11-14 新ダンジョンに行ってきます。
ヘビ狩りは結構面倒くさかった。
確かに一匹一匹は強くないけど、聞いてた通り数が多いし何より範囲が広い。
場所はパリカルスの北にある海岸近くの森。
海岸側は砂浜ではなく岩場になってて、その岩場を隠すように森が覆っていた。
森は結構広くて、外側をなぞるように歩くと結構時間がかかる。ついでに戦闘の時間もあったから、余計に。
それを二往復もした。
でもこれくらいなら納得できる範囲だな、本当にヘビしか居なかったし。
危険度よりも手間の報酬と考えれば十分納得だ。
「ふむ。なかなかやるではないか若いの」
「そう言ってもらえんのはいいっすけど、オッサ……ギリアムさんも結構強いじゃないっすか」
オッサンはウォーハンマーで簡単にヘビを叩き潰してた。
ヘビの動きは結構速いのに平気で当ててたし、プレイヤーだったら間違いなく俺よりレベル高い。
「はっはっは! 鍛えてるからな、これぐらいは当たり前だ!」
商人なのになんで鍛えてんだよ。
「それよりリードとウェイスト言ったな。私のことはオッサンでいいぞ! よく言われるからな!」
「じゃ遠慮なく呼ぶわ。オッサン」
「オッサン」
「それでいい!」
ついでに下手くそな敬語も完全にやめてしまったけど、やっぱり豪快に笑うオッサン。
戦ってるあいだもだったけど、なかなかいいオッサンなんだよな。
俺が危なかったらフォロー入ってくれるし、俺がフォローしたらすぐに礼を言ってくれるし。
見た目がゴツいオッサンだから、慣れないとわからないけどな。
「粗方狩り尽くしたな。今日はこのくらいで終わるとするか」
「は、もう終わり?」
「そうだが、何か問題があったか?」
「いや森の中は全然狩ってないから、てっきり次は中かと思っただけなんだが」
外側を歩くだけで時間かかるって言ったけど、本当に外側しか狩ってない。
だから次は森の中に入ると思ってたんだが……。
「中は必要ない。魔物は居ないからな」
外側にこれだけ居たのに中には居ない?
そんなわけないだろ。普通は中のほうが多くなる。
「だが……そうだな、たまには確認しておくか」
確認?
「もう仕事は終わりだからな、帰ってもいいが付いてきてもいいぞ」
それだけ言ってオッサンは森に入って行く。また置いてきぼりかよ。
「……行くか」
「本当に?」
ウェイストから珍しく確認入った。
まぁどうなるかわからんし、最悪死ぬことだってあるからデスペナ痛いんだが……。
「何か、あのオッサンほっとくのもな」
「そこは同意」
そう言うなら止めんなよ。
いやつい調子に乗ることもあるから助かるけどな。
とにかく追いかけるか。
「来たのか」
「気になったんで」
それしか言いようがない。
「それでいい。好奇心の無いやつは冒険者に向かんからな!」
笑うのはいいんだが食われそうに見えるな……。
「よそ見して大声出していいのか? てか本当に魔物居ないのか……」
オッサンが森って言ってたから俺も森って言ったけど、森ってイメージじゃないほど明るいんだよな。
針葉樹林って言ったらいいのか? 松みたいな木が結構スペース空けて立ってるから普通に明るい。
さすがに奥まで見通せるほどじゃないけど、でもそこそこ見えるから魔物が全然居ないのはわかる。
普通の森だと、少し入れば結構エンカウントするのに。
「そう言っただろう。冒険者は疑うことも必要だから構わんがな!」
何でそんないちいち嬉しそうな顔すんだよ。迫力あるからこえーんだよ。
「何で魔物が居ないんですか?」
ウェイストも気になるよな。
「詳しいことは知らん!」
そんなこったろうと思ったよ。どうせ大した期待して……。
「私が知ってるのは、この先に火精霊をまつる祭壇があるということだけだ」
…………。
なんか、変な単語が聞こえた気がするんだが。
「……マジっすか?」
「何がだ?」
「火精霊の祭壇があるって」
「あるぞ。そこに向かっているからな」
マジかよ!!!!
