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11-16 新ダンジョンに行ってきます。


 祭壇への道中で詳しい話を聞きましたが、ギリアムさんの奥さんが管理人さんだったんですか。

 しかも急いでいた理由が奥さんのため。

 それが理由ならあれだけ必死にもなりますし、慌てもします。


 ――愛妻家ですわね。細かいことはどうあれ、奥方が羨ましいですの。


 奥さんもギリアムさんに似た方らしいので、いい夫婦だと思います。


 そんなことを話してるうちにたどり着いたのは、海岸近くの森です。

 どうもこの森、外周部にだけヘビの魔物が住み着くらしく、危険なので定期的に狩っているそうです。

 森の中は魔素が濃すぎるため、魔物は入ってこられないそうです。風精霊の祭壇付近と一緒ですね。


 その森に入ってしばらく。

 森の外からでも見えていた海岸側の岩場、その真ん中辺りまで来ました。

 森の中から見ると岩の壁みたいになってますね。


「ここから見てもただの岩壁にしか見えないんですけど、こっから覗くと先に進めるんすよ」


 言われて見てみれば、確かに岩の影に、細く通れそうな隙間があります。


「これは気付かないよな」


「ノーヒントで見つけるのは不可能じゃないけど、探す気がないと絶対スルーするね」


 疑ってかかれば見つけるかもしれませんが、何も気にしてなければただの影だと判断しそうです。入ろうなんて考えもしません。

 そんな小さい隙間を進んでいった、その先には……。


「うわ、すっごいですね……」


 そこは、岩に囲まれた小さな入り江になっていました。


 白い砂浜。

 小さく寄せる波。

 空から差し込む光が波で反射し、キラキラ照らされる岩壁。


 とても幻想的な光景です。

 メグルさんが感嘆の言葉を漏らしてしまうのも、無理ないです。


 そんな入り江の隅のほうに、風精霊の祭壇にもあった石柱と、その中心に丸いテーブルのような岩。

 間違いなく、精霊の祭壇です。


「すごい場所だね。祭壇とか抜きにして、観光だけでも人が集まりそう」


「ですねー、間違いなく観光スポットになりますよ」


 私も、ここで一日中ぼーっとしていたいですね……。


「あー、一応誰が来てもいいそうなんですけど、(けが)すような人は来て欲しくないらしいんで……」


「それは気を付けないとね。下手なことして管理人怒らせて、許可制とかになったら大変だし」


「じゃあここの情報出すとき一番に注意文で入れときますね。戦闘行為禁止、長時間の滞在禁止、ゴミのポイ捨て禁止、来たときよりも美しくって」


「遠足かよ」


 街からの距離的に、それも間違ってない気がします。

 ですがそういうことなら一日中居座るのはやめましょう。

 でもコーヒー一杯くらいなら……いえ、他の人の迷惑になってはいけませんしね。きっぱり諦めましょう。


 それと念のため、風精霊の祭壇についても追記してもらうようお願いしました。

 特に言われてませんけど、そういったことに気を付けるのはどこでも変わらないと思いますし。


「さて、そろそろ始めるで」


 一人祭壇のほうへ近づいていくアヤメさん。

 観光よりも契約のことで頭いっぱいのようで……あっ。


「そういえばアヤメさん、精霊の宿る器はあるんですか?」


 大変なことをとを忘れてました。これがないと契約できません。

 封石と祭壇のことばかり考えて、器のことを全く考えてませんでした。

 どうしましょう。ひとまず私だけ街に戻って、大急ぎでレイチェルさんに用意してもらって……。


「もっとるよー。イオンの話を聞いてからな、先走って準備だけしとったんやわ」


 慌てて考えを巡らせてる私に向けて、襟元から引っ張り出した首飾りを見せてくれました。


「火属性やからルビーや。せっかくの契約やからな、ここぞとばかりに奮発したったわ」


 勾玉のような形をした赤い宝石。

