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Download【18】 のっぴきならない集い

 

「おい、ガチで知らないんだな?」

「だから、さっきから何回も言ってるだろ」



 何度目かわからない質問に、すこし苛立ってしまう。

 ひとがひとりいなくなっただけなのにちょっと大げさすぎやしないか。

 そう思ったのは言葉にしない。目の前を慌てて走っていくデトクの国兵たちを眺めていると、さすがに申し訳ない気もしないでもない。


 エヌが姿を消してから半日、すでに時刻は夕方にさしかかっていた。

 囚人奴隷の失踪に気づいた王宮騎士の『熊』と『鷹』は、すぐさま俺と馬車の御者を連れて国境村まで戻ってきた。

 俺はご丁寧にMACまで取り上げられ、村の広場でおとなしく座っている。


 縦にも横にも巨大な王宮騎士『熊』は、デトクの駐屯兵に指名手配犯が逃げているという偽の情報を伝え、すぐさま検問を依頼した。すでに早馬が飛ばされデトクの街や村には兵士がうじゃうじゃいることだろう。

 もちろんそれだけじゃなく、王宮騎士『鷹』がリッケルレンスの王都に情報を伝えに向かっていた。『鷹』は王宮騎士のなかでもっとも長距離移動に長けているらしく、目算ではそろそろこちらに戻ってくるんだとか。


「マジで、おまえが画策したことじゃないのかよ?」

「だから違うって」


 巨漢に上から睨まれて、すこし気圧されながらも否定する。

 そりゃあそれまで従順だった囚人が姿を消したとなると、俺を疑うのも無理はないが。

 しかし、だ。


「こうならないために、あんたら王宮騎士がいたんじゃないのかよ」

「あ? なんか言ったか?」

「……なんでもない」


 小声でぼやいても仕方がない。

 にしても、エヌの膂力(りょりょく)は並外れている。検問を敷いたくらいじゃ見つけられないはずだ。


「コレはパフォーマンスだからいいんだよ。それより、ほんとうに心当たりもなにもないのか? おまえのこの魔法で手伝わなけりゃ、あの馬車の扉を開けずに外にでることなんてあの魔女には不可能だろ? なんたってオレたちが監視してたんだ。補助なしで姿をくらませるなんてガチであり得ねえぜこりゃ」

「それは……」


 それはそうだが、断じて俺の魔法は使ってない。

 にしても、『熊』が俺の目の前で〝X-Move〟を手の中でくるくる回して遊んでいるのは癪に障る。俺のただひとつの魔法が他人の手に渡るってことが、どれほど嫌な気分になるのか体感できた。

 それともうひとつ。

『熊』の手にもう一枚握られているMAC――〝最後の審判〟だ。エヌの体内に埋め込まれた爆弾の起爆装置。あれも見ていてイライラする。


「おいガキ、おまえがフィオラ様にいくら信頼されてるからってなあ、囚人脱走の手助けしたとなりゃ懲役は間違ねえぞ」

「だからしてないっての」

「それを決めるのはおまえじゃねえんだよ。せいぜい調査で思わぬ証拠(・・・・・)が挙がらないことを祈るんだな」

「…………。」


 イライラしてるのは俺だけじゃないようだが、もう答えるのも面倒だった。


「――学生イジメるなんて、スマートじゃないね『熊』の旦那」


 無視を決め込んだ直後、空から降ってきたのは柔らかな声。

 ふわりとローブをはためかせて着地したのは、細身の優男だった。優雅って言葉が似合いそうな、長髪の男――『鷹』。王家の紋章を胸につけた柔和な表情の青年だ。


「ちっ……遅えぞ」

「今日の風は些かじゃじゃ馬でね。それより『熊』の旦那、なにか進展はあったかい?」

「あるわけねえだろ。いつこの爆弾(・・)を使ってやろうかと思ってたところだ」

「そうそう、その件なんだけどね。陛下にお伺いを立ててきたんだけど、事情を説明するまもなく申し付けられてね。『心配はいらないから、国境で待っておけ』とのことらしいよ」