「祭壇の周辺は、魔素が濃すぎるせいで魔物が居ない」
「おおそれだ。よく知っていたなウェイスト。だが二人とも何を驚いているんだ?」
こないだ情報上がってたからな! 魔物が居ない理由ならウェイストだけじゃなくて俺でも知ってるよ!
だからってそれと今の状況が結びつくわけないだろ驚くに決まってんだろ!!
精霊の祭壇の情報は最近になってやっと情報が集まり始めた程度。風精霊の祭壇以外は全く見つかってない。
だってのにいきなり火精霊の祭壇があるぞって、誰でも驚くってーの……。
「……いや、さすがに予想外すぎたから」
「そうか。まぁここに来る者はおらぬしな。知らなかったのも当然だろう」
「来る者が居ないって、秘密の場所じゃないのか? ここを知ってる人はほとんど居ないんだろ?」
なんか誰でも来ていいような言い方してるけど、調べてもわからないんだから他人に教えたら駄目ってことだろ?
「街の者が知らぬのはただ忘れたからだな。もう何代も誰も訪れておらんはずだ」
誰も来てないから忘れたぁ!?
「祭壇を進んで汚すような者でなければ誰が来ても構わん。他の祭壇は知らんがな」
マジかよ……誰も知らないなら必死に調べても情報出てこないわな……。
あとこんな怖そうなオッサンに聞こうとするやつなんて居ないだろうしな。
「じゃあオッサンは祭壇の管理人なのか」
風精霊の祭壇にはそういう人が居たらしいしな。
まさかオッサンがそうだとは思わなかった……。
「それは私ではない。私の妻だ」
微妙に違った。まぁ一緒みたいなもんか。
「そうだよな、魔物が居るんじゃ奥さん連れて来るのは危ないしな」
「…………」
……何か静かだな。ついでに表情もマジなんだが……。
「妻は、今動けなくてな」
……え、ちょ、そういう系?
言葉ははっきりしてるけどすげー重苦しいし……本当に?
ウェイストも『どうしよ……』って顔してるんだが、俺もどうしたらいいんだよ……。
や、ヤバイ。こういうときどう言ったらいいんだ。親戚の見舞いに行ったときとか後ろから一言挨拶しただけとかそんなんだったし、さっぱりわからん。
こういうときすいすい言葉出てくる大人がすげぇって今わかった。学校でもそういうこと教えてくれよ、それなら真面目に勉強するから。
いやでもシーラとかイオンは普通に話しそうだよな。ただのイメージだけど。
あーくそなんで今日は居ねぇんだよ。イオンはしょうがないけどせめてシーラが居たら何とかなったかもしれないのに。
うぉーどうしたらいいんだ。下手なこと言ってオッサン落ち込ませたくないしだからって何も言わないのも……。
「妻は……」
やばいっ、オッサン目をつむって震え始めたぞっ。
あーくそこうなったら出たとこ勝負だ!
「オッサン元気出せよ!」
「……リード」
「すぐは無理かもしれないけどさ、きっとすぐになんとかなるって!」
なんとかなるってなんだよ俺!
「……そう思うか」
よっしゃ食いついたぁ!
「当たり前だろっ。オッサンの奥さんがどんな人か知らないけど、オッサンが選んだ人だろ!」
何だよ選んだ人って!
「……なるほどな。確かにそうだ」
いよっしゃぁ! 適当言ったけど良い方向行ってるよなこれ!
「だったらオッサンが元気じゃないとダメだろ! そんな顔してんなよ!」
やっぱフツーのことしか言えねぇっ!
「……リード」
「な、なんだよ」
うおぉぉぉこんな真面目な顔と正面から目を合わすのって滅茶苦茶キツい!
「ありがとう」
「!!」
ヤバイ完全にフリーズした俺! 今喋ったらぜってー変なこと言う自信がある!