 自慢そうなアヤメさんの言葉の通り、かなり大きいルビーです。

 その血のように濃い赤い色はいかにも妖しい輝きで、どことなく妖艶な印象を受けてしまいます。

 ですが今それを持っているのは、可愛らしい笑顔のアヤメさん。

 宝物を自慢する女の子の笑顔を、ルビーの赤さが一層輝かせるかのようです。


「すいません。いらない心配でしたね」


「こっちも言うてなかったから気にせんでええよー」


 改めて祭壇に向かうアヤメさん。

 そこまで準備してあったということは、相当楽しみにしていたようです。


「あれっていつの間に準備してたんだ?」


「イオンの話を聞いてすぐとかじゃない? 私も聞いてなかったし」


「黙ってたのは~先走ったのが恥ずかしかったからですね~」


「落ち着いてるように見えますが、ものすごく楽しみだったんでしょう」


「クリスマスが楽しみな子供みたいですねー」


「半年前から靴下準備するようなもんかな……」


「可愛い」


「今発言したやつ全員、あとで試し撃ちの的にしたるからなー」


 ……巻き込まれる前に、飛んで逃げましょう。

 そ、それはそうと契約の開始です。


 祭壇に封石を置いて、一歩下がるアヤメさん。

 そして深呼吸を一つ。

 ゆっくりと、魔力を流し始めました。


 徐々に増え続けるアヤメさんの魔力。

 いつものだらけた様子なんて微塵もない精密さでコントロールされた魔力が、優しくゆっくりと封石に流れていきます。


 と、ふいに封石が光り始めました。


 初めは弱々しく、次第に大きく強く。

 その色は先ほどのルビーのような赤い光。

 先ほどは血のような色と思った赤ですが、光に揺らめく様はまるで燃えさかる炎の様。

 どんどんその光は大きくなっていき、それこそアヤメさんを、祭壇をも包み込みそうなほど大きくなり……。


ポンッ。


 どこか間の抜けた可愛らしい音がしたと思ったら、その光は一瞬で消えてしまいました。


「……なんか、失敗したような音なんだが」


「そんなわけないでしょ。大成功よ」


 光の源、封石があった場所。


 そこにはアヤメさんの髪と同じ金色の、一匹のキツネさんが居ました。


 小さくて丸っこい体に、大粒のつぶらな目。

 そしてものすごくフカフカしてそうな、大きな二つの尻尾(・・・・・)


 そんなキツネさんが、じぃっとアヤメさんと目を合わせています。

 探るようでも、警戒するようでもない、ただ純粋に興味を持ったような、無垢な目。

 お互い何も話さないのは、多分私とぐりちゃんのように頭の中で話をしているんでしょうね。

 あ、終わったようです。


 嬉しそうに目を細めて、とてとてとアヤメさんに近づき、小さく飛んでぽふんと腕の中へ。

 しばらくもぞもぞと体を動かして収まりのいい体勢を探し、決まったところでアヤメさんと顔を見合わせ、どちらともなく柔らかい笑顔になりました。


「はぅ! み、見てるだけでヤバイですよあれ!」


 初めてぐりちゃんを見たときのようにダメージを受けるメグルさん。

 小動物が好きと言ってましたしね。無理もありません。


 ……なんて落ち着いたようなこと言ってますが、今回は私だってダメージ受けそうですっ。


 なんですかあの、犯罪的に柔らかそうな尻尾とつい手が伸びてしまいそうな三角の耳はっ。

 そこに居るだけで卑怯ですよあんなのっ。


 ……あの、ぐりちゃんより可愛いとか、そういうのではありませんからね? 言い訳がましいですけど。


 ――あ、あのキツネの子とだったら、比べられても悔しくありませんわ。人の姿と動物の姿では全く違いますもの。


 わかってもらえて安心しました。

 それはそうとぐりちゃんも触りたいんですね。思いっきり。


 ――どどどどうしてそう思うのですかお姉様っ。淑女たる私がそんなはしたない真似をしたいなんて、


 ぐりちゃんだったら、すっぽり埋まるほどフカフカを堪能できそうですが……。


 ――その誘惑は卑怯ですわー!!


