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12-5 嗚呼すれ違い。


「こんにちはぐりちゃん」


「ごきげんようですの」


 いつものようにログインして、ぐりちゃんと挨拶。

 そのまま一階のリビングへ。


「イオンさん、こんにちは~」


 リビングには女性陣の三人だけ。プルストさんとバルガスさんは居ませんでした。

 とりあえずコーヒーでも入れましょうか。


「ぐりちゃんはあっちで遊んでていいですよ?」


「遠慮しますわ」


 キッチンに入りつつ勧めてみますが、見向きもせず即答されました。


「そんな遠慮せんと、楽しいでー」


「お断りしますわ」


 アヤメさんからも誘われますが、見てはいけないというかのように顔を背けて断ってますね。


「あのぉ~あるじさまぁ~?」


「なんやー?」


「これわぁ~たのしいのですかぁ~?」


 フミちゃんは少し疑問というかよくわからないようですが、アレは間違いなく楽しいです。


「最高に決まっとるわー」


 アヤメさんの手はフミちゃんの頭の上にあって、耳の間を何度も行き来してます。


「うん、最高」


 キイさんは右の尻尾で、


「本当に最高ですよ~」


 エリスさんは左の尻尾です。


「フミは撫でられるのイヤか?」


「とぉってもぉ~さいこぉですぅ~」


「ならええやん」


「はぁ~ぃ~」


 畳の上でフミちゃんを囲む三人。

 さっきからずっと、フミちゃんは蕩けそうな声で気持ちよさそうです。

 その場に居る誰もが至福ですね。素晴らしいです。


「本当に混ざってきていいですよ?」


「ですが……」


 さっきまでそっぽ向いてましたが、いつの間にかチラチラ見てるのでもう一度勧めてみます。


「ぐりぃんせんぱいもぉ~どうぞぉ~」


「ほら、フミちゃんもああ言ってますし」


「そっ、そこまで言うなら……仕方ありませんわね……」


 私の肩からおりて、ゆっくりと飛んで行くぐりちゃん。


「ぐりはここや」


 アヤメさんが示したのは、唯一空いている背中です。


「背中ですが、いいんですの?」


「もちろんですぅ~」


 ゆっくりと、というか恐る恐る近づいて……。


「それでは、失礼しますわ」


「どうぞ~」


「では……」


 許可を得て、横座りでフミちゃんの背中に乗っかりました。


「っ!! ……………………」


 フリーズしました。


「……………………」


 フリーズしてます。


「……………………ふ」


 ふ?


「フカフカですわぁ……っ」


 蕩けました。

 そのまま全身預けるようにくっついて、全身でフカフカを堪能し始めました。

 完全に虜になりましたね。もう無理です。いろいろと。


「苦労しただけあって、かわええなぁ~」


「素晴らしいですね~」


「この組み合わせはヤバイわ……」


 アヤメさんが苦労したと言うように、ぐりちゃんは今日までずっとフミちゃんに触らなかったんです。

 私は二日目で敗北しましたが。


 だってアヤメさんが頭の上に乗せてるんですよ!? 撫でなくてどうするんですかっ!