うあああああどーすりゃいいんだこれぇぇぇぇぇぇ!!
オッサン頼むから顔を緩めてっ、そうそう! その調子だ! そのままいつものオッサン戻れ!
「ならばこんな辛気くさい顔をするわけにはいかんな! 生まれてくる子供のためにも!!」
…………こども?
「リードッ、お前は素晴らしい男だな! 昨日言ったことは全て撤回して謝罪しよう!」
滅茶苦茶晴れやかな笑顔でバンバン肩を叩いてくるオッサン。さっきの重い雰囲気が消えたのはいいんだが……。
いやどういうことだ? オッサンすげー元気だし。
は? こども?
あれ、奥さんは?
「……オッサン」
「どうしたリード!」
「オッサンの奥さんって、今……」
「ああ、もうすぐ子供が生まれそうでな、ベッドに縛り付けているのだ!」
それで動けないのかよ!
つーか縛り付けるって何だ! DVか!
「そうしないと一人でここに来て魔物を狩ってしまうからな! ダニエルに監視させているのだ!」
……まさか奥さんって、オッサンと同類なのか?
「奥さん、戦えんの?」
「私は一度も勝った試しがないな!」
奥さんのほうが強いのかよ!
「昨日ももう少し帰るのが遅れていたら逃亡を許すところだった! 本当に助かったぞ!」
お、おぅ。それであんなに急いでたのか。そりゃ急ぐよな。
つか逃亡って。
「今日も急いで魔物を狩って帰らねばマズいところだったのだ。ダニエルだけではいつまで持つかわからんからな!」
奥さんヤベーな!
「だからリードたちが居て助かったぞ!」
「いやそれはいいけどだったら早く帰れよ! 祭壇は行かずに!」
絶対行く必要があるわけじゃないっぽいし、早く帰れっての!
「いや、祭壇まで確認しておけば妻がここに来る理由は全て無くなるからな。引き止める意味でも丁度いいのだ」
「だったら急いで行こうぜ早く!」
「そうだな!」
本気で走って祭壇行って問題ないこと確認して、そのまま本気で走ってパリカルスに帰ってきた。
マジ疲れた……。
「お疲れ様です。どうぞこちらを」
「あ、ども」
何故かそのままオッサンの家に着いてきてしまった。
家はそこまででかくない。なんかフツーの二階建ての家。
金持ちらしいんだけどなーとは思うが、あのオッサン見てると豪邸よりもこっちが似合うから納得だ。
家の前まで来たらダニエルさんにそのまま通されて、気が付けば茶が出てきた。
よく考えたら家の中には用なかったんだけどな。まぁいっか。
「ルゥゥゥシィィィィィィ私は寂しかったぞぉぉぉぉぉぉゴファッ!!」
「ベッドに縛り付けといて何言ってんだいアンタは。覚悟は出来てるんだろうねぇ」
オッサンが奥さんの拘束を外した途端吹っ飛ばされてた。
そりゃ怒るわな。縄じゃなくて鎖で固定されてたし。
どれだけ本気で拘束するんだよって思ったら、オッサン平気で吹っ飛ばすし。縄じゃすぐ引きちぎりそうだな。
そんな奥さんはオッサンに負けず劣らずのゴツい人だった。
この家、商人の家だよな? ボディビル選手の家じゃないよな?
「お代わりはいかがですか」
「もらいます」
オッサンがタコ殴りされてるのを眺めながら茶を飲んでるんだが、いいのかこれ?
「止めなくていいんすか?」
「いつものことですので」
いつもなのかよ。
「夫婦のコミュニケーションというものは、夫婦の数だけありますので」
そんなコミュニケーションはイヤだ……。
「いやそっちよりも、奥さんのお腹の子供に影響がないかっていうほうが……」
「ゴッホッ!!」
子供、って言った瞬間にさっきまでとはキレの違う一撃が決まったんだが……オッサン、生きてるか?