 何かを必死に堪えるぐりちゃん。

 誘惑に負けるのも、時間の問題かもしれません。


「お待たせや~」


 アヤメさんの笑顔は、大きな文字で『大・満・足!』と書かれていそうなほど輝いてます。


「……アヤメ、いろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえず紹介をお願いできる?」


 キイさん、声が固いです。

 多分、いろいろ堪えるのに大変なんだからだと思いますが。


「ええよー。この子は“フミ”や」


「この度主様(あるじさま)の契約精霊となりましたフミと言いますっ。精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたしますっ」


 アヤメさんの腕の中で、前足を揃えてから頭を下げるフミちゃん。

 少しだけ緊張したような言葉と、丁寧さよりも元気さが前に出たような仕草。

 新卒社会人の営業さんみたいで初々しいですね。

 何より可愛いいです。メグルさんが声を上げずに唸りはじめたほどです。


「あたしはキイよ、よろしくね。もしかして“文目(あやめ)”から取って“(ふみ)”?」


「せや。雄やったら絶対にゴンやったけどな」


「……よかったわね、女の子で」


 キツネでその名前は、どうしてもイヤな最後を連想してしまいます……。


「主様から頂いたものであれば、どのようなものでも宝物ですのでっ」


「随分健気なのね……ね、フミちゃんって呼んでいい?」


「もちろんです。どうぞお好きにお呼びください、キイ様っ」


「っ! あ、ありがとう、そうさせてもらうわ」


 あ、キイさんも顔を逸らしてしまいました。

 フミちゃんの笑顔を真っ正面から見たせいですね。間違いなく。


「エリスと言います~。よろしくお願いしますね、フミちゃん」


「よろしくお願いします、エリス様」


「ところでアヤメさん、抱っこさせてもらうことは……」


「ウチが満足したらなー」


 つまり離す気はないということですね。


「メグルと言いますよろしくお願いしますフミちゃん! ところでスクショ一枚お願いしていいですか一枚でいいんで!」


「アップせんならええでー」


「ありがとうございまーっす!!」


 普段なら絶対許さないと思うんですが、アヤメさん本当に機嫌がいいということですね。


「ロロ。よろしく」


「ふわぁ、ロロ様の立ち姿、とてもカッコいいです……あ、失礼しましたよろしくお願いしますですっ」


「!!(か、可愛すぎるよ!!)」


 ロロさんは何事もなかったかのように下がりましたが……あ、アイガードを抑えてます。寡黙モードで押さえつけるかのように力が入ってます。

 つぶらな目に興味津々で見られて、ロロさんも敗北したんですね……。

 そして気が付けば私の番です。


「初めまして、イオンと言います。それからこちらは私の契約精霊のグリーンです。どうぞよろしくお願いいたします」


「グリーンと申しますわ。どうぞよろしくですの」


 二人で揃って挨拶をします。


「フミと申しますっ、よろしくお願いしますイオン様、グリーン様っ。グリーン様は私の先輩なのですね。頑張りますので、どうぞご指導お願いしますっ」


 前半は真面目そうな顔で、後半は憧れの人にでもあったかのような眩しい笑顔のフミちゃん。


 す、すごいキラキラした目ですよ。


 ――これはマズいですわ……。


 ぐりちゃん、とりあえず返事を。


 ――わかってますわっ。


「え、ええ。私にできることでしたら何でも教えますから、好きに聞いてくださるといいですわ」


「ありがとうございます!」


 笑顔が一層眩しくなりました……。

 ぐりちゃん、先輩らしい態度でお願いしますね。あの純真な目を裏切りたくありません。


 ――私もですわっ。ああでも、あの柔らかそうな毛並みを見ていると……。


 見ては駄目ですよっ。


 ――ですが目を逸らすのはマナー違反ですの!


 だったら淑女のプライドを賭けて頑張ってくださいっ。


 ――わかっておりますっ!


 ……それにしても本当にすごいですね、あの吸い寄せられそうなフカフカの毛並み……触るだけで別世界に行けそうな、魔性の魅力を……。


 ――お姉様正気に戻るですのー!


