12-7 嗚呼すれ違い。
唐突ですが視点が変わります。
「皆さーんあちらをご覧くださーい。あちらがブレイズロード中盤から登場する新しい魔物、ラーバオクトパスでーっす」
はーい皆さんお元気ですかー? 私は元気ですが心の汗が枯れてしまいそうなほど暑いブレイズロードに来ていまーっす。人生には潤いも必要ですよ?
どうしてこんなところに居るかといえばもちろん依頼です。
その名も『人気添乗員と行く日帰り弾丸ツアー! 突入準備からボス戦まで丁寧にサポートするドキワク最新ダンジョンの旅、炎道旅情編!! ~ポロリもあるかも!?~(仮)』の真っ最中なわけです!
ダンジョンの攻略情報なんて探せばわんさか出てくるわけですけどね、でもやっぱり経験者に実地で案内してもらえるっていうのは誰にとっても心強いものなんですよ。
言葉やスクリーンショットだけの解説、動画をどれだけ見たって、やっぱ実地には敵わないですからねー。
ダンジョンなんて何度も失敗して攻略するもんだーって言う人のほうが多いんですけどね。
でも最初っから効率最優先で、レベルも装備もキッチリ準備したうえにアドバイザーも用意。何の心配もなく攻略したいっていう人だって、それなりの数が居るわけです。
軟弱? 一つの見方としてそれは事実ですが、そう言い切っちゃうのはちょっと残念ですよ?
新しいダンジョンとなれば誰だって気になるもんです。
日に日に攻略報告が増え、新しい素材で装備を作ったという自慢が相次ぎ、なのに自分たちは準備が整うまでは絶対に入らないという苦行っ。
マゾいですよねー。私には無理です。いいから突貫させろと言います。そして突撃して死ぬ。でもってムっちゃんに怒られる。ここまでテンプレ。
いいじゃないですか入りたいんだもん! 最近依頼のほうが多くってそんなことしてる暇ないすけどね!
とまぁ私は無謀な突撃も好きですが、徹底的に準備してから入る人のことを蔑むつもりは一切ありません。
むしろそのマゾっぷりは尊敬しますね。私には絶対無理なんで。最近は無理に突撃しようとしたらムっちゃんから強制停止くらうんで、私も準備せざるをえないですけど。ぐすん。
とにかく楽しみ方は人それぞれ。私どもよろずやは、その楽しみをちょこーっとサポートしてちょこーっと報酬を頂く。
全力全開の隙間産業ですね!
そんなわけで今やってるダンジョンツアーはうちの目玉商品。予約は二週間待ちですよ!
消耗品の準備から装備の選定、あったら嬉しい助かるスキルのアドバイスといった準備段階からスタート。事前準備はホント重要ですからねー。
でも本番はやっぱりダンジョンに入ってから。魔物との戦闘がメインです。
普通のMMOだったら攻撃パターンがわかればかなりの対策できるけど、VRMMOだったらそう簡単にはいかないんですよ。
操作するのはコントローラーではなく自分の体。いくら相手の攻撃パターンがわかっても、自分の体が思い通りに動くとは限らないわけです。
このゲームの戦闘は知識と経験、どちらも大事。
だからこそ、実地でのアドバイスは重宝してもらえるというわけです!
「見てくださいあの体っ。タコの姿なのに溶岩みたいなあのドロドロ軟体ボディは、見た目通り接触ダメージが大きいですので気を付けてくださいねっ。でもあんなに赤い体見てると美味しそうにも見えません? いや実際美味しいんですよ。クラン・えあーらーくが『タコ刺しに最適だ!』って言ってましたから、買い取りも高値付けるって言ってましたよ。でもあんな姿見てるとタコ焼き食べたくならないです? なりますよね? というわけで作ってもらったんですけどこれがまた美味しくって」
「メグルさん、途中から食べる話しかしてないんですが。いやそっちも興味ありますけど」
「おっと失礼つい食欲が。続きは倒してからにするとして、まず私だけで行きますからしっかり見ててくださいねー」
喋りながらラーバオクトパスに向かって真っ直ぐ突き進む。
三体居るけど気にしない。もう何回も倒しましたからね、これくらいヨユーですよ。よ・ゆ・うっ。
「はい、ではラーバオクトパスの攻撃その一。遠距離での火球攻撃ですね。見ての通りモーションが遅いんで、しっかり見てれば楽に避けられます」
墨を吐くような体勢から火の玉を飛ばしてくるラーバオクトパス。はっきり言ってかなり遅いので、よそ見しながらでも余裕で回避。華麗なステップを見よ!
