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12-4 嗚呼すれ違い。


「と、いったことがありまして」


 巨大な魔物と戦った次の日。

 学校で昨日のことを報告しました。


「いろいろあったんですねぇ。いくつか聞いてもいいですか?」


「もちろんです」


 質問の声は黒田先生から。

 今は昼休みで、しかも黒田先生は次の時間は授業がありません。

 先生も時間に余裕があるタイミングなので、あの魔物について相談することにしました。

 私一人では倒せませんしね。


「まず海の精霊さんからですね。その魔物と戦ったら現れたということは、海の精霊さんと会うにはその魔物と戦うのが条件なのかとか、そういったことはわかりますか?」


 魔物の話かと思いきや、海の精霊さんからでした。

 会うための条件を聞かれたということは、もしかして先生はまだ会ったことがなかったんでしょうか?


「魔物が条件ではないようです。普段はパリカルスの湾の出口、ブレイスロードのある島からもう少し外洋に出た辺りの海に底に居るそうですけど、誰が来ても姿を現すと言ってましたので」


「海の底……ですか? そんなところに居るんですね」


「何でも以前は洞窟の中に祭壇のようなものがあったそうですが、そこにあった飾り? みたいな物が嵐で流されてしまって、でもそれが気に入ってるから、飾りのある海の中に居るそうです。そっちのほうが居心地がいいそうで。でも海の上で呼べば、それだけで出てくると言ってました」


 飾りとは言いましたが、実際は細工が施された石柱だそうです。

 ずっと昔にパリカルスの住人が作ってくれたんだとか。


「あ、会いに行っても森の精霊さんのように魔物と戦うといったことはないそうです。どうも私が戦った魔物についての警告をするだけのようで」


 魔物と戦ったあと、私が海の精霊さんに呼ばれたのもそのためだったそうです。

 本当は湾から船で出ようとすると警告のために現れるそうなんですよ。遠洋には巨大な魔物がいるから危険だ。その魔物は陸に来るから注意しろ、という風に。

 ですが、私は空を飛んでしまったので警告できなかったというわけですね。


 魔物は普段海中に居ますが、海面に何かあると顔を出す習性があります。

 でも私は飛んでるから大丈夫だろうと軽く考えていたら、海面スレスレを飛んでいたところを魔物に見つかってしまった。

 精霊さん、私が魔物と戦ってるのに気付いて慌てて来てくれたそうです……ご迷惑おかけしました……。 


「会う条件は遠洋に出ようとすることですか。ヒントが無くて難しいようにも思えますが、その魔物が来るのも数ヶ月後ですからね。やることの無くなった人が『海に出てみよう!』って言い出したら気付くようになってるんですね。イベント戦闘は無い代わりに情報をもらえると」


 森の精霊さんのようなイベント戦闘を求める人は残念がるかもしれないですね。


「でも問題なのは魔物のほうですね。海の上でのイベント戦闘。しかも倒すには何度も戦って徐々に体力を削る必要がある、巨大な魔物。なかなか大変そうですねぇ」


 大変そうと口では言いつつも、表情は少し楽しそうです。


「その話、クランの人たちにはもうしたんですか?」


「拠点に帰ったら誰も居なかったので、まだです。でも魔物の規模的に、エスだけでは無理だろうとは思ってますけど」


「レイド前提のうえ、長期間にわたる戦闘。よほど大きいところじゃないと、一つのクランには荷が重いですね」


 やっぱりそうですよね。


「しかもそんなに大変なイベント戦闘だと、二匹目が現れない可能性もあります。独り占めしたら方々から怒られますね。でも何も考えずに公開すると、今度はどこのクランが戦うかで揉めそうですし」


 強い魔物からは貴重な素材だって入手できますよね。そんなの誰もが欲しがるに決まってます。

 いろいろ難しいです……。


「でもそれなら打って付けなクランがあるじゃないですか。相談したら喜んで協力してくれるんじゃないですか? どうしたらいいのかわからなくても、相談には乗ってくれるはずですよ、あそこ(よろずや)は」