 はっ。

 気を抜くとどこかへ連れて行かれそうになります……。

 ぐりちゃん、今後はお互いを監視するということで。


 ――了解しましたわ。絶対に裏切りは無しですの。


 もちろんです。

 それにしても皆さんが“つい”も無く、徹底して手を出さないのは、あの目を見たからですね。

 ああも真っ直ぐ見られると、とてもではありませんがあの顔を曇らせたくありません。

 絶対に守りましょう。


 ――と、なりますと……早速心配がありますわね。


 懸念するぐりちゃんの視線の先。

 バルガスさん、リード君、ウェイスト君がフミちゃんに自己紹介して、残るは最後の方。

 デリカシーというものに不安を抱えたプルストさんです。

 ぐりちゃんのときのこともありますから、少しは学習していると思うんですが……。


 ――それができるのなら、あんな人が出来上がっていませんわ。


 そうですよね……せめてアヤメさんに吹き飛ばされる程度で収まってくれると良いんですけど……。


 ――キイさんを褒めたときのような奇跡は、そう簡単に起きませんの……。


 無難に済ませてください、プルストさん……。


「俺はプルストだ。よろしくなフミ」


「よろしくお願いしますっ」


 一応、無難に終わりましたか?


 ――まだですのっ。


「ところでフミ」


 ぐりちゃんのその言葉通り、プルストさんが何か言葉を続けます。

 しかもストレージから何か出してますよっ。


 ――一体何をするんですの! いえそんなことよりもすぐに止めたほうがいいですわっ。


 でも私の位置からだと間に合いませんっ。


「お前……」


 動きに気付いたキイさんも止めに入ろうとしますが、こちらも一歩届きません。


 ――あーもうこの男は問題ばかりーーーっ!


 もう無理です……どうか穏便に終わることだけを願いましょう……。


 私の希望を形だけでも叶えるかのように、ゆっくりフミちゃんに向けられるプルストさんの手。

 そして、その手の中には……。


「肉、食うか?」


「お肉!?」


 こんがり焼けた骨付き肉がありました。

 それを見たフミちゃんの目は、今日一番の輝きでお肉に釘付けされています。


「確かキツネは肉食うんだろ? それともお稲荷さんとかが良いのか? あーでもこの肉も人用の味が濃いやつなんだが、それでも大丈夫なら食っていいぞ」


「ああいえフミは精霊なので基本的に何を食べても大丈夫と言いますかお肉はそれなりと言いますかでも雑食なので何でも食べるのですがやはりお肉は素晴らしいと言いますかお稲荷さんは食べたことありませんのでどういう物かわかりませんがでもお肉はお肉様と言いますか何と言いますか」