「お前、若いのにしっかりしてるじゃないか」
スッキリした顔の奥さんが、俺たちの居るテーブルに着いた。
床に転がってぴくぴくしてるオッサンを放置して。
「あたしはルーシーだ。森のヘビ狩りを手伝ってくれたんだろ? わざわざ悪いね」
「俺はリード。こっちはウェイスト。いやべつに、仕事だったし」
多分この人も敬語じゃないほうがいいよな。
「でもしっかりしてるって何がだ? 別にあのヘビ強くないし」
「そっちじゃないさ。あんたくらいで子供のことを気にする男は少ないからね。大したこと出来なくても、そういうこと気にしてもらえんのはありがたいもんさ」
そう言いながら視線はオッサンに向いてるんだが……。
「今はまだいいが、昔はホント気の回らないやつだったからねぇ。ようやくマシになってきたんだが、今度はやり過ぎるんだよ」
それで縛り付けてたのか……。
「いや、その体で狩りに行こうとするならむしろ当然だろ」
「お前もダニエルと同じこと言いやがって……」
わかってるけど不満なんだよって感じだな。
まぁあのオッサンの同類と考えればそれもわかるけどな。動けにないのは苦痛ってタイプなんだろ。
俺の叔母さんもそうだったんだよな。
俺が小さい頃、実家で出産するからってうちに帰ってきてたんだけど、妊娠してんのになんでも自分でやってしまうタイプの人だった。
そりゃじっとしてるより適度に体動かしたほうがいいんだろうけどな、でも暇だからって風呂掃除とか床掃除までするのはやめてくれ。こっちが気になるから。
せめてかがまなくてもいいように柄の長い道具使ってくれるならともかく、短期間しか使わないからもったいないとか言って普通にかがんで掃除してるし。その後も使えばいいだろ……。
子供の俺から見ても動きにくそうで、見ててかなり怖かったんだよな。
「せめて子供が生まれるまで我慢しろって。生まれたらまた動けるようになっから」
子供の世話でそれどころじゃなくなるけどな。
「へぇ、昨日聞いた話だと頼りないだけって感じだったが、なかなかいいとこあるじゃないか」
いやそんな大したもんじゃないだろ。これくらい普通だろ。
「少しはアイツも見習って欲しいもんだがねぇ」
オッサンと比べりゃ俺でもマシだろうよ……。
「昔のアイツに似てるとは聞いてたが、その辺はアイツよりはずっとマシだな」
オイ待て。
「誰と誰が似てるんだよ」
「リードとあそこで転がってるバカが」
「いやいや一体どこが似てるってんだよ! 見た目も何も似てないだろうが!」
「あたしは似てるって聞いただけだしなぁ。一歩引いてるって言うより中途半端に腰が引けてて、ピンチになっても本気を出せそうにない軟弱者だってね」
「…………」
ひでぇ言われようだけど……でもとっさに反論できなかった辺り、図星なんだろうなぁ……。
正直、心当たりがないわけじゃない。
別に冷めてるつもりはないんだけど、マリーシャとかイオンを見てると本気でこのゲームを楽しんでるって見えるんだよな。
逆に俺がそこまでのめり込んでるとは、自分でも思えない。
よく言えば一歩引いて効率優先にしてるって言えるかもしれないけど、俺以上に一歩引いてるはずのシーラのほうがよっぽど楽しんでるように見える。
ウェイストはよくわからないけど、少なくともゲームの知識は一番あるしな。それだけ好きなのは間違いない。
だから多分、五人の中で一番中途半端なのは俺だと思う。
ゲームは面白いし、みんなとパーティ組んでりゃもっと楽しいのは本当だ。
でもみんなほど本気じゃないのも本当だと思う。
中途半端に攻略して、中途半端に遊んでる。
そういう風に見られてるって事だろうなぁ……。
「ま、そんなことはどうでもいいんだけどね」
「どうでもいいのかよ!」
一瞬真面目に考えちまったぞ!