「ちなみにこれを撃ち始めると向こうからは近づいてきません。だからといってこれ以上離れて攻撃しようとするとー」
バックステップで下がって、火球を飛ばしてこない距離からナイフを投げる。
するとラーバオクトパスはすぐに体を固めて、防御の態勢に入ってしまった。
ドロドロだった溶岩の体が冷えて固まった岩みたいになって、私が投げたナイフをあっさり弾く。
「という感じで防御態勢に入るので、防御を抜くのは結構大変です。防御体勢に入るとすぐ固まっちゃうので、ギリギリの距離だとタイミングもシビアです。注意してくださいねー」
再度近づいて火球を避けながらナイフを一本、ワザと遅らせてもう一本投げる。
最初の一本はキッチリダメージ与えたけど、遅らせた二本目は防御が間に合って弾かれた。動きが遅いんだから防御ものんびりでいいんですけどねー。
「なので近づけば近づくほど当てやすくなります。だからって近づきすぎると」
思いっきり無防備に近づいた私に、ラーバオクトパスが鞭のように足を振るってきた。
足はクネクネしてて短く見えるけど、真っ直ぐ伸ばすと結構長い。慣れないと結構避けにくいんですよこれが。
「こんな感じで直接攻撃モードに移行してきます。火球は飛ばさなくなりますけど割と攻撃速いんで要注意です。とはいえ全ての足を攻撃に使ってくるわけじゃないんで、絶え間ない連続攻撃ってほどではありません。一撃一撃をしっかり見てれば大したことないです。あと足が熱いので、そういうのが苦手な人は気を付けてくださいねー」
いやホント、このダンジョンで一番の敵は暑さですよ。足を振ってくるだけで結構熱気が伝わってきます。
ダンジョン全体が暑い上に敵の攻撃も熱い。
暑さでダレてやられたパーティなんていくつも見ましたからね。今じゃ冷却グッズの用意が最重要事項になってます。
「接近戦を挑む人はここからが大変ですから、しっかり見てくださいねー」
言いながらさらに一歩踏み出す。
するとラーバオクトパスは怯えたように体を縮めるけど、本当に怯えてるわけではない。
次の瞬間、全ての足を目一杯広げて抱きつくように跳びかかかってきた。
足が長いので左右にも避け辛いし、そこそこスピードがあるのでバックステップで避けるのも結構キツイ。
なので逃げ道は、下。タイミングを合わせてスライディング、抱きつき攻撃を避ける。
「こんな感じで飛びかかってきますが慌てずに下をくぐってください。今はスライディングで避けましたが、結構大きく飛んで来るんでタイミングが合えばしゃがむだけでも避けられます。重要なのは最初のモーションを見逃さないことですね。それさえしっかり見てればー」
続いて飛んでくる二匹目と三匹目には、胴体部分にナイフを投げる。軽く当たっただけなのに、ラーバオクトパスは足を丸めて防御態勢に入った。
大したことない一撃でも、攻撃を中断して防御態勢に入ってしまうのです。
「こうやってカウンターで撃ち落とすこともできます。なのでカウンター狙いで近づくのもアリですけど」
最初に避けた一匹がもう一度飛んできそうだったので、ショートカットで使い捨て用のボロ盾を取り出し、はいどうぞと投げてあげる。
ラーバオクトパスは抱きつくように盾にまとわりつき、あっさりと盾の耐久値をゼロにして壊してしまった。
「接触ダメージが結構痛いんで、失敗時のリスクも大きいと考えてください。コイツの攻撃で一番警戒するのはこれです。まともに張り付かれるとなかなか剥がれないんで、下手すると体力満タンでも削りきられます」
タコの魔物らしくべったりくっついたらぜーんぜん離れない。
全身接触ダメージ、しかも継続型。もう最悪の組み合わせですよねー。
「基本は一人が中距離でタゲ取って火球を吐かせて、他の人が遠距離から削るのが一番安定します。接近戦で速攻するには慣れが必要ですね」
私はできますけどね! むふー!
