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12-8 嗚呼すれ違い。


 街の近くで大暴れしたのは私のはずなのに、何故か街の人から謝られました。

 鳥族の女性だけでなく、他の二人からも頭を下げられました。


 どういう事なのかサッパリわからないので、まず事情を聞こうと頭を上げてもらうようにお願いしましたがなかなか上げてもらえず。

 ようやく上げてもらったら、何故か三人共ものすごく緊張した面持ち。

 これから先生に怒られる生徒みたいな感じでした……。


 一歩間違えるとまた謝られそうだったので、少しずつ慎重に質問をしました。

 その結果を簡単に纏めると、『ワイバーン二体をあんな短時間で撃破するような人物に、大変な失礼をしてしまった。今は反省している』ということのようでした。


 皆さんは自警団の方だそうですが、どうも戦闘はそこまで得意ではないそうなんです。

 結界石があるので街の中は安全。街の外に出る理由が無ければ、魔物と戦う事もありません。

 全く外に出ないわけではないので、ある程度は戦える。ワイバーンだって倒せるけど、でも一人では絶対に無理。

 皆さんにとっては強敵の部類になるので、人数が揃ってても理由が無ければ戦わずに逃げるそうです。

 なのに私は二匹を同時に相手にして、しかもすぐに倒してしまったので、自分たちよりも間違いなく強い。

 そういうこともあって、自然と畏まってしまったそうです。


 ここまで聞いて、少し意外に感じました。


 急いで倒したので多少は見栄えのいい戦いに見えたかもしれませんけど、相手はただのワイバーンです。

 体の大きさは以前戦ったワイバーンと大きな違いはなかったので、多分ですが同程度の強さだったと思います。

 少しは戦いに慣れてきた私にとっては、恐れるほどの相手ではありません。


 プルストさんは『イオンの話聞いてソロで挑んできたが、今なら一人でも余裕だった』と言ってましたし、『空から落とすのが面倒だが落としてしまえば大したことない』とも言ってました。

 キイさんだって『あたしは見てるだけだったけど、多分あたしでも倒せる。空に居ても弓で攻撃できるから、プルストより私のほうが速く倒せるかも』なんて言うくらいです。


 二人はとても強いので、誰にとっても大したことない魔物であるとは思いません。ですがワイバーンが厄介な一番の理由は、“相手が空に居る”ことだと思います。

 なので同じ空で戦える鳥族の方からすると、そこまで恐ろしい魔物ではないと思ってたんです。

 でも今聞いた話によると、どうもそうではなかったようで……。


 とにかく事情はわかりました。

 でもそんな、私が強いから、なんて理由なら謝っていただく必要はありません。むしろするなら私のほうです。

 気付かなかったとはいえ、ワイバーンを連れてきてしまいましたし。


『結界石があるから何の被害もない。ワイバーンに追われて街に逃げ込むのは、この街では珍しいことではないからな。以前オレストに行った帰りで、私も同じ目に遭ったばかりだ』


 でも、街の近くで戦うなんて迷惑をかけてしまいましたし……。


『しばらく放っておけば勝手に去っていくのに、わざわざ狩って頂いたのだ。こちらが礼を言うことはあっても、責めることはない』


 ……そもそも、失礼な事なんてされてません。


『我々はこの街の自警団だが、他の街から来た者を蔑ろにするつもりはない。にも関わらず、安全のため街の中に迎え入れることよりも先に軽口を叩いてしまった。しかもこれほどの凄腕に対して『逃げてきた』なとど侮辱まで。これを失礼でなく何と言うのか』


