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オチるセカイのファンタジア ~Fantasia of the Falling Flowers~  作者: 裏山おもて
ダンジョン・イン・ダンジョン
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Download【9】 世界を知るために


「モンスターカード『ザナティウスの火炎竜』しょーかん! 守備モンスターこうげきだぜ!」

「ざんねーん。フィールドカード『湖』はつどうで、炎属性の攻撃力が1000さがるんだよーだ」

「うわっ、そんなもん隠してたのかよ。ずりぃなぁ」



 暖炉の灯るリビングに子どもたちが集まっていた。


 ラッツォーネ王国の子どもたちは晴れたら外で遊び、雪が降れば家のなかで遊ぶのが習慣らしい。それは大人も同じく、雪が降れば仕事はおあずけ。それぞれ家のなかでできることをするみたいだ。

 自然に逆らうことなく、共存する。

 それがラッツォーネの人々の生き方だった。


「つぎはあたしのターンね。魔術カード『死霊使いの等価交換』をつかって守備モンスターをいけにえに、召喚獣デッキから『精霊アクア』をとくしゅしょうかんね。それで、えっと、火炎竜をこーげき!」

「ふふふあまいなティ。魔術カード『磁場反転』はつどうだぜ! 『湖』の効果がぎゃくてんして、ザナティウスの攻撃力が1000あがるんだ! これでアクアはじばくだな!」

「だいじょうぶだよ、魔術カード『天災回避』があるもーん! ラァのもってる火炎竜のこーげき力がはんぶんになるんだもん。火炎竜をはかいして、ラァに500のダメージだよ!」

「なにそれ! ずるいって!」

「ずるくないも~ん」


 子どもたちは小さなテーブルを囲んで騒いでいた。

 カードゲームは、どこの世界でも流行るらしい。

 ティとラァという子どもたちのなかの年長組の子がふたり、椅子に座って対峙していた。他の子はその周りで眺めて、自分たちも遊びたそうにうずうずしている。

 そういえば、自分とリンも、最近カードゲームにはまってたっけ。

 雪の日はみんなウィの家に集まってくるようだ。ズィが趣味で集めているカードゲームを目的にしてるみたいで、我先にと自分の好きなカードを取ってデッキを組み始め、こうなっているのだ。

 大陸全土で流行中のカードゲーム〝BCC〟は、中央協会が発売している魔法教育用の教材らしい。子どもたちが実際のMACを使えるようになるまでに、この世界にとっての魔法とはどういったものかを覚えさせるため、作っているようだ。


 ズィはラッツォーネを出るといつも新しいものを買ってくるらしい。意外だけど、すこし子どもっぽいところがあるみたいだ。

 男はいつまでたってもそうなのだ、とクォが呆れていた。

 ゲームはそのまま少女――ティが勝ったらしい。ラァが悔しそうに椅子から降りると、そこにつぎの対戦相手が座る。勝ちぬき戦をしてるようだ。


「なあズィのおっちゃん、つぎは『火山』のフィールド魔法買ってきてくれよ~。ティの水デッキにかてないんだよ~」

「まだ『火山シリーズ』は発売してねえんだ。だからもうちっと待っとけ」

「ちぇっ」


 父親のようにゲームを見守るズィだった。

 妹のリン、あとクォとウィの姿は、ここには見えない。彼女たち三人は夕食を作っている最中だ。ウィは王様だからてっきりいつも偉そうに座ってるだけかと思いきや、それなりに料理はするらしい。

 キッチンのほうから彼女たちの楽しそうな声が聞こえてくる。

 それを聞きながら、レナは暖炉に薪を一本投げ入れた。


 ……仲間外れにされているんじゃない。

 壊滅的な腕前のレナは、中学時代からリンに調理を禁止させられていて、それ以来包丁どころか調味料に触れることもない。

 いつも穏やかなリンが声を荒げるから、レナはキッチンに近寄ろうとすることもなくなっただけだ。


「にしても、今日はあの子たちが作る日なの?」

「雪の日はあいつらが料理するって決まりなんだよ。まあ、うちの国はほとんど晴れてるから滅多にないんだが」

「へえ……ま、ズィの料理は美味しいしね。むかしから料理してんの?」

「ガキの頃からやってるぞ。俺とクォは親がいねえんだ。あんたの兄――トビラは料理するのか?」

「兄貴はあんまりしないなぁ……あ、でもシチューを作ってくれてたかな。野菜がゴロゴロしてる、不器用なシチューだったけど」


 ときどき作ってくれてたっけ。

 最後に食べたのはいつだったかと思い返してみると、ちょうど半年ほど前だった。レナとリンの誕生日に作ってくれたような気がする。

 ……あれ?