「とまあこんな感じですね。何か質問はありますかー?」
タコをおちょくるようにステップで避けながら質問たーいむ。もちろんタコには背を向けたまま! 私くらいになればこれくらい余裕ですよ!
私は心の目を持つ女。お前の動きなど手に取るようにわかるのだ!
冗談です。
いや心の目うんぬんは冗談だとしても本当にわかるんですよ、見てなくても! 気配っぽいのが! 嘘じゃないですよ!
イオンさんだって言ってたんで! 私だけじゃないんで!
この不快極まりない肌にまとわりつく熱気のおかげで、空気の流れがわかりやすいんですよねー。
なので必殺! 『お前の攻撃など掠りもせんわぁ!』を簡単に繰り出せるのです!
獣人ってスゴイですね!
「なんでメグルさん、そんな接近戦できるのに鳥族なの? ていうか鳥族で接近戦って危なくない?」
「戦闘に全く関係なかった! でもそれ大した理由ないですよ」
私的には最重要なんですけどねー。
「鳥族にしたのは可愛いから飛びたいから! 接近戦は私がやりたいから! つまりは愛です!」
「あ、愛っすか」
そうですとも他に理由なんかありませんとも!
効率? そんなものは二の次三の次です!
そりゃ私だって鳥族止めようとは何度も考えたし、周りからはもっと言われましたよ。
さんざん悩んでとりあえずキャラメイクまで行って、サンプルの私見るとやる気ゲージがマイナス方向に振り切れたのでやっぱりキャンセル。
『こんなの私じゃない!』的な? いやただのアバターなんですけど。
でも鳥族以外考えられなかったので作り直しは却下しました!
戦闘スタイルだって、ほとんどの鳥族は遠距離タイプ。
力はないし防御力もないし、はっきり言って接近戦は向かないですからね。完全魔法職向けの狐族や鼬族ほどじゃないけど。
だから大抵は遠距離から弓で削りながら、アイテムだったり魔法だったりの、マルチなサポート系やってる人がほとんどです。
目撃情報があったNPCの鳥族も弓持ってたそうなんで、本職だってそういう系のビルドになるっぽいです。
当然と言えば当然です。身体能力の低い鳥族が接近戦なんてリスキーな戦い方、するはずがないです。
NPCは死んだら復活しないですからね。
イオンさん見てれば鳥族でも大ダメージ出せるってのはわかりますけど、危険度だって上がるわけですから。
いのちだいじにです。
ちなみに目撃状況は魔物から逃げてる場面が多いらしいです。逃げるっていうか無視してるだけなんでしょうけど、でも鳥系の魔物一匹が相手でも無視するそうです。
一匹くらいなら倒しましょうよと思うかもしれませんけど、無視できるなら無視しますって。死にたくないですもん。
それとワイバーンから逃げてる姿も目撃されてます。
ワイバーンから逃げられるっていいですよねー。移動速度速いからほとんどのパーティは逃げられないし、慣れないと倒しにくいし、結構初心者キラーです。
あんなのがわんさか居るから北方には行きづらいんですよねー。そもそもルートだって見つからないし、一体どうやって……って何の話してましたっけ。
思い出しました戦闘スタイルの話でした。
私の場合ですね、弓とか遠距離攻撃っていうのがダメなんですよ!
サポートするのはいいんですよ、回復アイテム配って回ったりバフかけて回ったりっていうのもそれはそれで面白そうだし。
だけど遠距離攻撃はダメです。
一カ所にじっとして、遠くの敵に狙いを定めて、弓で攻撃する。
何がダメってその『一カ所にじっとして』の部分がダメなんですよ! もう動き回りたくてしょうがないんで!