「はぁ? なんだそりゃ!?」

「どうにも今回の件、僕らの与り知らないところで誰かが一枚噛んでいるようだよ。……そういうわけで、僕らはゆっくり休もうじゃないか。こっそり監視しなくていいなら僕らも堂々と宿屋を使わせてもらうよ」

「おいおい、ちょっとまてよ! そんなんでいいのかおまえ!」


 声を荒げる『熊』は、舌打ちしながら『鷹』に詰め寄った。肩をつかもうとして手を伸ばす。

 それをひらりとかわすのは『鷹』だ。


「いいもなにも、僕ら騎士は主君の命ずるままに、と忠義を誓ってるからね。陛下が僕の信頼を裏切らない限り、僕は陛下の判断を裏切らないよ」

「そりゃオレもだが……そうじゃなくて、知りたくねえのかよ? どこの誰がこの件に噛んでるのかくらい、聞いてきたのか?」

「陛下はお忙しくてね、あいにく言葉を交わす余裕はなかったよ。まあ大方、陛下お気に入りの例の天才少年か、うちの『隼』くんあたりが詳しい事情を知ってるんじゃないかな? どちらにしろ僕らより情報通な彼らが陛下のおそばにいるんだ。心配するようなことはなにもないはずだよ」


 わりと気にしないタイプなんだろう。

『鷹』は手をヒラヒラと降って、そのまま宿屋のほうへ歩いて行った。


「ちっ……いつから陛下の側近はガキばっかりになったんだ。『虎』のジジイは仕事してんのかよ」


 苛立ちまぎれに『熊』は俺のMACを投げてよこしてきた。そのまま国境の門のそばにたむろしている兵士たちのところに歩いていくと、検問を解除するように申請していた。

 もう自由にしていいってことだろう。

 MACを懐にしまうと、大きく背伸びをする。さっきの話だと、国王はすでにエヌが消えたことを知っているのだろう。ってことはやはり師匠か『隼』か……どちらにしろ、心配する必要はないはずだが。


 ……でも、なぜだろう。

 俺の胸の小さな火種のような何かが、くすぶったままだった。



 ↓↓

 ↓↓↓↓



 ラッツォーネ王国は、王国といえるほどの体制が整っているわけじゃない。

 系図を辿ればみな同じ血が流れていることはわかる。もともと土地も狭く、細々と生きながらえてきた村だからこそ、強靭な生命力と血が生まれ育ってきた。全員の魔力数値が高く、使える魔法も幅広いのはそのためだ。外の世界では『王族』という属性に分類されるが、ほとんどの村民はこの村から滅多に出ないのでその強靭な素質には気づかない。ただこの村の役割に従い、生活を営む。そのなかで訪れるささやかな変化に趣を感じ、心に余裕をもって老いていく。


 それこそがラッツォーネの歴史だ。

 ウィのような者は、かなり稀だった。

 幼少期から国外で過ごし、自立心を育ててからラッツォーネに戻ってきた。国外を歩き慣れているズィやクォも薄々感じているだろう。ラッツォーネが世界にとってどれだけ小さく、そして弱い国なのかわかっている。

 どうすればこの国を守れるか。

 ウィの祖父もまた、この村を国として独立させたとき、それを知っていたのだろう。だからこそラッツォーネはますます村のなかで完結できるようなシステムを整え、もはや国交する必要さえなくなるほどに狭い環境になった。まだ昔は隣国とのささやかな交流もあったらしいが、それも消滅した。


 迎合すれば崩される。

 平穏こそが時代を作る。


 ラッツォーネに必要なのはこの二つの指針だ。

 つねに時代をリードして歩かなければならない。時代のうねりに巻き込まれるものなら、たったひとつの小国など簡単に消え去ってしまうだろう。

 だからこそウィは力をつけなければならなかった。

 魔法の進歩とともに、ラッツォーネの優位性である自然の結界を破ることは簡単になっていた。鋭くそびえ立つ山々も、空を飛ぶ魔法を持つ者にとっては無意味だ。凍った大地も、地中を進む魔法を持つ者にとっては無意味だ。

