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目が覚めれば何だかモヤモヤしたよく分からない場所にいた。雰囲気的にいかにも『天界!』という感じの場所だったので、きっと俺は死にたてほやほやなんだろう。


「目が覚めた様ね」


 もうなんかあつらえたような見た目の『女神!』な女が身の前に立っていた。これで俺が死んだということはきっと確定的だ。若干絶望的な気持ちになる。


「ここはどこだ」


 俺は端的に聞いた。半ば答えは分かっている。しかし聞かなくてはいけないような気がしたのだ。


「ここは『転生の間』よ。山中捨吾郎。貴方は死んでしまったの」

「何てことだ!」


 いやぜんぜん予測はしてたけど! ハッキリ言われるとやっぱり驚愕を禁じ得ないな……


「しかし死ぬ前の記憶がまったくない。俺はなぜ死んでしまったんだ! 教えてくれ女神様! 道路に飛び出したネコを助けたのか? それとも暴漢に襲われていた女の子をかばって死んだのか!?」


 女神は沈痛な面持ちで首を横に振った。


「な、なんだその反応は…… ! まさか! 可哀想な貧乏な親子の為に臓器を全て売って……!」

「落ち着いて聞いて、捨吾郎」


 神妙に女神は言葉を紡ぐ。


「貴方は七夕の日、近所の七夕祭りで『リア充共は全員爆発しろ!』などと意味不明な供述をしながら腹に巻いた爆弾に着火、しかしまごまごしている間に周りの人間は全部逃げてしまって、貴方だけが爆発したのよ。華々しい最後だったわ」

「……oh」


 俺は頭を抱えた。なんて男らしい死に方なんだ。しかし「わあいお星さま綺麗だね!」「うん、でもやっぱり君には及ばないよ」「やーんヒロ君ったらだいたーん」とか「ミキたんは短冊に何書いたの?」「うん? それはいえないよぅ」「なんだ、俺は『ミキたんともっとラブラブになれますように』って書いたのに」「うっそー! 私も『ヒロ君ともっといっぱいキスできますように❤』って書いたの!」「俺達って以心伝心だよな!」「きゃあ! うーれーしーいー!」などとほざくリア充共を一匹も駆逐できなかったのは残念だったな……


「貴方のその勇気()を称えて、私は貴方を勇者として異世界へと転移させたいと思います」

「異世界だと? ならばまさか、チートな固有スキルなんかを付けてくれるのか?」


 女神はふわりと微笑んだ。


「勿論。私がとびきりチートな、しかも貴方にピッタリな物を付けてあげる。無論ステータスも化け物級よ」

「なんとお!」


 俺は狂喜に舞い上がった。これはハーレム展開一直線だ。生前果たすことのできなかった願望を今こそ果たすのだ! ヒロ君だかミキたんだか知らんが見ておれよ。


「それでは、貴方には異世界でがんばってもらうことにしましょう」

「おうとも!」


 パチンッ。

 女神が指を鳴らす。

 足元に穴がぽっかりと開き、俺は真下に落下した。


「この展開も知ってたぁああああああああああああああああああああああ!!!」


 爆笑しながら(多分目は笑っていなかった)俺は重力に身を任せた。




 再び目が覚めたら知らない天井だった。


「う……。知らない天井だ……。ここはどこなんだ?」


 口に出して言ってみた。気分である。


「ああ! 目が覚めたのですね!」


 仰向けの俺に覆いかぶさるようにして、一人の少女が視界に現れた。奇妙なことに、頭部には獣―――猫の耳のようなものが生えている。


「ぬ? まさかお前は……獣人族?」

「ええ。そうです。キャミルと申します」


 ひまわりのように、猫耳の美少女は笑った。


「お兄さんは、どこから来たのですか? いきなり空から降ってきて……お店の皆は大騒ぎだったのですよ?」

「それはだな……お店?」


 怪訝な顔をした俺に、キャミルはにっこりとほほ笑んだ。耳がぴょこぴょこ動く。


「はい、ここは宿屋なのです! 私はここでメイドをしているのです」


 よく見たらキャミルは見事なメイド姿だった。これぞ様式美! これぞ完成された芸術。俺は自分の鼻息が荒くなるのを抑えられなかった。


「ゴラァア! 何油売ってやがんだこの糞メイド!」


 突如、俺とキャミルがいる部屋に禿げ上がったオヤジが入ってきた。


「す、すみませんゴウレイ様! しかしお客様が目をお覚ましになったので……きゃあ!」


 最後の悲鳴はゴウレイがキャミルを殴ったのが原因だ。

 カァッと俺の頭に血が上る。


「奴隷の分際で口出しするんじゃあない! 教育のなっていない奴隷には教育が必要なようだな!」


 そういって床に倒れ込んだキャミルを、ゴウレイは足で強く蹴り始めた。


「おいテメェ! 何やってんだ!」


 俺はゴウレイの腕を掴む。


「ああ? 部外者は黙ってろ。これは俺が奴隷商から高い金払って買い取ったモンなんだ。金も持ってねえ奴はさっさと出てけ!」

「ナニィ!?」


 俺は激高した。今すぐこの目の前の腐れ外道をこてんぱんにしてやりたかったが、しかしそうなっては心優しいキャミルは傷ついてしまうだろう。


「金さえありゃあいんだなこのクソデブハゲオヤジが! いくらだ! 言って見やがれ!」


 ふん! ゴウレイは鼻で嗤った。


「金貨3枚だ。これは農民の半年の給料だ。貴様には到底無理な額だな!」

 俺はゴウレイの言葉が終わる前に宿屋を飛び出していた。


~ 一時間後 ~


「なに!? 金貨7枚だと!?」

「ふっ……はははははははははははは! さあ約束通りキャミルを譲ってもらおうか!」

「お、お兄さん!?」


 そこには床に膝をついたゴウレイと高笑いをする俺の姿があった。


「い、一体どうやってこんな大金を……俺だって三か月はかかったんだぞ……! おい貴様ァ! どうやってこの短時間にこんな金を!? 言え!」


 ゴウレイの目にはもはやキャミルは映っていなかった。そこにあるのは金への欲望のみだ。俺はゴウレイの顔に唾を吐きかけた。


「くたばれ!」


 かくして、俺とキャミルの二人旅は始まったのである。


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