11-15 新ダンジョンに行ってきます。
またしても短いです。
「イオン」
後ろから聞こえてきた声に振り向いてみれば、声の主は予想通りリード君。もちろんウェイスト君も居ます。
でも驚きました。見てるだけと聞いてたので。
というかまだここに居たんですね。……なわけありませんよね、どこかクエストとか行ってましたよね。
いえ今はそんなことはどうでもいいです。
話しかけないと言ってたのに話しかけてきたのは、何か理由があると思うので。
「リード君、どうしました?」
「ちょっと話があるんだが、今大丈夫か?」
「今ですか? えっと……大丈夫ですよ」
プルストさんたちのほうはどうしようかなーなんて言いつつ、微妙な空気で話が止まってますしね。
私は後ろで見てるだけだったので、リード君と話すくらい特に問題ないはずです。
「悪いな。実はさっき火精霊の祭壇に行ってきたんだけどな、場所教えといたほうが良いと……思ったんだが……」
火精霊の祭壇、のところで一斉に見られて、リード君驚いてます。
……っていえいえ私も驚きましたよっ。リード君そんなところに行ってきたんですかっ。
「……何か、タイミング悪かったか?」
「いえ、むしろ最高のタイミングでした」
最高すぎて皆さん驚いてるだけですから。
「馬鹿な! 我々が調べても未だ判明していない場所に、たどり着けるわけがないだろう!」
怒ったように疑念の声を上げるのは、当然ですがランドルフさん。
自分が掴みきってない情報を知っているからといって、そんな声を荒げなくても……。
「そんなこと言われても、行っちゃったもんは行っちゃったんで」
「そんなもの間違いに決まっているっ。大体どうやって調べたというのだ。街中の本や資料を調べても出てこない情報を、たった二人で調べられるはずがないっ」
「どうって、管理人の旦那に直接連れてってもらったんで」
旦那さん?
管理している人が居るというのは予想つきます。風精霊の祭壇もそうでしたし。
でもどうして本人ではなく旦那さんなんでしょう?
それにどうしてランドルフさんは管理人さんに話を聞かなかったんでしょう?
「管理人だとぉ? ふんっ、適当なことを言いおって。そんな人物はこの街には居なかったぞ」
「そりゃそうっすよ。本人は女性でお腹に子供が居て、家から出てこないんすから」
「こど……っ!」
それでランドルフさんには管理人さんを見つけられなかったし、リード君は本人ではなく旦那さんに案内してもらったんですか。
「しかも昨日のサブクエで知り合ったオッサンが管理人の旦那さんだったんで、話は早かったですよ」
「サブクエストで、知り合った……だとっ」
なんと、そんな繋がりで。
どうやって管理人さんと知り合ったのかなぁと思いましたが、まず旦那さんのほうからだったんですね。
「そういやイオン、昨日の護衛の報酬もかなり多めにもらったから、あとで分け前渡すわ。いやー、簡単な仕事で報酬も多くて祭壇の場所もわかって、サブクエも良いもんだなっ」
そう言うリード君の顔はこちらに向いていますが、その言葉はむしろランドルフさんに聞かせるような感じですね。
しかもランドルフさん、驚いてる顔から何やら悔しそうな顔になって……。
もしかしてですが、リード君も何か言われたんでしょうか? で、その仕返しにわざとらしい自慢話をしたと。
……良い趣味ではないかもしれませんが、少しスッキリしますね。
――これくらいなら可愛いものですわ。むしろ、平気で人を見下す男にはいいクスリですの。
そうですね。本人に直接言ってるわけではないので、これくらいは許してもらいましょうか。
それにしても……こんなリード君を見るのは、なんか意外な気がしますね。
自信満々、ではないですね。ランドルフさんなんて、どうとも思ってないかのようです。
失礼ながら、リード君は強い人には不満を感じていても従うというか、エライ人には反発しないイメージがありましたので。昨日ギリアムさんにほとんど反論しなかったように。
ランドルフさんは別なんでしょうか。それとも心境の変化でもあったんでしょうか?