 お肉を見つめたまま言葉が止まらないフミちゃん。

 つまり、お肉大好きなんですね。


「プルスト、もらってええか?」


「じゃなきゃ出さないっての」


 ほい、と差し出されるお肉。


「でもでもフミはまだ何もしていないのにこんなご馳走を頂くわけにはっ!」


「ええから食べや。どうせこれから頑張るんやからな、前払いや」


「ですが……」


「美味しく食うたほうが、肉もプルスト喜ぶで?」


「いいから食えって、美味いから」


 そう言いながらもう一つ出して、自分も食べるプルストさん。

 それを見ておずおずと伸びるフミちゃんの前足。


「い、頂きます」


 そして、器用に掴んだそのお肉に大きく一口。


「おいひいですぅ……」


 次の瞬間には至福の表情となって、はぐはぐと食べることに集中し始めました。

 その幸せそうな表情を見てるこっちが至福です……。


 ――メグルさん、完全にノックアウトされて蹲ってしまいましたわ……。


 後ろのほうから地面を叩く音と『ふぉぉぉぉおおおおお……ッ!』ってうなり声が聞こえてきます……。

 でも無理もないです。

 アヤメさんに抱えられたまま、少し大変そうに、でも器用にお肉を掴む前足。

 お肉に齧りついて、美味しそうにほおばる大きめの口。

 ピンと立ったまま、時折嬉しそうに揺れる三角の耳。

 真剣でに肉を見つめ、次はどこを囓ろうかと幸せな悩みを滲ませる目。

 そして何より、フリフリぱたぱた動きが止まらない二つのしっぽっ。


 ――全身が凶器ですの……。


 しかもフミちゃんを抱えているのは、ぬいぐるみを抱えてても全く違和感のない小柄で可愛いアヤメさん。


 ――とんでもない組み合わせですわっ。


 まさか精霊との契約がこんなことになるなんて……。


 ――恐ろしいこともあるものですの……。


 本当に、その通りだと思います……。

 ですが何よりおそろしいのは、


「プルストさん、動物のこと詳しいんですね」


 ここまで昇華させたのが、プルストさんだということです。


 ――本当に奇跡が起きましたわ。しかもこの短期間に二回も。


 本当にごめんなさいプルストさん。欠片も予想できませんでした……。


「詳しいってわけじゃないけどな。そこそこ好きだし」


「飼ってたりとかするんですか?」


「いや、散歩中の犬を触らせてもらうとか野良猫撫でたりとか、その程度だな」


 十分好きな部類だと思います。


「……動物は人と違って、変なこと考えないしな……」


 最後にボソリと言われた言葉には何やらよろしくない意味が込められてそうなので……それは聞かなかったことにしましょう……。


「それにしても、どうしてフミちゃんはキツネの姿なの? てっきりグリーンみたいな人の姿だと思ったのに」


「そういえばそうですね。グリーンはわかりますか?」


 話を変えるようなキイさんの言葉に乗っかります。

 このままフミちゃんのことだけを考えているのは危険なので……。


「もちろんですわ。契約精霊は精霊と契約者の力から生まれる、新しい精霊ですの。精霊は力をほとんど失っていますから、必然的に力のほとんどは契約者のものとなります。そのため、その姿は契約者の望む姿、契約者に最も適した姿となるですの」


 契約者の望む姿で、契約者に適した姿ですか。


「じゃあ、例えば猫がいいなって強くイメージしながら契約したら……」


「猫の姿になる可能性が高くなりますが、必ずではありませんの。本当に決めるのは、本人の資質次第なのです。それも含めて適した姿、なのですわ」


「どんな子でも自由自在、というわけにはいかないのね」


 頭でイメージしたものということではなく、本人の心の奥底にあるもの、そこから生まれる願い。という感じでしょうか?

 なんとなく、わかると思います。

 私の場合は特に何かをイメージしたつもりはありませんが、でも精霊と言うと森の精霊さんのイメージしかないので、多分そこが元になって人の姿になったんだと思います。

 それと……。


「フミちゃんは空を飛んだりとか出来るんですか?」


「フミはキツネですから、そういったことは……」


 やっぱりでした。

 人の姿のぐりちゃんが飛べるのにキツネの姿のフミちゃんが飛べないというのは何か間違っているような気もしますが、でもそれこそ私が望んだ姿なんだと思います。

 空を飛べるのは、一緒に飛べたら楽しいだろうなとか、そんな風に考えていたのかもしれないですね。

 いつも私の肩に乗ってるので忘れがちですが、ぐりちゃんは一応空を飛ぶことが出来ますから。

 呼び出すときは肩の上なので、おやつの時間に肩からおりるくらいしかしてませんけど。


 でもぐりちゃんは空を飛べるので問題ありませんが、飛べない精霊だったら大変だったと思います。

 空を飛んでいるときに何かあったら地面に叩き付けられますし、かといってしっかり抱えてたら私が戦えません。

 好きな姿を追求するのもいいかもしれませんが、あまりに合わない姿だといろいろ大変かもしれませんね。


「そういえば~契約者は精霊に魔力をあげるだけでいいんですよね~。それって~魔法職じゃなくても精霊と契約したほうが良いんでしょうか~?」


 エリスさんからの質問です。

 少しでもメリットがあるなら、誰でも契約したいと考えますしね。

 何より可愛いですし。


「精霊と契約するだけで魔力を頂くのですから、魔法を使わない人にはマイナスにしかなりませんわ」


「100の魔力を持つ人が契約したら精霊の分で20減って、自分で使える魔力は常に80になっちゃうとか、そんな感じかな?」


「そうですの。ただ契約するだけなら、誰が契約しても必要な魔力はほぼ同じなんですの。だから魔法が得意な方にとっては微々たるものですし、私たちのサポートで減った分も取り返せるですの」