 ぐりちゃんは器の中に逃げてました。ズルいです。

 ですがぐりちゃんも敗北ですね。これでもう遠慮なく撫でられます。

 コーヒー入れたら私も混ざりましょう。

 まだお腹が空いてますからね。首の下辺りのふわふわもふもふが最高なんです……。


「ところでイオン、今日の予定は?」


「予定というほどではないんですが、考えてることはありまして」


 何となく思いついた程度なので、変更してもいいことなんですけど。


「何するつもりだったの?」


「北に行ってみようかなと」


「北って……もしかして山脈越え?」


「はい」


 以前サブクエストの途中で聞いた、北にある鳥族が住んでいる街に行ってみたいんです。

 昨日はこれと海とで悩んだ結果、海を選びました。海のほうが遠慮なく飛べると思ったので。


「北の方には鳥族が住んでる街があるそうなので、そこに行ってみたいなと」


「え、そうなの? 街があるのは聞いてたけど、鳥族が住んでることまでは知らなかったなぁ」


「言われてみれば~鳥族のNPCは全然見ませんね~。目撃情報はありましたけど~」


「なかなか見ぃへんのは、そもそも遠い街に住んでるゆうことか」


 山脈を越える地上のルートは見つからず、無理に越えようにも魔物が多数。

 街同士が積極的に交流してるのならともかく、そうでないのであれば、いくら空を飛べる鳥族だからって積極的に他の街へ行く理由は乏しいはずです。

 姿を見ないのも当然ですね。


「けど会ってどうするんや?」


 会って……どうする……。


「特に考えてなかったって顔だね」


 ……その通りです。

 この世界の鳥族に会ってみたいというのは本当ですが、あとは単純に観光気分なんですよね。

 ゲームを始めてからあっちこっちに行きましたが、どこも知らない場所ばかりだったので特に意識しなくてもいろんな場所に行けました。


 でも最近、知らない場所に行く機会が少ないなぁと思ってたんですよね。

 いえクエストやダンジョンにはいくつも行ったので知らない場所も多かったんですけど、でも“初めて”という感覚が小さかったというか。

 いつも知らない、新しい場所に行きたいというわけではないんですけど、ふとそういう衝動に駆られてしまったというか。

 なので鳥族に会ってどうするかと言われると……。


「とりあえず会ってみたいということですね~」


 まさしくその通りです……。


「ならテキトーに土産頼むわー」


 その通りなので了解しました……。


「と、ところで、北の街に行かなかったら何か予定でもあったんですか?」


 何故か視線が温かいので、話題を変えます。


「いや全然。聞いてみただけ。だからお土産よろしくー」


「新しいおやつがいいですね~」


「はい……」


 ダメでした……。


 なので(?)フミちゃんをいつもよりしっかりと撫で回してから拠点を出ました。

 あのフカフカもふもふは本当に素晴らしいです。ああいうものこそ大事にするべきです。

 今日はお腹と尻尾だったので、次は耳を撫でさせてもらいましょう……。


 拠点から出た今は、まず市場に向かっています。

 昨日ドーナツとコーヒーが無くなりましたので、その補充です。

 コーヒーは拠点でも入れられますがリンジーさんのもののほうが美味しいんですよね。私は料理スキルを修得してないので当たり前ですが。


 補充が終わったら北に向かう前に森の精霊さんに報告に行きましょうか。

 用事が有るわけではないですが、海の精霊さんのこともありますし……あっ。


「撫でるのに夢中で、話すの忘れてました……」


「一度でもアレに触れてしまうと、つい忘れてしまうのも無理ありませんの……」


 魔物のことも海の精霊さんのことも、一言も話してません。

 二人して完全に忘れてましたね……。


「どうしますの? 戻りますの?」


「……いえ、明日にしましょう。報告書のほうもまだ書き終わってませんし」


 何度も言いますけど急ぎではないですし。

 それに、


「こんにちは、メグルさん」


「イオンさんこんにちわーっ。お元気ですかー? 私は落ち込んだりもしたはずなのに何故か元気でーっす! 元気なのでこれからダンジョン二連続突入ですよ! あれー? さっき出てきたばっかり気がするのになー? このままじゃ私だって、か・ろ・う・死・す・る・ゾ♪ イェイッ☆ それじゃ急ぎますんでまた今度お茶でもしましょうねぇぇぇぇぇぇ…………」


 私の目の前を、何やらおかしなテンションのメグルさんが走り抜けていきました。


「エス以外は、忙しいみたいなので」


「ですわね」


 無事北の街に行けたら、メグルさんの分もお土産買っておきましょう……。


 気を取り直して市場に着きました。

 今日はリンジーさんが居ますね。

 最近居ないことが多かったので、少し久しぶりな感じです。

 今は違う方に販売中のようなので、少し待って……あれ、もしかして?


