一気に減速させたほうが良かったと思うんですけど。

 わざとでしょうか……?


 エレノアさんの作戦はわかりませんが、私はギリギリまでスピードを落とさず突っ込みます。

 少しでもスピードを落とす時間が短ければ、その分追いつけますので。


 エレノアさんが減速を始めた位置よりも奥で減速を開始。

 それと同時に上昇。前に進む力を上昇にも使って、重力の力も借りて減速。

 上昇しつつ旋回を開始し、コーナー出口が見えてきたところで下降しつつ加速。

 エレノアさんのような大回りはせず、コンパクトにコーナーを回りました。


 上昇しながらの減速はエレノアさんがスタート時にやった方法とは逆ですね。おかげで短い距離で減速できました。

 スピードをあまり落とさず大きな円を描くように回ったエレノアさんに対して、しっかり減速した私は小さく旋回。

 下降しながらの加速はエレノアさんの方法と同じですね。

 コンパクトにコーナーを終わらせ加速もしっかりできたおかげで、コーナーを抜けたら若干ですが距離が縮まりました。

 この調子でいきますよ!


 ここから次のコーナーまでは、木を避けながら飛びます。

 右に左にと切り返しつつ、第二コーナーまで最短距離を飛ぶようにします。

 ここはエレノアさんのルートを参考にします。私はまだ一度しか飛んでませんので、コースをよく知ってる人のルートが絶対速いはずですから。


 ……と、思ってたんですが。

 エレノアさん、どう見ても最短コースから外れてますね。私でもわかるほどに。

 あっ、またです。一本奥で切り返したので飛ぶ距離が長くなってます。

 真っ直ぐ飛べてるのでスピードは落ちてませんけど……。


 ……もしかしてエレノアさん、旋回全般が苦手なんでしょうか?

 だとしたら第一コーナーが大回りだったのも頷けます。今だって連続での切り返しは極力抑えてるようですし。

 エレノアさんは直線的に飛んでる分、どうしても大回り。対して私はできる限り最短距離になるように飛んでいます。

 そのおかげで、このスラローム区間に入ってから徐々に差が縮まってきています。


 ……理由を考えるのは後回しにしましょう。

 折角のチャンスなんですから、もっと差を縮めることだけ考えます。

 それより何より気になってることがあるので。


 ……いえその、気になってるというか、なんというか……。

 ……正直に言います。


 目の前をうろちょろされるってこんなに鬱陶しかったんですね! ものすごく落ち着きません!


 追いつけなくてストレスが溜まってきたとかではないです。変わらず楽しいですし。

 でもエレノアさんの背中を見てると……こう、ものすごく抜きたい気分になってきたんですよ!


 以前に父が、『ストレートでチギっときながらコーナー続くとケツが見えるヤツ。見てると無性に抜きたくなるんだよな。んで抜くと『コーナーで煽りやがって危ねぇんだよ!』とか騒ぎ出すアホもいるが。遅い区間なら大人しく譲れよ……』なんて言ってましたけど、前半部分は少しわかったかもしれません……。


 とにかく今は私に有利な区間なんです。一気に追いつきますよ!


 切り返しの度に迫ってくる、大きな木。

 今まで以上にギリギリスレスレを狙って、時に翼を掠らせながら飛びます。

 切り返しが前提なので、体を傾けるのも最小限に。

 僅かな直線で速度を稼ぐため、少しでも大きく羽ばたき。

 右に飛んで左に飛んで。


 気が付けば、あっという間に第二コーナーが見えてきました。

 それとコーナーに入っていくエレノアさんの姿。その距離は間違いなく縮まってます。

 コーナーを抜けたエレノアさんは……やっぱり左のルートですね。距離は伸びますが直線的に飛べるので。

 直線勝負で勝てない私は、追いつくためには右のルートですね。

 追いつくためなら、ですけど。


 でもどうせなら追い抜きたいですからね。危ないと言われましたけど正面のルートに行きます。

 ダメだったらダメだったときです。折角なので可能性があるほうを選びます!


