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Falling【2】 魔法ですよ


 流されることには慣れていた。



 誰かの意見に乗っかって、教室の片隅で生きてきた。言われるがまま勉強して、誰にも迷惑をかけないように生きてきた。たまに冗談を言って誰かをからかうことはあったけど、自分からなにかをしようと思ったことは、一度もない。


 ……また、流されるように歩いている。


「……このままじゃいかんな……」

「そうですよ。このままじゃ遅れます。だからはやく歩いてください!」

「いやそうじゃないんだけどさ」


 俺は早足で歩いていた。


 草原から森にさしかかるところだった。リュードに乗ったフィオラが、あきれ顔で俺を見下ろしている。


 そりゃあ馬の速度に比べたら遅いだろう。俺は二足歩行で歩いてるんだから。

 

「……そもそも、なんで俺がおまえについていく必要があるんだ?」

「そりゃあ、あなたがなにも憶えてないからですよ、トビラ様。記憶喪失のひとを置いていくわけにはいきませんから」


 正確にはなにも憶えてないのではない。ここに来た記憶がないだけだ。


 でも、この草原といいえらくアナログな旅といい、そして光り出したカードといい……なにか決定的なことを忘れてるのは間違いない。


「それより、フィオラ」

「フィア、でいいですよトビラ様。フィオラだと王族だと気付かれるかもしれませんし」

「じゃあそっちも様って呼ばないでくれ。なんか気持ち悪い」

「ではトビラさん? トビラくん?」

「呼び捨てでいい」

「そ、そんな滅相もないです! 呼び捨てでなんて恐れ多くて呼べませんよトビラ!」

「ちゃっかり呼んでんじゃねえか!」

「あなた個人に様をつけるのは嫌ですもの。あなたに敬称つけるくらいならノミにつけます。ノミ様、そこはかゆいですノミ様!」

「ようし喧嘩だ!」

「野蛮ですね。さすが没落貴族」


 フィアはどこかに向かっている途中のようだ。

 休憩中につい眠ってしまったから、その遅れを取り戻すのだと息巻いていた。王女様とやらがひとりでどこに向かっているのかすこし気になった。


 俺とフィアは森のなかを進む。

 鬱蒼と茂った木々が、風にゆられてざわざわと音をたてていた。

 

 フィアの言葉に、俺は握りしめていた一枚のカードを思い出した。

 さっきフィアが俺にむかってかざして光らせた、謎のカード。それを眺めてみる。


「なあ……この『属性:没落貴族』ってなんだ?」

「女の子の寝込みを襲うひとです」

「襲ってねえ!」

「……あら、腰布からあなたの匂いが」

「ごめんなさい」


 言い訳できない。

 リュードと目が合った。


『バルッww』


 笑われた。

 こいつ、いつかシバく!


「没落貴族はトビラの属性ですよ。〝スキャナMAC〟は相手の属性情報を引き出してくれる、旅には欠かせない便利なアイテムなんです。トビラも使ってみますか?」


 そう言って、フィアがもう一枚さっきのと同じものをとりだした。黄土色のカード……スキャナMACと呼ぶらしい。


 属性、ねえ。


 渡されたカードに視線を落とす。表には人型に『?』が書かれているイラストと、その上には文字。


【《――――》   属性:―― ―――― 適性属性:――】


 それと裏には、なにやら複雑な模様が刻まれてあった。

 意外と質量がある。このスキャナMACというのは、どうやら紙だけでできているわけじゃないらしい。紙のような感触なのに、すこし重かった。


「では、さきほど私が使ったのと同じように使ってください。『スキャン』で発動します」

「わかった……スキャン、『フィア』」


 ブン、とかすかに振動するカード。

 すぐにカードの表面が輝き、文字が浮かび上がった。


【《フィア》 属性:王 ―――― 適性属性:王・騎士】


 声に反応して光り、文字が浮かび上がる。

 人型のイラストに書かれていた『?』の文字も『王』に変わっている。 


「……すげえな、これ。魔法みたいだ」

「ええ、魔法です」


 フィアがうなずいた。


「魔法ですよ。スキャナMACは誰でも使えるMACで、とても安く手に入るんですよ」


 なんだそれ。

 ようは、このカードが魔法で、それが売ってるってことなのか??