「物理職なら100が80になっちゃうけど、魔法職だったら1000が980になるってことね。物理職が契約すると、術スキルの使用回数が減っちゃうだけって事か」


 減る量が一緒でも、元の全体量が違えばその意味は大きく違いますしね。

 誰でも契約したら良いというわけではないようです。


「私からもいいですかグリーンさん。姿によって力の強い弱いとかあるんですか?」


「ありませんわ。私たち契約精霊にできるのは、あくまで契約者のサポートですの。契約者との繋がりが強くなればなるほどより大きく、より効率的にサポートできるようになるだけですの」


「あくまで、契約者と二人で強くなっていかないとダメなんですねー」


 そういうことですの、とメグルさんに答えるぐりちゃん。

 言われてみれば威力が上がってましたっけ。

 ぐりちゃんブーストを使うか使わないかで結構差が出てきたんですよね。もちろん発動速度も上がりました。

 繋がりが強くなるのは、いろいろな面で良いことが多いみたいです。


「なぁフミ、その繋がり言うんは、意識して魔力を流してると強うなるんやな?」


「そのとおりですっ」


 意識して、というのは頭の中で会話するときとかそういうことですね。

 私は流しっぱなしですけど。


「魔力を流すだけなんと、魔力をいっぱい渡して魔法を強うしてもらうんとは、どっちが強うなりやすいんや?」


「それは魔法ですっ。沢山の経験があったほうがより強くなりますから」


「ほほー。そういうことなら早速始めへんとなぁ」


 あ、何やらマズい予感が。


「さっき好き放題言うてくれたヤツらがおったからなぁ、試し撃ちに丁度ええなぁ」


 やっぱりでした……。


「あ、アヤメさん? 精霊の祭壇で暴れるのは他の方に迷惑になりますので……」


「安心し、わかっとるわー」


「ほっ」


「森から出たら開始するわ。はよ街まで逃げんと撃ちまくるでー」


「PK鬼ごっこですか!?」


 場所をしっかり考えてる辺り、本気ですね。


「プルストは勘弁したるわ。肉もろたからな」


「っしゃあ!」


 本気で嬉しそうです……。


「イオンとぐりとロロは巻き込まれんようになー」


「わかりました」


「わかった」


 ノーコメント組は見逃してもらえるようです……。


「あのー……やっぱ俺たちも……ですよね……」


「イオンとマリーシャたちのパーティメンバーなら、ウチらの仲間も同然やからなー」


「仲間と言ってもらえるとかメチャクチャ嬉しいはずなのに、何故か全く嬉しくない……」


 リード君とウェイスト君も一言喋ってましたしね。

 諦めましょう。


「あの、主様。味方に攻撃をするというのは……その……」


 さすがにどうかと思ったのか、フミちゃんから考え直すような言葉。


「そうですよアヤメさんっ、フミちゃんに仲間を攻撃させるなんて」


「だよね。フミちゃんにそんなことさせるわけにはいかないでしょ」


 乗っかるようにメグルさんとキイさん。


 ――あくまでフミちゃんを前面に押し出してますわね。


「せやなぁ、攻撃するんはようないわなぁ」


「「「「ほっ」」」」


 それを認めるようなアヤメさんの言葉と、安心する皆さん。

 ですが……。


「でもなぁフミ。これは攻撃やない。訓練や」


「訓練ですか?」


「せや。訓練して強うならんとな、魔物に負けてしまうかもしれへんのや。仲間が負けてしまうとか、そんなんイヤやろ。それにウチだって負けてしまうかもしれんしなぁ」


「主様が負けるなんて、絶対イヤです!」


「ウチもフミがやられるんはイヤやわ。でもフミの力を知らへんと、魔物に負けるかもしれん。フミが力んなってくれんのに負けるんは、絶対イヤやわ」


「フミもイヤです!」


「だから訓練や。強うなるには訓練や。これは攻撃やない、ただの訓練や」


「訓練……攻撃じゃなく訓練……」


「フミ、手伝ってくれへん?」


「主様のために、フミ頑張ります!」


 フミちゃんのやる気を上手にコントロールしましたね。


 ――素晴らしい話術ですわ。


 そしてフミちゃんがやる気になった以上、皆さんに選択権はありません。


「じゃあフミ、森を出たら思いっきり撃つからなー」


「承知いたしましたっ」