キイさんみたいに接近戦と兼任するんだったらオッケーです。むしろやりたいです。
でも鳥族の弓はむしろオマケ。メインはサポートです。いやどっちもオマケみたいなものですかね。オマケにオマケ足してようやく成り立つ的な。
とにかくそんな感じなんで、前衛に出るなんてもってのほか。動き回るとか絶対怒られます。
基本的にサポート役は後衛と固まって行動しますからね。なのでいいポジションに移動して狙い撃ち! すぐに移動してもう一射! とかではなく、固定砲台になっちゃいます。
ずえっっっっっったい我慢できずに動き回る自信がありますね!! というか初期の頃に試したけどそうだったんで!!
落ち着きがないとでも何でも言ってください! じっとしてるのダメなタイプなんで無理です!
なのでロロさんとか本気で尊敬してます! 二時間とか平気で待ち続けるらしいですよ? 私にはどう頑張っても無理なものはムリー!!
でもデスクワークは大丈夫です。
あれです、デスクワークは動かないことが前提だから動かなくても不満はないけど、戦闘では動き回れるのにどうして動いちゃ駄目なんだー! って感じです。
そんなこんなあってイロイロ試した結果、軽装ダガー二刀流の紙装甲接近戦仕様に落ち着いたわけです!
効率とか最適解とか、否定はしないし私だって考えますけど、でも譲れない部分は好きかどうかが最優先!
愛というかぶっちゃけ趣味を通してるだけですね!
さっきも言いましたが楽しみ方なんて人それぞれです。
人気種族を選んで効率的にレベルアップして魔物をなぎ倒していくのが楽しいってのはわかります。無双ゲー好きなんで。
でも弱いけど好きなキャラにひたすら愛情注ぐ楽しみ方だってあるわけですよ!
戦略シミュレーションでステータスは弱いけど絵とか声が好きなキャラだから必死で育て続けるのは私だけではないのです! 多分きっと絶対!
何度やられてもひたすら立ち向かい、ただひたすら自分の戦い方を昇華させ、一歩一歩強くなっていく。
費やされるものは時間とお金! そして原動力は愛!!
あ、これも十分マゾいですね。私もそっちの人でしたかー。
あいにいきたっていいじゃない にんげんだもの めぐる
SとかMとかそういう関係の人たちには何より愛が重要だそうですから間違ってないはず! オトナの世界はスゴイですね!
とにかく種族も戦い方も好きだから選びました! 文句は聞くけど耳タコなんで勘弁してください!
「でもそれだけ強くなれるってスゴイですね。ラーバオクトパスだって簡単にあしらってるし」
褒められたーうわっはーい!
もっと褒めてくれていいんですよー私は褒められると伸びる子ですよー。
まぁ表向き遠慮するんですけどね! 私は控えめな大和撫子ですからね!
「いやあそれほどでもないですよータコなんて皆さんでもすぐ慣れますってー! こうやってタコとの真ん中でステップふんでダンスすることだってぅあっつい!! あっつううううう!!」
いつの間にかタコが二匹増えてるし! 火球飛ばしてきてるし背中に火がついてるし!!
つい夢中になって天井から来るの忘れてた! 気配探るの忘れてた!
ていうか逃げたいから最初の三匹まで攻撃してこないでーーー!!
「あっつあっつ! タコの移動は地面にへばりついてゆっくりと近づいてくるんであっつい! たまに天井からも来るんで気を付けてくださいねあっつううううう!! でもって慌てて下がると接近戦モードから遠距離モードに変わって連続で狙われちゃうんで気を付けてくださいねえええええ!!」
「あ、はい。気を付けます」
「すごいなー。今度は体張って危険性を教えてくれたぞ」
「教え方もわかりやすいし、これはこのツアー何回も依頼したくなるな」
「体を張ったギャグまで仕込んでるとか、すごい芸人魂だな。尊敬するわ」
ギャグじゃないんでガチなんで! ていうか芸人扱いしないで!
調子に乗りましたゴメンナサイ土下座して謝るんで誰か火を消してくださいポーションください回復してくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!
6/5 誤字脱字修正しました。
戦略シミュレーションのユニット選択を好きか嫌いかで選ぶのって当たり前ですよね!
エアレース、強風で予選中止なんですね……明日の決勝はどうなることやら……。