 だから、妥協しない。

 力をつけることに迷わない。


「ほっほっほ……飢えておるのう」

「それはこちらのセリフよ、ご老体」


 ウィ=メア=ロロ=シュバインは、正面に座る老人に笑みを向けた。

 鉄壁の笑み。微笑みの仮面。

 こちらの動揺は読み取られないように、さっと周囲に視線を走らせる。

 どこかの部屋だった。出口も入口もない、壁と天井に囲まれただけの部屋。

 さっきまでラッツォーネの家の肘掛け椅子に座っていたはずだったが、いつのまにかこの部屋にいたのだ。

 不意打ちの転移。そんなことを成せるなんて、大陸でも数が限られている。

 部屋には円卓があり、正面の椅子に腰かけていたのは老人だ。

 直接会ったことはなかったが、見覚えはもちろんある。


「して、わらわに何用か……二コラフラン候?」


 かつて魔法技術発達の先達者にして、この世界を裏切った魔人二コラフラン。

 魔女の暴走でこの世界に強制召喚されて以来、なにかを求めて彷徨っているようだった。千里眼でときどき監視していたが、ついに接触してきたか。


「そう慌てなさんな。若いのは話を()いていかんのう」

「迂遠させれば良いというものでもあるまい? ご老体の体を労われというのなら、承服してやってもよいが」

「これは手厳しいのう」


 ホッホッホ、と笑う魔人。

 そろそろズィとレナが帰っているころだ。怪我をしているズィを観てやりたいところだったのに不在だなんて、さぞかし心配するだろう。怪我が悪化しなければよいが。

 円卓にはあと空き椅子がふたつある。魔人二コラフランがなにを思ってウィを転移させたのかは知らないが、まだ必要なメンツはそろっていないようだ。


「ほれ、きおったわ」


 二コラフランのつぶやきと、椅子のひとつに獣人が召喚されたのは同時だった。

 ウィよりすこし年上だろう。布きれを合わせた服をゆったりとまとった獣人の少女だった。

 顔を合わせるのは初めてで、むこうはこちらのことなど知らないだろうが、ウィは知っている。この少女もときどき監視していたから。


「……いきなり、何の用なの?」


 少女は周りを見回して、すぐに二コラフランを睨んだ。

 意外と動じていない。


「久しいのうエヴァルル嬢よ。息災にしておったかの?」

「ボクをもとの場所に戻して」

「まあまあ、そう慌てなさんな」


 立ち上がろうとする天獅エヴァルルを手で制した二コラフラン。

 ……なるほど。

 二コラフラン、エヴァルル、そしてウィ。用があるのは正確にはウィではなく、ウィのなかのアポカリプだろうが、この三人が集ったということはあとひとつの空席は――


「ほれ、主賓がおいでなすったわい」


 最後の空席に転移してきたのは、言うまでもなく……魔女だった。

 名前のない囚人魔女。

 彼女は転移してきた――その次の瞬間、閃光のような速度で二コラフランに蹴りを叩き込んでいた。

 破裂するような音と、旋風が巻き起こる。

 二コラフランは片手でその蹴りを受け止めていた。立ち上がることもなく、椅子に座ったままやれやれと肩を竦める。


「いきなりなにをするかのう」

「…………。」


 魔女は無表情のまま、椅子に戻った。

 初めて魔女に会った。

 義理の弟――フルスロットルの一番弟子にして、災厄の魔女。

 千里眼を通して、いままで何度もこの魔女の姿を見てきた。暴走してここの三体を召喚して以降はとくに精神が揺らぐこともなかったので危険視していなかったけど、やはり間近でみると違った。封じられてもなお漏れ出る魔力に、躊躇ない行動。