「お前らー。逃げてもええけど、フミの訓練に付きおうたってなー」


「皆様、よろしくお願いします!」


 今度はアヤメさんがフミちゃんを前面に押し出しましたね。


 ――これは逃げられませんわ……。


 結局、本当に森から出たら訓練が始まりましたが……。


「ファイアランス・ペンタアタック! おお、五本出してもこの速度かぁ、ほんに最高やなっ」


「主様っ、フミお役に立ててますか?」


「最高やー、やからもっと行くでー!」


「はいっ」


「ファイアランス! ファイアランス! ファイアランス! 連射も最高やーっ」


「なんで私ばっかり狙われてるんですかーっ!」


「手の内知らへんほうがオモロイやろ」


「面白いって、今面白いって言われたー!」


「ほらもっと行くでー、ファイアボム・トライアタック!」


「死んじゃう! 今度こそ死んじゃうーーーーーっ!!」


 そんな光景を見ながら、ゆっくりと街に帰る私たち。


「……随分と派手な訓練ですの」


「誰も死んでないからな。十分訓練の範囲だろ」


「そう考えると平和ですね」


「多少、スパルタなだけ(現実だったら問題になるけど……)」


「だな。まぁ気にせず帰るか。一日暑かったからビール飲みたいし」


「迷惑をかけない程度の量にしてくださいね」


「止めるどころか範囲広いな」


「楽しむだけで済むなら、お酒は必要なことだと思うので」


「なんてありがたい言葉だ……誰かさんにも聞かせてやりたいぜ……」


「その人の言葉も忘れてないならそれでいいと思いますよ。お酒の場ではその場の空気のせいで言葉を守れなかったなんて、よくあると思いますし」


「イオン、良い嫁さんになるわ……」


「あとは、度が過ぎたら制裁も大きくなるとだけ覚悟しているなら完璧ですね」


「本気で気を付けます……」


 なんて、平和に雑談しながら帰りました。


 振り返ってみると、今日もなんだかんだといろいろあった気分ですね。

 したことと言えば、ダンジョンに行って精霊と契約をしただけなんですが……それだけ、一日楽しかったと言うことですね。


 少々気分の悪いこともありましたが、人が沢山集まればああいうことだってありますしね。

 わけのわからない難癖を付ける業者さんより、よっぽどマシでしたけど。

 これからもそういう人と会うかもしれませんし、そういうことには気を付けましょう。


 それにそんなことよりリード君です。

 話を聞いてると、どうもギリアムさんに連れられて祭壇に行ってるあいだに何か思うところでもあったようです。

 それがあったから、ランドルフさんと対等に話せたんでしょうね。

 何がどう影響したのかはわかりませんが、良いことだと思います。

 ああいう変化だと、少しはマリーシャの評価も上がるんじゃないでしょうか?

 仲の良い二人を見るのは楽しいですからね。今後が楽しみです。


 一日のことを思い返していると……少し疲れた感じがしますね……。

 ダンジョンではあちこち火傷したりとか、思いっきり殴られて叩き付けられたとかありましたし……。

 ぐりちゃんにも言われてましたし、戻ったらすぐに休むことにしましょう。

 明日も、また元気にゲームしたいですしね。


 イヤな人に会ったり戦いで痛い思いをしたのに明日もゲームをしたいと思うなんて、やっぱり相当ゲームを好きになったようです。

 少し前までは想像も出来ませんでしたね。本当に。

 でも嫌じゃありません。むしろ楽しみです。


 ゲームも私も、どう変わっていくんでしょうか?



8/30誤字修正しました。


今話はここまでです。最後一気に詰め込んだ感はありますが。

幕間二つ(予定)挟んで次話になります。

アレの理由も幕間で。


フミちゃんはキツネさんになりました。

いやその、もっともふもふ成分が欲しいなーと……。



Q:理由、それだけ?

A:はい(きっぱり)。……ああいや嘘です。コレにはふかーいわけが。


Q:うん。で?

A:いやその……ネタバレになるんで……。


Q:いいから、な?

A:えーっと……。


Q:ん?

A:……。


Q:んん?

A:ゴメンナサイもふもふが欲しかったんです……誘惑に負けたんです……。


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