「そんなもんアタマで悩んだってどうしようもないだろ。アタマん中でいくら本気出すって決めても、ハラぁ括ってなけりゃいざってとき体は動かなくなるもんだしね」
脳筋みたいな言い方しやがって……でも言いたいことはなんとなくわかる。
頭で考えて納得するよりも、心の底から覚悟を決めとけとか、そういうことだろ?
「そんなもん一日二日でできるもんじゃないしね、そこのバカだってそうだった」
オッサンが? ……そういやオッサンと似てるって言われたんだった。
「今でこそあの調子で前衛やってるが、昔はかなり小心者でね。面倒なガキだったよ」
「オッサンが小心者ってマジかよ……」
はっきり言って信じられん。何回かビーチスネークに噛まれてたけど、平然と素手で掴んで放り投げてから叩き潰してたのに。
「そもそも商家の跡取りなんだから本当は商売の勉強するはずだったんだ。でもあいつ、バカでね。覚えが悪かったらしい」
そこは変わらないんだな。
「そんで本人は冒険者になりたいって言い出して、じゃあ訓練しようかとなるとビビって動けなくなる。どっちつかずだったんだよ」
周りの希望と本人の希望で板挟み。
でもどっちの才能も無いからどっちにも進めない。
勉強できないから商人にはなりたくないけど、でも冒険者になるのも怖かったってことか?
そりゃ中途半端って言われるよな……。
「けどアイツ、何をとち狂ったのかあたしに惚れやがってね」
はぁ!?
何か一気に話が飛んだ気がしたんだが、何がどうしてそうなった!
「言っとくがその頃のあたしはもうこんな感じだったからね。付き合ってくれって言うから、肩を並べられるような男じゃないと付き合わんって言ったら本気で訓練するようになったんだよ」
マジかよ……。
「最初はすぐにビビって諦めると思ってたんだけど、しぶとく諦めなくてね。結構時間はかかったけど、今じゃあたしと肩を並べられるようになったってわけだ」
オッサンすげぇな……。
「……じゃあ、その小心者だった頃のオッサンと俺が似てるってことか?」
「そういうこったろうね。あたしにはそんなことわからないけど、アイツはそう感じたんだろ。今日ヘビ狩りに連れてったのも、なんとなく気になったからじゃないか」
……やべえ。
たかが護衛の仕事した程度でそこまで気にしてくれるとか、すげーいいオッサンだな……。
「で、何かアイツから心構えでも伝授されたかい?」
「いや何にも」
気にする素振りもなかったからさっぱりわからなかったし。
「そんな事だろうと思ったよ。あたしも偉そうに言えることはないんだが、アイツの代わりに一つだけ言っておこうか」
「……お願いします」
オッサンみたいな脳筋にはなりたくないけど、年取ったらいいオッサンにはなりたいしな。
「あいつはあたしと結婚したいっていう、そのことだけに本気になったから変わった。だから何か一つでもいいから、本気になれるもんを見つけてみろ。アレコレ考えずにな」
他のことは考えずに、何か一つに本気になれ、ね……。
それが難しいからこんなことになってんだろ。いやこれがアレコレ考えるなって事か?
まぁそんな簡単にできることじゃないわな。オッサンだって何年もかかったんだし。
でも言いたいたいことはわかる気がする。イオンっていう良い例が居るし。
空を飛びたいってだけでゲームを始めて、実際に飛んで、その飛べることを生かしてあんなに強くなったんだし。
でしかも本人は『飛ぶのが楽しいからやってる』、だろ。
“本気”のやつは、それだけ凄いって事か。
「出来るかどうかはわからないけど、とりあえず覚えとくわ」
「ま、今はそんなところだろうね。ダメだったら好きな女でも作れ。それが手っ取り早い」
「それじゃ無理だった」
「ブッ!」
何言ってんだウェイストッ、お茶吹きそうになったじゃねぇか!