「こんにちは、リンジーさん」


「やーイオン、ちょっと待ってねー今追い返すからー」


「ひっど。って、イオン?」


 リンジーさんと話してたお客さん。

 見覚えのあるフード付きローブのその人は、先日拠点の前で会ったアイリさんでした。


「こんにちはアイリさん」


「やっほーイオン。それとこないだは挨拶しなかったけど、そっちの精霊ちゃんもね」


「グリーンと申しますわ。どうぞよろしくですの」


「はいよろしくー」


 二回目なのでぐりちゃんの紹介もしようかと思いましたが、その必要はなかったですね。


「久しぶりなうえに偶然だね、こんなとこで会うとか」


「いやいやー、むしろ会わなかったほうが不思議だからー」


 そうですねと言おうとしたところに、リンジーさんの言葉が割り込みました。

 会わなかったほうが不思議というのは、どういうことでしょう?


「だって二人とも大量に買ってくうえに週に何回も来てたからー。同じことする客がすれ違いしてて、見てるこっちは面白かったけどねー」


 なんと、アイリさんもだったんですか。


「ほほぅ、ここのドーナツに目を付けるとは。なかなかやるではないか、越後屋」


「いえいえ、お代官様ほどでは」


 何故か突然悪代官ごっこが始まったので定番のセリフを返すと、一瞬驚いたあとすぐに破顔して、親指を『ぐっ』してくれました。

 リンジーさんが『山吹色にしたほうがいいー?』と言ってるのには、両手でバツを作ってますが。


「思ったよりノリ良いねーまさか普通に返してくるとわ」


「仕込まれましたので」


 以前マリーシャに振られたときは、何のことかわからなかったんですよね……。


『越後屋って言われたらお代官様って返すのが礼儀。本能。自然の摂理。日本人の魂に刻まれた宿命と言ってもいい。だから絶対外しちゃダメだからね。私が泣きそうになるから!』


 すがりついて訴えられました……。


「仕込んだ人よくやった。あ、勝手に呼び捨てしちゃったけどいい? 私のことはアイリ様って呼んでいいから」


「もちろん大丈夫ですよ、アイリ様」


「自分で言っといて何だけど、やっぱナイわ。様は無しでお願いします」


 即座に撤回されました。

 不思議と違和感なかったので私としてはこのままでもいいんですけど、アイリさん的にはイヤなようなのでやめましょう。

 背中が痒そうな顔してます。


「ただの食いしん坊なのに、身の程を弁えないからだねー」


「ひっど。否定しないけど」


 しないんですね……。


「『在庫全部ちょうだい』とか平気で言ってくるからー」


「あっはっはー」


 そんなことしてたら否定できません……。


「こんな美味しいの作るリンジーが悪いでしょ。私悪くない」


「出禁にするよー」


「ごめんなさい私が悪うございました」


「よろしい」


 どこかで見たようなやり取りです……。


「じゃ今日の分ねー」


「やっぱ一日各十個限定は解除しない?」


「だーめー」


 各十個? それ以上買わせてもらったことがあるんですけど……。

 ……リンジーさんから視線が飛んできましたね。何も言わないほうが良さそうです。


「ちょっと何その視線。あっ、イオンには限定ないんでしょ。ずっるー」


 鋭すぎです……。


「イオンは一人で食べてるわけじゃないからいいのー」


 だよね? という問いに、はいと頷いて答えます。

 ということは、アイリさんは一人で食べてるんでしょうか?