 このウィともあろうものが、かすかに畏怖すら感じる。


「……魔女」


 ぽつりとつぶやいたのは、天獅エヴァルルだった。

 このなかで最も魔女に恨みがあるとすれば、彼女だろう。

 彼女は多くの命を奪ってしまった。何万人という血で両手を染めざるを得なかった少女にとって、魔女は百害あっても一利のない相手。

 ここで殺意を抑え込めていられるのは、正直、驚嘆に値する。


「さて、役者もすべてそろったことで、まずは略式に挨拶させて頂こうかの。ようこそ我が部屋へ、マスター。そして来賓の諸君」


 恭しく――しかしわざとらしく魔女に頭を垂れる二コラフラン。


「エヴァルル嬢も、北国の魔眼王の嬢ちゃんも、この老いぼれの戯れに付き合わせてすまぬのう。しばし、このひと時を楽しんでもらえると嬉しいわい」

「前置きはもう充分よ。本題に入ってくれぬか?」

「そうじゃの。アポカリプの宿主にシビレを切らされては困ったもんじゃないからのう」


 ようやく二コラフランがうなずいた。

 ぐるりと三人を見渡して、両手を広げる。


「ここに集まってもらったのはほかでもないわい。わしがこの世界にとどまる理由について、おぬしらに話しておこうと思ってのう」

「……魔王のことでしょ?」


 と。

 意外にも、すんなりと言葉をはさんできたのは天獅だった。

 これには二コラフランも驚いたのか目を丸くした。


「ほほう。エヴァルル嬢は外界のことなど興味がないとばかり思っておったわ。いかにも、わしがこの世界にとどまるのは魔王……魔界の王が不在であるからに他らならぬ。しかしエヴァルル嬢や、なぜそれを知っておるのじゃ?」

「魔王を探して魔界に還ってこない……むこうじゃ、あなたにそういう噂があるって聞いたから」

「それは初耳じゃのう」

「そもそもなぜ魔界の噂など知っておる?」


 ウィが口をはさんだ。


「ボクは獣を統べる力を持ってるの……だから、魔界から召喚された魔獣たちとも会話できる」

「それは便利そうよのう」


 なるほど。

 この天獅を、一度リンに会わせてみたくなった。あの少女はこれを聞けば歓喜して飛びついてくるだろう。


「それはそうとご老体。魔王を探しているとは誠か?」

「半ば間違ってはおらんよ。たしかに、混沌たる魔界を統治する器を探しておる。魔で満たされたあの世界をひとつにまとめるほどの力を持てる、王たり得る王を」

「それと、あたしたちが呼び出されたのとどう関係あるの?」


 魔女がようやく口を開いた。

 魔人は目を細めて、薄い笑みを浮かべた。

 まさか、魔女がその器だとでもいうのだろうか。


「……袖振り合うも他生の縁、じゃよ。ささやかな縁にも深き因果を伴うものじゃ。わしらのなかで、蛮勇なる器を持てし魂がそばにいる者がいるじゃろう?」


 二コラフランのセリフは、まっすぐにこちらに向いていた。

 ……勇者か。


「なるほどご老体。つまり勇者とは、魔界でいうところの支配者というところか。たしかに勇者はすべての魔法を行使し得、魔を司りし素質があるこそゆえ」

「いかにもじゃ。この世界では彼の者のような素質を持つものを勇者と呼ぶが、あちらでは魔王と呼ぶのじゃよ。……太古から伝わる勇者と魔王のおとぎ話など、じつは存在しえぬということよ。あるいは存在しておっても同じ素質同士の争いにすぎぬのじゃ。色即是空空即是色、本質はただの空話じゃよ」


 おとぎ話については、どうでもいい。

 つまり二コラフランは、レナとリンを狙っているということか。


「これこれ、心得を(たが)うでないぞ若き王。わしとて永らく生きておるがのう、若者の将来を摘み取ろうとは思いはせぬ。勇者に手を出そうなどとは思ってもおらぬよ」

「……では、なぜわらわたちをここへ集めた?」

「ちと、整理しておこうと思ってのう」


 二コラフランは自分を指さした。


「わしは魔王の器を探しておるが、乙女に手を出そうと思うほど落ちぶれてはおらぬし、なにより彼女らはまだこの世界を理解しておらぬであろう? 魔法の真理を知らぬものに魔界はちと荷が重い。ゆえに、魔王を探しておることだけは言っておこうとおもっての」

