1-1 私以外にとってのプロローグです。
勢いあまってVRMMORPG物に手を出してしまいました。
完結するよう頑張ります。
「こいつでラストッ!」
掛け声一閃、最後の魔物を切り捨てる。
「ダンジョンに着く前にこれとかきついなー」
「ちょっとプルスト気ぃ抜かないでよ、まだセーフティエリアじゃないんだから」
「ンなこと言ってもよーダンジョン着く前にこれだぜ? すこしは休憩しようぜ」
パーティメンバーのキイが不機嫌そうに尻尾を揺らすが気にせず座り込む。
疲れた時に休憩するのは自然の摂理なのだ。
「あの~、私も休憩した方がいいと思います~」
「ウチもや。今ので結構MP減ったからな。山に着く前に回復したいわ」
同じくメンバーのエリスとアヤメから援護射撃が入る。
バルガスに至っては既にポーション飲み切って干し肉まで齧ってる。
それを見たキイも流石に折れて回復休憩に入った。
魔法職がMP切れじゃ進みようもないしな。
剣士でアタッカーの俺。
斥候も兼ねる弓使いのキイ。
回復と支援魔法担当のエリス。
攻撃魔法専門のアヤメ。
盾役のバルガス。
この五人が今のメンバーだ。
今俺たちが目指してるのはゲイル山。
ゲーム最前線で未踏破のダンジョンだ。
ダンジョンとはいっても山だから迷宮は無いが、その分戦闘がつらいと言われている。
山の外側をなぞるようについた細い山道。
傍から見ただけでも道は勾配がきつく狭いため、パーティ間の連携も取りづらい。
当然、落ちたら落下ダメージで即死確定。
運よく引っかかっても一人ではぐれることになるから、魔物に狙われたら結果は変わらない。
そんな場所で敵が三方向やってくるのがまだ攻略されてない理由だ。
前後だけならなんとかなる。
迷宮で大部屋だと囲まれることだってあるからそういうことには慣れてるつもりだ。
だがこの山の場合、前後を除いた三方向目は空からの攻撃なのだ。
鳥型魔物のゲイルファルコン。
今までも鳥型の魔物は居たんだがそのほとんどの攻撃方法は急降下からの攻撃だ。
向こうから近づいてくるなら対処はできる。
羽を飛ばしてくる射撃系の攻撃もあったが、射程は短いからこっちの魔法と弓で十分対処できた。
しかしゲイルファルコンはよりによって魔法がメイン攻撃。
当然羽に比べて射程は長くなり、距離が遠くなった分必然的にこちらの攻撃も当たりにくくなる。
厄介だからとムキになって倒そうとすればすぐにMP切れになってしまう。
もちろん敵はそいつらだけじゃないわけだから、ゲイルファルコンだけ倒せたとしてもMPが切れてしまえば結果は一緒。
今までに挑戦した連中は結局誰も山頂までたどり着けてはいないらしい。
どこの連中も今は対策方法を考えている最中。
俺たちも今回は死に戻り前提で対策のための情報収集に来たというわけだ。
「しっかし随分とヤらしい敵配置するよなー」
休憩を終え山に向かい始めてすぐ愚痴ってしまう。
なんつーか行く前から気が重くてしょうがない。
「あんたの言いたいことも分かるけど少しは我慢しなさい。あたしなんて弓当たらないからサブのダガー中心になるのに、出てくる敵はダメージ通りにくいゴーレム系がメインなのよ?」
「役立たず乙」
「うるさい剣フェチ」
「まぁまぁ二人とも」
ヒートアップする前にみんなのお父さんバルガスからストップがかかる。
リアルでも妻子持ちだけあってなんとなく貫禄がある。
「痴話喧嘩は街に戻ってからしてください」
「誰が痴話喧嘩よ!」
「まったくだ。俺はもっと大人しい子がタイプだ」
「童貞君らしい好みやなぁ」
「ぐっさぁ!」
アヤメの一言で全俺が泣いた。
「アヤメさん言い過ぎですよ~。真実は~オブラートに包まないとトラウマになります~。下手にそんなことしたら~勘違い復讐されますから気を付けないと~」
「げふぅっ!」
エリスの言葉にライフがゼロになる。
「お二人とも流石ですね。難しいダンジョンを前にわざと冗談を言ってパーティリーダーの精神を鍛えるとは。もちろんリーダーはこんな子供だましな言葉にやられたりしませんよね?」
「……アタリマエデスヨー」
バルガスの信頼(主に俺以外に向けた)により強制的に立ち直される俺。
俺、泣いていいかな……?
「……皆ストップ」
あと少しで山の入口というところでのキイの声に、全員が立ち止まり武器に手をかける。
尻尾も緊張したようにピンとしている。
茂みが邪魔で先は見えないが何か居るらしい。
こんなやり取りしてる時でもしっかり索敵してるキイの斥候としての能力は流石だと思う。
「ごめん敵じゃないと思うんだけど……」
「プレイヤーか? 先行は居ないと思ったんだけどな」
武器に手をかけた俺たちを止めるようにキイの言葉が続いた。
俺達はここにくるまで普通にエンカウントしていた。
先行するプレイヤーが居れば同じように戦っただろうし、魔物がリポップするまで時間がある。
追いつくほど近いんだったらその後を追う俺たちは戦闘回数が少なくなるはずだ。
「しかも向こうは一人」
「一人?」
こんな最前線に一人で到達?
いくらなんでも無理だろ。
いやたどり着くだけなら多分できる。
高レベルの潜伏スキルを駆使するかひたすら逃げ切るか。
俺だって後先考えずにスキル連発でゴリ押しすれば多分できる。
けどそれだけだ。
消耗しきってしまえば死に戻りするだけだし、何より一人でここに来る意味なんかもっとない。
だからキイも警戒したんだろう。
「それホンマにプレイヤーなんか?」
「ていうと?」
「知らんわ」
おい。
「他のメンバーに置き去りにされたとか、聞いたことありませんが魔物の擬態能力とか」
「置き去りはあるかもなー」
「実は囮でPKトラップかも~」
「このゲームPKのメリットほとんどないじゃん。わざわざ未踏破ダンジョンでやるかぁ?」
このゲームでもPK、プレイヤーキラー行為はできる。
ただし一応経験値は手に入るがそれ以外のメリットは全くない。
魔物のように金もアイテムも手に入らない仕様だ。
倒されたプレイヤーにPKリストに載せられて動きにくくなるだけだ。
「ここで考えていても始まりませんし~、とりあえず近づいてみません?」
「そうやね。罠だったら吹っ飛ばすだけやし」
「いや確定するまで吹っ飛ばすなよ? PKリストに入りたくないからな?」
「わかっとるわー」
ほんとかよ……。
「まぁいいや。とりあえず警戒しつつ近づく。武器には手をかけるなよ、相手にも警戒される。魔法は防御系を範囲で準備、なんかあったら即発動で。キイは索敵。バルガス先頭頼んだ。ヤバい時は撤退優先で」
「「「「了解」」」」
簡単に指示してバルガスを先頭に茂みから出る。
ここまでの小さな林が途切れ、岩が転がった山の入口が見える。
そしてその岩の一つに腰かけた、一人の女の子の姿が見えた。
肩下まで伸びた青い髪、そしてその背に見えるは――
「翼……鳥族?」
キイの呟くような言葉が漏れた。
背中にあるのは白い一対の翼。
このゲームで最大の外れ種族と呼ばれる鳥族の特徴が、そこにはあった。
プロローグは主人公視点ではありません。
プロローグが終わるまでは連続投稿。
その後はキリのいいところまで毎日投稿します。
その後は不定期になる予定……。