 それをさも当たり前のように語るフィア。

 ふつうなら「そんなバカな」と一蹴するところだが……


「……ふむ」


 あいにくこんな状況でそれを否定できるほど、俺はアホじゃない。

 

 それよりも……


「……なあフィア。もう一枚貰えるか?」

「いいですよ」

「ありがとう。じゃあさっそく……スキャン! ウマヅラ!」


【《ウマヅラ》 属性:不明 ―――― 適性属性:不明】


『バルルルゥッ!』

「痛い痛い痛い!」


 ウマヅラ野郎が噛みついてきやがった。

 ミシミシいってる。頭蓋骨粉砕しそう。


「ちょ、フィア! 助けてくれ!」

「……自業自得です」


 冷たい視線だった。


 俺はなんとかしてリュードの口から逃れた。ガチンガチンと歯をかみ合わせて威嚇してくるリュード。

 馬が草食動物でよかったと本気で思う日が来るとは……人生ってわからないもんだな。


「トビラってバカなんですか?」

「うるせえ……てか、コレ馬には使えないのか? 属性:食用とかなら思いっきり笑ってやれたのに」

「ええ。属性判定できるのは人間だけですから」


 そうか、それなら仕方ない。


 よくわからないが、属性ってのは、いわゆるステータスのようなものだのだろう。

 いままでやってきたゲームじゃ属性は『火』とか『水』だったが、ここではすこし違うようだ。ゲームと同列に並べていいかはわからないけど。


「……で、俺の属性の没落貴族ってのは? 没落貴族って、どういうことだ?」

「没落貴族、ですね……それは、ええと……」


 フィアは言いにくそうに、言葉を濁した。


「なんだ? いいから教えてくれ」

「……貴族とついてはいますが、貴族としての立場とはまったく違います。そもそもお忘れかもしれないので一応説明させていただきますが、この国では王族、貴族、平民の三段階の身分制度です。没落貴族というのはつまり、貴族としてのすべての権利を失っているということになります」

「つまり、平民ってことか?」

「いえ、それが――――――あら?」


 フィアが前方を見て、足をとめた。


 森の道はかなり広かった。馬車ふたつくらいなら余裕ですれ違えるくらいの、整備された土道。その向こうから、馬に乗った数人の旅人風な男たちが駆けてくる。


 どうしたんだ? とフィアに聞く。


 どうやらこの森の向こうにカムイ領地というところがあり、フィアはそこの領主のもとへ向かっているらしい。

 カムイ領地は国の僻地にあり、整備されてるとはいえ、こんなところを他の誰かが通るなんてめったにないのに……とつぶやいていた。


 だが、前方からは数匹の馬にのった男たちがやってくる。

 旅人のようだが……武装している。剣を腰から提げて、すこし威圧的な表情でこっちを見ていた。


「……リュードくん、おねがい」


 フィアは、リュードに声をかけた。

 リュードは鼻をぶるると鳴らすと、


『ヒヒーーーーーーンっ!』


「っ! トビラ! 逃げますよ!」


 いきなりフィアに手を取られ、無理やりリュードの背中に乗せられた。

 狭い鞍に座らされて、俺はフィアの体に手を回す。


 リュードはすぐに方向転換。


「リュードくん! 走って!」

『バルッ!』

「逃がすな! 追え!」


 背後から叫び。

 振り返ると、馬車の横にいた男たちが、馬の速度をあげた。


 こんなひとけのない場所で、いきなり追ってくる男たち。

 その様相から予想するに――


「スキャン!」


 フィアが一瞬だけ振りかえり、〝スキャナMAC〟をかざした。


【《NO NAME》 属性:盗賊 ――――― 適性属性:盗賊・傭兵】


 属性:盗賊。


 なるほど。

 フィアが俺の属性とやらを調べた理由がわかった。


 属性が盗賊ってことは、それなりのわけ(・・)があるのだろう。


「リュードくん!」

『ヒィイイン!』



 フィアが胴体を蹴ると、リュードはすぐに加速した。


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