「なんのために?」

「じゃから言うておろう。状況の整理じゃよ」


 つぎに、二コラフランはエヴァルルを指さした。


「わしの勘が衰えてなければのう、近く、大きな争いが起ころうよ。その際わしらが敵対するのであればちと心してかからねばならぬと思っての。なんせわしらは一人で人間の国をひとつ滅ぼせるほどの力をもっておるゆえ、戦う場所にも気を使わねばならぬ。……エヴァルル嬢の目的は、聞いてよいかのう?」

「ボクは、これ以上不条理な争いを起こさせないだけだよ」


 じっと魔女を睨むエヴァルル。

 その視線に籠っている感情は、だれにだって理解できただろう。

 狙いはいうまでもなかった。


「ふむ。おぬしはどうじゃ若き魔眼王」

「わらわは祖国と民を守るだけよ。それよりもそなたはどうか、魔女?」

「…………。」


 ウィの問いかけに、魔女は反応しなかった。

 もし二コラフランの勘どおり、、大きな争い……おそらく戦争が起こるとすれば、重要なのはやはり魔女の立ち位置だ。魔女はいまリッケルレンスの飼い犬になっているが、彼女が解放されるとすれば世界にまた災厄をばら撒く可能性がある。前回呼び込まれたのはここにいる三人だけだったが、つぎはもっと大きな禍が招かれるかもしれないのだ。

 

「答えてはくれんか? おぬしはなにを以って行動するのじゃ?」


 戦火をむやみに広げたくないのは、ここにいる者すべてが共通してる考えだろう。

 二コラフランのいうとおり、魔女との関係性はとくに把握しておかなければならない。

 だが。


「……さあ」


 魔女の答えは淡泊だった。

 二コラフランが目を細め、エヴァルルががっかりしたように肩を落とす。

 もしかして、魔女には思惑がないのか。

 それとも……


「では魔女よ、ひとつだけ聞くが答えてはくれないか。もしいつかそなたがわらわたちと戦ったとして、そなたは殺す気でかかってくるか?」

「さあ」

「ではそなたが先ほどまで共にいたあの者を、わらわたちが殺そうとしたとき、おぬしはどうするかの?」

「守るわよ」


 即答だ。

 さきほどまでとは打って変わって、言葉に力が籠っていた。


「あいつは二番。一番が二番を守るのは……当然だもの」

「そうか」


 ウィはため息をつくとともに、口元を緩めた。

 だいたいわかった(・・・・・・・・)

 この魔女の行動理念が、わかってきた。

 二コラフランも同じように理解したらしい。小さくうなずくと、話題を切り替えた。


「大方、把握はできたようじゃの。

 わしが求めるは魔王。

 エヴァルル嬢が求めるは平穏。

 魔眼王が求めるは国家生存。

 わが主が求めるは、摂理といったところか。諸君ら、うまく立ち回ることを祈っておるわい。

 それでは次の議題に移ろうかのう。今回集まってもらった用向きは、じつはこちらに重きがあってのう。おぬしらにひとつ頼みたいことがあるのじゃ。というのも、知らぬ者はいないといわれる幼き魔法使いのことじゃが、あやつの魔法のなかに――」


 話題は魔法理論に変わった。

 つまらなさそうにするエヴァルルと魔女には悪いが、ウィはフルスロットルのことなら幼いころから見てきた。あの悪ガキの頭のなかなんて知ったこっちゃないけど、世話してきた身としては、彼の話をすることは楽しい。


 フルスロットルのこと、魔法のこと、歴史の解釈のこと。

 魔女とその召喚獣たちは、封鎖された部屋でしばらく語り合った。

 はじめはどうなることかと思ったが、意外と話が通じそうな者たちだ。


 この日は、ウィ=メア=ロロ=シュバインにとって忘れられない日になったのだった。


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