 ……軽口はコミュニケーションとして必要ですし、逃げてきたのは事実ですし、私は凄腕と言われるには……。


『だが――』


 これ以上は謝罪合戦になりそうだったので引っ込めました。

 私が言っていいことではないですが、お互い自分の非を認めて反省しています。何よりどちらも被害はありませんでした。

 双方次回から気を付けましょうということで、なんとか収めて頂きました。


 そこまで話を持って来るほうが、ワイバーンと戦うよりよっぽど大変でした……。

 ワイバーンのおかげで街を見つけて、ワイバーンのせいで街に入れなくて、ワイバーンを倒したらこんなことになって……。


 ――ワイバーンに振り回されてますわね。


 今後、向かってくるワイバーンは躊躇なく倒すことにしましょう。


 ――ワイバーンも災難ですの……。


「どうにも納得いかない部分はあるのだが……これ以上はむしろ迷惑というものだな。ならせめて街の案内をさせてもらえないか? この街は余所の街とは随分違うからな、初めての者は戸惑うはずだ。それくらいはさせて欲しい」


 正直助かりますし、それで納得してもらえるならお言葉に甘えたほうがいいでしょうか。


「私は助かりますけど、自警団の仕事はいいんですか?」


「街に不慣れな者をサポートするのも立派な役目だ。知っての通り結界石のおかげで魔物は入ってこないうえ、この街は余所から人が来ることも稀だ。正直に言えば暇でな。門番も慣習で置いているようなものだ」