 そういえばいつもふたりの誕生日は平日で、両親ともに仕事で帰ってこれないから、毎年兄貴がシチューを作ってくれてケーキを用意してくれてたっけな。


「ふうん。いい兄じゃねえか」

「……まあ、ズィほどうまく作れないけどね」


 けっして食べすぎるほど美味ってわけでもなかった。

 けど、また食べさせてほしいと思える味だった。

 そんなことを思い出していると、キッチンから良い匂いが漂ってきた。


 そろそろ夕方になる。子どもたちのカードゲームは勝ちぬき戦でぐるぐる順番が回っている。いつまでたっても終わらないので、ズィが様子を見て途中で止めた。

 仏頂面をつくる子どもたちに「明日も雪だったらまた来いやガキども」と言ってズィが子どもたちを追い出して帰したとき、ちょうど夕飯の準備ができあがったらしく、キッチンからクォが顔をのぞかせた。


「ねえズィ、ウィ様がスープにスノーハーブ載せたら美味しいんじゃないかって言ってるんだけどさ、ちょっと隣で貰ってきてくれない? ちょうど切れちゃったから」

「おう」


 ズィは部屋着のまま雪のなかに飛び出して、すぐに帰ってきた。

 肩と頭にのった雪が暖炉の熱に溶かされて水滴になった。


『いただきます』


 雪国の夕食はいつも温かい。

 兄貴もちゃんと温かい料理を食べているのかなぁ、と少しだけ考えてから、レナは目の前の料理に集中した。



 ↓↓

 ↓↓↓↓



 夜が早いかわりに、朝も早い。

 ラッツォーネの夜明けは、日が登る直前から始まる。

 もとの世界に居たころには考えられなかったほどに規則正しい生活だ。あまり夜更かしをしなかったレナとリンでさえ、順応するのにようやく慣れたって感じだ。


「じゃあ行くぞ」

「ふぁい……ああ、ねむ……」


 まだ空は濃紺だ。

 村の入口でマントのようにコートを羽織ったレナは、隣のズィの腕をつかむ。


「〝転移(ドア)〟」


 直後に感じたのは、虚空に引っ張られるような感覚。腹の底がうねるような不快感が一瞬で通り過ぎるけど、さすがに三度目は慣れた。

 かすかな浮遊感のあと、目の前に広がったのは土色の壁だった。


 耳元で唸る風に振り返ってみると、どこかの山の崖に立っていた。三歩下がれば谷にまっさかさまに落ちるだろう。谷を越えた向かい側には街が見えた。

 あまり大きくない街だ。


「……で、ここどこ?」

「鉱山の国、デトク皇国だ」


 聞いたことがある。

 大陸の南寄りに位置する国だっけ。


「……ふうん。それにしてもちっちゃい街ね」

「あれでも首都だがな」

「じゃあちっちゃい国ね」

「だが、資源は豊富だ」


 ズィは肩をすくめ、崖に沿って歩きだす。

 足を踏み外さないよう慎重に、だけど置いて行かれないようには大胆に、レナも崖の細道を歩く。こんなところに転移魔法を隠さなくてもいいだろうとは思うけど、隠した転移魔法が見つかれば大損害らしいので、仕方のないことなんだろう。

 ズィの説明では、ここから歩いて半日のところに小さなダンジョンがあるらしい。


 ダンジョンには数日前まで、大陸でも屈指の〝MAC職人〟が住んでいたらしい。中央協会が大量生産しているようなものではなく、オンリーワンのMACを生成する凄腕の職人だったようだ。

 だった、というのは、その職人はすでに亡くなっているからだ。職人の亡き骸は彼の孫がきちんと弔って、すでに墓のなかで眠っている。

 MAC職人が住まいに使っていたダンジョン――そのなかに、彼が隠した貴重なMACが残っているはずだとウィが断言したのは昨夜のことだ。

 いつもならクォがついてくるところだったけど、レナは自分から進んでこの役割を買って出た。あのままラッツォーネで過ごしていても、世界を本当の意味で知ることなんてできない。