どっちでもいいですね。
少なくとも、このような人の言いなりになるよりはずっといいと思いますし。
「それで場所はわかったんだけどな……できれば契約するときには一緒について行きたいんだけど、駄目か? 契約するとこ見てみたいんだが……」
「それくらい大丈夫じゃないですか?」
魔法職じゃなくても興味ありますよね、当然。
なのでプルストさんのほうを窺ってみれば……。
「いやそれくらい当然だろ。アヤメもいいだろ?」
「あたりまえや」
「「ありがとうございます!」」
ふ、二人とも嬉しそうですね。そんなに契約を見たかったんでしょうか。
まだ珍しいことなので、無理もないかもしれませんけど。
「横からスマン。聞いてもいいか?」
マスグレイブさんです。
何故か凄い笑顔ですね。
「あっ、はいっ、どうぞ!」
リード君、何故か緊張しながらもものすごい嬉しそうです。
「まず名前聞いていいか。俺はナイツのマスグレイブだ」
「無所属のリードですっ」
「ウェイストですっ」
ウェイスト君も嬉しそうですね。
「リードとウェイストって呼んでいいか? ……さんきゅ。んじゃ改めて聞くが、二人は火精霊の祭壇を見つけたんだな?」
「はいっ」
「その情報は全体に公開してもいいのか?」
「はいっ、俺たちまだそんなレベルじゃないんで、独占するよりそのほうがいいと思うんで」
「トップグループが先に行ってしまうだけとは思わないのか?」
「トップが詰まってたら後ろに居る俺たちも前に進めないと思うんで。強い人が強くならないと、後ろで見てる俺らの目標もないっすから」
後ろから追いかける人が一番目印にしやすいのは、間違いなく前を走っている人たちです。
あの人みたいに強くなろうとか、そういう目標があれば頑張りやすいですよね。
「でも一部の人だけが強いってのは見てて面白くないんで。勝った負けたがないと、俺らも絶対勝てないってわかって諦めるしかないですよ」
一番強い人が一人居れば、他の人は二位以下になるしかありません。
強くなりたいとか、先に進みたいとか思っていても、絶対に勝てない一位が居る。
諦めてしまうのは仕方ありません。
「それで全体公開か」
「他にどうしていいかわからないんで……マズいですかね?」
少し不安そうなリード君。
新情報がどんな結果になるかわからないと不安にもなりますよね。……私という例もありますし。
ですが、今回は杞憂のようです。
「そんなわけないだろ、こういう情報は広まったほうがみんなやる気になるからな。良いこと言うじゃないかリード」
「ありがとうございますっ!」
笑って肩を叩くマスグレイブさんと、一層嬉しそうな表情になるリード君。
ウェイスト君が少し羨ましそうです。
「リード言うたな、うちはアヤメや。その場所は遠いんか?」
「街の北なんですけど、そこまで遠くないっすよ」
「そうかー。なら悪いんやけど今から付きおうてくれへん? すぐに契約に行きたいんやわ」
「喜んで案内します!」
「おおきになぁ。イオンの仲間はええやつ多いなぁ」
アヤメさん、ものすごくご機嫌です。
それと私もそう思います。私にはもったいないほどです……。
「あの私も付いて行っていいですかっ。契約するとこ見たいんで!」
「ウチはかまわへんで」
「お、俺も大丈夫ですっ」
「ありがとうございまーっす。あ、申し遅れましたがよろずやのメグルです。何か仕事があったら呼んでくださいねっ」
「「わかりましたっ」」
メグルさんの笑顔に二人とも赤くなってますね。
二人とも緊張したり嬉しかったりで、今日は表情筋が忙しそうです。
結局、メグルさんとロロさんを含めエス全員で行くことになりました。
ですがナイツオブラウンドの皆さんは居ません。
『自分らで契約するときまで楽しみに取っとくさ』
とマスグレイブさん。
そういうのも大事ですよね。答えがわかったら楽しみが減っちゃうというのはわかります。
わからないから知りたいんですしね。
ロロさんは少し悩んでましたが、興味に負けたようです。
『二人に黙ってるのは申し訳ないけど、でも見てみたいの。私魔法はあまり使えないから、多分契約しないし……』
今ロロさんのことを話そうにも、人目が多すぎますからね。
私も申し訳ない気がしますが、今回は見逃してください……。
『ふっ、まさかサブクエストにそんな利点があったとはな……。どうやら認めねばならんようだな、この世界の変化というものを……』
歩き出した私たちの後ろから何やら独り言が聞こえた気がしますが、気のせいでしょう。誰も返事してませんでしたし。
――戦闘が大変でしたから疲れているのですわ。契約が終わったらすぐに休むですの。
わかりました。それじゃ行きましょうか。
4/11誤字修正しました。
期待していただいたのに申し訳ありませんが、ざまぁ成分は少なくなっております……。
その理由は近いうちに出ます。具体的には三つ後で。
短いですが続きは明日投稿します……。