 一人で各十個。それで週に何回も買いに来る。

 ……食いしん坊と呼ばれても仕方ないですね。


「え、イオンってパシらされてるの?」


「そうではないですよ。いつパーティを組むかわからないので、何となく多めに買ってるだけです」


 エスでどこかに行くとか、ロロさんとどこかに行くとか。

 大体適当なんですよね。その日その時になって『じゃあこれからあそこ行こう』が多いので。

 思いつきでどこか行くのは全然構わないんですけど、休憩中に一人だけ食べてると『いいなぁ』という視線が飛んでくるんですよね……。

 あ、配ってばかりではないですよ? 交換したりとか、私が貰う側になることもあります。

 人によって持ってる物が違うので面白いんですよね。キイさんは私みたいにお菓子が多いですし、アヤメさんは豚まん一択。プルストさんは男性らしくお肉が多いです。


「それといつも一緒に食べてる人が、街に入れないからというのもあります」


 これも大きな理由ですね。精霊さんは街に入れませんので。

 街に入れないというか、森から出られないんですけど。あ、海もでした。


「街に入れない? 一体誰と食べてんの」


「西の森に居る精霊さんとです」


 海の精霊さんのことは、一応ですが黙っておきましょう。

 人通りも多いですし。


「へぇ、面白いのと食べてるね。私も気が向いたら行ってみよっかなー」


「だったら、今から一緒に行きますか?」


 いつも私とぐりちゃんと精霊さんの三人だけですからね。人か増えるのも楽しそうです。


「その誘いには是非とも乗りたいとこだけど、こう見えて結構忙しいから時間がないんだよね」


「ごめんなさい、無理を言ってしまいました」


「こっちこそゴメンね。また今度誘ってー」


 残念ですけどそれは仕方ないです。


「じゃ私行くから。またねー」


「はい、また」


「さようならですの」


「またのご来店を一応お待ちしてまーっす」


 一応かっ、と笑って突っ込みを入れながら、アイリさんは結界石の広場に向かって歩いていきました。

 話してるだけでも楽しい人です。

 やりとりだけならマリーシャと似た感じもありますが、でも受ける印象は全然別物です。

 実はスゴイ人、みたいな感じがするんですよね。なんとなく。

 またゲームで素敵な人と知り合えたかもしれません……。


「もしかしたら二人は前から知り合いだったかなって思ってたけど、どうも最近知り合ったみたいだね。やっぱり違ったかー」


「知り合いだったら、二人で大量に買わなくても一人が纏めて買いますしね」


 そういう意味もあって、私が多めに買ってるというのもあります。いつの間にか皆さんの中でドーナツ担当になってるようなので。


「アイリが来るようになったのは、イオンが来るようになってからなんだよねー。だから情報交換でもしたのかなーくらいには思ってたけど」


 それは関連づけて考えてしまいますね……。


「でもそれを言うと私もですね。アイリさん、随分慣れてるようだったので、もっと以前から通ってたのかと思いました」


 リンジーさんとのやり取りが、いかにも常連といった様子でしたし。


「イオンもすぐにわかるってー」


「何がですか?」


「アイリには適度に気を使いつつ、気を使わないほうが面白いってー」


 言葉で聞くと難しいように聞こえますが、多分わかります。

 お店の常連さんにも、楽しくお話ししながら、でも最後の一線は守って接客する、といったことは気を付けてるつもりです。

 何でも友達感覚で『なあなあ』にしてしまうと、お店とお客様の垣根が無くなってしまいます。もちろん悪い意味で。


 仲のいい友人でもそういった境目があると思いますが、多分ですが立ち位置が違います。

 『友人同士』という同じ立ち位置で垣根を作るか、『お店』と『お客様』という違う位置で垣根を作るか。

 それだけで全然接し方が違うので。

 その辺を少し意識するだけで、アイリさんとは楽しくお付き合いできるということなんでしょう。


「さて、イオンはいくつ買ってくー?」


「全種各十五個と、アイスコーヒーをお願いします」


「他の人も食べるって知ってても、食いしん坊認定できそうだねー」


 全く否定できません……。





フミちゃんのもふもふ、首の下(顎の辺りではなく、首から胸の辺り)が触り心地良いと言ってますが、実際のキツネは知りません。でも猫は最高。ホント最高。毛がふわっふわ。

寝込みを襲って胸元に手を突っ込みたくなる。相手は猫。犯罪ではない。犯罪ではないですよ!

なのでそんなキツネがいてもいいよね、ということで……。


それと個人的には豚まんより、りく○ーおじさんを選びます。


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