 私も真っ先に思いついたんですが……。


「それが、最近忙しいみたいで……」


 エレメントゴーレムの倒し方が確立されつつあるので、ゲイル山とブレイズロードに挑戦する人がものすごく増えているそうです。

 よろずやは、ダンジョンの案内役として同行する仕事で忙しいんだとか。


『こんにちわーっ、最近皆さんのおかげでウッハウハでーっす! でもなんで私ばっかり毎日ダンジョン入ってるんですかね? リーダーっていつも偉そうにふんぞり返って週末の予定立てながら部下に理不尽な文句を言う穀潰し係だと思ってたんですけど違うんですかね? なのでたまには私が休んだって……おやメールが……えっ、明後日予定が入ってログインできないから代わりにダンジョン同行やっといて欲しい? うぁぁぁぁぁ……明後日は四回突入とか……。いえ今からも行くんですけどね失礼します……』


 最後に話したときはこんな感じでした。

 話したというかすれ違った程度ですね。一分も顔を合わせてませんでしたし。

 嬉しい悲鳴……ということにしておきましょう。


アッチ(ナイツオブラウンド)でも大丈夫かもしれませんよ?」


「最近調子が良いそうで、攻略やレベリングに精を出してるそうです」


 ゲイル山やブレイズロードの他にも、難しいクエストにも挑戦してるんだとか。

 あと他にも忙しい理由があるそうですが、こっちは聞いてません。

 何やら聞かないほうが良さそうな雰囲気だったので……。


「そういえばコッチ(バトルデイズ)も忙しそうだったっけ……」


「それは私のせいです……」


 ブレイズロードを攻略して、帰ってきたときです。

 島に行くには(私以外は)船で行く必要があるんですが、船は手漕ぎの船ばかりです。

 エスのように人数が少ないクランはもちろん、そうでないクランも基本的にはパリカルスで船乗り(NPC)を雇って船に乗せてもらいます。自分たちで船を漕いでるのは、ナイツオブラウンドしか見たことありません。


 でも船乗りさんたちは自分たちの仕事もあるので、いつでも乗せてもらえるわけではありません。

 仕事を引き受けてくれる人はなかなか見つからないうえ、料金も割高。

 ブレイズロードから帰ってきたら、『次はうちのパーティを乗せてくれ!』という方がたくさん居ました。

 その光景を見て、つい言葉が漏れてしまったんです。


『ゴーレム馬車があるんですから、船を漕ぐゴーレムとかあると良いですよね……それこそ船外機とか……』


『『『『『それだ!!』』』』』


 港で、しかも他のプレイヤーも居るところで言葉が出てしまったので、それを聞いた方がお店に頼み込みに行くという事態に……。

 当然バトルデイズにも制作依頼が行ったそうで、迷惑をかけてしまったと思いましたが……。


『まともに船を使うようになったのは最近だから思いつかなかっただけで、放っておいても誰か思いついたはずよ。それに儲かるから誰も怒ってないわよ。間違いなく、儲かるから。ふふっ』


 そう言ったときのレイチェルさんの笑顔が……なんというか……。


「喜んでたから、いいんじゃないかな?」


 黒田先生も苦笑いです……。


「でも話をしたら食いついてくるんじゃないかな。その素材、多分良いものだと思うし」


 黒田先生の言う素材というのは、昨日の魔物との戦闘で手に入れた【エンシェントシーサーペントの鱗】のことです。

 逃げられたのでアイテムは手に入らないと思ってたんですが、あとで確認したらこれだけ手に入れてたんですよね。それとレベルも一つ上がってました。

 他の魔物は知りませんが、今回の魔物は何回も逃げられることが前提ですからね。

 最後にトドメを刺す戦闘でしかアイテムが手に入らないとなれば、誰だって戦いたくありません。

 途中を戦うパーティにもメリットがありますよ、ということなんでしょう。


「そうは思うんですが、今の仕事の邪魔になってもいけませんし」


「他のクランも待ってるし、仕方ないよね」


 船外機は最優先で開発してるそうなので、今はそちらを優先してもらったほうが良いと思います。


「でもそうなるとこれ以上のアドバイスはできないです。まずはエスの皆さんに相談。他のクランには報告書でも用意しておいて、暇なときに見てもらうくらいでしょうか。結局のところ、魔物が来るまではどうしようもありませんから」