 兄貴に近づくことはできない。


「おいそこ脆いぞ、気をつけろ」

「っと」


 レナが踏みしめた崖縁が、ぼろぼろと落ちていく。

 すぐに体勢を立て直して歩くレナを、ズィは振り返りもせずにスタスタと進んでいく。バランス感覚はすこしだけズィのほうが上か……ちょっと悔しい。

 このまま崖道をぐるりと山伝いに降りれば、首都の入口に出ることができるようだ。ラッツォーネ以外の国をちゃんと見るのは、もちろん初めてだ。

 すこしだけ高鳴る胸の鼓動を抑えて、レナはちらりと街の方向を眺める。


 山際から顔を覗かせた黄金色に輝く朝日に、目を細めた。







「……ここ街道だよね? なんか狭くない? しかも浮浪者っぽいのもたくさんいるし」

「鉱山地帯のこの国はな、街ひとつに対する人口密度が大陸のなかでもっとも高く、増加する出生率もあいまって最近じゃ土地の問題にいつも悩まされてるんだよ。十年ほど前から鉱山探知の魔法が発展して、それまでなんの価値もなかった土地がいきなり金山扱いを受けるようになっちまったのが、原因の一端らしい。そこにいる浮浪者たちは鉱山に出稼ぎに来てるやつらだな……十分な排気システムも設置しないまま鉱山内で作業させられたやつらは、みんなああして〝鉱山病〟にかかっちまう。金属粉にやられて肺がダメになっちまってるのさ」

「……なんか可哀そう」

「豊富すぎる資源に目がくらんだオーナーも悪いが、高い賃金に目がくらんで条件を飲んだやつらも自業自得だ。人口問題、公害問題、それと貧富の差……この国は経済的にこそ大陸のなかでも余裕があるが、諸国にくらべりゃただ金があるだけだ。貴族どもの質も悪いって、もっぱらの噂だしな」

「ふうん」


 道を下りながら、レナは左右に視線を走らせる。

 斜面に作られた街道は、片側が森になっていてもう片側が崖になっている。森といっても密度も低いしなびた広葉樹の森だが、その木陰に寝転がっている浮浪者の姿がところどころ目につく。森に入ればもっといるかもしれないが、すくなくとも十メートルおきに一人はいるだろう。


「ここの南のリッケルレンスは国家経済こそ危ういが、生活水準は高いし領土も広い。リッケルレンスに亡命しようとするデトク国民もいるって噂だ。金がいくらあっても土地と心に余裕がなければ人間も腐る……俺らラッツォーネも気をつけなきゃならねえなぁ」


 ズィは他人事とは思えない様子だ。

 すでに昼下がり。デトク皇国の首都を抜け、山をふたつ越えて別の街をさらに過ぎて、リッケルレンスとの国境にかなり近づいていた。MAC職人が住んでいたダンジョンっていうのは国境のすぐそばにあるらしい。

 ズィの口数が多くなったから、たぶんもうすぐだ。


 谷が浅くなり、川が目視できるほどに谷底に近づいてきた。街道はさらに狭くなってきて、いつのまにか浮浪者も見なくなっている。

 左右の山に日光が阻まれているせいか、まわりが薄暗くなってきたなぁと感じたとき、ズィが道を逸れて森へ入った。獣道が森の奥へと伸びている。


「ここを抜ければすぐだ」


 森のなかとはいえ、誰かがよく通るのだろう。草は踏み倒され、木の枝は折られていた。

 レナはズィに続いて歩く。

 それから数十分ほど先にいくと、森のなかにぽっかりと穴があいていた。森と山に囲まれた広場のようなところに、地面に大きく穴が開いていた。おおよそ半径五メートルほどか。

 覗きこんでみても底は見えない。そのまま落ちたらただじゃすまなさそう。


 その巨大な穴からは、生ぬるい風が吹き上げていた。


「……ここ?」

「そうだ。〝モグラ穴〟と呼ばれる、人工坑道のダンジョンだ。はるか昔に作られたらしいが……いまじゃ魔獣の巣窟になってるって噂だ。……気をつけていくぞ」

「ちょっと、待ってよ!」


 ズィはとくに気にしない様子で、そのまま飛び降りた。

 まったくもう。

 レナもすぐに、ズィのあとを追った。

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