 巨木を回って最後の区間へ。

 一番枝の多い正面ルートに、スピードを落とさず突っ込みます。


 スピードを落とさないなんて危ないってわかってます。

 でも枝が多くて十分に羽ばたくこともできないので、乗せたスピードを落としたくないんです。

 その代わり、枝を避けることに全力で集中。

 僅かに角度を変え、翼を畳み、伸ばし。

 体も翼も常にどこか掠めてます。でも気にしてる場合じゃありません。

 枝を折らないギリギリまで寄せつつ、ひたすら隙間から隙間へ。

 上へ下へ、右へ左へ。


 体は縦になったりひっくり返ったり。どっちが地面なのか、一瞬わからなくなるほど体を回して。

 避けきれない場合は完全に畳んで枝の薄いところに突っ込み、でも枝を折らないように腕で払いながらすり抜けて。

 抜けきって即座に翼を展開。一瞬でも長く翼を動かしまた避けて。


 速く。


 目的はそれだけ。

 頭の中は真っ白に。

 考える暇があるなら体を動かして。

 でも無理矢理アタマを使って最短距離を探して飛び込んで。


 速く。


 ただそれだけを目指して。


 ひたすら避けに徹したせいか、今までの区間よりも短く感じられたその時間は何の前触れもなく終了。

 一際密集した枝を上から飛び越えるように抜けた直後に、それは見えました。

 ぐりちゃんとミーアさんが待つゴールライン。

 そこに近づくエレノアさんの姿。


 位置は私よりも前。

 私は枝の壁を越えたため、高度も上。

 ゴールはスタートラインを越えた向こう。でもゴールしたと認められるのは、城壁に着地した瞬間。

 エレノアさんは翼を広げて、既に着地体勢。


 だからってここまで来たら最後まで諦めません!


 ゴールに向けて一直線に、下降しながら加速。

 城壁に突撃するかのように飛んで、エレノアさんの上を通り過ぎ、ゴールラインを越え、翼を限界まで開いて急制動。

 直後に体を城壁の上に押さえつけるようにして斜めに着地。

 ズザザッと靴を城壁にこすりつけながら滑り続け、スタートラインの反対側の壁に当たる寸前でようやく停止。

 なんとか無事ゴールしました。


「~~~~っ、はあっ!」


 無事ゴールした安堵感と、全力を出した心地よい疲労に包まれて大きく息を吐き、ようやく人心地つきました。


 あ、危なかったです。木の城壁なので思った以上に滑りました。もうちょっとで壁に叩き付けられるところでした……。

 距離はそこまで長くありませんでしたが集中してたからでしょうか。吐いた息は思った以上に大きく、短い時間でしたが結構疲れたみたいです……。

 でも楽しかったです。結局負けましたが、本当に楽しかったです。


 エレノアさんの上を通り過ぎたとき、エレノアさんが先に着地したのが見えてました。

 なので私の負けです。

 あともう少しなので惜しかったです。やっぱり長年やってる人には敵いませんでした……。


 でも……。

 想像以上に悔しいです。ここまではっきりそう感じるとは思いませんでした。


 『年季が違うんだから負けて当然』、なんて考えてる一方で、『あそこでああしてたら』なんて考え始めてます。

 特に最初の直線ですね。あそこで全く追いつけなかったのは本当に悔しいです。

 昨日海で結構スピードを出してた気分になってましたが、本当にまだまだということですね……。

 私ももっと練習しませんと。鳥族はもっとスピードが出せるということがわかったんですから、私にだって出せるかもしれませんし。

 今度海を飛ぶときは、もっとスピードを出せるように練習しましょう……。


 ……他にも反省点はありますけど、とりあえずあとにします。

 着地が滑ってゴールラインから離れてしまったので戻りませんと。皆さんそっちで待ってますし。


 もう一度最後に、大きな息を一つ。

 気を取り直して、顔を上げて、皆さんのところへ。


 ……行こうとしたんですが……。


 あの、どうしたんですか? これ。


 ――ゴールしてすぐからああ(・・)ですの。


 いつの間にか飛んできていたぐりちゃんが、私の肩に座りながら教えてくれましたが……。


 ――予想は付きますけど、一応本人から聞くですの。


 なんとなく近寄りたくないんですけど……。


 ――諦めるですの。


 ですよね……。

 恐る恐る、その近づきたくない人。

 足を揃えた直立不動で、敬礼とかしそうなエレノアさんに声をかけました。


「あの、エレノアさ」「大変申し訳ございませんでした!!」


 負けたのは私なのに、今度は一体どうしたんですか……。




6/9誤字修正しました。


本当に真後ろが飛びにくいかどうかは知りません。

多分そうだろうと半分想像で書いてます。(真後ろが飛びやすいなら鳥の群れってV字にならずに縦に並ぶよね?という理由から)

マズかったら修正します……。


イオンとエレノアさんの性能は、

イオン→旋回性重視。ミニなアレだとソニッ○セイバー。

エレノアさん→最高速重視。ミニだったらマグナ○セイバー。

みたいな感じで。(ただし現時点)

と書いておいてアレだけど作者は四○郎世代。



Q:アールがキツいコーナーって何?

A:急カーブのこと。アールっって書くとわかりにくいけど、r=半径で考えるとわかってもらえるかと。rが小さい→半径が小さい円→小さく回る必要がある→スピードを落とさないと曲がれない、です。カーブを表す道路標識とかにR=400とか書いてあったりするけど、あれは半径が400mという意味になります。



実況版も書きましたので、物足りない方はそちらもどうぞ。

ただしいつもの方に実況していただくには宇宙の法則を乱す必要があったので活動報告に掲載しました。

いつも以上にやり過ぎてるのでご了承いただける方のみどうぞ……。


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