「やっぱりそうですよね。それじゃ報告書を作って出来上がったら誰かにチェックしてもらって、それから送ってみようと思います」


 幸い急ぎの話ではないですし、これででもいいですよね。

 あまり慌てて報告しても、相手を焦らせるだけですし。

 むしろいつになるかわからない件なので、気長に構えたほうが良いと思います。


「東さんは何かありますか?」


 東さんにも聞いてみます。

 さっきから黒田先生とばかり話してましたが、実は真里も東さんも相田君も西君もこの場に居たので。

 最初は真里たちだけに相談するつもりだったんですが、丁度いいタイミングで先生が来たので、ついでに聞いてもらってたんです。


「……いえ、私もその方向でいいと思うわ。急ぎの件ではないのだし」


 東さんも大丈夫。

 まずはエスに相談。必要なら報告書を各クランに送って、あとは向こうからの反応を待つ。でいいですね。

 ……それにしても皆さん静かですね。どうしたんでしょう?


「……それより、気になることがあるんだけど」


「どうしました?」


 何か説明が抜けてましたっけ……。


「なんでせんせーそんなに落ち着いてるの! むしろそっちが気になるよ!」


 私ではなく、黒田先生についてでした。

 言葉の主は東さんではなく真里でしたが、他の三人もうんうんと頷いてます。


 黒田先生がBLFOをプレイしている、というのは私からみんなに話したので、この場に居る全員が知ってます。

 先日ゲームのことを話そうとして失敗したあと、黒田先生からお願いされて私が話すことになったんです。

 それを聞いて全員が納得。先生も真里に怯えずにすむようになりました。

 ですが黒田先生がロロさんだということは、まだみんなは知りません。


『なんで碧が知ってるの?』


『ゲームの中で黒田先生と会ったときに、偶然気が付いたので』


『碧がすぐわかったなら私たちでもわかるかな? それじゃどんなキャラなのか秘密にしといて。そのほうが面白いから!』


 先生から許可を得てたので話す予定でしたが、こういう形になりました。

 わかりやすいかどうかと言われると疑問ですし、それに相田君と西君は一度会ってますけど気付きませんでしたし……。

 でも秘密にしてと言われたので秘密にしましょう。何か問題があるわけではないですし。

 なので先生とゲームの話をしてもおかしくないというのは、みんな知ってるはずです。落ち着いてるのも、別に驚くようなことではないと思うんですけど……。


「なんでって……急がなくてもいいから?」


「確かに、急ぐ用件ではありません」


 そうですよね。


「だからって碧の話に驚かない理由にはなりません。新しいイベントボスが見つかっただけでも十分なのに、未発見だった海の精霊まで。しかも現時点では恐ろしく貴重な素材も入手。私たち、話を邪魔しないように我慢するだけで大変だったんですよ」


 やっぱり他の三人が頷いてます……。


「なのに先生、それほど驚いてませんでしたね」


「わ、私も驚いてたよ?」


「それにしては落ち着きすぎです。先生、生徒から知らない話題を振られると、いつも大げさなくらいのリアクションしてくれるのに」


 クラスメイトが大富豪の新しいルールを教えたら『今そんなルールなのっ!?』って大きく驚いてくれたりとか、真里が適当な怪談をでっち上げたら、『も、もう一人で残業できないよぉ!』て涙目になってたことがありましたっけ……。


「海の精霊はその存在だけは知られていたのに見つからなかった、謎の存在。エンシェントシーサーペントは全く情報の無い、完全な新情報。そんなのがポンポン出てくるんですから、普通もっと驚くはずです」


「え、えっとぉ……」


 やっぱり魔物のほうは全くの新情報だったんですね。

 パリカルスには外洋に行くような船はありませんでしたし、情報が無くてもおかしくないです。


 海の精霊さんのことは、知ってはいたけど見つからなかった謎の存在扱い。

 さっき先生から会う条件を聞かれたのはそれででしたか。

 それは驚きますよね……。


「驚きが小さい理由はいくつか考えられます。先生が独自に調べて知ってたとか。でもさっきの話の内容から、その線は考えにくい。他に考えられるとすると……例えば、先生も普段は新情報を提供する側、とか」