「なんだもう居るのかい。そりゃアイツにまで軟弱者扱いされるってもんだ」
「いや違うんで!」
「で、その子とはどんな感じなんだい?」
「ただの友達レベル。見てて面白くない」
「オイコラ!」
「こりゃ本格的に難しいかねぇ」
「だから違うってーの!!」
進展がないと知ると奥さんはすぐに興味をなくしてくれた。
マジ助かったけど、進展無しって思い知らされてかなり凹んだ。
ウェイスト、あとでシメる。
でもどういうわけか奥さんにも気に入られて、復活したオッサン共々そのまま話し込むことになった。
最近動けないからって冒険者業の話を聞かれたんだよ。
代わりに俺らもいろいろ聞いた。
昔はオッサンとあっちに行っただのこっちに行っただの。
要はほとんどノロケだな。
予想はしてたけど結構強いらしい。今のトッププレイヤーほどじゃないけど。
でもそれ商人じゃなくて冒険者の仕事じゃんって思ったら、メインでやってるのは商人の護衛らしい。
商売はダニエルさんとか頭回る人に任せて、二人は護衛だとかの力仕事に徹してるんだと。
適材適所ってことか。
昨日は珍しく護衛じゃなくて普通の商人の仕事をしてたんだそうだ。だからスーツだったんだな。
でもオッサンが護衛できるなら俺らが護衛する必要なかったんじゃね? って思ったんだが……。
『護衛する側に邪魔者が入り込んだらやりにくいだけだろう。非常時ならその限りではないが、守られる側は黙って言うことを聞いているほうが上手く回るというものだ。索敵くらいはさせたがな!』
そんときの言い方が、まさに護衛の本職って感じですげぇ驚いた。
すげぇ。わかってても気になって手を出してしまいそうなのに、オッサン全くそんなことなかったよな。
ただの脳筋ってより職人気質なオッサンだったのか。
こういうの、ちょっと憧れるな。
「思ったより面白いオッサンだったな」
「かなり」
魔物との戦い方とかで盛り上がって、気が付けば結構時間経ってたからいい加減失礼してきた。
最初は面倒なオッサンだなーって敬遠してたのに、一日でかなり印象変わったな。
第一印象悪すぎなんだよ。話せばいいオッサンなのに。
でもそういうのも、なんでも敬遠してたらわからないってことだよな。
マリーシャとかイオンが平気で話しかけてたけど、そういう姿勢って凄いことなんだな。
面倒と思う部分はまだあるけど……俺も出来るようになったら、もっとゲームが面白くなるか?
そういうの、悪くないな。
なんていうか、余裕のある大人の男って感じで。
……つーかこれ、ゲームなんだよな? 完全に普通の人と話してる気分だったぞ。
感情エンジン凄すぎだろ……。
まいっか。言ってることは尤もなわけだし。
奥さんも何かに本気になれって言ってたし、俺も少しはゲームに本気になってみるか?
……いやゲームに本気って、ゲームの何に本気になるんだよ。
まだよくわからんな、やっぱ。
ま、アレコレ考えず、軽く意識するとこからって事だな。
「残念ながら、それをお話しすることは出来ません」
でもいくら本気になるって言っても、アイツみたいにはなりたくねぇ。
なんだあのランドルフの自慢げな顔は。見てるだけですげームカついてくる。
オッサンの家を出たら港のほうに人が集まってるみたいだったから、もしかしてと思って港に来てみたらイオンたちが帰ってきてた。
んで何か話してるなーって近づいたらあのランドルフも居るし。
何かくどくど言ってるけど、結局のとこ攻略情報は俺のもんだーってことだろ? 小せえやつ。
どんな情報か知らないけどな、独占したって面白いの自分だけだろ。一人で遊びたいならオフゲーやれっての。
あ、そう考えるとあんなヤツどうでもよくなってきたな。ただ自己中なガキが騒いでるのと一緒じゃん。
ナイツってことで少しビビってたけど、それなら怖くないし。
怖くないならほっとくか。それより祭壇の情報をイオンたちに教えるほうが重要だ。
もしかしたら祭壇に連れてってもらえるかもしれないし、それぐらいは頼み込んでみよう。
そしたらプルストさんの戦ってるとことか、少しくらい見られるかもしれないしな。
次から視点は戻ります。