 基本的に平和な街で、そこに入ってきた私はただの異分子です。

 問題が起きないように見張る、ではないですけど、円滑に馴染めるようにサポートするというのは街のためにもなりますしね。


 それと暇な時間を仕事に当てられるというのは重要です。接客業だとお客様次第で時間が空いてしまうことがあるんですよね……。

 暇をするには時間がもったいないからと油脂類の残量チェックや部品の棚卸し、普段しない奥の掃除や片付けを始めた途端、何故かお客様が来るという不思議なジンクス。

 仕事が増えるのはいいことなんですけど、あのタイミングの悪さにはなんとも言えないものがあります……。


「そういうことならお願いします。それとできればでいいんですけど、甘い物を買えるお店を教えてもらえると……」


 これも仕事、ということなので案内をお願いすることにしました。

 それと話の流れを変えるために案内先も希望します。他意はもちろんあります。


「承知した。一通り街を案内したら、茶と一緒にロールケーキを楽しめる店に行こう」


「ちなみに持ち帰りは……」


「もちろん大丈夫だ」


「ぜひお願いします」


 安心しました。これでお土産ミッションもクリアできます。


「まだ名乗ってなかったな。自警団の団長をしているエレノアだ。よろしく頼む」


「冒険者をしているイオンと言います。それからこちらは契約精霊のグリーンです。よろしくお願いします」


「よろしくですの」


「イオンにグリーンか。精霊を見るのは初めてだな……もし良かったら、あとで話を聞かせてくれないか。精霊にも興味があるが、イオンの戦い方にも興味があるのだ」


 戦闘は得意ではないと聞きましたが、でも自警団の方ですしね。参考にしたいとかでしょうか。


「話をするのは構いませんけど、内容については保証できませんよ?」


「言葉だけで伝わるものではないからな、問題ない。ただ本人の口から聞いてみたいだけだ」


 そういうものですか。


「それなら、お茶を飲みながらで」


「頼む」


 声が少しだけ弾んだので、表情には出ませんけど嬉しいみたいです。

 期待外れにならないといいんですけど……。


「では街の案内だが、どこに行く? まずは用事を済ませてからのほうがいいと思うが」


「特に用事は無いので、どこからでも大丈夫です」


「用事が無い? では何故わざわざここまで来たのだ?」


 海の精霊さんからも似たようなこと聞かれましたけど、やっぱり気になりますよね……。


「単純に知らない街に来てみたかったというのと、こちらの世界の鳥族の方に会ってみたいなと思っただけなので。実はこれといった目的は無いんです」


 一言で言えば『遊びに来た』という感じです……。


「というと……イオンは異世界の冒険者なのか。そういえば以前オレストを尋ねた際に聞いたな。異世界の冒険者は凄腕揃いだと。道理で強いわけだ……」


 私が特別強いわけではないとわかってもらえて良かったです……。


「それなら案内は私に任せてもらおうか。普通に一周回るだけだがな」


「むしろそれでお願いします」


 基本は大事ですので。


「では改めて。ようこそ森の街ホーレックへ。静かすぎる街だが、楽しんでいってもらえると嬉しい」


 招き入れるように片腕を街に向けるエレノアさんに連れられ、ついに街の中へ。


 森の街ホーレック。

 その名の通り、森そのものが街になったような、現実では考えられない不思議な街でした。


 大きな木の幹をくり抜いて作られた家。

 幹の外側をそのまま利用して作られた螺旋階段。

 枝から枝へ張り巡らされた、空中の道。

 そんな、森そのものが街とでも言うべき光景が広がっていました。


 すごいですね……今ままでの街は現実世界でも外国に行けば見ることが出来そうな街ばかりでしたが、この街は絶対に無理です……。


 ――今までとは全く違いますの。


 あれは公園でしょうか。すごいですよ、木をくり抜いた滑り台とか枝をそのまま使ったブランコとかあります。

 あっちの大きな根っこ、バスタブみたいにくり抜いてクッションが敷いてあるみたいですけど、もしかしてお昼寝用のベッドとかでしょうか。


 私はあまり読んだことありませんが、童話の世界って言えばいいんでしょうか?

 もちろん普通の建物もありますが、木の家に比べれば僅かな数です。

 今までの街とは全然違う、とにかく素敵な街です……。


 そんな素敵な街ですが、それより何より私の目を引くのは、なんと言ってもあちこちに見える鳥族の姿です!


 右を見ても左を見てもと言うほどではありませんが、少し探せば何人もの鳥族の姿が見えます。

 普通に歩いてる方、お店で買い物してる方。

 翼が当たりそうなほど寄り添って飛ぶ方や、宅配の仕事でもしてるのか荷物を持って飛んでる方も居ます。

 あっ! あっちは鳥族の子供が二人で歩いてますよ!

 小学生くらいの男の子と、それよりも小さい女の子。

 兄弟か何かでしょうか。男の子が手を引いて、女の子とお店らしい木に入っていきました。


 いいですね……空を飛べる鳥族が、普通に生活しているだけのこの光景。

 見てるだけでも不思議と嬉しいです……。

 本当にいいですね……ものすごくいいです……いつまでも見ていたいです……。


 ――コーヒーだけで一日中眺めていそうですわね。


 今度そうしましょう。絶対にです。


 ――せめてお菓子も準備するですの。


 当然です。どっさり用意します。

 やっぱり来てよかったです……。


 ……でも、少し気になることがあるんですが。


「あの、エレノアさん。さっきから見られてるような気がするんですが……」


 どういうわけか注目されてるんです。

 しかも種族なんて関係無しに。


「余所から人が来るのは珍しいからな、それで見てしまっているだけだろう」


 よく見ると手を振ってくれる方も居ますし、悪く思われているわけではないようです。

 嫌がられているわけではないようなので安心しました……。


「まぁしばらくは見られてしまうだろうが、すまないが許してやってくれ」


「いえ、私だってこの街が珍しくて見させてもらってますから」


「見た目だけは他の街とは違って見えるだろう? だが中身まで違うわけではない。例えばだが――」


 私が入ってきたのは、街の南門。

 メインストリートを北に向かって歩きながら、エレノアさんに解説して頂きました。




6/7誤字脱字修正しました。


小売業とかで、お客さんが減ってきたタイミングで循環棚卸を始めても、始めた途端に客さんから声をかけられる人、きっと多いはず。

そして対応終わって戻ってくると在庫数変わってて『また数え直し……』って凹む人、きっt(略



エアレース、選手の皆さん、見に行った皆さん、お疲れ様でした! (まだ結果は見てない)


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