 新情報……ブレイズロードでは魔物のクリティカルポイントを次々見つけて、最後はエレメントゴーレムの弱点まで見つけてましたっけ。


「そんなこと……ないと思う……よ?」


 一応否定してますけど、目がものすごく泳いでます……。


「それに碧とはアッチとかあそことかで話が通じてますよね。そのなかでも“コッチ”というのは先生が所属しているクランの事を指すと思うんですが。……先生、実はトップクランのメンバーですか?」


「ま、まだクランには所属してないよ? よく出入りしてるとこはあるけど……」


 バトルデイズのことですね。

 基本的にバトルデイズの依頼を中心に受けてるようですが、余所の依頼も受けやすいようにということで、加入はしてないそうです。


「ってことはソロかパーティ……出入りって言ってるからソロか。でも最初に素材に食いつかなかった辺り、生産職じゃあないな」


「そうなの……かなぁ?」


 相田君の言葉を聞いて、手が落ち着きなくフラフラ動き始めました……。


「なんか先生のキャラがものすっごい気になってきたなぁ……こっちから秘密にしてって言ったけど、やっぱり」


「もう時間だから職員室に戻るねっ! 午後の授業も頑張ってねー!」


 どうしようもなくなったようで逃げてしまいました……。

 こないだまでは心の準備をしてたので話しても問題なかったと思いますが、あれから日が空きましたからね。心の準備が消えて、恥ずかしくなったんだと思います……。


「あー気になるー。こんなことなら聞いとけばよかった……」


「私もそっちが気になるわね。碧の話は先生が言った通り、とりあえず誰かに相談しないと始まらないから、当面は放っておいていいんじゃないかしら。エスの人とは別に、知り合いの大手クランとかにも相談するつもりなんでしょう?」


「そうですね、知ってる中では大きいところです」


 知り合いのクランと言っても、ものすごく少ないですけど。


「じゃあその話はこれで終了。話す内容も纏まってるようだし、特に問題ないと思うわ。細かいところは先生が言ってくれたから」


 東さんから見ても問題ないようなので、もう心配ないですね。


「じゃー話を先生に戻そー」


「本人の居ないところで聞くわけにもいかないでしょう」


「でもものすっごい気にならない?」


「俺もすっげー気になる」


「(うんうん)」


「その気持ちはわかるけど」


「碧ー、せめてヒントだけでもー」


 ヒント……どう言ったらいいんでしょう……。

 真っ黒の格好……あそこまで黒一色の人は見たことないので、すぐにバレそうです。

 鳥族……ソロだというのはバレたので、そこから辿られそうです。

 どうしましょうか……。


「……相田君と西君は、多分見てるかもしれません」


 二人は全く気付いてませんでしたし、これくらいなら多分大丈夫でしょう。

 間違いなく見てるはずですが、そこはまぁ、二人が覚えてるかどうかは知りませんので。


「え、俺たち?」


「二人だけいつの間にーっ」


「そんな記憶無いんだけどな……ってまさかあんときか?」


「これ以上はノーコメントで」


 いつ、と言わなければ範囲はものすごく広がりますし。


「あのときって、二人が抜け駆けして精霊との契約見に行ったとき? でもエスの人たちにはそれっぽい人居なかったし……ナイツの中には?」


「ナイツに女性プレイヤーは居なかったな。でもギャラリーには結構居た」


「そこまで含めるとサッパリね」


 いい具合に悩んでくれてるので安心しました。

 当分は悩んでもらいましょう……。


「他にはメグルさんとかロロさんとかくらいだしな。あの二人は絶対あり得ない」


「ロロって人は見たことないけど、聞いただけでも先生には無理だって思うなぁ」


「あれは先生には絶対無理だ。戦闘は少ししか見てないけど、普通にカッコいい無口なクールスナイパーだったし」


「先生がクールキャラ。とてもじゃないけど想像できないわね」


「(うんうんうん)」


 えっと……。


 き、聞かなかったことにしましょう……。




大富豪(大貧民)のローカル?ルール、ちょっと調べたらものすごい出てくるし……11バックって本気で知らなかった……。


Q:ロロさんの正体をバラす機会を逃してしまって『どうやってバラそう……』とか困ってるだろ?

A:まままままっさかー(震え声


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